八戸市内に在住されている女性の方から、エネファームに関する相談が寄せられた。エネファームとは、都市ガスを使って水素を発生させ、それを空気中の酸素と反応させて発電し、同時に発生した熱を給湯などに利用するシステムであり、いわば燃料電池を使った家庭用のコージェネレーション・システムである。今年の春に自宅を新築した女性が、エネファームを導入して以来、めまいや耳鳴りに悩まされるようになり、一事は、エネファームの発電ユニットを切ったことにより症状は改善したが、最近また、めまいなどを感じるようになったため、原因を知りたいということで相談が寄せられたものである。
同様の事例ではエコキュート問題が有名である。エコキュートとは、エアコンなどの空調機に用いられているヒートポンプ技術を利用したもので、電気を使って空気の熱を採取してお湯を沸かす電気式の給湯機である。ヒートポンプの冷媒として二酸化炭素を使用しているため環境負荷が小さく、深夜電力を使って運転貯湯すれば経済的であるため、電力会社等が2000年後半ぐらいから普及に力を入れ、現在は5百万台以上が使われていると言われている。ヒートポンプは圧縮式冷凍機の一種であるためコンプレッサーを備えているが、これが高圧力であるため低周波騒音を発生すると言われており、消費者庁の調べでは全国で80件以上の相談件数があるとのことである(朝日新聞、2016/12/20)。既に和解が成立しているものの、前橋地裁高崎支部では騒音訴訟も発生していた。
新聞によれば、エネファームでも同様の相談が寄せられているということであった。エコキュートは電気業界が、エネファームはガス業界が普及に力を入れている分野であるが、どちらも、低周波騒音の問題を抱えているということだ。このような状況でもあり、今回の相談事例については低周波騒音の測定を実施することとした。八戸市在住の市民からの相談ということで、無料の騒音測定である。日時を決めて、業者の人の立会いの下で低周波騒音計を用いて測定を行った。条件は、エネファームの完全停止時、バックアップ熱源だけの運転時、およびエネファームの発電時の3ケースである。
低周波騒音に関しては、環境省が「低周波音問題対応のための「評価指針」」というものを発表している。その中で、感覚的な閾値として、G特性音圧レベル(騒音レベルのA特性のようなもの)で92dBという値と、10Hzから80Hzの1/3オクターブバンドレベルを対象として、10Hzで92dB、20Hzで76dB、40Hz57dB、80Hzでは41dBという一連の値が示されており、一応、これ以下なら心身に対する影響はないという評価値を示している。ただし、これはあくまで苦情等の原因が低周波数かどうかを判断するための参照値であって、決して基準値ではないといのが環境省の立場である。一方で、このような値を被害の有無の基準にすべきではないという反論もあるが、現実的にはこれが一つの判定基準値となっていることは間違いない。
八戸市の苦情宅の低周波騒音の測定結果は、G特性で言えば、完全停止時が65dB、バックアップ熱源のみ運転時は63dB、発電機稼働時は68dBであった。上記の環境省の参照値と比べれば、いずれも全く問題のない数値であった。バックアップ熱源運転時が、完全停止時より小さい値となっているのは測定時の暗騒音の影響であり、どちらにしても全く問題はない。1/3オクターブバンドレベルで見ても殆ど明確な差は見られなかったため、バックアップ電源稼働自体については何の問題もないことは明らかであった。
発電時の低周波騒音に関しては、3dBという有意なレベル差が認められたが(2回測定したが同じ結果)、1/3オクターブバンドの10Hzから80Hzの範囲のレベルでは個々の周波数で若干の差が見られただけであった。ところが、1Hzから8Hzまでの超低周波数領域のレベルでは、発電時には、バックアップ電源だけの場合に比べて30dBから20dBの大幅な増加が見られた。具体的に言えば、1Hzでは44dBが73dBに、5Hzでは45dBが64dBに、8Hzでは47dBが63dBに増加していたのである。これらが身体的にどの程度の影響があるのかは現時点では何とも言えず、機種の違いの差や、個人差も考えれば、確定的な評価は困難としか言いようがない。しかし、何の音の知識もない家庭の主婦が、めまいや耳鳴り、酷いときには吐き気も催したというのは厳然とした事実であり、それを考えると、エネファームによって1Hz~10Hzという超低周波数の騒音が発生し、それが人体に影響を与えていたのは否定できない事実のように思える。
エコキュートやエネファームの低周波騒音問題の記事はよく目にするが、音圧レベルやG特性値などの具体的なデーターが示された論文や報道が殆どないため、どのように判断したらよいのか迷うことも多かったが、改めて、これはやはり重要な騒音問題だと実感した思いであった。