だが、初日からいきなり試練が訪れたという。

11年半やって、いちばんヒヤッとしたことは、やっぱり初日なんです。商品はマスカラタイプの白髪染めだったのですが、洗面台に商品が立てかけてあるんです。それを指し示したあと、手に取ってフタを開けるという作業があったんですが、商品を指したときに、指先が商品に当たって、左右に大きく揺れたんですね。ちょうど商品がアップに映っているときで、“わぁ揺れてる。このまま倒れたらどうしよう”って思いながらセリフを続けていました。

 結局倒れずにすんだのですが、60秒終えたあとは、“なんとかやり切った〜”という感じで、ヘナヘナと床に座り込みそうでした。そのあとVTRで確認したら、緊張で表情が強張(こわば)っているのがよくわかりましたね。でも、倒れなくて本当にラッキーでした。初日に倒れて商品が画面から消えていたら、幸先悪い感じですものね(笑)」

目に見えないところで重圧を感じて

 数々の生放送を経験してきた今でも、生コマーシャルならではの難しさがあるとか。

CMなので、セリフが100パーセント決まっていて、“てにをは”まで正確に覚えなくてはなりません。それを自分の言葉として伝えるためには、セリフの内容に合わせながら抑揚をつけたり間を取ったり、表情を変えたり、商品を持ち上げるタイミングなど……。

 すべて同時進行なので、本番はかなり集中して自分の世界に入り込みます。アナウンサーでありながら、役者的な要素も必要だなと感じますね。でも、オーバーアクションではなく、自然体で視聴者の方に優しく語りかけるイメージを心がけていました」

最後の放送日でも笑顔で商品を説明。視聴者へのあいさつも(『とくダネ!』より)

 出演VTRを何度もチェックし、試行錯誤をしながら“生コマ”をやってきた彼女。そんな毎日のプレッシャーは、目に見えないところで感じていたそうだ。

本番直前なのにスタジオにスタンバイできていないとか、放送が始まっているのに声が出ないとか、原稿が初見で噛(か)んでばかり……。そんな夢をたまに見ていました。無意識にプレッシャーを感じていたのでしょうね(笑)

 毎朝5時前に起きて、6時20分にはフジテレビ入り。食事にも気を遣いながら、ある意味、私生活を犠牲にして生コマに捧げてきた11年半。そこから解放された今、彼女には次の目標があるという。

今後は声の仕事もしたいなと。『とくダネ!』に出ていて、モニターアンケートなどで、声が癒されるとか聞き取りやすいといったご意見をいただくことが多かったんです。ぜひ、旅番組やドキュメンタリー番組のナレーションなどもやってみたいですね

 今年3月からは、屋久島にある縄文杉の登山口まで運行している荒川登山バスの車内アナウンスとして、あおいの声が流れているという。