トミヤマユキコ おすすめ労働系女子漫画を語る

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トミヤマユキコさんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』にゲスト出演。宇多丸さん、宇垣美里さんにおすすめの労働系女子漫画『プリンセスメゾン』『傘寿まり子』『凪のお暇』を紹介していました。

(宇多丸)ということで、まあ勝手知ったる仲なんだけども、これコーナータイトルなんで。一応これ、言いますね。トミヤマさん、なんで来たんすか?

(トミヤマユキコ)フフフ(笑)。呼んどいてね(笑)。

(宇多丸)なにしに来たんすか?

(トミヤマユキコ)今日はね、食べ物じゃないんですよ。

(宇多丸)まあ、いつもだいたい食べ物ですよね。パンケーキとか。

(トミヤマユキコ)だけど、今日は私の本業。私が研究しています労働系女子漫画をご紹介しにやってきました。

(宇多丸)労働系女子漫画。

(宇垣美里)どういったものなんですか? 労働系女子漫画。

(トミヤマユキコ)働いている女の人が出てくる漫画っていうだけなんですけど……。

(宇多丸)それだけ言われるとね、まあ昔からあったんじゃないですか?っていう感じがするけど。

(トミヤマユキコ)けど、あまり少女漫画とかにお詳しくない方は「どうせ恋愛漫画でしょ?」っていう感じで。

(宇多丸)その女性向け漫画のイメージとしてね。

(トミヤマユキコ)そう。「シンデレラストーリーが下敷きになっているんでしょ? だから、読まない」っていう風になっちゃう人がいるように思うんですけど……。

(宇垣美里)違うよ!

(宇多丸)宇垣さんもお詳しいから。

(トミヤマユキコ)宇垣さんみたいに好きな人はわかっているんですよ。

(宇垣美里)本当にどれだけ辛い時に『サプリ』とか『働きマン』に助けられたかですよ。

(トミヤマユキコ)そうそう。そうなんですよ。で、いまおっしゃったような作品にももちろん恋愛は描かれているんですけど、ちょっとそれは脇に置いておいていただいて労働。特に女性の労働に注目して見ていっていただくと、ここ2、30年で実社会の女の人の働き方が激動しているのと同じで、漫画の中の女の働き方もかなりいろいろと種類があったりするので。まあ、そこを見ていくと面白い漫画の読み方ができるんじゃないかなっていうのが私の研究ですね。

(宇多丸)なるほど。

(宇垣美里)結構もう本格的に仕事をメインにがんばってらっしゃる女性が主人公の本も多いですよね?

(トミヤマユキコ)多いですよ。もう働くことは当たり前の世の中になっているので。やっぱりそれを映す鏡っていうんですかね?

(宇多丸)劇中で主人公が就いている職種なんかも変わってきています?

(トミヤマユキコ)そうなんですよ。やっぱり働くことが当たり前になってきたから、昔だったらちょっとかっこいい憧れの職業……古くはお姫様から始まって、バレリーナとか。

(宇垣美里)はいはい!

(トミヤマユキコ)あとは花形スポーツ選手、モデルとか、芸能人とかかな。

(宇多丸)そうか。職業って捉えれば、そうか。

(トミヤマユキコ)だったのが、だんだんそれが変わってきていて。いまは珍しい職業に就いている人の漫画とかもあったりするんですよね。

(宇多丸)そういう職業自体の面白みにスポットを当てているような感じも。

(トミヤマユキコ)メジャーなところだと編集者。さっき『働きマン』っておっしゃっていましたけども、編集者とか。あと書店員。アニメーター。ちょっと変わったところだと葬儀場のスタッフ。あとは傘を作る職人さん。

(宇垣美里)傘職人。

(トミヤマユキコ)あとは宝石鑑定をする質屋さん。

(宇多丸)質屋!? そもそも質屋が漫画になるのか?っていうのはね。すごいけどね。

(トミヤマユキコ)『のだめカンタービレ』をお描きになった……。

(宇垣美里)あっ、わかったわかった。はいはい!

(トミヤマユキコ)二ノ宮知子先生の作品で。

(宇垣美里)はいはい。読みました!


(トミヤマユキコ)それは質屋さんのお話で。

(宇多丸)宇垣さんのこの漫画に対する理解度の早さ!

(宇垣美里)ちょっとあれかな?って思っていたんですけど。

(トミヤマユキコ)あれです!

(宇多丸)あれ……どれ?

(トミヤマユキコ)フフフ(笑)。とか、行くところまで行くと無職の女の子が出てくる。まあ、広く労働と捉えるとそういうものも出てくる。

(宇多丸)まあ、そうだよね。職業っていう社会の中での立ち位置。要は、決して華々しいとかそういうんじゃなくても、ある意味普通の人々っていうか。それがちゃんと主人公になるようになったという感じかな?

