環境破壊と“戦う”動物園 到津の森公園(北九州市小倉北区)

マダガスカルから来たワオキツネザルとふれあう
マダガスカルから来たワオキツネザルとふれあう
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入園者の頭上を歩くヤギ。名作童話の世界を再現している
入園者の頭上を歩くヤギ。名作童話の世界を再現している
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これからの動物園像を熱く語る岩野園長(左から2人目)
これからの動物園像を熱く語る岩野園長(左から2人目)
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園内の説明看板はほぼ飼育員の手作り。担当する動物への愛着がにじむ
園内の説明看板はほぼ飼育員の手作り。担当する動物への愛着がにじむ
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運営を支えるボランティア。それぞれに園への思いがある
運営を支えるボランティア。それぞれに園への思いがある
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 ●人間の都合を動物に押しつけてはだめだ

 「自然にやさしい・動物にやさしい・人にやさしい」を施設(しせつ)のテーマにしている到津(いとうづ)の森公園(北九州(きたきゅうしゅう)市小倉北(こくらきた)区上到津)。絶滅(ぜつめつ)の危機(きき)にある動物の保護(ほご)など独自(どくじ)の活動で注目されています。どこにもない「ただ一つの動物園」を実現(じつげん)しようと情熱(じょうねつ)を燃(も)やす園の人々をこども記者が取材しました。

【紙面PDF】環境破壊と“戦う”動物園 到津の森公園(北九州市小倉北区)

 ■自然見つめ直す場

 まず園長の岩野俊郎(いわのとしろう)さん(68)に話を聞いた。岩野さんは1997年に園長になり「戦う動物園」という動物園の将来像(しょうらいぞう)を探(さぐ)る本(共著(きょうちょ))も出(だ)している。大神里奈(おおがみりな)記者が「何を相手に『戦う』のか」と聞くと、岩野さんは、「これからの動物園を、ただ珍(めずら)しい生きものを展示(てんじ)するだけでなく、私(わたし)たちが生きる自然を見つめ直す場所にしたい」と話し、動物園の獣舎(じゅうしゃ)の床(ゆか)はコンクリートで固められていることが多いが、同園では土で覆(おお)っていることなど独自(どくじ)の工夫(くふう)を紹介(しょうかい)。「コンクリートだと掃除(そうじ)は楽だ。でも君たちが動物なら自然に近い環境(かんきょう)でゆっくりしたいと思わないか? 人間の都合を動物に押(お)しつけてはだめだ」と語りかけた。

 岩野さんは「だまって座(すわ)っているのでなく、行動する気持ちを『戦う』という言葉に込(こ)めた。何と戦うのか? 人間の都合の最たるもの。環境破壊(はかい)だよ」と続け、「まずはこの園にある『マダガスカルの世界』を見てほしい」と勧(すす)めた。

 ■マダガスカルから

 マダガスカルは西インド洋に浮(う)かぶアフリカに近い島国。他の地域(ちいき)からの生物の移動(いどう)がほとんどなく、野生生物の90%以上がその場所にしかいない「固有種」で、生物の多様性(たようせい)を研究する上で重要な地域だ。その一方で、人間による自然開発が進み、多くの動植物が絶滅(ぜつめつ)の危機(きき)にある。2006年、同国は環境意識(いしき)が高い北九州市に希少動物の保護(ほご)と繁殖(はんしょく)への協力を求めた。同国から来たワオキツネザルやエリマキキツネザルなどの展示施設(てんじしせつ)として11年にオープンしたのが「マダガスカルの世界」だ。

 飼育担当(しいくたんとう)の今田文(いまだあや)さん(35)がワオキツネザルの獣舎の中に案内してくれた。名前の由来はしっぽの毛が黒と白の輪になっているためで、えさは果物や野菜が中心。日光浴が大好きで、寒い日は長いしっぽをマフラーのように体に巻(ま)き付(つ)けているという。こども記者たちがえさをやってみると、大神記者の手と一匹(いっぴき)のサルの手が重なった。「手が小さくてかたい。そこもかわいい」と思った。

 獣舎の横には今田さんたちが作った看板(かんばん)があった。そこには、マダガスカルについてこう書かれていた。島の動物は独自に進化し世界的に貴重(きちょう)であること。畑づくりや牛の放牧で木が切られたため森林面積はかつての100分の1になり、動物たちが暮(く)らす場所が失われていること。その切られた木の一部は家具となり日本に輸入(ゆにゅう)されていること。立川花菜(たちかわはな)記者は「人間の都合のいいようにしているといずれ動物はいなくなってしまう」と考え込んだ。中村葵(なかむらあおい)記者は「いつか動物たちをふるさとのマダガスカルに帰してあげたい」と願った。

