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前文科事務次官・前川喜平さんが“夜間中学”で教える理由

野村昌二AERA

自主夜間中学「あつぎえんぴつの会」で教える前川喜平さん。教育の本質に触れる経験をしたいと思い、「現場」に飛び込んだ。「これからは、存野の立場で協力していきたい」(撮影/写真部・小原雄輝)

自主夜間中学「あつぎえんぴつの会」で教える前川喜平さん。教育の本質に触れる経験をしたいと思い、「現場」に飛び込んだ。「これからは、存野の立場で協力していきたい」(撮影/写真部・小原雄輝)

給食は日替わり。この日のメニューは、ツナとトマトのスパゲティをメインに副菜には大豆入り海藻サラダなど。30分間の給食時間はにぎやかだ(撮影/写真部・岸本絢)

給食は日替わり。この日のメニューは、ツナとトマトのスパゲティをメインに副菜には大豆入り海藻サラダなど。30分間の給食時間はにぎやかだ(撮影/写真部・岸本絢)

「文部省が何をしたかというと、夜間中学は中学を卒業できなかった人たちのものだから、卒業証書を受け取った人を夜間中学に入学させてはいけないという指導を行った。不登校や病気などで中学に通えなかった子どもたちを、政策的に夜間中学に入れなくしたのです」

 行政管理庁の勧告後、減少傾向をたどった夜間中学は今、転換期を迎えている。きっかけは14年4月。長年の運動の努力が実り、超党派の「夜間中学等義務教育拡充議員連盟」(会長・馳浩自民党衆院議員)が発足、法整備への動きが加速した。文科省も夜間中学を「貧困のセーフティーネット」と位置づけ、動き出す。15年7月、文科省は「形式卒業者」への門戸を広げる通知を出した。卒業証書をもらっていても夜間中学に再入学できるよう方針転換したのだ。

 そして16年12月には、「教育機会確保法」が議員立法で成立した。初めて夜間中学を法的に位置づけ、不登校などで学齢期に学校に通えなかった人の就学機会を夜間中学などで確保するよう各自治体に求めたのだ。文科省も今年4月、「全都道府県に少なくとも一つ」の設置を目指す方針を示した。

 文科省に在職中、これらの制度改革を進めてきた前川さんは強調する。

「法律ができたインパクトは大きい。国、および地方公共団体の責任は重大。いままでおろそかにしてきたけれど、法律ができた以上は許されません」

●授業料は無料で原則3年 運動会や修学旅行、給食も

 今、夜間中学はどうなっているか。9月の中旬、東京都葛飾区の区立双葉中学校夜間学級を訪ねると、10~70代の生徒が熱心に机に向かっていた。映画「男はつらいよ」で有名な柴又も近い、全国に31ある公立の夜間中学の一つ。

 のぞいたクラスでは、数学の「確率」の授業が行われていた。

「大きいサイコロと小さいサイコロがあります。二つを転がし、足して『5』が出る確率を出してください」

 教師の問いに、9人の生徒は一斉にノートに樹形図を描いて確率を求めていった。日本人のほか、中国人やフィリピン人もいる。

「生徒はみんな真剣に聞いてくれ、われわれもやりがいがあります」

 12年間、夜間中学で教えている同校の和島直樹教諭(53)はそう話す。

 同校には、15~77歳の62人の生徒が通う(10月1日現在)。そのうち日本人は9人で、残りはいわゆる「ニューカマー」。ネパールや中国、フィリピン、タイなど外国籍が85%を占める。


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