(トミヤマユキコ)そうですね。だから一発逆転とか大きな夢を叶えるとか玉の輿に乗るとか、そういう大きな物語ではなくて、もうちょっと生活の地味で地道なディテールをちゃんとすくい上げて漫画にしていくっていう作品が支持されるようになってきているというのが、漫画読みの偏差値も上がってきているなといういい傾向だなという風には思っていますね。

(宇多丸)ふんふん。そうだよね。それが喜ばれなければ描かれもしないわけだからね。これ、ちなみに男性向け漫画にはその同じような変化はないんですか?

(トミヤマユキコ)男性向け漫画……それこそジャンプとかお好きで読まれていると思いますけども……。

(宇多丸)あれは男性っていうか少年漫画。

(宇垣美里)「ずっと戦ってんな」って思いましたけど(笑)。少年漫画、どうなんでしょう?

(トミヤマユキコ)やっぱりね、男子漫画の方が半径が広いんですよ。「世界を救う」とか。なにかのためになることをする時に結構半径が広くて。女子の場合は割と半径1メートル、3メートル、5メートルぐらいのところをまずどうにかしようと。で、それが結果的に世界や宇宙につながっていくことはありますけども、スタートが違う。

(宇多丸)男の漫画の方にそっちが後からフィードバックされたりするよね。女性向け漫画のトレンドみたいなのがさ。だからひょっとしたらこの後に来るのかもしれないよね。

(トミヤマユキコ)だからいま越境っていうか。特に腐女子の方々の二次創作問題っていうのも……まあ、これは金田淳子先生の専門なんであれですけども。やっぱり女の人が男子漫画を当たり前に読みますし、その逆もあるので。その先のクリエイターの人たちはその垣根を超えた面白い作品っていうのを作っていく可能性はあるし、その時に少女漫画を参考にした少年漫画。またはその逆っていうのもあるでしょうなと。いまでもあるのかもしれないですけど、もっとわかりやすい形で出てくるだろうなとは思いますね。

(宇多丸)なるほど。では、具体的にその労働系女子漫画。ぜひ紹介してください。

(トミヤマユキコ)時間の許す限りご紹介しましょう。ではまずメジャーな……ドラマ化もしたから、これを。池辺葵先生の『プリンセスメゾン』。

池辺葵『プリンセスメゾン』


(宇垣美里)これ、ドラマ化したんだ。

(トミヤマユキコ)そうなんです。NHKでドラマ化されて。

(宇垣美里)この漫画自体は私、読んでいます。

(トミヤマユキコ)読んでますか。これね、本当に生活のディテールをすくい上げる系漫画で。主人公は沼ちゃんっていう居酒屋の店員さん。社員さんなんですよね。

(宇垣美里)ねえ。沼ちゃんがかわいいんじゃ~。

(宇多丸)「かわいいんじゃ~」(笑)。

(トミヤマユキコ)フフフ(笑)。おじいちゃんになっている(笑)。そう。沼ちゃん、ちっちゃくて丸っこくてかわいい。化粧っ気のない、男の話もないみたいな女の子で。年収が300万ないかな? みたいな女の子なんです。で、その女の子が割と慎ましい生活をしているんですけど、「マンションを買いたい」って言うんですよ。自分ひとりのためにですよ。そのためだけに、この最初の時点では生きている。で、周りの人はそれはすごく不思議なことに思えるわけですよね。なぜ女が1人で働いて生きていて、いちばんの目標がマンション購入なのか? ということを言うんだけど、彼女にとってはそれがすごく大事なことだというのがすごい時間をかけて説得的に描かれていくんですね。

(宇多丸)へー。いろんな物件を見ていく?

(トミヤマユキコ)そう。マンションの物件を見たり、モデルルームとかに行くともう不動産屋の人よりも詳しかったりするという。

(宇多丸)すごい独特の……間がすごい多いですね。静謐な間というか。

(トミヤマユキコ)そうですね。画力的な意味でもこの作家さんは。

(宇多丸)不思議なテンポの漫画だな。全くセリフがないまま続く場面とか多いですね。

(トミヤマユキコ)ありますね。で、これ途中でとてもいいセリフがあって。居酒屋で一緒に働いている男の子が「モデルルームなんか見ても虚しくないですか?」って言うんですよ。「俺らみたいな収入でマンションを買うとか無理っしょ? 俺らなんかの手の届く夢じゃない」って言うんですけど、「そんなことはない。努力すればできるかもしれないこと。できないって想像だけで決めつけて、やってみもせずに勝手に卑屈になっちゃダメだよ」っていう。みたいなところがいいんですよ!

