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燃料
23歳。大学生の俺、『金城在寅』はその時2度目の留年を伝えられ、家路についているところだった。
「はぁ〜…やっぱりダメだったか…まぁまともに授業に出てないし当たり前か…夕飯買って帰ろう…」
コンビニが見えてきたあたり、突如として後ろから悲鳴が聞こえてきた。
その悲鳴に驚き後ろを見ると目を充血させ涎や鼻水を垂れ流しながら中年ほどの男性が血のついたサバイバルナイフのようなものを持ってこちらに走ってきたのである。
ヤバいと感じた時点で時すでに遅し。腹を切られ、自分の内蔵がこぼれ落ちているのを視認すると同時に何もわからない。何も感じ取れなくなった。
「あぁ、死ぬってこんな感じだったんだ。こんなんで終わっちまうのか、俺の人生…」
だが疑問に思うことがある。なぜ死んだのに死んだことを認識できているのだろう。死んだらどうなるかは死んでみないとわからないが、自分はなぜ今傷一つついていないのか、真っ白な部屋になぜいるのだろうか
とうとう頭が混乱してきた
「あぁ…なんか頭がぼーっとしてきた…」
そう思い出すと緩やかに自分の意識が閉じられていくのを感じた…
_________
目を開くと白いベットの上だった。自分の知ってる天井とは全く違う天井、慣れないにおい。
まだあたまがぼうっとする。
そして少したって自分が生きていることに気がつく。
俺は死んだはずではなかったのだろうか…
整理しきることが出来なかった。
それから少しするとドアが開いた。
「やっと目が覚めたのですね。」
声のする方に顔を向けると穏やかに微笑む若い女性がいた。
「大丈夫ですか?最低でも3日は目を覚ましていないはずなので…」
「3日も…」
「はい。3日前にメロの野原のとこで倒れているのを父と私…アマンダといいます。2人で見つけて、近所の人達と協力してここでお世話をさせていただいてました。」
3日も眠っていたのも衝撃だったが、それよりも衝撃的なことが多すぎて、また混乱してきてしまった。
まず自分は死んだはずなのになぜ生きているのだろう。
そしてメロの野原とはなんなのだろうか…
「あなたはここら辺でも見たことがない顔ですね。なぜ今この時にこんなところに来たのですか?」
「えっと…」
何をどう説明すればいいのかわからなかった。
とりあえず全て思うことを話してみようか…
「僕はP市にいました。ですが学校から帰っている途中で、所謂通り魔に腹部を刺されて殺されたと思っていました。ですがその傷もなかったように消えてますし、そのメロの野原というのもどこかわかりません…」
アマンダは驚ろいた顔で、
「P市...?P市なんてこの国にあるんですか?もしかしてあなたはイスクの人なのでしょうか…?」
「イスク?僕は日本人ですが…」
「日本人…?」
こんなにも話が噛み合わないのは初めてだった。
「日本と言うのは聞いたことがないですね…」
「あー…ならジャパンは?」
アマンダは少し考えた様子から首を振った
(どういうことなんだ…イスクもメロも聞いたことが無い、向こうは向こうで日本を知らない…)
気まづい沈黙が二人の間で流れていた時、アマンダが口を開いた
「もしかして、言い伝えにある異世界からの救世主様なのですか…?」
「救世主?」
「はい。古くからこの地で言い伝えられている話で、この世界が絶望に歩みを進めている時、イスクとエストふたつの地域に異世界からの救世主が現れるという言い伝えがあります。」
(異世界…ここは異世界なのか…そして僕は救世
主として来たのだろうか…)
だが僕はただの凡人で何をするにも普通な人間だった。そんな僕が救世主として転生した意味がわからない
「その…僕がこの世界に転生したというのは状況的に理解出来ます。ですがそれによって僕はこの世界を救えるほどの力をもたらしている訳では無いですし、何よりこの世界についてもわからないことが多いのです。」
とりあえずこのアマンダと名乗る女性は正直に話しても大丈夫そうだと思う。
このイレギュラーな事態にこの人と出会えたことは幸運であると言える。
「そうですね…あなたと私たちは本当に世界が違いそうです。なのでこの世界のことをよく知っている人に会ってみてはどうでしょうか?」
