今日の社説
県都の観光名所 利用者横ばいで十分では
石川県の観光名所のなかで最も集客力のある兼六園、金沢城公園、金沢21世紀美術館の2017年度の入園、入館者数が出そろった。いずれも前年度よりやや少なく、一服感がみられる。北陸新幹線金沢開業3年目(2017年3月14日~18年3月13日)の利用者数も0・1%減だったから妥当な数字だろう。
兼六園は入園者数が前年度比3・8%減の279万9636人となったが、過去最少に落ち込んだ11年の154万9448人に比べれば8割増しの数である。15年度に入園者数が24年ぶりに300万人を突破したときは、入園者による「踏圧」で樹木の根の張りが妨げられ、生育に悪影響を及ぼす懸念が県議会などから上がっていた。入園者が右肩上がりで増え、大混雑するより、微減もしくは横ばい程度で推移するのも悪くないのではないか。
金沢城公園は0・1%減の226万3400人とほぼ横ばいだった。それでも過去3番目の高水準を維持しており、金沢城公園鼠多門(ねずみたもん)・橋の復元整備が進めば、入園者はさらに増えるだろう。
また、その先には、歴代加賀藩主が居住・執務した「金沢城二の丸御殿」の復元が待っている。金沢城公園は兼六園と違って、多くの入園者を迎え入れるスペースが十分あるだけに、二の丸御殿の整備が急がれる。
金沢21世紀美術館は入館者が7・01%減の237万3048人だった。過去最多だった16年度の255万4157人には及ばなかったが、人気は持続している。
年間200万人を優に超えるトップ3の入園、入館者が微減もしくは横ばいだったということは、ひがし茶屋街や武家屋敷、近江町市場なども似た状況だったのだろう。北陸新幹線の開業初年には一部ホテルの宿泊料金が跳ね上がり、観光客が一般家屋の軒先にまで入り込むなど、市民生活に支障を来す場面もみられた。
混雑や騒音が日々の暮らしを脅かす状況にどう対処し、街の風情を守っていくか。観光客の増加が一服した今こそ、共存の道を探る良い機会だ。負の影響を最小限に抑える方策に知恵を絞りたい。
自衛隊日報問題 文書管理の責務全うを
昨年の国会で「存在しない」とされた陸上自衛隊のイラク派遣部隊の日報が、今になって見つかったと防衛省が発表した。財務省の決裁文書改ざんをはじめ、ずさんな公文書管理で国民の政治、行政不信を招いていることは残念極まりない。
政府は昨年12月、行政文書の安易な廃棄を防ぐため、文書管理のガイドラインを改め、新年度から管理・保存のルールをより厳格にした。行政の意思決定過程を検証できる公文書は「民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」(公文書管理法)であり、その作成と適正な管理は公務員の責務であることをあらためて銘記してほしい。公文書の改ざんや隠蔽(いんぺい)が疑われ、調査のために多大の時間と労力が費やされて国会本来の審議が滞っている事態に国民の多くは憤り、辟易(へきえき)している。
内閣府は毎年、国の行政機関の公文書管理状況をまとめている。2016度の保存文書はファイル数で約1840万件に上り、大部分は紙媒体(約1720万件)で占められる。省庁別で最も多いのは防衛省の約430万件(本省庁2万7千件、特別の機関412万件、地方支分部局13万件など)となっている。イラク派遣部隊日報は、陸上幕僚監部衛生部に紙で、陸自研究本部に電子データで残っていたという。防衛省は、ファイルのタイトルが「教訓業務各種資料」などとなっていたため発見しにくかったと説明している。
小野寺五典防衛相は「南スーダンPKO日報問題の再発防止策の一環として丹念に捜していて明らかになった」と述べ、隠蔽ではないとしているが、本来ならイラク派遣部隊日報のファイル名で保存すべきであったろう。隠す意図はなかったとしても、膨大なファイルの中に紛れ込む形になっていたことは、防衛省の文書管理の不手際と言わなければならない。小野寺防衛相への報告に時間がかかったことも責められよう。
防衛省はPKO日報問題で、隠蔽体質を厳しく批判された。情報開示でごまかしがあっては、地道な活動で獲得した国民の信頼を失うことになりかねない。