部隊を訪ねて – 海上自衛隊 潜水医学実験隊

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インタビュー:実験第3部部長 瀧端康博 3等海佐(医官)

自衛隊の医療、衛生に役立つ成果と、社会に役立つ研究成果を上げる

2016年8月より当隊に配属され、実験第3部で潜水中に加わる水圧による特有の疾病・障害についての臨床研究、及び自衛隊横須賀病院での手術診療なども行なっています。
具体的に言うと、事故を起こした潜水艦から人員を救出する際に、いかに安全かつ早く潜って救助し、大気圧に戻るときはいかに安全に減圧するか、という研究になりますが、飽和潜水という特殊な環境下に置かれる潜水員への身体的、精神的フォローも大事な役割です。何度も潜水を繰り返すことで様々な減圧症の症状が起こることもあるため、長期的なメンテナンス、予防も必要となります。こうした任務を務めるための研究や訓練の他に、常に最先端を目指すためにも他国と連携を取ることも重要です。情報のキャッチアップと同時に、こちらからも情報発信をしていく。当隊では学会へも積極的に出席していますし、私自身はフロリダにある米軍のダイバー養成所などへも行ってきました。自衛隊外の現場に出て行くことは、自分たちが世界の先端を行くのだという気概にも繋がりますし、より高いレベルで皆が競争したり協力したりすることが、結果的に安全にもつながっていくと思います。
潜水医学は奥が深く興味は尽きませんが、自衛隊医官としても、臨床のフィードバックやシステム作り、設備調査、後輩の育成等、やることは多く多忙な日々を送っています。将来はまだ模索中ですが、防衛医科大学校へ戻り教育に従事したいという思いもありますし、部隊内でさらに医療の質を上げたいという気持ちもあります。どれも大事なことなので、やりたいことの折り合いをつけながら、自衛隊の医官として、外科医として頑張っていきます。

実験第3部部長 瀧端康博 3等海佐(医官)
ご家族は奥様とお子さんが2人。奥様は同じ防衛医科大学校出身の耳鼻科医で、陸上自衛隊医官。

インタビュー:先任伍長 小杉知恵 海曹長

これまでとは違う世界で視野を広げ、経験を積みたい

現在の業務は潜水医学実験隊の先任伍長として、海曹士隊員の規律の維持、団結の強化等に関して、隊司令を補佐しています。指揮官と海曹士との架け橋であるだけでなく、海曹士を円滑につなぐ役割も担っています。もともとは海上自衛隊で航空武器整備員として務めていたため、潜水や医学とは全く違う世界ですが、その分特定の職域に肩入れすることもなく、真っ新の状態で皆と平等に付き合うことができていると感じています。まだ前任と交代したばかりで1年も経っていないため、今は声掛けを大切に、気軽に話ができるような関係作りに努力しています。一人ひとりと丁寧に関わり、仲を深め、悩みや希望を聞いたり、意見をまとめたり…。彼らが困ったことはないか、仕事を円滑に処理しているか、常に把握するようにしています。訓練の時はなるべく見学に行くとか、時間のある時は皆の任務について勉強もしています。良好な人間関係があれば、どんなに忙しく難しい仕事でも乗り越えられると思います。目標は、皆に頼られる先任伍長になること。やっぱり頼りになる、信頼できる上司でなければ、なかなか悩みなんて話してくれませんよね。自衛隊に入隊してちょうど30年。新たな世界への挑戦にやりがいと、改めて使命感を感じています。優しさと厳しさをしっかり併せ持った先任伍長でありたいと思っています。

先任伍長 小杉知恵 海曹長
家族や親戚に自衛官はいなかったが、OLではなく何か違う道に進みたいと思い自衛官を目指したという小杉海曹長。航空武器整備業界では男性の中に女性一人という場面も多かったそうですが「負けないぞ」という思いで頑張ってこられたそうです。「現場だけでなく、市ヶ谷での内局勤務なども経験してきましたが、自衛隊には様々な職域があり、自分を高められる機会が多いですね。男女区別なく待遇も平等で、色々な仕事へのチャンスがあり、自分の気持ち次第で能力を伸ばすことができる場だと思います」