(宇垣美里)そう!

(宇多丸)まあ至極真っ当な。

(トミヤマユキコ)だからこれを年収300万いかない居酒屋店員が淡々と同じぐらいの収入の子に言っている。で、ちゃんと説得されていくわけ。周りの人は。で、これさっきの「少女漫画、女性向け漫画は所詮シンデレラストーリーでしょ?」話からすると、これはプリンセスが自分でお城を買うっていう話なんですよ!

(宇多丸)なるほど、なるほど!

(宇垣美里)ちゃんと、コツコツとね! 本当にいいんですよ。

(宇多丸)ああ、そうか。それで『プリンセスメゾン』なんだ。

(宇垣美里)彼女は口だけじゃないんですよ。

(宇多丸)これ、でも絵柄的にもいわゆるさ、古いイメージの少女漫画とも全く違うもんね。別に全然僕、問題ないですよ、これ。絵柄的に何の問題もなく。

(トミヤマユキコ)でも、それはそうかもしれない。少女漫画ってコマ割りとか効果的にするために独特の文法があるんで。それが苦手な方は読めないってなっちゃうこともあるんですけど。この作品に関して言えば、そんなにその少女漫画の文法をご存じなくても読めると思います。

(宇多丸)へー。素敵ですね。これ、絵柄も。読みます、これ。

(トミヤマユキコ)「素敵」と言っていただけてよかったです。で、主人公は沼ちゃんですけど、それ以外にも都会のシングルガールが自分の人生と自分の住まいの関係をどう考えていき、どういう選択をするか?っていうサイドストーリーもちょこちょこ出てくるので。だからすごい金持ちの人が出てきたり、おばあちゃんが出てきたり。いろんな人が出てくるので。沼ちゃんを中心にいろんな人の人生と住まいの物語として読んでもらうといいかなと。

(宇多丸)なんかすごい大人な世界観とか社会感の作品ですね。

(トミヤマユキコ)そうですね。で、池辺先生は基本的に王子様が現れて助けてくれるという物語を描かない方なので。だからやっぱり女の人の力を信じているなっていうところもあって。私はそういうところも好きですね。

(宇垣美里)なんか都会で1人でがんばっている人ってきっと多いと思うんですよ。女性で1人で家に帰って……って。そういう人がたぶんこれを読んで「よし、がんばろう!」って思えるなと私はいつも思いながら読んでいます。すごい背中を押される本です。

(宇多丸)なんか昔っていうかいまでもあると思うけどさ。世間一般に言われているイケてる像の鋳型みたいなのにはまらなくても全然いいんだっていうところもあるしね。

(トミヤマユキコ)そうなんですよ。

(宇多丸)主人公のこの飄々と強い感じがなんかすごいね。読んでいると。

(宇垣美里)「私のことは私で幸せにしよう」ってすっごい思うんですよね。

(宇多丸)すごい宇垣さんっぽいですね。うん。宇垣さん的な強さですね。

(トミヤマ・宇垣)フフフ(笑)。

(宇多丸)いや、勉強になります。これ、読みますね。『プリンセスメゾン』。

(トミヤマユキコ)はい。じゃあ次はこれ行きましょう。おざわゆき先生の『傘寿まり子』。まあ喜寿とか米寿とかってあるじゃないですか。それで傘寿っていうのがあって、80才のことなんですね。

(宇多丸)へー。

(トミヤマユキコ)で、これまり子さんは80才のおばあちゃんです。

(宇多丸)主人公?

(トミヤマユキコ)そう。おばあちゃんが主人公の少女漫画だと思ってください。

おざわゆき『傘寿まり子』


(宇多丸)「漫画史上最高齢傑作」って書いてある。

(宇垣美里)でしょうね(笑)。

(トミヤマユキコ)漫画史上最高齢ヒロインと言っても過言ではない。で、これはまり子おばあちゃんが小説家で、旦那さんと結婚して子供もいて孫もいて、大家族で一軒家に住んでいて……と傍目には最初リア充な感じなんですが、家の中にいても孤独なんですね。誰も自分の存在というのを気にかけていない。たくさん人がいてドヤドヤしているんだけど、誰も自分のことは見ていないっていうことがわかって、家出するんですよ。

(宇多丸)おおー。

(トミヤマユキコ)で、家出した先がネカフェなんですよ!

