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CPA原因検索の落とし穴 [救急医療]
今、臨床研修指定病院では、どこでも、ICLSコースという心肺停止患者の初期対応を学ぶシュミレーション形式の実習を行ってることと思う。2000年以降に、この学習形態が全国ブームとなり、2004年からは、救急医学会が学会を挙げて整備を行い、現在に至っている。この学習形態の本家本元は、アメリカ心臓協会(AHA)にあることは、忘れてはならないが。
ここでは、コース内容の詳細を述べることはしないが、その学習項目の一つに、心停止の原因を探すということがある。
ICLSコース のリンクからICLSコースの内容の段にある行動目標のところを見てみよう。
治療可能な心停止の原因を知り、原因検索を行動にできる
この原因検索に関しては、5H5Tとか6H6Tとか本には書いてあるが、記憶術としてはいまひとつ使えないと個人的に思っている。私が開催するICLSコースでは、こんな覚え方を紹介している。私の創作した記憶法である。皆さんもためしにこれで覚えてみてはどうでしょう。その記憶法を、過去のエントリー 心停止原因の想起法 から再掲する。
私の想起法は、 目の前の患者処置をみながら2つ、心肺停止の「心」をイメージして2つ、心肺停止の「肺」をイメージして2つ、重症患者は必ず血液を見るので、血液をイメージして3つ、最後に外的要因をイメージして3つ、以上12個の原因を想起する方法です。表にまとめます。いかがでしょうか? 一度眼を閉じて、この順番で想起してみてください。きっと12個全部想起できることだと思います。私のところのコースでは、受講生に必ず覚えてもらっている方法です。
目の前の重症患者につながれた酸素と点滴をみながら ・酸素→低酸素
・点滴→脱水・出血などの体液減少「心」をイメージながら ・血管のトラブル→心筋梗塞
・心の周囲 → 心タンポナーデ「肺」をイメージしながら ・血管のトラブル→肺血栓塞栓
・肺の周囲(=胸腔)→ 緊張性気胸「血液」をイメージしながら ・低/高血糖
・低/高カリウム血症
・アシドーシス外的要因をイメージしながら ・外的エネルギーという要因 → 外傷
・環境という要因 → 低体温
・薬という要因 → 薬物中毒
そろそろ、今日の症例。
52歳男性 心肺停止(CPAOA)
糖尿病で近医かかりつけらしい患者(詳細はまだ不明)。当院は初診。心肺停止とのホットラインがなった。以下経時経過。
午前7時14分 119 夫が突然倒れた。
午前7時18分 救急隊到着。現場でPEA(無脈性電気活動)を確認。妻によるCPRあり。
午前7時25分 当院着。PEA。直ちに二次救命処置(ALS)を開始。
午前7時35分 ルート確保と気管挿管処置、その確認およびアドレナリン投与などが行われた。
午前7時45分 心拍が再開した。最初の測定では、収縮期血圧90程度だった。
当直医師リーダーのU先生は、原因を考え始めた。50代男性で、糖尿病という冠血管リスクがある人の突然の卒倒である。当然、最もありそうなものとして心筋梗塞が頭をよぎる。救急隊からの情報から、脱水(1)、外傷(2)、薬物中毒(3)の可能性は低いと判断した。血糖値は、298。直腸温36.4℃。 血液ガスにてPH7.33、PCO255、PO2 260、カリウム値4.3。これで、低血糖(4)、低体温(5)、高カリウム(6)、が消えた。アシドーシス(7)、低酸素(8)も消えた。呼吸音は左右良好で、胸郭の挙上も良い。皮下気腫もない。したがって、緊張性気胸(9)もなさそうだ。
U先生は、家族からも情報収集に努めた。以下、妻からの情報。
「昨日朝午前7時と、昨晩21時との2回にわたって、左肩から頚部にかけての痛みを訴えていました。病院いはいかずに様子を見ていました。本日は、ばたんと洗面所で大きな音がしたので、急いで駆けつけてみるとすでに夫が倒れていたんです。」
心拍再開後にU医師は心電図をとった。 右脚ブロック気味に加えて、aVRが微妙にST上昇?だった。U医師は決断した。これは急性心筋梗塞だ!すぐに循環器医師の応援を呼ぼう!
