ドブネズミ(Rattus novegicus)が種内のコミュニケーションに使うフェロモンを、ハツカネズミ(Mus musculus)が「盗聴」できることが、最新の研究で実証された。
東京大学の東原和成氏らの研究チームが、オスのドブネズミの涙に含まれるタンパク質を特定。このタンパク質が、ドブネズミには性フェロモンとして、ハツカネズミには警戒シグナルとして作用するという。研究成果は3月29日付けの学術誌「カレントバイオロジー」に発表された。(参考記事:「マウスのオスは涙を武器にメスと交尾」)
オスのドブネズミは自分の体をグルーミングすることによって、涙が体表に広がる。その結果、涙に含まれるあらゆる化学シグナルが身体中にこびりつく。すると、日常生活を送る中で、ドブネズミは通った場所に形跡としてそれらの化学シグナルを残すことになる。東原氏らのチームは、ドブネズミの涙が残したシグナルに、ハツカネズミが気付けるかどうかに関心を抱いた。
ドブネズミとハツカネズミはいずれも雑食のげっ歯類だが、ドブネズミにはハツカネズミを殺して食べる習性がある。(参考記事:「ネズミと人間の付き合い、実は農耕以前からと判明」)
天敵に狙われる種に典型的な戦略として、ハツカネズミがドブネズミの尿を避けることはすでに知られている。しかし、捕食者が使う特定のフェロモンを獲物の側が感知し、早めに敵を警戒する態勢につなげることを哺乳類で示したのは、この論文が初めてだ。(参考記事:「実験動物、男性の匂いでストレス」)
敵の性フェロモンで「身をすくめる」
実験では、オスのドブネズミの涙に含まれるタンパク質「ratCRP1」をまぶしたコットンをメスのドブネズミにかがせた。メスのドブネズミはコットンを細かく調べ、その時間は何もつけていないコットンの場合より長かった。一方ハツカネズミは、ratCRP1をまぶしたコットンの近くに長時間とどまることはなかった。
両者とも、ratCRP1をかいでから一時停止する時間が増えた。また、ハツカネズミの体のなかで何がおきているかさらに調べてみると、ratCRP1をかいでから1時間経っても心拍数と体温が低下したままだった。(参考記事:「「ひとり飲み」は離婚のもと、ネズミで確認」)
論文によれば、ratCRP1はドブネズミでは性フェロモンとして使われているという。ratCRP1を感じ取ったメスネズミは、オスがいた辺りに留まり、交尾に備えるような一時停止行動を示していた。
一方、ハツカネズミもこのシグナルを感知する。しかしメスのドブネズミの場合とは違い、シグナルを感知したハツカネズミは、それまでよりも活動量が減り、身をすくめるような慎重な生理状態に入る。近くにいると予想されるドブネズミの注意を引かないためだ。