この世界をよくしっている人か…色々と理解するにも必要だし、救世主とやらのことも知っているかもしれない。
「じゃあ、会ってみたいです。」
分かりましたという感じでアマンダは首を縦に降った。
「彼は気難しい人なのですが根はいい人なので安心してくださいね。」
と穏やかに笑いながらドアを開けるアマンダとともに、僕は初めてこの世界を見ることとなった。
この世界を始めて見た時、僕は異様さで頭がおかしくなりそうだった。
風景そのものは日本の地方都市のようなのであるが、建物の一部が意味不明な数字と英字と化していた。
そして街を走っている車は煙、蒸気というのだろうか。それを吹き出しながら走っている。20世紀初頭の自動車のようだった。
そして街ゆく人はロボットのようなものを従えている。
「これは・・・」
「本当にこの世界を知らないのですね・・・」
「はい。こんな光景、全く見たことがないです。」
深刻そうな表情をして前を歩くアマンダの右耳にイヤホンが見えた。
何を聞いているのだろう…
ふと周りを見るとみなイヤホンをしているではないか。
何のためだろうと思い名が歩いていると立ち並ぶビルとビルの間に浮いた雰囲気のボロ屋が見えた。
そこにアマンダは戸を引いて入っていった。
ぼろ屋敷ではあったが埃はなく生活していることを感じられた。
きしむ階段を上っていきふすまを開けると背の高い本棚が壁に張り付いていて、その中心にはコンピューターがあり周りをケーブルが囲んでいた。
「少しここで待っていてください。彼を呼んできます。」
「わかりました。」
どんな本があるのだろう。
本棚をのぞいてみた。〈世界のエネルギーの行方〉〈情報戦争〉物々しい雰囲気にピッタリそうな題材の本ばかりだった。
「誰だぁ?人んちの本を勝手に物色してるのは。」
どすのきいた声のするほうに目を向ける。
白髪ではあったが体格のいい男が立っていてその後ろにアマンダが立っていた。
「すいません。少し気になってしまって。」
「なんであやまってんだ。そんなん勝手にしとけ」
人相も相まって体が勝手に縮こまる。
「この人はウルフ。本名は誰も知りません。」
「ウルフだ、よろしくな」
「よろしくお願いします。僕は金城。金城在寅です。」
「金城?東側の奴らみたいな名前だな。あぁそうか、あんた救世主だったな」
「救世主...それすらもよくわかりません。この世界は何なのですか?」
「俺にもわからん。あんたの世界はどうなってたんだ?こことどこが違うんだ?」
「僕のいた世界は、こんなに建物がどこかしこも乱立していませんでした。乗り物はあんな煙を吐いていませんでしたし、それに建物が壊れてそこから数字も何も出ていませんでした。ロボットもあんなに普及していなかったし…」
ウルフはむぅっとした感じで少し考えた後、口を開いた。
「そうだな。じゃあ少し昔話をしようか。」
そういうとコンピューターをいじりだし、あたり一面の風景がかわりだした___
あたり一面が光った後に見えた風景は綺麗な西洋らしい町並みだった。
「これは50年ほど前のこの町だ。俺の生まれた家は代々役人だったり議員だったり、所謂公人一族ってやつだった。
その頃はイスク、エストなんて枠組みはなくて、それぞれの国がそれぞれに動いていた。
俺の父親は議員だった。親父は世界を一つにすることを目標にしていて、それを目標とした政党にも所属していた。
そんなことは不可能だし世界を一つにすると問題が多くなることはその時18歳だった俺にもわかりきっていた。」
そう言い終わるとまた風景が変わった。綺麗な野原だった。
「18歳だった年の収穫祭、メロの野原に彼は降りて来た。」
ここがメロの野原・・・すごくきれいな場所だ。町を見渡せる
風景が夜に移り変わる。星がすごくはっきりとみることができる。僕のいた街では想像もできないような光景だった。
「収穫祭の夜、俺はメロの野原で寝っ転がって星を見てた。それが好きだったんだ。
すると目の前が急に光りだした。視力が戻り始めるとそこに一人の男が立っていた。
俺は自体が呑み込めずにいたが、彼の意識が途絶えたのを見るとこうしちゃおけねぇと思って彼を俺んちまで運んで行った。」
するとまた風景が変わる。
「昔の俺の家だ。今じゃこんなだけどな。
彼は数日目を覚まさなかった。親父も心配していた。思想は問題があったが人間としては尊敬できたし、俺を形作ってくれた人だから。
