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 富士通が銀行の勘定系システムをクラウド方式で提供する新事業に乗り出す。銀行は一からシステムを構築する場合と比べて、初期導入費を半分以下に抑えられる見込み。既存の銀行に売り込むほか、新たに銀行業に参入する需要も狙う。高い信頼性が求められる勘定系システムにもクラウドの波が押し寄せてきた。

表 クラウド勘定系の概要
概要富士通日本ユニシス
アプリケーション新規設計。PROBANKなどのノウハウを活用BankVisionを活用
インフラK5Azure(日本マイクロソフト)
主要顧客地銀、大手行、ネット銀行、新規参入企業地銀、信金、ネット銀行、新規参入企業
稼働予定時期2020年度2020年前後

 すでに開発に乗り出しており、2020年度中の稼働を目指す。2018年度下期から営業活動を始める。全国の地方銀行などに採用を提案するほか、大手銀行がグループ内に抱える「サブブランド」方式の銀行向けシステムとしての提供を狙う。銀行業への新規参入を目指す異業種の企業にも売り込み、5年後までに10行以上の受注を見込む。海外展開も視野に入れる。

 勘定系システムは入出金や口座管理、為替といった銀行業の中核を担う。高い処理性能と信頼性が求められるため、構築と維持に多額のコストがかかる。クラウド経由で勘定系の主要機能が利用できるようになれば、銀行は関連費用を大幅に減らせる。自前で勘定系システムを抱えるのに比べて、クラウド方式なら初期導入費を半分以下に抑えられると富士通は見込む。

 システム基盤には富士通のパブリッククラウド「K5」を使う計画。将来的には日本マイクロソフトの「Azure」などの採用も検討する。

 とはいえ、既存の勘定系システムは巨大なため「いきなりすべてを置き換えるのは難しい」(富士通幹部)。そこで、当面は既存の勘定系システムとクラウド勘定系を併存させたうえで両者をAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)でつなぎ、クラウド勘定系の利用を少しずつ拡大していくことができるように関連ツールとサービスをそろえる。

 4月には金融業界の知見やノウハウを持つ社内の専門家を100人規模で集めた「デジタルバンキングプロジェクト」も発足させた。クラウド勘定系を含めて、デジタル時代の金融機関に必要なシステム基盤を提案する中核部隊と位置付ける。

 勘定系システムをめぐっては日本ユニシスも日本マイクロソフトと組んでクラウド型サービスを始めると2018年3月に発表済みだ。日本ユニシスのオープン勘定系パッケージ「BankVision」をAzure上で動かせるようにする。まずは日本ユニシスの勘定系システムを使っている地方銀行や信用金庫などに幅広く提案する。

 富士通や日本ユニシスがクラウド経由で勘定系システムを提供する事業に乗り出した背景には、金融とITを融合した「FinTech」の台頭がある。小回りが利くスタートアップが新たな金融サービスを次々と投入するなか、既存の金融機関は埋没しかねない。差別化が難しい勘定系への投資負担を極力抑えて、人工知能(AI)などを活用した新サービスに経営資源を振り向けようとする機運が高まっている。今後もこうした流れは加速しそうだ。