2018年4月4日 11:42
熊本市は3日、日本マイクロソフト株式会社と連携し、市職員と教職員1万2500人の働き方改革を進めると発表した。Wi-Fi敷設、クラウド基盤構築などを含め、今後5年間で47億円をかけて環境を整備する。
熊本市の大西一史市長は、「働き方改革を進めることで、よりスピーディーな行政処理を実現し、市民の満足度向上、さらに職員自身の満足度向上を実現したい。日本マイクロソフトは、Microsoft 365などのサービス提供にとどまらず、自身が取り組んできたノウハウを持っている。このノウハウも含めたアドバイスを受けることが不可欠と考えた」と、日本マイクロソフトとの連携を決めた理由を説明した。
一方、日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏は、「これまでも、自治体に対する部分的な支援はあったものの、これだけのスケールの連携は初めての取り組みとなる。Microsoft 365という新しい基盤を使って、市の職員、教職員の情報交流の活発化、市民サービスの質向上を実現するための支援を行っていきたい」と、今回の連携について説明した。
なお、今回の主な連携内容は次の6点となる。
(1)熊本市が実施する「クラウドソリューションを活用した働き方改革基盤構築プロジェクト」に対して日本マイクロソフトが技術的なアドバイスを行う。
(2)熊本市が実施する「クラウドソリューションを活用した働き方改革基盤構築プロジェクト」に対し、日本マイクロソフトが実証実験における技術的アドバイス・継続発展可能なツール提供を行う。
(3)熊本市は庁内LAN基盤におけるクラウドシステムを活用した「自治体職員・教職員の働き方改革(仮称)」の検討ワークショップを開き、日本マイクロソフトをアドバイザーとして迎える。
(4)検討ワークショップにおいて、提案された具体的な活動を定めた実証検証を実行するにあたり、日本マイクロソフトはおのおのの役割・行動を決定し、必要に応じて調査などの活動を追加し、参加メンバーを増員し、実行する。
(5)日本マイクロソフトは、東日本大震災時の支援連携NPO(@リアスNPOサポートセンター、ユニバーサル志縁センター)による人的リソース・IT利活用のノウハウ提供を通じて、熊本における展開(復興、見守り、コミュニティづくり)をサポートする。
(6)熊本市と日本マイクロソフトは本活動、本検証で実行した内容を、ケーススタディーとして、活動終了期間までに事例公表する。
地震からの復興支援が連携のきっかけに
そもそも今回の連携は、2016年に熊本地震が発生した時に、マイクロソフトが熊本市にクラウド、デバイスを無償提供したことが背景となっている。
「市役所、区役所、避難施設などの情報連携がうまくいかず、混乱していた時に、日本マイクロソフトからの無償提供があった。さらに、東日本大震災時のノウハウ提供を行ってくれたことで、パートナー企業、NPOと連携した『くまもとRねっと』立ち上げにも大きな力となってもらった」(大西市長)。
2017年6月には平野社長が熊本市に招かれ、「大西市長から感謝状もいただいた。その際に、市長の先進的な考えを伺い、市民のエクスペリエンスを変えるために、さらなる協力ができるのではないかという話もさせてもらった」(平野社長)とのこと。その際に、今回の連携が実現するベースができあがったわけだ。
また、熊本市では市職員のための働き方改革を進めて職員の意識改革を図るとともに、よりスピーディーな行政を構築し、市民満足度向上、職員の満足度向上を実現するための取り組みを行っている。
「ちょうど庁内システム再構築のタイミングだったことから、リソースを有効活用をするためにMicrosoft 365をフル装備することで、市職員の働き方改革を実現する。日本マイクロソフト自身も長年、働き方改革に取り組んでいるということで、品川オフィスを訪問し、職員の皆さんの働き方を見せてもらった。そのノウハウを含めてトータルで取り込んでいきたい」(大西市長)。
Microsoft 365をフル活用した市民サービスを提供へ
今回の連携によって、Microsoft 365をフル活用した市民サービスを提供する。パブリッククラウドをベースとしたMicrosoft 365を全庁で採用することで、時間、場所にとらわれない市民サービスの提供、市民協働を推進するための環境を整備する。すでに配備しているタブレットデバイス600台を使って先行利用し、市民からの問い合わせ対応などにSkype for Businessを活用した、本庁とオンライン接続したサポートなど、市民向けサービス活用シナリオを検証していく。
現行システムの業務が膨大で、複雑な処理が必要になっている課題に対しては、AIチャットボットの活用などで職員の業務量を軽減しながら、これまで以上に充実した市民サービス実現を目指す。
また、労働状況の可視化と改善を行うためにビッグデータ、AIを活用し、非効率な会議の削減など業務改善を実施。日本マイクロソフトは、社内向けに実施している働き方改革のノウハウを熊本市に提供する。
このほか、災害が起こった際に活用できる官民連携を含めた強化基盤を構築して、クラウドサービスの特性を生かしていく。東日本大震災の災害復興支援で実績をもつNPOと連携して、「地域情報ネットワーク(みんなの縁側)」を立ち上げ、そのノウハウを生かした官民連携強化を実現する。
教職員向けでは、市内の小中高等学校136校の教職員に対し、Windows 10搭載デバイスを整備して、校務・教務のクラウドシステムを活用する環境を構築。文書のデジタル化、情報共有によって印刷のコストを削減するほか、授業コンテンツの共有、テレワークの運用などによって校務の効率化と時間外労働を縮減して、教職員の働き方改革を推進していく。
大西市長は、「市職員、教職員がどんな働き方をしているのかを可視化していくことで、改善すべき個所が見えてくる。紙文書を探すためにかかっていた時間が、例えば全職員が1日あたり10分かかっていたとすると、その時間を新システムで短縮できれば、年間約6億円の経費節約効果となる。4月は市役所業務の超繁忙期で、窓口に来た市民の皆さんが何時間も待たされていた。これが改革によって4月1日時点で、これまで4、5時間だった待ち時間が40分まで削減した。これをゼロに近づけたい」と述べ、今回の改革でコスト削減、市役所を訪れた市民の待ち時間削減といった目に見えやすい効果が出てくると話している。