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文部科学省管轄の科学技術振興機構(JST)は2018年3月30日、スーパーコンピュータ開発ベンチャーPEZY Computingの関連会社ExaScalerに開発を委託していた「磁界結合DRAM・インタフェースを用いた大規模省電力スーパーコンピュータ」について、29日付で開発中止を決定し、同社に通知したことを明らかにした。通知の中で、これまで同社に融資した約52億円の全額返還を求めているとする。
この開発事業は優れた技術シーズの実用化を目指す「産学共同実用化開発事業(NexTEP)」の一環で、JSTが2017年1月に採択したもの。プロセッサとDRAMを「磁界結合」と呼ばれる高速インタフェース技術で接続し、最終的には理論性能30ペタFLOPS(1秒当たり浮動小数点演算回数)級の高性能スパコンを開発することを目指した。
ExaScalerは同事業に基づき2017年に構築したスパコン「暁光(Gyoukou)」で、理論演算性能28.19ペタFLOPS、LINPACK実行演算性能20.41ペタFLOPSを達成している。
ただし開発の遅れからExaScalerはGyoukouに磁界結合インタフェースを採用していなかった。同社は2017年12月時点で、2018年中に磁界結合DRAMを搭載したボードを暁光に組み込むことを目指すとしていた。
開発中止を決めた理由を日経コンピュータがJSTに問い合わせたところ、JSTがExaScalerに実施したヒアリングの中で「磁界結合に関する開発内容の大幅縮小」と「同開発期間の大幅延長」が明らかになったためと回答した。
JSTがこれまでExaScalerに融資した52億円の開発資金は、同スパコンの事業化に成功した場合は最大5年の猶予を経て10年以内に全額返済、失敗した場合は10%分のみ返済となる契約だった。
今回JSTが全額返還を求めた根拠について、JSTは「開発計画の変更が(返済9割免除の前提となる)技術的な不成功によるものでなく、ExaScaler側の事情による変更だったため」と説明する。
JSTは「事情」の中身についてExaScalerから説明を受けたとするが、その詳細は「ExaScalerとJSTとの間の話」として明らかにしなかった。今回の開発に関連したExaScalerの不正行為は見つかっておらず、不正に基づく返還請求ではないという。
ExaScalerは今回のJSTの決定について「精査中であり、コメントできない」としている。
NexTEPはベンチャー企業が持つ技術の事業化を支援するため、JSTが委託開発の形で開発資金を支援する事業だ。融資の全額返還を求めるか否かを決める「技術的な不成功」と「企業側の事情による変更」の境界があいまいだと、同事業で融資を得て開発を進めるベンチャー企業が予測不能のリスクを負う恐れがある。