脳に入る寄生虫が温暖化で北上、ナメクジに注意

決して生では食べず、生野菜はよく洗い、水筒のふたは閉めること

2018.03.22
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【参考動画】カタツムリを「ゾンビ化」する寄生虫

 広東住血線虫のこうした習性を見ると、カタツムリやナメクジを人間が口にしたとき、なぜあれほど深刻な状況が引き起されるのかがよくわかる。ネズミの場合と同様、体内に入った広東住血線虫は脳を目指す。そして、ときに脳を守る障壁を越えて内部まで入り込むが、いったん入ってしまった虫は外に出られない。広東住血線虫は脳に居座って物理的なダメージを与えるとともに、人間の側の免疫系が炎症を引き起こす。(参考記事:「世にも恐ろしい 心を操る寄生体」

 1993年、米ニューオーリンズに住む11歳の少年が、頭痛、頸部の硬直、嘔吐、軽い発熱を訴えて地元の病院を訪れた。「少年はその数週間前、そそのかされて道端にいたカタツムリを食べていた」と、医学誌「New England Journal of Medicine」に投稿された記事にある。幸いなことに、この少年は治療をしなくても回復した。

 広東住血線虫が脳内で死ぬと、炎症がさらに悪化する場合があるため、投薬で虫は殺さず、通常は体の免疫の働きに期待することになる。例は非常に少ないものの、広東住血線虫に感染した患者が重篤な髄膜炎になった場合は命に関わる。

感染を避ける方法は

 生のカタツムリやナメクジと同様、カエルや淡水性のカニやエビを生で食べることもおすすめできない。米疾病対策センター(CDC)によると、こうした食材は少なくとも3分間茹でるか、内部の温度を最低74℃まで上昇させた状態で(鶏肉も同様)、少なくとも15秒間調理して寄生虫を殺す必要がある。

 ナメクジを食べないようにすることなど簡単だと思う人もいるかもしれないが、ふとした偶然から小さな個体を口にしてしまうことは十分に考えられる。また、ナメクジが通った後に残る粘着物にも寄生虫がいることがある。

「家や庭周辺のカタツムリ、ナメクジ、ネズミなどを除去することも、リスク軽減につながります」と、CDC寄生虫性疾患局疫学チームの責任者スー・モンゴメリー氏は言う。「野菜を生で食べるときにはよく洗い、水筒などはカタツムリやナメクジが入らないよう、確実に蓋を閉めてください」

 庭の野菜につくナメクジを退治する際には、死骸をその場に置きっぱなしにしないようにすることが重要だ。ネズミ、ペット、野生動物などが死骸を食べてしまうおそれがある。

 そしてアメリカ北部に住む人たちにとっても、これは他人事ではない。ウォルデン氏は言う。「温暖化で気温が上昇するにつれ、カタツムリは北へ移動しています。遅かれ早かれ、彼らは北部へもやってくるでしょう」(参考記事:「致死率30%の新興ウイルスが日本に定着している!」

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フロリダマナティー(Photograph by Sam Farkas, National Geographic Your Shot)

文=Erika Engelhaupt/訳=北村京子

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