循環器のT医師が呼ばれた。 T医師は心エコーをした。 心のう液貯留や、右室負荷所見は認めなかった。これで、心タンポナーデ(10)や肺血栓塞栓症(11)も否定的だ。
心エコー所見で、左心室に壁運動の異常(asynergy)を認めた。心筋梗塞を支持する重大な所見だ。さらに、妻の話も放散痛と考えれば、心筋梗塞として矛盾はしない。
あわせて、上記赤字(1)~(11)の通り、他の原因疾患も否定的の雰囲気だ。
以上の様な診断思考プロセスにより、U医師もT医師も心筋梗塞が心停止の原因であるとほぼ確信した。
緊急の冠動脈血管造影検査(CAG)へ向けて段取りが進められようとしていた。
完璧な原因検索である・・・・ と思いたいところだが。
もし、皆様方が、ここから、指導医として、この診療に参画するとするとすればどんな意見を言いますか?
(1月27日 記 続きは後日)
(1月29日 追記)
今回もたくさんのコメントをいただきました。皆様の的確なコメントを通して、多くの方に気がついてもらえただろうと思います。ありがとうございます。
とりあえず、続けます。
患者は、結局そのまま、緊急冠動脈血管造影検査の運びとなった。
心臓の冠状動脈には、有意狭窄を認めなかった。
「冠動脈のスパスム(攣縮)だろうか?」
そんな意見も出るには出た・・・・・・
「それにしては、意識レベルが悪すぎやしないか??」
こちらの意見が優勢だった・・・・・・
血管造影室から、今度は、CT室へ患者は運ばれた。
「くも膜下出血か・・・・・」
ようやく確定診断が付いた。
脳外科対応が可能である総合病院へ、患者は転送された。
結局、この症例は、くも膜下出血に続発した心停止症例でした。まさに、皆様がご指摘くださったとおりです。この症例では、心拍再開後のバイタルが非常に安定していたことと、エコーで心のう液の貯留もなかったことから、大動脈解離の線は、あまり考えていなかったようですが、皆様のコメントを拝見すると、今後似たような症例に遭遇したら、大動脈解離の線も、きっちりとCTで決着をつけておいたほうが、より堅い対応と思いました。
ちなみに、私は、この事例を翌日知らされました。 自分はこんなブログを書いているから、この事例もありそうなことだなと思えるのですが、初期対応したU医師にとっては、かなり意外な出来事のようであった様です。
病態的には、このエントリーと同じことだろうと私は思っています。
心電図変化に潜む地雷
さて、ここからが、このエントリーの主旨です。
突然のCPAの原因として、くも膜下出血は、十分にありえる地雷疾患です。
なのに、なぜ、上に上げた心停止の原因12個に入っていないのでしょう?
私の私見ではありますが、心肺蘇生処置において、原因疾患を考えることは、即対応を行うこととリンクしているからだと考えています。つまり、具体的には、次のような対応です。
原因 ⇒ 対応
脱水・出血 ⇒ 急速輸液、輸血の準備
低酸素 ⇒ 緊急(外科的)気道確保、異物除去
心筋梗塞 ⇒ 循環器召集、PCPSスタンバイ
心タンポナーデ ⇒ 心のう穿刺、心のう開窓
肺塞栓 ⇒ 循環器召集、PCPSスタンバイ
緊張性気胸 ⇒ 緊急脱気
高カリウム ⇒ メイロン、カルチコールなどの薬剤、場合により透析
高血糖 ⇒ インスリン、輸液
などなどです。 蘇生中にくも膜下出血を疑ったとしても、手がないですよね。くも膜下出血に関しては、患者の心拍が再開して、CT室へいける状況になって、初めて疑っても許容範囲内だろうというのが、私の考えです。はっきりといえることは、蘇生処置しながら、CT室に移動して、CT撮影を行うなんてことは不可能です。
だから、蘇生学習の教科書の中にある心停止原因のリストからはずされていると勝手に解釈しています。まあ、すべての本をチェックしているわけではないので、確かな話ではないかもしれませんが。
しかし、言い方をかえると、こうもいえます。
心停止患者の心拍が再開したら、くも膜下出血も考えてみよう
今回の症例も、こういう認識を皆で共有できていたら、心カテに走る前にわかっていたのかなあ?と思います。もちろん、私のこの意見も、後出しであることは明らかです。
まとめます。
本日の教訓
心停止からの心拍再開患者 : くも膜下出血も考えよう
呼吸・循環は安定してABCまで終わったのだから、D(Dissability of CNS)の異常のチェックに進みます。
倒れたあとで発見されてますから、頭打ってるかもしれないし。
by moto (2008-01-27 14:16)
うちのERでは、SAH→たこつぼ型心筋症でCPAなんてパターンをよく経験します。PrimaryはSAH、Secondaryにたこつぼ型心筋症でCPAなので、やはり頭部CTは必要でしょう。
by おやじ研修医 (2008-01-27 14:30)
原因検索としての1)脱水が、簡単に消去されていますが、a)大血管b)消化管については、列挙されているものからはチェックされていないのでは。
カテのためのスタッフを含めて準備するのはOK(時間がかかるために早めに連絡)だと思いますが、その前に採血と同時に、脈(頚部、橈骨、鼠径)を触れて、直腸診、単純写真、腹部エコーなどはします。