(宇垣美里)びっくりですよ(笑)。

(トミヤマユキコ)やることがまり子は若いんですよ。で、昔ちょっと好きだった人と再び巡りあってその人の家に転がり込んだりとか。まあ、同じようにネカフェで暮らしている人と仲良くなっていったりって、80才であることをおよそ感じさせない家出生活っていうのをどんどんやっていくっていう話なんですよね。やっぱり少女漫画って基本的には「私の居場所はどこにあるのか?」っていうことを巡る物語で。それがたとえ80才で孫までいて家があるおばあちゃんでも、同じことができるんだっていうこの構成がすごい面白いなと。

(宇多丸)なるほどね! すごい、こんなことを思いつく。で、ちゃんと人気も出るってすごい面白いことですね。なんかね。

(トミヤマユキコ)作品としてすごく面白くて。で、最新刊ではゲーマーのおばあちゃんと出会うんですけども。

(宇垣美里)おおーっ!

(トミヤマユキコ)で、家の中でゲームをやっていて自分がどれぐらい強いのかわかっていなかったおばあちゃんとゲーセンに行ったりとかして、外の世界ですごい若いゲーマーの子と交流したりとかして。それをまり子が後ろで「がんばれー」って応援したりとかすると、それが写真に撮られてSNSにアップされたりとか。「すげーおばあちゃん登場!」みたいな感じでまとめサイトに載ったりとか。すごい現代的なSNSなりネットなりみたいなものも入れ込みつつ、そのおばあちゃんの冒険譚も描かれ。でも構造的には非常にオーソドックスな少女漫画の物語構造も取っているという、「これは新旧少女漫画ファンのどちらも読んでくれ! 絶対に面白いから!」っていう。

(宇多丸)自分の居場所を探している段階ってさ、ある意味それって常に若いっていうか。つまりそれが青春っていうかさ。可能性を探すというか。だから、別に歳、実年齢は関係ないっていうか、そういう感じもあって。絵柄でこのおばあちゃんを見るだけで……。

(宇垣美里)かわいい(笑)。

(宇多丸)僕の母は余裕で80を超えていて。でもめちゃめちゃ元気なんすよ。だからなんか母のことも思い出しつつ。こういうノリです。こういう感じですね、実際にうちの母もね。この感じ。この感じ。

(トミヤマユキコ)この絵の感じですか。リュックを背負って、帽子かぶって。スタスタ歩いちゃう感じ。

(宇多丸)チャリ乗り回してますから。

(宇垣美里)この猫さんがかわいいんですよね。

(トミヤマユキコ)ああ、途中で猫を拾って。パートナーになるんですけど。それて魔法少女っぽいですよね。使い魔っていうか。黒猫なりなんなりがいて、その人と生活を共にしながら物語がドライブしていくっていうのは一種の魔法少女の……『魔女の宅急便』みたいなものだと想像してもらえばわかりやすいですけども。

(宇多丸)リアルな日本社会舞台で80才の方が主人公だけど、そういうちゃんと定番のアイテムもあるあたり、ちゃんとマジカルに見えるというか。なるほどね。あ、全然知らなかったっす。へー。勉強になるな。

(トミヤマユキコ)勉強になりますか? ありがとうございます。まだ時間がありそうなので。じゃあ、さっきも言ったんですけども無職も労働系女子漫画のうち。

(宇垣美里)出た! これを読んだ友達が「ゲー出そう」って言ってました。「心に来た」って言ってました。

(トミヤマユキコ)フフフ(笑)。ゲー出そう漫画。コナリミサト先生の『凪のお暇』という作品です。

(宇多丸)『凪のお暇』。

コナリミサト『凪のお暇』


(トミヤマユキコ)「お暇」と書いて「おいとま」と読むんですけど。これは主人公はごく一般的なOLの女の子、凪ちゃん(28)なんですが、空気を読むのが上手すぎて自分がなんか透明になっていくっていう。

(宇多丸)これは非常に「ああ、私もそうだ、そうだ」っていう人はいっぱいいるんじゃん?

(宇垣美里)特に日本人の方はそうだと思いますよね。

(トミヤマユキコ)で、限界が来てぶっ倒れちゃうんですよ。この物語のかなり最初の方で。「あ、空気って読むものじゃなくて吸うものだった」って過呼吸になってぶっ倒れるっていうシーンがまず出てきて。まず超現代社会の女子労働者の闇っていう感じなんですけども。そこからこの子はすごく極端から極端に振り切れる子で、いままで持っていたものっていうのを自分のキャラクターなり物質的なものも含めて全部捨てるんですね。

(宇多丸)うんうん。

(トミヤマユキコ)ストパーとかをかけていたのも止めちゃうみたいな。

(宇多丸)髪がいきなりボバン! とね。

(宇垣美里)天パーなんですね(笑)。

(トミヤマユキコ)そう。もともと天パーだったのに「一般的なOLってこんな感じかな?」っていうのでコテで一生懸命サラサラのストレートにしていたのを止め、会社も辞め、家も引っ越し、めちゃくちゃボロアパートに引っ越し。ついでに交際していた男の人も捨てちゃうみたいな無職ライフに突入していくんですけど……この1巻の終わりぐらいで……。

(宇垣美里)うー、怖いんだよ、この人!

