物語の面白さと魅力的なキャラクター──キャラクター文芸の世界|第4回角川文庫キャラクター小説大賞募集中

角川文庫が主催する、キャラクター小説を対象とした小説新人賞「角川文庫キャラクター小説大賞」が、第4回よりカクヨムからも作品を応募できるようになりました。



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カクヨム編集部では、キャラクター小説大賞についての理解を深めて頂くため、本賞を主催する角川文庫キャラクター文芸の編集長に話を伺いました。
記事中では「キャラクター文芸」というジャンルの特徴をはじめ、代表作の紹介や応募者へのアドバイスなどを、カクヨムユーザー向けに語っていただいています。

このインタビューを通じて、作品執筆の参考となるヒントを作者の皆様に掴んでいただけたら幸いです。

物語の面白さと、魅力的なキャラクター──キャラクター文芸の世界|角川文庫キャラクター文芸編集長インタビュー

(インタビュー・テキスト:カクヨム編集部 回答:角川文庫キャラクター文芸 編集長)

──まずは「キャラクター文芸」というジャンルについて教えてください

「キャラクター文芸」は、あくまでも「一般文芸の中の1ジャンル」として考えています。レーベルを立てずに「角川文庫の中の1冊」として刊行しているのも、そういうところに理由があります。

厳密な定義付けはなかなか難しいですが、私は「エンタテインメントとしての物語の面白さに加え、魅力的なキャラクターたちのやり取りや成長、関係性もメインに描かれた文芸作品」ととらえています。


※様々なタイプが並ぶ角川文庫のキャラクター文芸作品。過去の大賞受賞作も順調に人気を博している。

──角川文庫では「時代小説」や「推理小説」といった一般的な文芸作品も多数刊行されています。それらと比較した時に、キャラクター文芸の特徴といえる部分はズバリなんでしょうか。

ジャンルとしては、自由度が高いと思います。ミステリ、ホラー、あやかし、お仕事小説、お食事もの、青春、恋愛、ファンタジーや時代小説でも「キャラクター文芸」として成立しえますし、そこに線引きはないです。
ただ、登場人物の成長や恋愛、友情、葛藤、関係性などが主眼のテーマとして描かれていること。あとキャラクターや世界観・物語がすごく荒唐無稽なものではなく、どこか現実とも地続きの、普遍的なリアルと強度を持っていることは、大切なポイントだと思います。


──「リアルの延長線上にいそうな登場人物の魅力」を非常に大事にしているジャンルということがわかりました。ちなみにキャラクターを重視する小説といえばライトノベルが浮かびますが、ライトノベルとはまた違うのですよね?

キャラクター文芸とライトノベルの違いでいうと、まずキャラクター文芸作品は本文中の挿し絵は入らないところが大きいです。
それと、どちらかというと「キャラクター文芸」の読者は女性のほうが多い傾向にあります。30~50代の女性が多いですね。また一般文芸の読者層が多く、ライトノベルの読者層とはほとんど重なっていないと思います。


──なるほど! 本文中に挿絵が入るかどうかで印象はガラリと変わりますね。キャラクター文芸というジャンルについてわかってきたところで、今回募集している「角川文庫キャラクター小説大賞」についてご説明をお願いします。

物語の面白さと、魅力的なキャラクター。その両者を兼ねそなえた、新たなキャラクター・エンタテインメント小説を広く募集するため創設しました。

角川文庫には『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』『最後の晩ごはん』『わが家は祇園の拝み屋さん』『金椛国春秋』『ハルチカ』など、たくさんの人気シリーズがありますので、それに続くような作品を求めています。


※魅力的なキャラクターに読者は何度も会いたくなる。人気タイトルはシリーズ化して、複数の続刊が出ているのも特徴の一つ。

──過去に開催した3回の賞でも、大賞・奨励賞・優秀賞・読者賞など様々な受賞作を輩出しています。それぞれ、どのような作品に与えられる賞なのでしょうか?

大賞は、選考委員満場一致の評価を集めた作品に授与されます。

第1回大賞『樫乃木美大の奇妙な住人』柳瀬みちる
(応募時タイトル「美大探偵(仮)―〈カジヤ部〉部長の小推理―」)選考委員による選評

小坂崇氣
 今まで何回か小説賞の選考をさせていただきましたが、その中でもトップクラスに読みやすく心地いい文章でした。心情描写、状況描写もうまく、長文でありながらテンポがよく構成力もあり、伏線もきちんと回収されていました。
 僕自身が小学生のときにうけた、ちょっとしたいじめの経験を思い出しながら、とても共感して読むことができました。キャラクターもとてもリアリティがありながら、適度に個性的でバランスよく描かれていました。
 唯一気になったと言えば舞台設定。推理ものとしては雰囲気に幼い印象があるので、舞台は大学ではなく高校にしたほうがいいのかなとも思いましたが、物語の内容を考えると、大学以外にない。とすると、小説として一段落上を目指すのであれば、もう少し推理小説としてのギミックを面白くする必要があると思いました。しかしながら、ニトロプラスで別の作品を執筆してほしいと思うほど、素敵な作品でした。

高橋美里
 読み終わったあとに、素直に「ああ、面白かったな」と思える作品でした。1話目に比べ、2話目、3話目の謎が弱いですが、後半に向けて人間関係が各話の伏線を拾って閉じていくところなどはとてもよく描けていました。また、登場人物が自発的に動いて発信し、推理していくところが今回の候補作の中で、一番キャラクターが走っていると感じました。
 部活をテーマにした小説は出尽くしている感がある中で、定義を決めずに、カジヤ部らしい個性がもう少し色濃く出ると、よりよくなったと思います。
 とはいえ、物語としてまとまりがありました。読後書店の売り場に並んでいる姿が目に浮かびました。
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第2回大賞『憧れの作家は人間じゃありませんでした』 澤村御影
(応募時タイトル「吸血鬼と映画を―憧れの作家は人間じゃありませんでした―」)選考委員による選評

