広東住血線虫はカタツムリやナメクジの仲間に寄生する。寄生しても明らかな兆候が見られないため、屋外で目にする個体がキャリアなのかどうかを見分けることは不可能だ。(参考記事:「クマムシ VS. 線虫」)
「カタツムリにはたくさんの寄生虫がいます。鳥をはじめ、多くの動物の餌になりますから。寄生虫にとっては、他の動物に食べられる宿主がありがたいのです」。米フロリダ州南部で広東住血線虫の調査をおこなったフロリダ大学の寄生虫学者、ヘザー・ストックデール・ウォルデン氏はそう語る。
水に入り込んだカタツムリが動物に食べられることもある。フロリダ州では、イヌ、馬、鳥の他さまざまな野生動物から広東住血線虫が見つかった。2004年には、広東住血線虫が原因でマイアミ州メトロ動物園のシロテテナガザルが死に、2012年には、マイアミ在住の個人が飼育していたオランウータンが、カタツムリを食べたあとで死亡した例も報告されている。
広東住血線虫が世界中に広がりつつある今、我々人間の方が現状に適応しなければならないと専門家は言う。そのためにまず心がけたいのが、生のカタツムリやナメクジを食べないことだ。
世界に広がる生息域
英語で「rat lungworm(ネズミ肺線虫)」と呼ばれる通り、広東住血線虫は生涯の一時期をネズミの肺で過ごす。感染したネズミが咳をして、肺から喉に幼虫が吐き出されると、すぐにまた飲み込まれて腸を通り抜け、糞と一緒に排出される。続いてカタツムリやナメクジがこの糞を食べ、幼虫が体内に取り込まれ、しばらくの間、新たな宿主の中で成長する。
広東住血線虫が繁殖するには、その後、幼虫がネズミの体内にふたたび戻らなければならない。このステップは、感染したカタツムリやナメクジをネズミが食べることで完了する。ネズミの体内に戻った幼虫は脳に移動し、そこである程度まで成長してから、心臓と肺を繋ぐ肺動脈に移る。心臓から血液が送り出されてくるこの場所で、広東住血線虫はようやく交尾に至る。