日本原子力発電東海第二原発の再稼働などに際し、立地する東海村のほか、水戸市など周辺五市の事前了解も必要とする新たな協定が結ばれた。原発の地元が広がった。画期的なことではあるが。
3・11を教訓に、原発の半径八~十キロ圏内を目安にしていた原子力防災の重点区域が、三十キロ圏に拡大された。それに伴い、三十キロ圏内の自治体は、避難計画の策定を国から義務付けられた。
「国民の生命及び身体の安全を確保することが最も重要であるという観点」(原子力災害対策指針)からだ。
原発事故の影響は、最低限そこまで及ぶ、だから住民の命を守るため、普段から事故に備えておきなさい、ということだ。
原発事故による放射性物質の影響は、風向き次第で広範囲に及ぶ。福島の事故でも、例えば飯舘村では三十キロ圏外の住民にも避難指示が出た。チェルノブイリ原発事故の放射能は国境をはるかに越えて、欧州を震撼(しんかん)させた。
にもかかわらず、原発の再稼働や運転延長に際して同意や拒否を表明できる事前了解の権利があるのは、原発が立地する自治体だけだった。それさえ法的拘束力のない、いわゆる紳士協定だ。
義務だけあって権利がない。それが周辺自治体なのである。
協定の締結先が少ないほど、利害の調整がしやすくて、再稼働や延長へのハードルは低くなる。理不尽というのみならず、危険なことではないのだろうか。
原電の村松衛社長は「県都水戸市が三十キロ圏内にあるという地域特性が非常に大きい」と、協定拡大の理由を説明した。
東海第二原発から水戸市役所までは約十六キロ、原発三十キロ圏内には百万人近い人が住んでいる。首都圏からも遠くはない。
だから特別だとするのなら、間違っていると言うしかない。命の重さは、居住地の機能や人口で決められてしまうものなのか。
避難計画は、今そこに危険があるから必要なものではないか。
そもそも再稼働に関しても避難計画についても、基本的には自治体任せの国の姿勢が、どれほど多くの「国民」を不安にさせていることか。
避難計画の策定が義務付けられている以上、最低限、その義務を課せられたすべての自治体に、再稼働や延長に対する事前了解権を、国として明確に保証すべきなのである。
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