石井千湖
文章が読みやすく、テンポもいいので、冒頭から引き込まれました。特に主人公の女の子が好きな映画についてまくしたてるシーンが楽しく、そこで彼女のことを好きになることができました。吸血鬼と刑事というコンビの掛け合いも魅力的でした。設定だけを取ってみると類型的なキャラクターなのに、細部の演出が絶妙なおかげで、一人ひとりが物語のなかで生きているように感じます。最小限の言葉で、キャラクターを動かす才能と筆力のある人だと思いました。

高橋美里
純粋に続きが読みたいと思える作品でした。吸血鬼を扱った作品が数多くある中で、あえて吸血鬼を主人公に据える度胸も感じました。ゴシックホラーではなく、キャラクター吸血鬼ものとして、キャラクター同士の掛け合いが面白く好感をもちました。ただ、主人公の正体をばらすタイミングは若干唐突のような気がしました。後ろの方にもう一か所いいタイミングの箇所があるので、検討してもいいのではないでしょうか。とはいえ、それ以外は本当に好感触でした。面白かったです。

タニグチリウイチ
怒涛の如く映画のタイトルが出てくるところ、またパートごとに映画が絡めてある手法が上手く面白いと思いました。各事件も非常によく考えられていました。また、ヒロインに「編集者の使命」という、吸血鬼の作家に付いていく理由がきちんと設定されているところにも好感をもちました。それと同時に、最後の事件における主人公はもう少し強くあってほしいとも思いました。作家で吸血鬼、なおかつ映画と、物語の要素が多く、読ませどころが分散しがちになりますが、知識と力量、そして描かれる事件が三位一体でうまく絡み合えば、読者により満足感を与えることができる作品になると思います。

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奨励賞は作品の評価に著者の才能への期待を加味して授与される賞です。

第1回奨励賞『コハルノートへおかえり』石井颯良
(応募時タイトル「窓がない部屋のミス・マーシュ」)選考委員による選評

タニグチリウイチ
 ストーリーや設定が一番キャラクター小説らしい作品でした。ハーブを扱うお店という設定も珍しいですし、そこで起こる事件に対していろいろと解決していく展開は、読んでいてとても面白かったです。ストーリーもそれほど破綻がないので、細かいところを修正すれば、いろいろな人に広く読まれる小説になると思いました。
 今、コーヒー店、アクセサリー店など、お店を舞台にした小説はたくさんあるので、その中に埋もれてしまわないようにするためにも、ハーブの知識をもっと盛り込み、より読者を引きつけるようなストーリーを意識して重ねていくことで、シリーズ化を期待できると思いました。


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優秀賞は大賞に次いで評価を集めた作品におくられます。

第2回優秀賞『窓がない部屋のミス・マーシュ 占いユニットで謎解きを』斎藤千輪
石井千湖
「おばさん」と「少女」という組み合わせがとても面白いと思いました。ひとつひとつのエピソードが上手く、家族をテーマにした人情話のようになっており、特に「みかんのエピソード」は、読み手をしみじみとさせ、ちょっと泣きそうになるぐらいの出来でした。情感を描くのがとても上手な一方、登場人物がみんないい人ということが気になりました。また、伏線を強調する独特の書き方についても、若干軽快さに欠けるところがありました。しかし、全体的にみるととても上手な小説だと思いました。

高橋美里
非常に楽しいミステリーでした。特に二話目はミステリーとして、とてもよく出来ていると思いました。謎を作る部分と、人情を絡めて解く部分のバランスがよく、文章もとても読みやすかったです。若干小道具が古いところと、最終話の伏線の回収が、説明ゼリフと想像で固められてしまっていることが気になりましたが、そこに関する描写をしっかりやれば、最終話までぬかりのない、よりよい作品になると思いました。

タニグチリウイチ
まずペアのかみ合わせがとてもいいと思いました。「議論の少女」と「情のお姉さん」という組み合わせで事件を解決するパターンが、よかったです。ただ、タロットそのものが推理に発揮されるのが最初の1話くらいで、あとはカードが方向性を与えるという程度の絡み方だったので、もう少しタロットをしっかりと絡ませた方がより面白くなると思いました。このペアが次にどんな事件に出会うのか、「ロジック」と「情」を、よりうまくかみ合わせてくれたら、ぜひ続きを読みたいなと思いました。

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読者賞は第3回から創設された賞で、書店員からなるモニター審査員によって、もっとも多く支持された作品に授与されます。まだ書籍として刊行はされていないのですが、第3回では路生よるさんの『地獄くらやみ花も無き』という作品が受賞しました。


──大賞以外にも、様々な観点から今回の賞では、どのような作品が応募されることを期待していますか?

文芸のなかでも、何か「新しいもの」「面白そうなもの」「今まで無かったもの」が集まってくる賞になると良いな、と思っています。
既成概念に囚われず、小さくまとまらず、「面白ければ何でもあり」の精神でご応募ください。


──最後に、キャラクター小説大賞への応募を考えている人や、キャラクター文芸を書きたいと考えている人に向けたアドバイスやメッセージをお願いします。

ジャンルは問いません。物語とキャラクター、両方を大事に書きたいと思っているかたは、ぜひご応募ください!


──ありがとうございました。



「第4回角川文庫キャラクター小説大賞」のカクヨム応募は、2018年5月8日 23:59まで受け付けています。

▼応募方法等、詳しい情報は下記の記事をご覧ください▼
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