彼は目を覚ましたと思うとすぐに、この国の一番偉い人に合わせてくれと言ってきた。そんな突拍子もないこと言われても俺らは困ることしかできなかった。
彼は少し落ち着いたのか、話し出したんだ。
『私の名前は・・・伝導者とでもお呼びください。
信じられないかもしれませんが、私はこの世界とは少し違う歴史を持った世界・・・いわゆる異世界からやってきました。使命とともに。
単刀直入に言うとその使命とは、この世界を一歩進化させることです。
そのために世界を一つにする必要がある。』と。
俺は半信半疑で聞いていたのだが、彼…伝導者ははっきりといった。
『私には世界を一つにする手札があります。そしてカズヒサさん。あなたがその思想であることを知っている。』
俺の父親の名前はカズヒサ・スミスだったが、伝導者にはそんなこと名乗っていない。俺は驚くと同時にこいつは本物だと思った。
親父もそう思ったのか、もう少し信用できる材料があれば党の代表に合わせてやると言った。
すると彼はまた話し始めた。
『この世界には私のいた世界とは違って未来があります。それは多くの要素が集約してのことですが、その中にはこの世界を変えるのに必要なとても強力なものがあります。まずは新しいエネルギーの存在です。そのエネルギーは…便宜上 心的エネルギー…PsEとでも名付けましょうか。まぁどう読んでくれてもかまいませんが…それの存在があります。
それはこの世界の常識を覆す、あらゆるものを凌駕する性質を持っています。
液体、気体、個体それぞれに姿を変え、それは動力を必要とするすべてを動かすことができる。またPsEから得ることのできるエネルギーそのものは半永久的に供給できる。
そんな物質がこの世界にはあるのです。』
俺はそんなわけないだろうと思った。結果は今の町を見ればわかるだろう?
まぁいい、話すぞ
彼の話を半信半疑で聞いていた俺と親父はとりあえずそれのある場所を伝導者に聞いた。すると伝導者はヤマトとキタイの二つの国のちょうど間ほどにあるという。
だがヤマトとキタイはどちらも別国であったし、そこは海であった。親父は伝導者にPsEは海底資源なのかと聞いた。
伝導者はそれに初めて触れるのはあなたの世界の住人である限り不可能だ。私たち異世界の者が触れて初めてあなた方が利用できるようになる。そう言った。
俺はすでに伝導者を信じていなかったが、親父はまだ信じているようだった。
『私以外に、キエフという国にも伝導者が降り立つはずです。キエフはすでに世界一体化を目指す政党が与党のはずですので、コンタクトを取ってみてはどうでしょうか?』
俺はかかわる気はさらさらなかったが、数日後親父は伝導者とともにキエフへ向かっていった」
「どうやら党同士でコンタクトが取れたらしく、党代表も調査を承認。国へは調査という名目で手続きをしてもらい、少人数の議員と万一の場合、海賊とかだな・・・あまり治安のよい地域ではなかったし、手違いがあるかもしれなかった。それに備えて特殊部隊の護衛をつけていったらしい。」
と、ここまで話し終わるとウルフはティーカップに入ったお茶を飲んだ。
「一か月後くらいだった。彼らは帰ってきた。袋いっぱいのそれをもって。
そして帰って来るや否や彼らはまた出て行った。
何をしに行ったのかは次の日の新聞で分かった。親父のいた政党と軍部が結託してクーデターを敢行。軍部が与党勢力を制圧すると、彼らはこう宣言した。
『我々は世界を変える。自由の元に生きようじゃないか。』と
その時はわかりづらかったが、今だから整理して話せる。その日がこの世界の始まりなんだ。
それを宣言して以降、俺らの国は多くの国を取り込み始めた。どんな方法でやったのかは高度な機密でわからないが、そうしてエストという共同体が出来上がったんだ。
それと同時にイスクも周りの国を取り込み始めた。そしてエストという共同体ができた。
二つのグループにはそれぞれがそれぞれの主義主張がある。
まずエストはある程度の自由が保障された国だ。それぞれがそれぞれの稼業で金を稼ぎ、その金で生計を立てている。ただし問題があるとすればかなりの差別が残っているところだ。また、建物やその他重要なものを情報化している。それらのデータはこの国のどこかにある巨大な施設で管理されていて、それを削除するのも復元するのも容易だ。また機械との共生を図っていたり、人間は体の一部を機械化している。そうしろと国が言ったからだ。