インタビュー:教育訓練部 教育訓練科 潜水員長 坂内良英 1等海曹

「最後の砦は自分たち」という自負で日々訓練、指導に当たっています

現在は、潜水員の教育訓練に関する計画や潜水員の訓練の補佐、学生の指導を行っています。管理者という側面が強いのですが、自分自身も潜れる環境であれば出来る限り一緒に潜って訓練をしています。もともと泳ぐのがとても得意というわけではありませんでしたが、海上自衛隊に入りスクーバー隊員がカッコいいなと思ったのがきっかけで、先輩や友人もダイバーを目指していたこともあり、自分もチャレンジしてみようと思いました。潜水員を目指すことになった時は軽い気持ちでしたが、実際に入ってみると訓練は厳しく、一旦潜ってしまえば個々の技量や体力が生死を分つような場面もあるシビアな世界です。今思えば、自分自身ストイックな面があるため、日頃から鍛えたり知識を深めるなどの鍛錬が思う存分発揮できる仕事は、僕に向いていたんだなと思いますね。印象に残っている任務は、東日本大震災のとき、近くの現場に船でいたため、横須賀には戻らずにそのまま捜索に当たりました。本来は我々が活躍しない世界が一番良いのだと思います。ただし、震災や海難事故など何か起こってしまった時は、そういう時しか活躍できないけれども、しっかり救助活動をしたいといつも思っています。震災の時も遺体の収容ではありましたが、日頃訓練していることが少しでも役に立っているのかなという想いはあります。
楽しいと思うことは少ない仕事ですが、“天職”を極める覚悟ができた。今後もずっと潜水の世界で定年までやりたいと思っています。幹部を目指し、より「知識・技術・経験」兼ね備え、自分の経験を伝えていきたいと思います。

教育訓練部 教育訓練科 潜水員長 坂内良英 1等海曹
ご家族は奥様と娘さんが2人。趣味はサーフィンとプライベートでも海三昧の坂内1曹。日頃から運動はしているが、特に特別なことや何かを節制することはない。規則正しい生活はしている。部下を指導する際に気をつけているのは怒らないこと。怒ることによって自分の性格もあるけれど、自分が熱くなると周りが見えなくなって行くこともあると思うので指導する立場として、命に関わることでなければ一呼吸置いて接していこうかと心がけている。

インタビュー:研究員 岩川孝志 技官

計測した貴重なデータの活用方法も重要な研究テーマ

私は生理学の専門家として2004年に研究者として入隊しました。現在は高圧実験班と潜水衛生潜水班に属し、圧力をかけた時の体の変化や神経の働きについて研究をしています。もともとは大学にいましたが、潜水に興味があったというより、海上自衛隊の採用情報に生理学者の要望があるのを見て、自分の研究が自衛隊で役に立つというところに魅力を感じました。今目指していることの一つに、高圧下で正確に測定できる方法の研究を進めるということがあります。私たちの研究はまずデータの取得が必要ですが、通常ではあり得ない圧の中で機器が壊れてしまい計測ができなかったり、ディスプレイが映らなかったり、特殊環境下では様々なことが起こります。革新的なことをやりたいと思っていますが、一つひとつ測定法についても進化させ、新しいデータを増やしていくことが目標ですね。当隊での研究は、他にやっている人がいないというより、最新鋭の設備でこれだけの実験ができ、データを保有できることがすごい。自分にとっても貴重な研究ですし、自衛隊のみならず日本にとっても貴重なデータです。多くの技術に役立てて欲しいと思いますし、私自身他の研究者とも連携しながら、潜水員の安全と健康、そして新たな可能性を探っていきたいと思います。

研究員 岩川孝志 技官
子供の頃、祖父母が陸上自衛隊の中で床屋をやっていて、子供の頃から自衛隊員と接していた記憶があります。また、父方の祖父は基地内のボイラー技師だったため。昔から身近な存在でしたね」と岩川技官。現在は研究職を行っていますが、生理学の専門家として、自衛隊員にアドバイスをすることもあるそう。「例えば“健康のためにどういうものを食べたら良いか”とか、身体作りで “どういうところを重点的に鍛えたら良いのか”など、隊員の皆さんには気軽に声をかけてほしいですね」


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