(宇多丸)まあ絵はギャグ漫画。基本はギャグ的に進んでいく。かわいい感じで進んでいるんだけど、これがこの捨てた男がヤバいっていう?

(宇垣美里)なんか、「あれ? ギャグを読んでいたのにホラーかな?」みたいな感じですよね。

(トミヤマユキコ)そうなんですよ。

(宇多丸)この絵柄でホラーになっていくって想像がつかないんですけど……。

(トミヤマユキコ)なるんですよ。そのお別れしたはずの男の人っていうのは交際をしている時は彼の方が上から目線で結構マッチョで。なんならちょっとモラハラかな?っていう感じで強くものを言ってくるというか。「凪はどうせ何もできない女だから」みたいな雰囲気で言ってきているんだけど、別れてみたら実は彼の方が凪ちゃんに依存していたっていうことが……。

(宇多丸)この人?

(トミヤマユキコ)そうです!

凪のお暇 2 (A.L.C. DX)

(宇多丸)まあ普通にイケメン風ですけども。

(宇垣美里)そのエセ爽やかがそうなんですよ。

(宇多丸)アハハハハハッ! 全部捨ててバン! みたいな感じも……さっきから挙げられる主人公がみんな宇垣さんっぽく感じるのは僕だけですかね?(笑)。

(宇垣美里)本当に素晴らしい漫画ばかりを出してくださってうれしいって思いながら。

(宇多丸)芯を食うチョイスを。

(トミヤマユキコ)よかった!

(宇垣美里)こういう働いている女性に非常に刺さる本が多いんですよ。こういう労働系女子漫画って。

(トミヤマユキコ)そうですね。労働系女子をうまく描ける漫画っていうのは王子様もうまく描けていることが多くて。結局この『お暇』に出てくるこの彼氏さんっていうのは男社会に組み敷かれた男と言えるわけですよね。「男らしくすべし」っていう。

(宇多丸)ああ、この問題もあるんですよ。たしかにね。

(トミヤマユキコ)女も辛いけど、男も辛いわけじゃないですか。で、その辛さをうまく自覚できないとか。

(宇多丸)『シェイプ・オブ・ウォーター』のストリックランドさんですね。

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(トミヤマユキコ)うまく吐き出せない、言語化できないっていうことを彼自身が背負っているということを2巻、3巻と行くにつれてわかる。だから凪ちゃんの方がいろんなことを1回やめた!って言って投げ捨てられる分、強いし風通しがいいんですけど、やっぱり男の人ってなかなかそういう事ができないよねっていうのも描かれていて。単純に女の人だけをうまく描くんじゃなくて、女を描くのがうまい漫画は男を描くのもやっぱりうまい。

(宇垣美里)たしかに!

女を描くのがうまい漫画は男を描くのもうまい

(トミヤマユキコ)で、男の弱さをちゃんと描けているっていう。単純にヒロインを救う王子様の役目だけではやっぱりいまの漫画はダメなので。そういうことをちゃんとわかっている作家さんがすごくたくさんいるし、数としても売れているので。いま、すごい女子漫画界はとても楽しいです。

(宇多丸)めちゃめちゃ面白くなっているんだ。そして、古いイメージしか持っていない人はまずそういうことになっているんだということを。お前らのためになるかもよっていう。いまのそのお話をうかがっていて、男こそ読むべきかもね。これ、『凪のお暇』とかは。

(宇垣美里)刺さると思いますね。

(トミヤマユキコ)私、今日は本当に人生に必要な漫画しか紹介していないので(キッパリ)。

(宇垣美里)素敵!

(宇多丸)言っていることは間違ってないんだけど、目のテンションが怖いんで、目をそらしながら話を聞いてますけども……。

(宇垣美里)素敵! ホントだ、ホントだー! もっとやれー! フフフ(笑)。

(宇多丸)でもすごい勉強になりました。今日ご紹介いただいた『プリンセスメゾン』『傘寿まり子』『凪のお暇』。これ、ちゃんと僕も読ませていただきます。ありがとうございます。トミヤマさんが何をしに来たのか、よくわかりました。

(トミヤマユキコ)ああ、よかったです(笑)。

<書き起こしおわり>