バイタルサインの変動が悪化していなければ、カテ前にCT(Dの確認と胸部大動脈瘤のチェック)を行う。
CPAOAであれば、心停止期間中の還流異常から虚血変化を呈していてもおかしくないので、心筋虚血の色メガネをかければどんどんそちらに誘導されることになる、と懸念しながら診てます。
by ハッスル (2008-01-27 14:39)
ABCが一応安定、管理されているのでカテ前に頭部CTを指示します。
SAHに伴うカテコラミンstormをチェックしておきたいところです。
心カテの適応外になる場合もありますから・・。
by Bundo (2008-01-27 17:35)
いつも興味深く勉強させてもらっています。事後報告で申し訳ありませんが、貴ブログを私のブログでも紹介させていただきました。
さて、今回の症例ですが、やはり私もSAHは否定しておきたいところです。心電図でのST変化がありますし・・・。頭部CTを指示します。
by ビル (2008-01-27 22:04)
カテ準備の間に、脳血管病変と大動脈瘤破裂は除外しておきたいです。
頭部CTと体幹部CTです。
とはいえCTは死へのトンネルにもなりかねませんが・・・。
by 風はば (2008-01-27 22:27)
ちょっと気が早いんですが、SAHの見落としで負けた判例調べてみました。いやいや、答えがSAHじゃ無かったら、また調べますから(^^;。
心筋梗塞を疑ったケースは見つからなかったですが、循環器科の先生が脱水による意識障害と考えてCT撮るの遅れて、撮った時には警告出血が薄くなっていて診断遅れた、ってのがありました。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/8262CB4251A818CA49256B90002528B2.pdf
ちょっと(かなり)脱線しますが、たまたま見つけた↓は厳しい。外傷性のSAHですが、こんな主張が通るんなら、そりゃ、脳外科の先生たち辞めたくもなるでしょう。いや、これはやってられない。たぶん、変な鑑定医がついたんだろうな。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071106103011.pdf
by moto (2008-01-27 22:54)
大動脈解離に伴う冠動脈血流異常(に伴う梗塞)も考えておいたほうがいいのかも。
カテの準備をしつつ、胸部レントゲンと採血を行う。解離が疑われるなら、カテの前にCTやったほうが全体像の把握には役に立ちそうです。
by 503 (2008-01-27 23:35)
急性A型解離に一票。LMT急性閉塞はこれでも当然ありますね。
SAHも完全には否定出来ない。
うちの病院ならとりあえず頭から胸まで一気どりのヘリカルCTをしてしまうかな?どうせカテはうちでは出来ないし。
by 僻地外科医 (2008-01-28 08:33)
たこつぼ心筋症の場合多くは胸部誘導でQT延長と特徴的な陰性T波が出るので右脚ブロックがあってもわかるような気がします。
左頚部の放散痛は狭心症も考えられますが非典型的ですが椎骨動脈の解離も考えられるような気がします。大動脈解離から巻き込まれてもいいと思いますし。この場合も脳底動脈まで及べば突然の心停止になってもおかしくないと思います。
心エコーの壁運動異常はDMならOMIの可能性もあるので・・壁運動低下の部位と程度がわからないと解釈は難しいと思います。
壁運動から極端な低心機能ではなさそうなので、AMIなら心停止は心室細動によるものでしょうから少し余裕があると思います(このあたりは以前のLMTの症例とかなり違う)。とりあえずするとしたら、採血→頭部CT→大動脈近傍の造影CTの順で。いきなりCAGはしたくない気がする。脳底動脈系の解離は後で検索するとして引っかからなければCAGかな・・Burgada症候群(心電図で不完全右脚ブロック+V1-2ST上昇)という特発性Vfもあるけど。
by NYAO (2008-01-28 09:42)
ICLSコースでは原因検索を考えてもらうのが一番難しいところだと思います。
さてさて、私もカテに行く前にvitalがあればCTを取りたいです。
「頭」と「胸・腹」。単純で怪しければ胸・腹は造影も。
やはりSAHと大動脈解離は鑑別しておきたいです。
なぜなら両方とも心電図異常が出ますし、heparin禁忌ですので。
ほかの先生のコメントにあるたこつぼ型心筋症はCPA蘇生後の変化としてはあるかもしれませんが、たこつぼ型心筋症による心肺停止は考えにくいと思います(基本的に原疾患や過度のストレスなど誘因があるでしょうし、予後良好な疾患と思います・・何事にも例外はありますが)。
by pulmonary (2008-01-28 11:26)
検査として全身CT(頭、胸~腹)を施行すべきと考えます。
今回のケースでは目撃あり、バイスタンダーCPR施行、初回波形PEAで、
ほぼ最上級の条件ですし、根本治療後、
脳低温療法などの集中治療をしたいところです。
診断として、MIでいいのかという観点のみならず、
IABP、PCPSをどうするか?
