カエルくん(以下カエル)
「今月1番の注目作である『リズと青い鳥』の先行上映会のチケットが取れたので、一足お先に作品を鑑賞してきました!」
主
「本当……嬉しかったなぁ……試写会は全滅したからね」
カエル「今回は先行上映会で観た作品の感想をネタバレなしで語っていきますが……作品の脚本やシーンに対する言及はないですが、どのような映画なのか? ということは監督の過去作や、キャラクターデザインなどから考察しています。
結構踏み込んでいる部分もあるので……ネタバレなしではありますが、それでも何も知らずに劇場で観たい! という人はここで引き返してください」
主「最初に語っておくと劇場で観るべき映画でもあり、劇場で観なければいけない映画でもあります。
この映画は1つの事件なので……是非とも公開したら劇場へ向かってください!
あと、テレビアニメシリーズを見ていないくても大丈夫、ユーフォシリーズのターゲット層である男性よりも、女性の方が深く響く作品だと思ったので、安心して劇場へ!」
カエル「では記事のスタートです!」
作品紹介
『映画 聲の形』などを手がけた山田尚子監督が、京都アニメーション製作の人気テレビアニメシリーズ『響け! ユーフォニアム』の新作映画。
今作ではテレビアニメシリーズの主人公たちではなく、テレビアニメ2期に登場した鎧塚みぞれと傘木希美を主人公に添えている。
脚本を務めるのは吉田玲子、キャラクターデザインには西屋太志など聲の形の主要キャストが集結。
キャストもテレビアニメシリーズから続投するほか、本田望結が本作で登場するリズと青い鳥の一人二役を演じることでも話題に。
1 感想
カエル「では、いつものようにTwitterの短評から始めましょう!」
主「間違いなく1つ言えるのは、山田尚子のフィルモグラフィーの中でも、特にとてつもない作品ということだね」
カエル「ネタバレなしで語るのも難しい作品だよね……
そもそもこの映画を言葉にすることができるのだろうか? と言う思いもあって……」
主「それを言葉にするんですけれど!
そうだね……今作はとても緊張感が漂う作品である。まるで居合抜きの達人と向かい合っているようなもので、気を一瞬でも抜いたらすぐに切られてしまう……そんな緊張感が終始漂っている。
それだけ絵の持つ力が強いということだ。
山田尚子と観客の真剣勝負だよ」
カエル「ふ〜む……居合抜きの達人と向き合ったことがないからわからないけれど……」
主「実際、自分は結構疲れたよ……それはこの記事を書くために演出の意図などを考察しながら観ていたこともあるけれどね。
本当に繊細な作品で、ここから少しでも余計なことをすると全部が台無しになるようなバランス感覚の上に成り立っている。
またとんでもない作品を作ったなぁ……とポカ〜ンとしながら鑑賞していたよ」
カエル「作画や演出に興味がある人、また実写でも役者の演技に興味がある人は必見の作品に仕上がっています!」
本作の主人公2人の感情表現に注目!
山田尚子監督について
カエル「あまりアニメは知らないよ、もしくは山田尚子監督って誰? という人に軽く説明すると……なんて言えばいいのかな?」
主「10年後には間違いなくアニメ界の中心にいる人物であり、また邦画界を含めた映像作品全般で突出した存在になることがほぼ確定している人です!」
カエル「え〜と……それはどういうこと?」
主「洋画ファンに説明すると、実は山田尚子監督と『ラ・ラ・ランド』でアカデミー監督賞を受賞したデミアン・チャゼルって同級生なんだよね。
チャゼルは早生まれだけど。
そしてチャゼルが今後のハリウッドの中心に立つ存在であると言っても誰も疑問に思わないだろうし、現に今そうなっている。
それと同じことで、山田尚子は今後日本のアニメ界の中心に立つ女性だし、例えば日本アカデミー賞のアニメーション部門で女性初の栄誉を獲得するならば、多分この人。
アニメ界の若手の象徴でもあるし、そこで働く女性の象徴にもなるであろう存在だろうね」
カエル「実際、どの作品も評価が高いので是非とも過去作も鑑賞してください!」
脚本 吉田玲子について
カエル「そして脚本は吉田玲子ですよ……この人、どれだけ仕事しているの?」
主「何がすごいってさ、ここ最近の吉田玲子脚本の劇場アニメはほぼ名作、傑作ぞろいなところがあって。
『ガールズ&パンツァー 最終章』『かいけつゾロリ ZZの秘密』『夜明け告げるルーのうた』『映画 聲の形』と、近年自分が鑑賞した中でも、年間ランキングのトップ1割に入る作品を次々と連発している」
カエル「もちろんテレビアニメも京アニの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『ハクメイとミコチ』なども担当しながらだもんね……どれだけ仕事しているんだろう?」
主「ノリにのっている、多分今の日本の脚本家なら3本の指に入る存在じゃないかな?
