【元ロシア・スパイ】神経剤の正確な製造場所、「特定されず」=英研究所
英南部ソールズベリーで先月、ロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリアさんに神経剤が使われた殺人未遂事件をめぐり、英軍化学兵器研究機関のポートンダウン研究所は3日、神経剤が製造された正確な場所は特定されていないと明らかにした。
神経剤がロシアで開発された「ノビチョク」だったとする同研究所は、「国家アクター」が使用したと指摘した。
英政府は、このほか収集された情報に基づき、事件はロシアが起こしたと断定した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、「反ロシア運動」の「展開の速さ」に驚いたとし、事件の捜査にロシアも関与したいと表明した。また、オランダ・ハーグにある化学兵器禁止機関(OPCW)が4日に開く執行理事会が、「事件に一線を画す」ものになるのを期待すると述べた。
ポートンダウン研究所のギャリー・エイトキンヘッド所長は、神経剤が同研究所で製造された可能性があるとのロシアの主張を否定した上で、「正確な製造場所は特定されていないが、政府に科学的な情報を提供している。政府はこのほか多方面から得られた情報を基に結論を出している」と語った。
「この神経剤が何であるか科学的な証拠を提供するのが我々の仕事だ。特定の種類に属し、軍用だと分かったが、どこで製造されたのかを言うのは我々の仕事ではない」
英政府の報道官は、ポートンダウン研究所で行われた物質の特定は、「情報の全体像の一部に過ぎない」と述べた。さらに、ロシアが関与したとの判断をあらためて示し、「考えられる説明はほかにない」と話した。
BBCの取材では、先月4日に意識不明で発見されたスクリパリ氏(66)とユリアさん(33)のうち、ユリアさんは意識が回復し会話できるようになったことが分かっている。2人が入院するソールズベリー地域病院によると、スクリパリ氏は依然として重体だが、状態は安定しているという。
エイトキンヘッド氏は、スクリパリ氏の治療について病院に助言していることを明らかにし、「不幸なことに非常に毒性の高い物質だ。我々が知り得る限り、影響を軽減できる解毒剤はない」と付け加えた。
「偽りのない真実」
ロシアのユーリ・フィラトフ駐アイルランド大使は、「すべてについて話し合いたいと考えており、英国が持っているあらゆる証拠を提供してくれるよう要請する」と語った。
「ロシアは問題に関する偽りのない真実を得ることに関心があり、(OPCWの)会合によって、少なくとも正常な状態の範囲内、国際法(中略)そして国際関係の良識の範囲内に戻れるよう、本当に期待している」
英外務省の報道官は、OPCWの理事会が「陽動作戦で、OPCWが結論を得ようとするのを邪魔するのが目的だ」とし、「化学兵器禁止条約は、化学兵器攻撃の被害者が犯人の可能性が高い相手と共同で捜査をするよう求めていない」と述べた。
英政府がロシアが事件に関与したと断定したのを受け、これまでに29カ国がロシア外交官に対する国外退去措置を取った。
一方のロシアは先月、英国の外交官50人以上に国外退去を求めた。
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は2日の記者会見で、英政府がブレグジット(英国の欧州連合離脱)に伴う「居心地の悪い状況」に置かれており、事件は「英政府の利益」にかなう可能性があると語った。
ラブロフ外相は、「(事件の)理由はたくさんあり、一つとして無視はできない」と述べた。
<解説>フランク・ガードナーBBC治安担当編集委員
ポートンダウン研究所のエイトキンヘッド所長は慎重に言葉を選んでいた。研究所ではまだ、スクリパリ氏たちに使われた神経剤がロシアで製造されたものだと断定されていないと、同氏は厳密に科学者としての見解を述べた。
エイトキンヘッド所長は、毒物の製造場所を探し出すのは科学者の役割ではないと語り、英政府がロシアが関与したと判断したのは、情報機関を主とするほかの情報源からだと示唆した。