そしてイスクはだいたいがエストとは対照的だ。
まずイスクの民はみな生まれた時点で基本的には職業が決まっていて死ぬまでその役職にいる、生活必需品等は政府が平等に配布し、決められた土地の決められた宅地に住む。そして彼らは魔法に近いものが使えるのだ。彼らと言っても一部の人間であるしタネもわかっているのだがな」
僕は魔法のような非科学的なことは信じていなかったが、この状況にいる自分のことを考えると、認めてしまいそうだった。
「そして次は…この世界で最も重要な燃料、エネルギーについての話だ。」
「この世界は石炭で動いていた。機械の燃料はもちろん石炭で自動車も、電車も石炭を利用した蒸気で動力を得ている。石炭以外に利用可能なエネルギーの存在なんて誰も知らなかった。
それが、そんな世界が伝導者の手によって変えられた。
PsEを発掘できる場所はヤマトとキタイの間にある地域、シュメルーン海だけだ。そこを境に、ヤマトを含む側をエスト。キタイを含む側をイスクとしている。国境線沿いには人工島を複数建設。各所に武装した国境警備隊が常駐している。彼らは年中24時間違法に国境線を超えようとするものや違法採集者を警戒している。
PsEの基本的な採掘方法は採掘所を建設し、採掘装置を使用し、人間の手で個体の手のひらサイズへ圧縮し発送するという形だ。採掘装置は東西の伝導者が協力して初めて作成したのを真似ているらしい。PsEを変形させるには人間が必要だ。イメージによって変化するエネルギーであるからな。
前にも言ったがPsEはコンピューターなどの精密なもの、常にエネルギーが必要なものに使われる。親父は石炭に代わる新エネルギーとして市場を独占して世界を支配しようとしていたらしいが、それは不可能だった。
なぜならPsEは希少なのではなく、希少でなくてはならない存在だからだ。
エネルギー保存の法則って知ってるか?
PsEはその法則すら凌駕するモノなんだ。採掘と入ったが地面を掘るわけではない。採掘器がそれを生み出すんだ。シュメルーン海以外の場所で採掘器を動かしてもPsEは発生しない。シュメルーン海の上で伝導者の者、若しくはその複製でしか得ることのできないエネルギーを放出する物質…それもポンとでるんだ。
何が言いたいかというと…PsEが生み出されるたびにこの世界のエネルギー量は増えているということなんだ。」
エネルギーが一方的に発生しているということ…そしてそれは自分の思い通りのエネルギーに変えられ、その分のエネルギーの変換は必要ではなく、生み出すだけになるということか…難しい…
「これに気付いた東西の研究者は警鐘を鳴らし、エストはPsEを希少なものにしか使わない法令をだした。イスクはPsEが一般に普及していないお陰で量は抑えられている。
イスクではその代わりにPsEを利用した兵器を開発していた。それの副産物がさっき言った魔法だ。
魔法と言っても人体の一部を改造したりとかだが、人間離れしているのは間違いない。習得する方法は俺らには情報が入ってこない。
兵器についてはまだ開発中らしい。そもそもなぜ兵器が必要なのかというと、自分たちの権力の届く範囲を広げるためだ。だがイスクとエストは主義主張が180°違う。ならばどうするか
侵略だ
20年ほど前、エストのある国が占領された。イスクは声明を出した。
『この世界は一つになる。皆が平等で偉大でいれる世界だ』
速やかにエスト連合軍は国を奪還。侵略者を処刑したが、両陣営の緊張は最大になった。エストとしてはすぐに攻め込みたかったが兵器のこともあり慎重な世論が多かったためにプレッシャーを与え続けることになった。エストの伝導者はこれについてイスクの伝導者と話し合うと言ってシュメルーン海へいった。
その三日後、伝導者二人はあるものを残して殺しあった形跡と共にボロボロの遺体で見つかった。
そしてその日からこの世界は生死の間をさまようことになる。
そんなおわらない緊張のなか伝導者の残した遺言とあるものだけが俺らの希望だったんだ。」
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