少なくとも脚本が吉田玲子というだけで観る価値があると思う。
それほど素晴らしい作品を連発している脚本家で、山田尚子とタッグを組むと、破壊力満点の作品が仕上がる。
山田尚子の演出力や監督としての実力もさることながら、それを支える吉田玲子の存在も無視できないね。
この女性2人の力に、京アニの実力はスタッフたちが絡むことで素晴らしい作品を連発していくわけだね」
特に注目して欲しい部分として
カエル「では、特にリズと青い鳥で注目して欲しい部分はどこになるの?」
主「う〜ん……全部」
カエル「……は? 全部?」
主「今作って90分と短い物語なんだけれど……さっきも語ったように緊張感がある作品なのね。
その作画や演出に力もさることながら、音楽ももちろん素晴らしい。
ユーフォって音楽映画だけれど、その説得力を最大限発揮するために素晴らしい音楽を披露してきた。自分もテレビアニメ版のサントラを買って、何度もリピートして聞いているけれど、何回聞いても飽きないよ」
カエル「音楽の良さは保証されているよね」
主「もちろん花形のシーンもあるけれど、それ以外も本当に見所に溢れていて、そこに注目して欲しい。
という話になると、ほぼ全編、全てにおいて注目ポイントばかりなんだよ。
だから……身も蓋もない話をすると、全部が注目ポイントです、としか言えません……ごめんね」
2 キャラクターデザインの変化
カエル「それを象徴するのがキャラクターデザインということだけれど……まずは、テレビアニメ版のキャラクターデザインがこのようになっています」
主「あと、わかりやすいのはこのテレビシリーズ放送前に発表された PVだよね。
こちらを観てもらうとテレビアニメ版のキャラクターの方向性がわかる」
カエル「……今にしてみるとこのPVって相当あざといなぁ。なんか、テレビシリーズを観たあとだと『こういう物語だっけ?』という違和感もあるというか……久美子ってこんなあざとい子じゃないでしょ?」
主「テレビシリーズ版は『エロい』んです!
もっと言えば萌えの力を最大限発揮し、それでキャラクターの魅力を引き出しながらも、物語の力でグイグイと引っ張っていた。このPVでも中盤の久美子のスカートが翻るところ、麗奈が体育座りから足を引くところは超エロいです。狙いすぎなくらい。
では、次にリズのキャラクターデザインだけれど……1番わかりやすく麗奈のデザインを見てもらおうかな」
カエル「……結構頭身も大きく変えているよね」
主「今回麗奈をピックアップしたのは解りやすい変化が1番多いキャラクターだからだけれど、スカートの丈も長くなっている。
そしてニーソックスではないだよ。
まあ、テレビシリーズでも水色の夏服の時はニーソックスではないんだけれど、これはニーソックスというのがオタク向けの萌えアイテムだからということもある。
かなり現実に即したデザインになっているんだよね」
カエル「もちろんこれはこれで可愛らしいけれど、あざとさはなくなったのかなぁ」
なぜキャラクターデザインを変更したのか?
カエル「このキャラクターデザインの変更って博打でもあるよね。
知り合いのユーフォファンはこの変更に怒っていて『あのテレビ版のデザインが好きだったのに! 絵柄変更なんて受け入れらない!』と言っていて……
でもさ、その意見も出てくるのはよく分かるし、当然の反応でもあると思うんだよなぁ」
主「わざわざ慣れ親しんだキャラクターデザインを変更するということは、よくよく考えればおかしな話じゃない?
では、なぜ変更したのか?
それは……自分の考えだと『萌え』という記号的アニメ表現を避けたからだ」
カエル「……萌えを避けた?」
主「萌えの持つ魅力というのは非常にわかりやすく、オタクだったら美少女表現として理解されやすい。
だけれど、実はそれは諸刃の剣でもある。
アメリカのアカデミー賞長編アニメーション部門に『この世界の片隅に』や『聲の形』がノミネートされなかった理由は色々と憶測も交えて報道されているけれど、やはり1つ大きいのはこの手の萌えの表現というのは『オタク向け』の印象が強いからだろう。
特に海外のアニメをあまり見ない人にとっては『アニメ=萌え』であり、それはすなわちオタクの玩具だと思っている人もいる。
日本だってそうでしょう?
