1.概況
東アジアの隣国である中国(中華人民共和国)は、13億7000万人を超える世界最多の人口を抱え、いまやGDP(国民総生産)が世界第二位の経済大国である。2000年以降の高度経済成長の結果、2007年以降は米国を上回って世界で最も大量の温室効果ガス(主にCO2)を排出している。
そのため国民一人当たりの年間CO2排出量は先進国並みの約8トン近くに達し、総排出量は世界全体の年間排出量の約3割を占めるまでになっている。CO2の最も大きな排出源となっているのが石炭による発電や熱供給である。中国では主に国産の石炭が年間発電量の約6割以上を占めており、石炭の利用に伴う大気汚染が、特に都市部で深刻な公害問題となっている。
その一方で、この10年間で中国は世界で最も再生可能エネルギーの導入を推進している国となっている。水力発電の累積導入量は3億kWを超え第2位のブラジルの3倍に達している(注1)。風力発電では、2010年に累積導入量が米国を超え2016年末には米国の2倍の1.6億kW以上に達した(図1)。太陽光発電の累積導入量も2015年にはドイツを超えて2016年末には7000万kW近くに達している(図2)。
その結果、中国では再生可能エネルギーの発電設備の累積導入量は2016年末までに6億kW近くに達して圧倒的な世界第一位である。再生可能エネルギーの熱利用でも太陽熱設備の導入量も世界全体の7割以上を占めており、各都市での地域熱供給の普及も進んでいる。
(注1)REN21「自然エネルギー世界白書2017」”Renewable 2017 Global Status Report” http://www.ren21.net/gsr/
2.再生可能エネルギー市場と産業の急成長
すでに、中国では新規に導入される発電設備のうち半分以上の設備容量が再生可能エネルギーによる発電設備となっており、水力、風力、太陽光などを合わせて年間導入量が7000万kWを超えている。2016年には中国での再生可能エネルギーの設備投資金額が780億ドルと世界全体の約3割を占める世界第一の再生可能エネルギー市場となっている。再生可能エネルギーによる雇用についても、世界全体の980万人に対して中国が360万人と日本(約31万人)の10倍以上に達している(注2)。
中国では再生可能エネルギー産業が産業政策として重視されており、すでに風力発電設備産業も太陽光産業も世界第一位の規模がある。太陽光発電の太陽電池モジュールの出荷量では中国が世界市場全体の7割近いシェアがあり、上位3社を中国メーカー(Jinko Solar, Trina Solar, JA Solar) が占めている。風力発電設備では欧州メーカーからの技術移転などによりGoldwind社を始めとする中国メーカーが国内市場で大きなシェアを占めており、国内の市場だけではなく海外市場への展開も始まっている。
(注2)IRENA “Renewable Energy and Jobs Annual Review 2017” http://www.irena.org/
3.気候変動対策とエネルギー政策
中国では、2000年以降、急速な経済成長に伴い、電力などのエネルギー需要が増加し、豊富な国内資源である石炭などを燃料とする火力発電所の建設が進んだ。その結果、CO2排出量が大幅に増加すると共に深刻な大気汚染を引き起こした。中国の大都市では大気汚染を始めとする環境問題の解決が重要課題となってきている。そのため、中国では経済発展を重視しながらも石炭火力発電の抑制などの気候変動対策と共に再生可能エネルギーの急速な導入を国家レベルの重要政策として5か年計画の中で進めてきている。
その中で、2006年には、「再生可能エネルギー法」が施行され、エネルギー不足の解消と環境問題の緩和という二つの重要課題を同時に解決する切り札として期待されてきた。中国において、再生可能エネルギーは、エネルギーの供給源を多様化することによりエネルギー安全保障の確保が可能となり、石炭・石油などの化石燃料の使用により生じる大気汚染および温室効果ガスの排出量を減少させることができるとされてきた。
特にエネルギー不足が深刻な農村部において農民の生活様式を改善するという政策目標の実現を早めて都市と農村との社会経済的格差の解消という国家目標を実現する重要な政策手段としても位置付けられており、さらに産業の発展により就業機会を増やし、社会に一層の安定をもたらすことができるとされている。
中国は、再生可能エネルギーの導入目標として2020年までに、大部分の再生可能エネルギー技術の商業化を達成し、2050年までに大規模な化石エネルギーの代替を実現して一次消費エネルギーの30%以上とするとしていた。直近の2016年になって策定された第13次五か年計画では、2016~2020年の間の計画が定められており、再生可能エネルギーについても第12次五か年計画での2015年までの順調な実績を踏まえて2020年までの高い目標が掲げられている。
全発電量に占める再生可能エネルギーの割合は2016年には24.5%だったが、2020年には27%を目標としている。中国の再生可能エネルギーの導入割合は先行するドイツなど欧州各国の現状や目標(2020年)に比べれば低いものの、日本の現状(2016年度に約15%)や2030年の目標(20~22%)と比べれば十分に高いレベルにある。
気候変動の目標においては、気候変動対策の国際的な温室効果ガスの削減目標(INDC)としてGDP当たりのCO2排出原単位を60~65%削減(2005年比)し、2030年前後にはCO2排出量をピークアウトするとしている。この目標を実現するシナリオが中国の国家再生可能エネルギー研究センター(CNREC)から発表されており、2030年には再生可能エネルギーの割合を全発電量の50%以上にして、2050年には割合を80%近くまでする必要がある(注3)。
ここ数年はCO2排出量が横ばいの状況にあり、中国でも経済(GDP)とCO2排出量のデカップリングが始まったと考えられる。さらに排出削減のためのカーボンプライシング(炭素への価格付け)への取組みとして、これまでパイロット的に国内数カ所で試行してきた温室効果ガスの排出量取引制度(ETS)が電力部門に対して全国的に適用されることが2017年12月に公式に発表されている。再生可能エネルギーに対してもその環境価値をクレジットとして取引可能とする「グリーン電力証書」の制度が2017年からスタートしており、太陽光や風力発電の事業が対象となっている。【次ページにつづく】
(注3)CNREC ”China Renewable Energy Outlook 2017 – Executive Summary”
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