「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(54):HTMLに著作権なんてあるわけないでしょ (3/3)

» 2018年04月04日 05時00分 公開
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知財高等裁判所 平成29年3月14日判決から(HTMLの記述について、その独自性の有無を裁判所が判断した部分を抜粋して要約)

(ユーザーが)会員の基本情報登録画面から情報を入力し、「会員登録に同意する」にチェックした上で、「確認」ボタンをクリックすると、データが送られることに関するものと解される。

(ベンダーは、この構文を独自の工夫だと主張する)

HTMLに関する教本および辞典には、「HTMLには、style要素があること、文書の表示形式などを定めたCSSファイルをHTMLのタグに直接記述するインラインという方法があり、例えば<p style="font-size:20px; ">と表されることが記載されており、また、HTMLにおいて長さを指定する方法としてピクセル数を単位に整数で指定する方法があること、『submit』は『送信ボタン』を意味する語として用いられていること」が記載されている。

これらの記載によれば、「"margin:0px;"」は、「余白0ピクセル」を意味するもの、「onsubmit」は「送信ボタン」に関するものと解される。また、「"return false;"」は、実行中止を意味するものである。

ベンダー主張にかかる上記記述は、HTMLに関する教本および辞典に記載された記述のルールに従った、作成者の個性の表れる余地があるとは考えにくいものや、語義からその内容が明らかなありふれたものから成り、従って、作成者の個性が表れているということはできない。

 要約すると、裁判所は「このHTMLに書かれているものはみな、HTMLの技術書に書かれているものに似ているか、誰もが思い付くような工夫ばかりで、創作物としては認めがたい」と判断した。

「著作権」ではなく「契約書」で

 私個人の考えだが、HTMLファイルを著作物として認めてもらうのは相当に困難であり、現実的ではない。何しろ、その表現に用いる単語や文法の選択肢があまりに少なく、デザインもグラフィックデザイナーが描くような独創性にあふれたものは作りにくい。

 では、HTMLファイルの勝手な流用を認めたくないときは、どうすれば良いのか。

 私は、ファイルの権利は、「契約書」でしっかりと合意すべき、と考える。HTMLに限らず「作成したプログラムの複製や流用は一切認めない」ことを契約書に記し合意することが、プログラムの諸権利を守る上で大切だ。

 もちろん契約によっては、後々の保守性を考慮してユーザーに複製や改造を許可するものもある。それはそれで、両者が納得の上で合意したものなので問題はない。

 ソフトウェア開発を行う際には、諸権利について、著作権法に頼らず、両者が協議して契約書を作成すること。それが、後々余計な問題を引き起こさないためには必要なことだ。

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。

独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。

2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる

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