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 グランプリ PSoCを用いたプロトン磁力計の製作 
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ホーム > 記事サポート > 2009年 > 01月号 PSoCマイコン・デザイン・コンテスト2008受賞作品 > グランプリ PSoCを用いたプロトン磁力計の製作

「PSoCを用いたプロトン磁力計の製作」 樋田 啓氏

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1 プロトン磁力計とは何か
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プロトン磁力計とは,水や灯油などに含まれる水素原子の核スピンを強い磁場により一方向にそろえ,磁場を切ったときに外部磁場(地磁気など)の大きさに比例した周波数の電磁波を放射することを利用し,高精度で磁場を測定しようというものです.実際に,地球物理学の研究にはよく用いられており,いくつかの製品が市販されています.日本付近の地磁気の場合,約2kHzの電磁波が放射されるので,PSoCを用いて十分検出できます.核スピンの緩和という量子力学的な現象を比較的簡単な装置で検出できる点や,PSoCを使うことで必要な回路がワンチップでほとんど実現できる点などが興味深いので,製作してみることにしました(写真1).


写真1 製作したプロトン磁力計


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2 PSoCによる実現
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図1に製作したプロトン磁力計のブロック図を,図2に回路図を示します.センサは,内部に水を入れた二つのコイル(写真2)を用いたLC共振回路です.このセンサは励磁にも用いています.検出との切り替えはデッド・バンドPWMで生成したパルスにより行います.



図1 PSoCプロトン磁力計の内部ブロック図


図2 PSoCプロトン磁力計の回路


写真2 プロトン磁力計のセンサ部


センサからの出力信号は数μVと微弱なため,信号の処理には注意が必要です.DC測定であれば変調をかけてノイズを除去することも可能ですが,欲しい情報は信号の周波数なので,安易に変調をかけることもできません.なので,信号はそのまま増幅するほかなく,初段の増幅素子の選定には気を使う必要があります.そこで初段には,ロー・ノイズ・OPアンプ「NE5534」を採用しています.増幅した信号は,PSoCのPGAでさらに増幅した後,2段のBPFでノイズを除去します.


PSoCのBPFはスイッチト・キャパシタで構成されます.波形が時間方向に離散化されるので,このままでは周波数の測定には適しません.そこで,CTブロックを用いたSallen-Key型LPFを用い,波形の段差を除去し,コンパレータに入力します.コンパレータ出力は,アナログ・ブロックのクロックとの同期が切ってあるので,次段のタイマの精度が生かせるようになっています.励磁・検出切り替えパルスとコンパレータ出力のANDを周波数カウント用のタイマに接続しているため,励磁中に入った信号はすべて無視されます.高精度クロックを用いて測定したタイマのカウント値は,プログラムによる異常値の除去・平均化を経て,磁場の値に変換されます.


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3 測定に関する注意
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センサは水を満たして使います.水を入れてふたを閉める際には,空気穴をすべてふさいでいるので,うまくすき間を作って空気を逃がしながらふたを押さえつける必要があります.


センサからの信号出力は数μVと微弱なため,測定がうまくいくかどうかは環境に大きく依存します.商用電源のノイズなどは測定の大敵なので,できるだけそれらのノイズ源から離れた場所にセンサを置く必要があります.センサは逆向きに巻いた二つのコイルを直列につないだもので,二つのコイルに同時に入るノイズを相殺する効果があります.二つのコイルの間隔によってうまくノイズがキャンセルできるかどうかが変わるので,間隔の調整によって信号がうまく検出できるようになる場合があります.また,センサと地磁気の向きがそろっているかどうかでも信号の大きさが変わります.信号が見えないときには,センサの向きを変えるのも有効な手段です.


基板上にはOPアンプのDCオフセット調整用のポテンショメータがあります.全く測定が行えない場合は,調整点が何らかの原因でずれてしまったことが考えられます.その場合には,写真3にピンク色の丸で囲った調整点の間の電圧が0になるようにポテンショメータを調整します.調整は必ずセンサをつないだ状態で行います.



写真3 オフセット調整のポイント


細長いコイルはテストに用いたものです.製作時にはこのコイルにパソコン上のWaveGeneというフリー・ソフトウェアを用いて生成した2kHzのサイン波を入力し,センサに近づけて動作のチェックを行いました.ノイズが原因で地磁気の信号の測定が難しい場合には,この方法で回路がきちんと動いているかどうかを確認できます.


ISSP端子にコンパレータ出力を接続しているので, LEDを接続すると測定のようすを目で確認できます.赤色のLEDがコンパレータ出力で,信号が入ると点灯します.


内部抵抗が高く,大きな電流を流せない電源では,励磁が弱くなり十分な信号強度が得られない可能性があります.さらに,電源が出すノイズも問題になる可能性があります.実験にはDiamond Antenna製のGSV1200(可変型トランス式電源)を用いましたが,テスト用としてはアルカリ電池10本を使いました.ノイズの問題からは開放されますが,内部抵抗が高く,実験で用いた電源に比べると若干電流が小さくなり,励磁の点からすると少し不利になります.ノイズが少なく,3A程度の電流が流せる電源があれば,それをつないだ方が良い結果が得られると思います.


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4 測定結果
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ビデオ1には測定のようすを収めてあります.ビデオに映っている42回分の測定値を平均すると46482±100nTとなりました.測定地点である東京付近の2000年の地磁気の大きさは約46300nTなので,おおよそ正しい値が得られていることが分かります.


ビデオ1 測定のようす


プロジェクト・ファイル

プロトン磁力計の詳細や動作原理については,以下のウェブ・ページを参考にしてください.
http://user.ecc.u-tokyo.ac.jp/~cc107911/wiki.cgi?page=Proton+Precession+Magnetometer


 

 

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