20XX年。
アメリカ西海岸の州にある街、G市。この街の市議会では、「日本国により奴隷労働を強いられた外国人技能実習生の像」の建立の是非をめぐって公聴会が開かれていた。
「日本政府は、国際的な非難をあびていたにもかかわらず、長きにわたりアジア各国から外国人奴隷を輸入し、わずかな賃金を与えただけで酷使してきました。深刻な人権蹂躙の被害に遭ったアジア各国の人々の犠牲を忘れないために、わが市に『外国人実習生像』を建立しようという提案がされています」
「なるほど。しかしこの像の建立に反対という意見もあるんですよね?」
「加害国である日本からは膨大な数の抗議が寄せられています。市議会のメールサーバーはパンク寸前です。さらには実習生像反対運動のリーダーである日本の国会議員、ジャンヌ・スギタ氏がわざわざこの議会まで押しかけてきました。しかたがないので日本側の言い分を聞きましょう」
「スギタです。このような像の建設は反日勢力による日本への攻撃です!! ただちに中止してください!!」
「話になりませんね。どれだけの人数のアジア人の若者たちが奴隷労働を強いられてきたと思っているんですか」
「奴隷?? とんでもありません!! 彼らは自分の意思で実習生として働いていただけです!! 強制連行の証拠があるんですか??」
「すべてというわけではありませんが、多くの実習生が『日本で働けば大儲けできるからと説明されて高額の前払金を払った』『親戚からお金を借りていたので、実習生をやめて帰ることもできなかった』などと証言しているんですよ」
「縄で縛って連れてこられたというわけじゃないんだから、自分の意思ですよ!!」
「たとえばですね、日本人ジャーナリスト、コウイチ・ヤスダ氏のルポルタージュには、明らかに実習生を騙して働かせていた例が紹介されていますが?」
「はあ?? ヤスダ証言なんて持ち出してくるんですか?? ヤスダ証言はすべてねつ造です!! 嘘です!!」
「話を聞いてください。多くの実習生が本来は禁止されているはずの単純労働に就かされ、最低賃金を大幅に下回る額しか受け取っていませんでした。また、労働環境も非常に劣悪で、使用者からの暴力やハラスメントに遭った例も多数報告されているんですよ」
「当時の常識や人権感覚ではそんなのは当たり前だったんですよ!! 今の価値観を持ち出して裁かないでください!!」
「もう結構です。今日は実際に日本で実習生として奴隷労働を強いられていたことがあるベトナム人のTさんにも来ていただいていますので、話をうかがってみましょう。Tさん、まずは来日したときのことから聞かせてください」
「わたしが日本に来たのは、20XX年の4月…いや、5月だったかな??」
「あっ!! あいまいな証言!! こいつは嘘つきです。反日左翼の嘘つき女め!!」
「…恥を知りなさい!!!」
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ジャンヌ・スギタ氏らによる積極的な実習生像反対運動は、かえって日本の人権水準の低さ、人権侵害への無反省ぶりをつよく現地に印象付けることになった。公聴会ののち、実習生像の建設は、市議会全会一致で可決された。
(この物語はフィクションです)