妖精<男の名前は岩瀬健。結婚式場に現れた哀れな男である。これまで何百という結婚式を見てきたが新婦に対してここまで後悔している男はまれである。幼なじみであるがゆえ彼女への思いをずっと伝えられなかったツケが皮肉にもこんな形で巡ってくるとは。男はスライド写真を見ながら過去をやり直したいと強く願った。見るに見かねたわたしは写真の時代に戻ることを許可した。「わたし」とは無論この教会に住む妖精である。新郎と新婦の出会いは最悪なものだった。ほうっておけば結婚の可能性を早々に摘むことができたはずだった。だが男は見過ごすことができずしまいには仲直りの手助けまでしてしまった。要領は悪いが憎めない男である。果たしてこの男一体どうなってしまうことやら>
健<制服の第2ボタンがなくなっていた。一つ確かなことはその第2ボタンを受け取ったのが礼ではなかったということだ>
多田高校んときさ誰かに第2ボタンとかもらわなかったの?
欲しいとか思わなかったんだ?ちょっとは思ったけど…。
お前いたなんてもんじゃねえよ。熱狂的なファンがたくさん集まってきちゃって大変だったんだよ
エリあのとき礼は健の第2ボタンが欲しかったんじゃないかなーって思うんだよね。
まあ健のことだから礼の乙女心なんて全然気が付かなかったと思うんだけど。
礼こんなにずっと一緒にいるのにケンゾーは何も分かってないよ
《何で礼に渡さなかったんだろう。ああーやっぱ戻りてぇー。
妖精一つ非常に気になるんだが。俺に対するリアクションが薄くなってきてないか?
気のせいですよ。今回だってちゃんと出てきてくれて言葉にできないぐらい感謝してます。
ホントにすごいあのう貴重な体験をさせてもらって…。
ダスティンホフマンが出演した「卒業」って映画知ってるか?
妖精実はあそこの教会にしばらく住んでたことがあるんだ。
冗談に決まってんだろ。お前悪い詐欺に引っ掛かんないように気を付けたほうがいい。
卒業を別れととらえる者もいれば旅立ちととらえる者もいる。
もう会えなくなると寂しがる生徒もいればもう会わなくてすむと胸をなで下ろす生徒もいる。卒業の日に抱えてる思いは卒業証書の数だけあるということだ。
それってもしかしてボタンとボタンエビかけちゃったりなんかしちゃったりして。
尚彼女がかわいそうだろうが。俺のほうがかわいそうじゃ。
♪~(オープニングテーマ)
どうせ今日も誰にもボタンもらってもらえないんでしょ?
誰ももらってくれないからわたしが慈悲の心でもらってあげたんでしょ。
今日もかわいそうだからもらってあげてもいいけどね。
尚「ボタンください」って言われてあんなに舞い上がってたくせに。
とにかくあのボタンは取り返さないとまずいんだって。
B組の香ちゃんにチョコレートもらったときだってその日だけ超浮かれてたじゃねえか。お前何年前の話しとんじゃ!?
あの第2ボタンにはサファイアが埋め込んであるんだな?
尚まずはロープでこの2年G組のベランダに侵入。そして彼女と接触。逃走経路はこの非常階段を使う。ブツを手に入れたら一気に屋上まで駆け上がる。そうするとヘリコプターで五ェ門が待っている。
二人「Dogetthere」?尚ノーノーノーノー。「ドゥゲザー」土下座ー。ああ…。
エリええー?地味だよ。もっと派手にすればいいのに。
未沙友達と賭けてたの。1時間でいくつ集められるかって。
男の純情なめんじゃねえ!こんな第2ボタンなんか…。
エリお祝いに来てくれんのはうれしいけどもっと早く来なきゃダメじゃん。多田あっ…。ごめんなさい。
先生と仲よくなる前ですね。うわぁひどい顔してますねこれ。
フフフ。すごい緊張してる。先生はさ卒業式の日泣いた?
やっぱりそういうもんだって割り切るしかないんだよ。ねっ。
うーん。でもこのまんまだと将来思い出すこと何にもないまま終わっちゃうなと思ってさ。
言われてみれば僕も卒業式の日のことはほとんど覚えてないです。
あーっ!これですこれ!1996年3月9日多田哲也。
ふーん。何げにちゃんと卒業っぽいことしてたんだね。
きっと君たちと同じ気持ちだったと思うんです。「このまま卒業しちゃっていいのかな…」って。多分自分の手で高校生活の最後を決めたかったんでしょうね。
礼多田先生が大学の講師になるなんて思わなかったな。
多田いや。大丈夫じゃないと思います。あっでも教育実習んときに吉田さんに言われた言葉で目が覚めました。
また大学でお会いできることを楽しみにしてます。それじゃ。
男いや立派な生徒さんですね。女生徒のかがみですよね。
つーかもうさあきらめろよ。あきらめらんねえから過去戻…。
一度あげたボタンを別の誰かにあげんのはやっぱ何か違うんじゃねえの?
幹雄の言葉は痛いほど胸にしみた。本当に情けないのは礼にボタンを渡せなかった過去の自分ではなく違うと分かっていながら悪あがきをしていた今の自分だった。一度誰かに渡してしまった第2ボタンは二度と戻ってこないのだから
7割8割じゃ満足しないぞ。完ぺきな10割を達成してこそ真の卒業だ!
重人優勝カップと打ちたての麺。これこそ究極のカップ麺だ!
部員たち♪「鶴見が食うぞ鶴見が食うぞ鶴見が食うぞ」♪「がっつくぞヘイ!
