TBSラジオ『アフター6ジャンクション』にアニメ評論家の藤津亮太さんが電話出演。亡くなった高畑勲監督の功績について、宇多丸さんと話していました。
(宇多丸)で、ちょっとあんまりこれはおめでたいニュースでもないですが、時事性というか、常にタイムリーに様々なカルチャー情報をリアルタイムでキャッチしていこうということで。ちょっと、訃報なんですがこちらのニュースについて、じゃあ山本さん。お願いします。
(山本匠晃)はい。お伝えします。日本を代表するアニメーション映画監督、高畑勲さんが5日、肺がんのために東京都内の病院で亡くなりました。82才でした。高畑さんは1968年にアニメーション演出家としてデビュー。70年代にはテレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』や『赤毛のアン』などを手がけ、そして1985年には宮崎駿監督らとスタジオジブリを設立。『火垂るの墓』『平成狸合戦ぽんぽこ』『かぐや姫の物語』などの映画を手がけました。
(宇多丸)ということで、高畑勲監督とはどんな監督だったのか? ちょうど昨日のこの番組で『ポプテピピック』という新しい非常に話題のアニメについて解説していただいたアニメ評論家の藤津亮太さんにさっそく電話でお話をうかがいたいと思います。藤津さん、もしもし?
(藤津亮太)はい。藤津です。
(宇多丸)どうも。連日で申し訳ございません。昨日の今日で。ということでちょっとびっくりしてしまったんですけど……。
(藤津亮太)そうですね。はい。
(宇多丸)高畑勲監督が亡くなられたということで。ちょっと、時間も少ないのでサクッとになってしまうんですけど。藤津さんから見て高畑勲監督がアニメ界に残した功績といったあたりを教えていただきたいんですが。
高畑監督の4つの功績
(藤津亮太)わかりました。高畑監督が日本のアニメ界に残した功績というのは大きく4つありまして。ひとつは中高向け……つまり、小学生以下ではなくてそれよりも上の人に向けたアニメーションをはじめて作った。(宇多丸)それまでは完全に子供向けだったと。
(藤津亮太)はい。『太陽の王子 ホルスの大冒険』っていう1968年の監督デビュー作がそういう作品だったんですね。
(藤津亮太)それから、生活アニメですね。人間の生活を……高畑監督は市井の人に寄り添う作品が多いんですけど、そういう人の生活に寄り添う作品を作った。これが『アルプスの少女ハイジ』ですね。
(宇多丸)はい。
(藤津亮太)それから、『かぐや姫の物語』のように手書きとデジタルを融合をして、デジタルを使ってアナログの表現を極めるみたいな、技術の融合みたいなものを行った。この3つがすごく大きい影響がありまして。高畑勲監督はそういう意味では前衛的というか実験的にいろんなことをやられるんですけど、それが何年かするとアニメ界では割と当たり前のことになっているんですね。
(宇多丸)うんうん。その生活……それこそ『ハイジ』も最初は「こういう題材をアニメにするなんて、あんまり商売にならないんじゃないか?」って懐疑的な意見が多かったなんて聞きますもんね。
(藤津亮太)そうですね。「非常に地味だ」って言われていたんですけど、結果40年たってみるといま、リアルな風景の中で女の子たちの心象を丁寧に描く作品っていうのは日本のアニメではすごくいっぱいあるわけですよね。
(宇多丸)それこそね、日常系はいっぱいあるわけですもんね。
(藤津亮太)それはやっぱり『ハイジ』がなければああいうアプローチで作品を作ろうっていうことはなかったんですね。
(宇多丸)あるいは、大人の鑑賞にも耐えうるような、たとえばハードなテーマ設定であるとか。そういう部分ですよね。
(藤津亮太)たとえば『ガンダム』なんかの演出方法なども『ハイジ』の影響を受けているので。
(宇多丸)日常描写というか。
(藤津亮太)はい。細かな日常を積み重ねていくことで、架空の絵の中の世界なんだけど本当のように感じさせるという、そういう発想は『ハイジ』の影響下にあるわけですね。
(宇多丸)なるほど。
(藤津亮太)そういうところはすごく大きかったと思います。
(宇多丸)いまとなっては当たり前になったことだけに、どれだけ影響が大きかったか、偉大だったかっていうことですよね。
(藤津亮太)あと4つ目ですけども、やはり宮崎駿監督の先輩として、演出の師匠だったという。
(宇多丸)まあ2人は盟友関係という感じもしますけども。先輩。
(藤津亮太)そうなんです。高畑監督の下で『ハイジ』だったり『母をたずねて三千里』だったりのレイアウトを宮崎さんが担当したことによって、宮崎さんの演出力みたいなのが磨かれて、監督につながっていくんですね。そういう意味でも大きい役割を果たされたということも言えると思います。
(宇多丸)なるほど。これ、今日は急遽藤津さんにお話をうかがって、この時間帯しか取れていないんですけども。近い内に番組で本格的にアニメ監督としての高畑勲さんの功績というか……宮崎駿さんはすごくみなさん、ご存知で。作品とかもよくご存知ですけども。なかなか理解されきっていない部分もある気がするので。
(藤津亮太)そう思います。
(宇多丸)なのでぜひこの番組で特集をしたいので。その際はぜひ、藤津さんも。
(藤津亮太)うかがえればと思いますので。
(宇多丸)お力をお借りできれば幸いです。よろしくお願いします。
(藤津亮太)よろしくお願いします。
(宇多丸)アニメ評論家の藤津亮太さんでした。ありがとうございました!
(藤津亮太)失礼します。
(宇多丸)高畑勲監督のご冥福をお祈りします。今日はちょっと訃報だったんであれですけども、様々な形でタイムリーに、リアルタイムの情報も含めて様々なカルチャーの側面をこの番組でお伝えしていければと思います。
<書き起こしおわり>