JOGAによるオンラインゲームのマーケティングセミナーが開催。コンプガチャ規制の影響やユーザーレビューの有用性の検証結果などが発表された
模倣ゲーム,プレミアムフライデー,コンプガチャ規制。それぞれの影響とは
一方,ゲームにおける海賊版の調査事例は,マジコン問題を除けばまだまだ少ないが,田中氏によると,今やこの分野の主戦場はモバイルゲームに移行しているという。
しかし,モバイルゲームの場合はほかのジャンルと異なり,その多くがサーバーを介して運用がなされるため,デッドコピーが作れない。したがってモバイルゲームにおける海賊版とは,システムやデータを流用し,絵柄などを少し変えた“模倣ゲーム”ということになる。田中氏は,ここに調査上の大きな課題があると指摘した。
例えばコンシューマゲームでは,ソースコードを参照するなどの比較的簡単な手段で,海賊版であることを判別できる。それが模倣ゲームの場合,実際にプレイしてみるまでは模倣しているかどうかが分からない。そのため,現状の模倣ゲームとして明らかになっているものは,偶然見つかったケースがほとんどとのこと。
そこで,田中氏は今回の研究にあたって,対象を「パズル&ドラゴンズ」(以下,パズドラ)に限定した。その理由は,模倣ゲームに関するネット上の報告が多かったからだ。実際,報告に沿ってリストアップされた模倣ゲームの数は15本におよんだという。
だが,その中でスマホアプリ市場分析サイトの大手であるAppAnnieの検索にヒットしたのは,わずか5本。実質的には「神魔之塔」「逆轉三國」「パズルダービー」だけだったとのこと。それ以外のタイトルはユーザー数があまりにも少なく,当然ながら売上も少ないため,AppAnnieのデータ収集網にかからなかったというのが田中氏の見解だ。
これらのデータをもとに,田中氏は「モバイルゲームの模倣ゲームユーザーは多くない」とし,「模倣ゲームが多いとそれだけ被害が生じている印象があるけれども,必ずしも実害があるとは限らない」とまとめた。
ただし,もちろん問題になるケースもある。それが台湾における「神魔之塔」だ。
台湾では,まず「逆轉三國」,次に「神魔之塔」,そして最後にパズドラという順番で市場に投入された。「神魔之塔」が先行する「逆轉三國」をサービス面で上回り,大きなユーザーベースを獲得したため,後発の本家パズドラが逆転できないという結果となった。これには,ユーザー数が多いほどサービス利用者の便益向上に寄与するという,ネットワーク外部性の影響もあるそうだ。
続いて,田中氏は「プレミアムフライデーによる経済効果の測定」の結果を公開した。これは,モバイルゲームについてプレミアムフライデーによる経済効果があるのかを,DID法を用いて分析したものだ。
結論から示すと,プレミアムフライデーによってモバイルゲームの売上は7~12%増加している。ほかの産業において同様の分析を行ったところ,「プレミアムフライデーの効果は限定的」という結果が出ているため,田中氏は「プレミアムフライデーで早く帰宅した人の多くは,モバイルゲームで遊んでいる可能性がある」との見解を示した。
最後のテーマは「コンプガチャ規制の政策評価」。2012年5月,コンプリートガチャならびに類似サービスが景品表示法に抵触することを消費者庁が明言し,規制が行われたが,その効果がDID法を用いて分析された。
分析結果に対する田中氏の解釈は「コンプガチャ規制は当初の目的を達成していない」。その根拠として,まずコンプガチャ規制がガチャの確率を誤認させることを止めさせたのであれば,コンプガチャのあったゲームの売上だけが下がるはずだが,実際にはガチャのあるゲーム全般の売上(またはダウンロード数)が減っていることを挙げた。
そのため,田中氏は「ガチャ全般のイメージが悪化したことによる,一時的なゲーム離れが起きたに過ぎないと考えられる」と指摘した。
また,田中氏は「コンプガチャによる確率誤認説が正しければ,政策発動の正当化はできる」としつつ,まったく異なる見解があることを示した。それは,求めているものを入手するまでにガチャを引く平均回数を等しくしてその分布を比較すると,コンプガチャのほうが少ない回数で済む可能性が高い。すなわち,コンプガチャのほうがリスクが少なく,むしろユーザーの利益となったと見ることもできるのというものだ。
田中氏はコンプガチャの確率誤認説とリスク軽減説のどちらが正しいのか,まだ判明していないと前置きしたうえで,「エビデンスと理論的検討が不十分なまま実行され,さらに効果も上がらなかった。その点で政策としては残念な結果だった」とまとめた。
最適ARPPU,モバイルゲームとコンシューマゲームの関係,ユーザーレビューを検証