がっつくぞヘイ!」♪「食うぞ食うぞ鶴見!鶴見が食うぞ鶴見が食うぞ…」
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「うだつの上がらない男ですがよろしくお願いします」って。
制服着る最後の日にそういう人が現れてホントよかったよ。
尚第2ボタンつけっぱなしでさ帰るっていうのはどうなの?絶望?やっぱ。
優子卒業式の日ぐらい迎えに来てあげようかなと思って。
師匠!この合鍵はどうやったら手に入るんですか!?いつの間にか師匠になってるし。
あーもう!黙ってないで口を開いてくださいよ!カチャッと。
ルックスは教えられないだろ。(エリ)うわっ。何かやな感じ。
あっ!お前師匠に向かってなんて口の利き方してんだ!?
幹雄鶴がいきなり格好よくなったらそれはそれで焦るだろ。
《二度目の卒業式もこうしてあっけなく終わってしまった》
尚どこで知り合ったんすか?どこで知り合ったんすか?
尚いやいやいや。教えてくださいよ。ねえ?《どうしよ。どうすりゃいいんだよ》
《終わったとか言うなよ》(幹雄)まあ卒業式なんてこんなもんだろ。
エリそっちはまだいいじゃん。後輩に見送られたりしてさ。
わたしたちなんてただ賞状もらいに行ったようなもんだもんねえ。
みんなしてよ。せっかくの卒業式だったっつーのに何そんなしけた顔してんの?
いやー。生まれつきしけた顔の保に言われたら終わりだな。
西尾お前!うるせえこの野郎。しょうがねえな。よし。哀れなお前たちには特製卒業バーガーをプレゼントしてやろう。
エリわたしもまだやり残してることがいーっぱいある気がする。あっ!じゃあ学校戻るか!?
ほら。例のあれを取りに…。やってないこと片っ端からやる?
エリごめん。また来るね!尚もーう!健行くぞ!せーの!
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《五人でいることが自然で当たり前で一人でも欠けるとひどくもの足りない気分になった》
《誰よりも楽しんでないと負けてるような気がしてバカなこともたくさんした》
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お前「ぽい」じゃねえよ。いいじゃんわたしのなんだから。
《どんなにケンカしても不機嫌になっても五人がそろえば最後には決まって笑顔になれた》
《でも今の自分には心の底から楽しむことも素直に笑うこともできない》
《ふがいない二度目の卒業式は一度目よりずっとずっと切なくそしてほろ苦かった》
あっ。ねえ?そういえば屋上って来たことなかったよね?
息抜くほど何かまじめにやったことなんてあったっけ?
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伊藤こら!何やってんだ!?尚あっあっ。ちょっ。あっ!
100本に1本ぐらい人の心つかんじゃうようなでっかいの。
《バカだなぁと笑いながらも鶴の純粋さが妙にまぶしくて胸が痛んだ》
卒業の記念にスペシャルバーガー食べちゃおうかなぁ。(幹雄)あれだけは絶対やめといたほうがいいよ。
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健が高校最後の記念にホームラン打ちたいんだってさ。
応援してあげなくていいの?今ホームラン打ったって遅いよ。
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三人の歓声ホントにこの人たちは最初から最後までずーっとバカであり続けたね。
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ただいまより立修大学附属高校野球部マネジャーの卒業式を行います。
花束贈呈!野球部では7番を打ち練習でも試合でも最後までやる気を見せなかった榎戸幹雄さんより花束を贈ります。
あなたは野球に全く興味がないにもかかわらず格好いい先輩がいるという理由だけで野球部マネジャーになってしまった勇敢な心の持ち主です。
肝心な仕事はそっちのけでいつも余計なことばかりしているように見えましたがあなたの天真らんまんな明るさとその笑顔に我々はどれだけ救われたか分かりません。
いつ辞めてもおかしくない中3年間最後まで一緒にやり抜いてくれたことを深く感謝します。
あなたは高校に入ったらバレーボール部に入りたいと言っていたにもかかわらず我々の強引な勧誘に屈し嫌々ながらもマネジャーを引き受けてくれました。
時には厳しい言葉でチームにげきを飛ばし微妙な判定には審判に猛抗議をして退場になるなど監督以上に頼もしい存在でした。そんなこと言わなくていいでしょ。
その一方で自分の仕事には文句ひとつ言わずどんなに暑い日でも寒い日でも選手とともにグラウンドに立ちドリンクの準備からユニホームの洗濯まで完ぺきにこなしてくれました。
学生服よりもあなたが真心込めて手入れをしてくれたこのユニホームこそわたしの高校時代の証しです。
いつも試合に負けてばっかりであんまり楽しい思いをさせてあげられなかったけど3年間最後まで野球部と一緒に戦ってくれてホントにありがとう。
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部員お疲れさまでした!部員たちお疲れさまでした!お疲れさまでした!
二人が感動しなきゃ卒業できないって妙なこと言いだすからさ。何?それ。イエイ。
エリあっ先生!ちょっと。いいとこに来た。写真撮って。
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尚ちょっちょっちょっ…。ねえねえねえ。写ってない…。
高校のときさ誰かに第2ボタンとかもらわなかったの?
妖精フリでさんざん盛り上がったのにオチも聞けずに終わっちまった漫才みたいだったな。
だが演出に凝りすぎて告白の時間がなくなったら元も子もないよな。
過去に言わなかったことを言ったりものを渡しても今の状況に全くといっていいほど影響がありません。
お前が過去に戻ってものを壊したらそのものを壊したっていう事実は残る。
これで無事高校卒業もやり直せたことだしこのタイムスリップからも卒業するか?
《大学1年の春ふざけて礼にキスしようとして思いっきりビンタされた》
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