『この世界の片隅に』などの作品もそう思われてしまい、オタク向けアニメだからうちらの評価する作品じゃない、と弾かれた可能性を示唆する声もある」
カエル「湯浅政明が世界で評価されるのに、日本ではあまり評価されづらいのは、この『萌え』をあまり取り入れないでキャラクターを描くから……という話もあるよね」
主「一応擁護すると、萌え表現というのは日本アニメが手に入れた大きなメリットであり、これだけ濃いキャラクター性を記号的に量産し、表現出来る要素を生み出したのはとても大きい。
でも自分も萌えに辟易としていた時期もあるから、萌えアニメを評価しない声もわからないでもない。日本アカデミー賞なども同じ傾向はあるしね。
リズに話を戻すと、この記号的でオタクに親和性もある『萌え』という便利な表現手段をあえて除外するためのキャラクターデザインの変更だった……と考えている」
ファンシーな表現もある作品で、こちらも注目!
萌えを減らしたことにより表現が広がる
カエル「それって意味があったの?」
主「記号的な物語表現に頼らないことによって、それぞれの動きでより魅力的な物語を演出することができるようになっている。
例えば山田尚子の代名詞である『足の演技』だよね。今作ももちろんそれは発揮されていて、とても多くの意味合いを含んでいる。
でも、それだけじゃない。
手、腕、歩き方、顔の表情……細かなニュアンスの違いが、さらに差となって生きてくる」
カエル「それはもちろん声優陣の演技も同じだよね」
主「それまでのユーフォシリーズというのは、萌えの魅力やキャラクターの葛藤、豪華な音楽を詰め込んだ『動』の魅力に満ちたものだった。
だけれど、本作は『静』の魅力に満ちた作品である。
それができたのは、萌えを減らしたからなんだ。
ここで1つの洋画を紹介したい」
カエル「カナダ出身の映画監督、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督の『静かなる叫び』だね。それにしてもヴァイオレット・エヴァーガーデンの記事でもヴィルヌーブ作品が登場したし、本当に好きなんだね……」
主「この作品は2017年公開作品では1位をつけた、マイベスト級の作品だけれど……
何がすごいかというと、モノクロの白黒映画なんだよ。そしてセリフも少なくして、音楽も少なくしている。
それで何を表現したのか? というと、ちょっとした動作……歩き方や視線、すね毛を剃ったりストッキングを履いたりという動作によって、人間本来の持つ性や生きる力などを表現している。
これは引き算の演出によるものであり、白黒だからこそできる味で静の映画でもかなり難しいことをしている」
カエル「そして萌えをなるべく排除した、リズもまた同じことをしていると言いたいんだね……」
主「もちろん可愛らしくはあるけれど、アニメ的な表現ではなくて、邦画のような表現が多くなっている。
本作は引き算の演出によって、それが最大限発揮されるように計算されて作られている。
だからこそ、とてもつもない映画でもあり……同時に、自分は本作が一般公開された時の反応が楽しみでもあり、恐ろしくもあるね。
でも間違いなく1つ言えるのは、誰かにとって特別な1作になる。
だから気になっている人は絶対見たほうがいいよ。
この映画の登場は事件です」
最後に
カエル「では、ここで記事を終えるけれど……一応ネタバレなしで書いたけれど、まあこれでネタバレなしと言えるのだろうか? という内容になったな」
主「キャラクターデザインや過去作を中心にどのような物語か、抽象的に、でもわかりやすく語るようにはしたけれどね。
作品の脚本や具体的なシーンに関しては一言も触れてないから、ネタバレはしていないよ、と言うけれど……」
カエル「……怒られるかなぁ?」
主「その時になったら考えましょう。
本作はそれまでの類を見ない作品であり、日本のアニメ技術がここまで来たことを象徴する作品に仕上がっている。
そして、確信したけれど山田尚子は10年後、もっとも注目を集める映像クリエイターになっていることが間違いない。
それはアニメ界のみならず、日本の映像表現業界全てに言える事だ。
この衝撃を味わえる今のうちに、ぜひとも劇場で鑑賞してください」