批判が巻き起こるのも無理はない。長く受け継いできた「伝統」と一刻を争う「人命救助」。緊急事態でどちらを優先すべきか、尋ねるまでもないだろう
▼京都府舞鶴市で4日、大相撲春巡業の土俵上で倒れた市長に心臓マッサージをする女性らが、土俵から下りるよう場内放送で繰り返し促された。声の主は日本相撲協会の若手行司。問題視する観客から指摘を受け「慌てていた」と協会は釈明する
▼放送するなら、性別を問わず「医療関係者がいるなら集まって」だろう。女性らが下りた後、協会関係者が大量の塩を土俵にまいたらしい。その場を清めたということか。協会は「アクシデントの連鎖を防ぐため」と言うが、鵜呑(うの)みにはできない
▼女人禁制を巡る騒動は今に始まったことではない。1990年に当時の森山真弓官房長官が優勝力士への総理大臣杯の授与を望んだが、協会が拒否
▼2000年に大阪府知事になった太田房江氏も知事賞を手渡す願いはかなわなかった。女性首相が将来誕生しても同じ対応を取るのだろうか
▼「相撲」という言葉の最初の記述とされる日本書紀(5世紀後半の雄略天皇時代)に登場するのは、なんと女相撲。江戸時代でも女相撲の興行が盛んだったようだ。女人禁制というより、むしろ女性は土俵に近しい存在と言った方がしっくりくる。(西江昭吾)