2017.09.04
文化 行事
マダガスカルでは、人の死は生からの離別ではなく、永遠に存在し続けるRazana(ご先祖様の意)の位に昇華するための過程だと考えられています。Razanaとは生きている者の日常生活に永遠に存在し続け、常に見守っていくれている存在です。
中央高地では、7月から11月の乾季に、親族の遺体がRazanaとしての地位を獲得するための儀式「ファマディアナ」が行なわれます。数年に一度集合墓から遺体を取りだし、ランバメナと呼ばれる布で包みなおし、再度埋葬するのです。先日、一緒に活動をしている親しい農家さんからファマディアナにご招待頂いたので、私も参加してきました。
ファマディアナは通常1日~3日かけて行われます。全国から沢山の親戚が訪れるため、主催者は前日から牛を殺し、徹夜で食事の支度をしなければなりません。(写真上:食事の様子) 今回は牛を頂きましたが、多くの場合ファマディアナでは「Vary be menaka」(豚肉の脂身と沢山のご飯の意)が食事として出されているようです。招待客が代わる代わる食事を取り終えると、音楽機器を設置し、大音量でマダガスカルのPOPミュージックを流します。この音楽は朝まで続き、大人も子供も入り混じって朝まで踊り明かしました。
翌朝、多くの招待客とともに集合墓へ向かい、遺体を運び出す様子を見学しました。この間にも、マダガスカルの伝統的な衣装に身を包んだ音楽隊が、トランペットやクラリネットなどの管楽器と太鼓で音楽を奏でます。
墓から運び出された遺体はそれぞれが茣蓙の上に並べられ、家族と再会します。遺体を包んでいるランバメナは月日が経過したために茶色く変色しているので、その古い生地の上から、新しい白い布で遺体を包みなおすのです。多くの人々が酒に酔い、明るい音楽に合わせ踊っている中、家族は遺体の前に跪き、静かに涙を流します。親しい農家さんに理由を尋ねると、家族との再会に嬉しくて泣いているとのこと。綺麗に包まれた遺体は、家族に担がれてお墓を一周し、再びお墓の中へ戻されます。
「墓を掘り起し、遺体を取り出す」と聞くと、最初は何となく不気味な印象を持ちましたが、ランバメナに包まれた遺体を愛おしそうに擦りながら涙を流す人々を見ていると、ファマディアナは、死んで遺体となった後も家族を大切に思う気持ちの表れなのだと分かります。日本では仏教伝来以前から「先祖霊崇拝・祖霊信仰」が行われていたとのことですが、先祖をきちんと供養すればいずれば神になることができるという点においては、日本とマダガスカルの先祖に対する考え方は近いのかもしれません。
費用がかさむことと、聖書の教えと相容れない等という理由から近年ファマディアナが減少しているそうですが、個人的には、マダガスカルの人々が亡くなった家族と再会するこの大切な時間が、伝統行事とともに受け継がれることを願っています。