集中治療をどこまで続けるのか?
等といった視点からも
SAH、カイリのルールアウトを含めて全身CTをすべきと考えます。
私の施設ではROSCが得られ、集中治療に挑戦するときは
全例に全身CTを施行しています。
by いち救急医 (2008-01-28 17:03)
今日の墨東事件なんか聞くと、もう、ROSCも何も関係なく、
救急受けたら、まず、全例、全身ヘリカルCT。
さらに、全例、経過観察入院。
それも、1週間だ。
CTとって、救急医が2人でみて、
その後の注意までしっかり文書で渡してもダメなんだそうだ。
このくらい徹底しなきゃ、みんな、前科モノだぞ。
ここの管理人の先生は本当に立派で、
いつもその見識にはアタマが下がるばかりだけれど、
救急からは逃散 というのがコンセンサスになりつつあるね。
救急で診てもらえるのは、会員制の自由診療 だけだろうね?
そのうちに。
それとも、強制救急診療法でも施行されて、ウデのある人は海外へ。
そうでない人は、医者やめるかだね。
強制労働省も、医者にはパスポート出さない、とか言い出したりして?
by かつて救急医 (2008-01-29 00:28)
http://www.asahi.com/national/update/0129/TKY200801280446.html
医療行為上の過失は認められないとの判断で、
不起訴に向けた書類手続きに入るようです
by 墨東の速報 (2008-01-29 01:26)
墨東の件は遺族か、犯人の家族がごねて警察に告発->警察も仕方ないから書類送検・・・ってところじゃないですかね?
あまり大騒ぎするほどのものではないかと。まあ、検察審議会がまたごちゃごちゃわけのわからん審議をするかも知れないけど。
by 僻地外科医 (2008-01-29 10:37)
統計などは知りませんが、あくまでも印象です。
くも膜下出血によるCPAの場合、状況(発見やBLSなど)がよければ、心拍再開がえられやすい、と思います。
PEAで速やかに心拍再開がえられた場合には、確かに想起するようにしています。ただし、心拍再開して、原因確定しても、予後は絶望的ですが・・・
救命、社会復帰と別の、BLSの目的=看取りの時間的・心理的余裕を作ること、と理解しています。
by ハッスル (2008-01-29 14:21)
血腫見落としとのことですが、これは、最初のCTをあとから見なおしたら、出血の可能性がある画像だったということでしょうか?
なんか、見出しが非常に、医師の誤診を前提にした悪意を感じます。
by 血腫見落とし?? (2008-01-29 17:15)
エントリに気付きませんで 今読みましたが
ICU勤務時代に 卒倒でSAHは 多かったですね。。。
確かに
卒倒で 病院に搬送されてから心拍再開した場合は 心筋梗塞よりも SAHをまず考えよ と研修医時代に教わりました。
ほんとに明確なデータがないのなら どこかのERで まとめてくれませんでしょうか。
呼吸数や その後の血圧はどうであったのでしょうか と思いました。。。
by kinmuiです。 (2008-01-29 20:21)
カテではヘパリン使うからやっぱりせめて頭部CTくらいは撮るね。SAH、STちchangeはよく見るから、心エコーもあてにならないし。ROSCが得られれば即頭部CT撮るよ、低酸素脳症の評価にもなるし出血の除外も出来るから5分もあれば撮れるかなうちの場合。PCPS乗せちゃうとアウトだけどね
by ER99 (2008-01-31 16:33)