最初のテーマは「長期に売上高を最大化する最適ARPPUはいくらか?:『課金疲れ』の検証」だ。通常,モバイルゲームの売上を最大化するための戦略として,KPI(業績評価のための指標)には「アクティブユーザー数」「有料ユーザー率」「有料ユーザー1人あたりの単価(ARPPU)」を挙げることが多い。
しかし,その一方でヒアリング調査を行った結果,ある月に高額の料金を支払ったユーザーが翌月には購入を控えたり,サービスから離脱したりするといった行動(いわゆる課金疲れ)を取ることも判明している。
そこから導き出されたのが,「前期以前の購入額が,今期のユーザーの行動にダイナミックな影響を与えている可能性」,すなわち「長期売上高を最大にする最適ARPPUが存在する可能性」である。
分析の推定結果から導き出された解釈は「前期のARPPUは非線形で今期の売上に影響を与えており,その極大値は1万1754円」というもの。つまり,ARPPUが1万1754円を超えると,次期の売上が下がってしまうため,長期売上高を最大化する観点からは好ましくないというわけだ。山口氏は「短期的な売上を追い求めるだけでなく,長期的な視点で実証的にビジネスを考えていく必要がある」とまとめていた。
2つめのテーマは「モバイルゲームがコンシューマゲームに与えている代替効果は大きいのか?」。「モバイルゲームの台頭がコンシューマゲームの市場を奪っている」という意見を耳にしたことがあると思うが,その真偽を検証してみたというわけである。
具体的には,ヒアリング調査から導き出された「モバイルゲームがコンシューマゲームに与えている代替効果は限定的」という仮説を検証したとのこと。
検証から導かれた結果は,まず「任天堂のプラットフォームには代替効果が見られるが,ソニー・インタラクティブエンタテインメントのプラットフォームにはほとんどない」というもの。山口氏は「任天堂のプラットフォームは低年齢層やファミリー向けの需要が高く,カジュアルゲーマーが多いため,カジュアルなモバイルゲームに代替されやすい」と見解を示した。
また,「据え置きプラットフォームに対するモバイルゲームの代替効果は小さい」という推定結果も出ている。これは,携帯ゲーム機とスマートフォンは時間や場所の融通が利きやすいという共通点を持っているため,代替されやすいということの裏返しである。
山口氏は以上の結果から「モバイルゲームがコンシューマゲームに与えている代替効果は限定的」という仮説は支持されたとまとめた。
山口氏が最後に示したテーマは「レビューは中長期利用ユーザーの意見が反映されたものなのか?」。昨今,インターネットの普及により,多くの人が製品やサービスについて意見を述べたり評価したりできるユーザーレビューの場が増え,それを購入時の参考にする人も増加している。実際,そうしたレビューが売上を増加させる,マーケティングの重要な位置を占めているといった研究結果も報告されている。
その一方,ユーザーレビューは誰でも書けることから信頼性の担保が難しい。とくにモバイルゲームのレビューでは「面白い」「まあまあ」といった短い感想をはじめ,ダウンロード直後の短時間だけプレイしただけの感想ばかりというケースも多数見られる。
そこで,山口氏は「サービス利用開始直後のほうがレビューを書く傾向にあり,短期的な感想がレビューに多く含まれている」という仮説を立てた。
検証の結果,山口氏の仮説は支持された。ユーザーレビューの28%はサービス利用開始直後のものと判明し,とくに5点(最高点)と1点(最低点)を付ける割合が高くなっている。
また,あまり人気のないゲームでは,39%のレビューがサービス利用開始直後のもので,そのうち1点を付ける割合は49%と高いことが判明した。
そうした結果から得られる示唆として,山口氏は「レビューの中にはサービス利用開始直後の感想が多く含まれていることを認識しておく」ことを挙げた。
また,プラットフォーマーに対して「情報の質および信頼性を担保するために,レビューがダウンロード直後に書かれたかどうか分かる仕組みを作る」ことを挙げている。
これらは,消費者が短期的な視点ではなくさまざまな観点からの感想を得るために必要であると言える。
そして,モバイルゲームのデベロッパに向けては,利潤最大化の観点から「サービス利用開始直後から分かりやすく楽しめる設計にするべき。そうすることで,いいレビューを書いてもらえる可能性が高まる」「とくに人気が高くないゲームほど,これが重要になる」とまとめている。
日本オンラインゲーム協会(JOGA)公式サイト
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