米トランプ政権、米軍のシリア駐留継続を表明

クルド勢力が支配するシリア北部マンビジに配備されている米軍主導の有志連合(3日) Image copyright AFP
Image caption クルド勢力が支配するシリア北部マンビジに配備されている米軍主導の有志連合(3日)

米トランプ政権は4日、米軍のシリア駐留を当面継続すると表明した。ドナルド・トランプ大統領は先週、「シリアからすぐに撤退する」と述べていたが、政府高官によると、国家安全保障チームから方針転換するよう説得されたという。

国家安全保障チームはトランプ大統領に対し、撤退すれば過激派組織「イスラム国」(IS)が再び勢力を回復する危険を生じさせると助言したという。

ホワイトハウスは4日の声明で、米軍のシリアにおける任務は「終了目前」にあると述べたが、完全な撤退時期については明らかにしなかった。

声明は、ISがほぼ完全に崩壊したとし、米国は今後の計画について同盟先と相談すると述べた。

米NBCニュースによると、米政府高官は、トランプ氏が国家安全保障チームとの会議で、米軍を期限を設定せずにシリアに駐留させることに合意したものの、「控え目に言っても喜んではいなかった」と明かした。

米軍は現在、シリア東部に約2000人を駐留させており、クルド人とアラブ人が参加するシリア民主軍(SDF)を支援している。

米国主導の有志連合による空爆支援を受けたSDFの戦闘員たちは、過去3年間で何万平方キロにもわたる地域でISを掃討している。

4日には、トルコとイラン、ロシアの首脳がトルコの首都アンカラで会談を行い、シリア安定化に向けた努力を加速化させることで合意した。

支援先は違うものの、3カ国ともシリア内戦に深くかかわってきた。イランとロシアはシリアのバッシャール・アサド大統領を支援し、トルコは反体制派を後押ししている。

しかしBBCのマーク・ローウェン・トルコ特派員は、3カ国の首脳は反米で一致しており、シリア情勢でカードを握っているのは自分たちだと考えていると指摘する。

イランのジャバド・ザリフ外相はBBCアラビア語に対し、米国はそもそもシリアに関与するという「間違った決断」をして分裂を引き起こし、「さまざまな民族の間の断層に付け込んだ」と語った。

トランプ氏はなぜ撤退を望んでいたのか

トランプ大統領は先週、中西部オハイオ州で行った演説で、シリアに最後に残ったISの支配地域は「すぐに」奪還されると述べた。

トランプ氏は先月29日のオハイオ州での演説で、シリアとイラクのIS支配地域はほぼ100%が奪還されていると語った Image copyright EPA
Image caption トランプ氏は先月29日のオハイオ州での演説で、シリアとイラクのIS支配地域はほぼ100%が奪還されていると語った

トランプ氏は、「もうほかの人たちにまかせればいい。すぐに、すぐにね、我々は撤退する」、「自分たちはこの国に戻る。自分たちの本来の場所に」と語った。

報道によると、トランプ大統領はレックス・ティラーソン前国務長官が拠出を約束していたシリア再建資金2億ドル(約215億円)の凍結を国務省に命じた。

国家安全保障チームはなぜ駐留継続を主張しているのか

対IS有志連合の関係者は、ISがシリアとイラクで一時支配していた地域の98%が奪還済みだとしつつも、完全には掃討されていないと強調する。

シリア東部のユーフラテス川が流れる谷にISの支配地域が残っているが、クルド人戦闘員たちがトルコ軍と戦うため北西部のアフリンに移動したため、SDFの作戦は2カ月間にわたって停滞している。

対IS有志連合で調整役を務めるブレット・マガーク米大統領特使は、「我々はアイシス(ISの別称)と戦うためシリアにいる。それが我々の任務で、任務は終わっていないし、我々はその任務を完遂する」と述べた。

4月2日時点での各勢力の支配地域、薄紫がシリア・クルド人勢力、オレンジがIS、緑がシリア政権、濃紫がシリア反体制勢力、薄緑がイラク政府(IHSコンフリクト・モニター調べ)
Image caption 4月2日時点での各勢力の支配地域、薄紫がシリア・クルド人勢力、オレンジがIS、緑がシリア政権、濃紫がシリア反体制勢力、薄緑がイラク政府(IHSコンフリクト・モニター調べ)

米中央軍司令部のジョセフ・ボテル将軍は3日の記者会見で、「大変な局面はまだこれからだと思う。各地の安定化を図り、支配奪還を確実なものにし、住民が帰還できるようにして、復興という長期的な課題に取り組むほか、必要なことは色々ある」と語った。

ティラーソン前長官は今年1月、無期限のシリア駐留を表明し、ISの「永続的な敗北」を確実にするだけでなく、イランの影響力に対抗し、7年にわたる内戦を終わらせる必要があると述べていた。

ティラーソン氏は、時期尚早だった2011年のイラク撤退によって、イラクのアルカイダが生き延び、その後(ISに)姿を変えたような、「同じ失敗を繰り返す」わけにはいかないと警告した。

トランプ大統領を方針転換させた理由

トランプ大統領は3日に開かれた国家安全保障チームとの会議で、早期撤退を命じないよう説得されたと報じられている。

NBCニュースは政権高官の話として、ジェイムズ・マティス国防長官はトランプ氏に対し、米軍の数はすでにかなり削減されており、完全に撤退すれば米国や同盟先がISから奪還した地域を再び失う危険が生じると語ったと伝えた。

米国の支援を受けたSDFは昨年10月、ISの主要な拠点だったシリア北部のラッカを奪還した Image copyright Reuters
Image caption 米国の支援を受けたSDFは昨年10月、ISの主要な拠点だったシリア北部のラッカを奪還した

トランプ氏は駐留継続に同意し、期限を設けなかったが、「シリアでの長期駐留にはいかなる形でも不満だということを明確にした」という。

その後ホワイトハウスが出した声明では、「すでに壊滅させた地域以外の、シリアのわずかな地域に残る支配地域からもアイシスを掃討するという、合衆国と協力先の強い決意は変わっていない。我々は同盟相手や友好関係先と、今後の計画についての協議を続ける」と述べている。

「平和を実現し、アイシスが再び勢力を得ないよう、国連も交えて、地域の各国やその外の国々が協力すると期待する」

Presentational grey line

<解説>危険な空白の懸念――バーバラ・プレットアッシャーBBC米国務省担当特派員

国防総省は、米軍の完全撤退が危険な空白を生むと懸念している。

それは米国が支配する地域を、アサド政権や政権を後押しするロシアに譲り渡すことを実質的に意味する。シリアにおける米国の同盟相手を裏切るほか、米国や周辺同盟国の利害を踏まえた内戦後の秩序形成に関わろうとしてきた、米国のこれまでの取り組みを無効化することになる。

ISが復活しないよう、戦闘で荒廃した地域の安定化を助ける米政権の戦略も損なわれる。米国はこれまで、基本的な生活支援の提供によって、住民の帰還を支えようとしてきた。この方針について、国防総省と国務省は足並みを揃えている。

さらに米軍が完全撤退すれば、シリアや近隣地域ですでに相当な影響力を持つイランの勢力拡大を許すことになる。国境沿いのイラン軍の存在を恐れるイスラエルは、イランの勢力拡大を非常に懸念している。中東地域におけるイランの最大のライバル国、サウジアラビアも同様だ。

Presentational grey line

(英語記事 Syria war: Trump 'persuaded not to pull out immediately'

この話題についてさらに読む