 ■「ただ一つ」目指し

 「ほかとは違(ちが)うただ一つの動物園をつくる」という岩野さんとスタッフの思いは園内にさまざまな工夫となって表れていた。

 ゾウの展示では、来場した子どもたちが「お助け棒(ぼう)」と呼ばれる竹筒(たけづつ)の先にえさ(有料)をはさんで突(つ)き出(だ)すと、ゾウが寄(よ)ってきて鼻で受け取り、口に運んだ。3人は「動物と人間の距離(きょり)がすごく近い」と感心する一方で「逃(に)げたらどうするの」とも感じた。

 ゾウを担当する飼育員の宮崎和宏(みやざきかずひろ)さん(28)は「どこまで鼻を伸(の)ばせばえさが取れるか計算し、足元に石などを置いてそれ以上前に進めないようにしている」と説明した。大神記者は「ゾウの賢(かしこ)さや足の敏感(びんかん)さを知る飼育員さんならではの工夫だ」と感心した。

 ヤギの展示にも驚(おどろ)いた。2カ所の飼育場(しいくじょう)を太い「丸太」で結び、子どもたちに人気のノルウェー民話「三びきのやぎのがらがらどん」の世界を再現(さいげん)している。

 青空をバックに、丸太を渡(わた)るヤギを見上げながら3人は「ただ一つの動物園」のこれからに胸(むね)をときめかせた。

 ●市民ボランティアが活躍 閉園後、再出発に力

 到津(いとうづ)の森公園の前身は「到津遊園」だ。1932年に九州電気軌道(きどう)(現在(げんざい)の西日本鉄道)により開園されたが、経営不振(けいえいふしん)で2000年に閉園(へいえん)。しかし市民の間で園の存続(そんぞく)運動が高まり、北九州(きたきゅうしゅう)市が運営(うんえい)を引(ひ)き継(つ)ぎ、02年に到津の森公園として再(さい)出発した。

 閉園を乗り越えて、市民の力はボランティア組織(そしき)「森の仲間たち」として園を支(ささ)える。「飼育(しいく)」「植物」など6グルーブに約120人が参加。会長の井上裕文(いのうえひろふみ)さん(67)は「それぞれができる範囲(はんい)で、できることをしようという気持ちで活動している」と話した。

 立川花菜(たちかわはな)記者は「ボランティアのやりがいは」と質問(しつもん)。事務局長(じむきょくちょう)で環境(かんきょう)教育グループの一員でもある大橋直子(おおはしなおこ)さん(53)は「この公園は緑にあふれているのが魅力(みりょく)。来場者に四季折々の植物の情報(じょうほう)を伝え、楽しんでもらえること」。飼育グループの伏下和江(ふししたかずえ)さん(65)はウサギの獣舎(じゅうしゃ)の床(ゆか)に敷(し)く干し草の取(と)り替(か)えなどに汗(あせ)を流す。「作業が終わると動物たちが『きれいにしてくれてありがとう』と言ってくれているようでうれしい」と語った。

 「ボランティアの皆(みな)さんにとってこの公園はどんな場所ですか」と大神里奈(おおがみりな)記者が聞くと、2人は「子どもの頃(ころ)、到津遊園でよく遊んでいた。ここは市民の思い出が詰(つ)まった大切な場所。これからも力になりたい」と答えた。その言葉を聞いた中村葵(なかむらあおい)記者は「僕(ぼく)も大きくなったら動物園で働いたり、ボランティアをしてみたい」と思った。

 ●わキャッタ!メモ

 ▼到津(いとうづ)の森公園 西鉄バス「到津の森公園前」停留所(ていりゅうじょ)下車。約100種、500頭(とう)の動物を展示(てんじ)。動物へのえさやりやロバに乗るなどさまざまな体験が楽しめる。到津遊園時代から続く夏の「林間学園」では、小学生が飼育(しいく)の世話を手伝うなど「地域(ちいき)の動物園」として多彩(たさい)な取り組みを行っている。同園=093(651)1895。

【紙面PDF】環境破壊と“戦う”動物園 到津の森公園(北九州市小倉北区)


=2017/02/08付 西日本新聞朝刊=

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