Amazon AlexaやGoogle Home、AppleのHomePodをはじめとするスマートスピーカーの登場、さらには携帯電話に搭載されているスマートアシスタントのおかげもあり、音声入力が少しずつではあるが市民権を得つつある。
しかし、人が周りにいる環境で音声入力を使うのにまだ抵抗がある人も多く、さらに電車や病院の中などで音声入力を使うのは現実的とはいえない。スマートテレビやVRデバイスを使用中に文字を入力しなければいけないときは、キーボードで入力した方が楽という人もいるだろう。
そんな時代の過渡期ならではの悩みを解決してくれる、次世代の入力デバイス「Tap」がこのほど発売された。
Tapは指輪が5個連なったような形をしたウェアラブル型の入力デバイスだ。指を通す輪っかにはそれぞれセンサーが搭載されており、通常のキーボードを使うような感覚で机やふとももをタップするとセンサーが指の動きを認識し、文字を入力できる。
入力先のデバイスとBluetoothでワイヤレス接続できるため、Tapを使えば「キー」も「ボード」もないところで文字を入力できるようになるのだ。さらに同製品にはマウス機能も備えられており、片手でPCを使っているときに通常必要な入力手段を全てカバーできるようになっている。
片手で文字を入力することに違和感を覚える人もいるかもしれない。しかしTapの開発チームは、各指の組み合わせでアルファベットを入力できるシステムを構築した。
例えば、母音(AEIOU)はそれぞれの指に割り当てられており、親指を下ろせばA、人差し指を下ろせばEといった具合だ。子音は複数の指を組み合わせて入力するようになっており、Rであれば小指以外の4指を同時に下ろすことで入力できる。
このようにTapは複数のアクションを組み合わせることで、アルファベット26文字全てをカバーしている。
Tapを使って実用レベルのスピードでタイピングするには練習が必要だが、スマートフォンで日本語を入力する際に使うフリック入力が広く普及していることを考えると、そこまで大きな壁というわけでもなさそうだ。さらにこの新しい入力方法を練習するためのオリジナルアプリまで用意されている。
なお、現在のところTapは英語のアルファベットにのみ対応しているが、日本語入力もソフトウェアのブラッシュアップが進めば技術的に十分実現できるだろう。
そもそも現在使われている入力デバイスは、誕生から大きな変化を遂げていない。
出力デバイスの歴史をたどってみると、CRTモニターが液晶モニターになり、持ち運びできるサイズのものが誕生し、最近ではVR HMDのように従来のモニターとは全く異なる形態のものまで登場した。
一方で100年以上前に誕生したキーボードは、ほとんどその形を変えずに時代を越えて生き続けている。しかし、もともと一点にとどまって使うことしか想定されていなかったキーボードが、モバイルデバイスの力を存分に発揮できているかというと疑問が残る。Tapはまさにそのギャップを埋めようとしているのだ。
BloombergTechnologyのインタビューに対し、Tap Systemsの創設者ラン・ポリアキン(Ran Poliakine)氏は「スマートウォッチやiPadなど、移動中に使えるデバイスの登場によって新しい入力システムの必要性が増している。しかし現状ではどこかに座ってキーボードを使うか、スクリーンをタッチしなければならない」と現状の入力システムの問題を指摘。
実際に調査会社IDCのレポートによれば、ウェアラブルデバイスの出荷台数は2021年には2017年の倍近く伸びるとされており、ポリアキン氏の言葉には納得がいく。
では、Tapのユースケースとしてはどのようなものが考えられるだろうか?
同製品のプロモーション動画内では、公園に寝そべってメッセージを作成する人や、友人とレストランで話しながらテーブルの下でメッセージを送り合っている人、VR HMDを装着した状態で映し出された検索欄に文字を打つ人などの様子が収められている。
また、キーボードとしての用途以外にも、電子楽器の演奏やゲームのコントローラーとしての利用も考えられる。今後VR HMDやメガネ型のデバイスが普及していく中で、より幅広いユースケースが増えてくることも考えられる。病気や事故で指先を失くした人にとっても使い勝手のよいデバイスとなるかもしれない。
Tapをすでに試した人のなかには、机のように硬い表面に指を打ち付けないと、エラーが発生してしまうと指摘する人もいるが、今後システムがアップデートされ言語が追加されれば、屋外であってもさまざまなデバイスを快適に利用できるようになるだろう。
さらなるユースケース拡大に向け、Tap Systemsはデベロッパーキットも配布している。次世代の入力インタフェースに興味のある開発者の方は、ぜひチェックしてみてほしい。
文:行武温
編集:岡徳之(Livit)
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