いやもう本当に素晴らしい作品であった。文句のつけようがない。なるほど青春とは友情とはこう描くものなのか。思いつくままにいくつか感想を。いろいろとネタバレしているので注意。

STAGE01「青春しゃくまんえん」

 STAGE12「宇宙よりも遠い場所」初見のさいに、小淵沢報瀬が声をあげて泣くのをはじめて見たような印象を受けたのであるが、よく考えると落とした百万円を届けてもらったさいにすでに大泣きしていた。コメディ泣きとシリアス泣き、出発点と終着点で報瀬は二回泣いているのね。

STAGE05「Dear my friend」

 高橋めぐみの告白が面白い。問題となった行為そのものを置きざりにして、ただただ自罰に沈んでいる。そもそも、めぐっちゃんはたいしたことをしていない。ポンコツの玉木マリと報瀬がドタバタやっていればいずれは話題になったであろうことをなんとなく漏らしてみただけである。そこまでのことをやっていないのに、彼女は自分の性根の汚さを自らただただ責めつづける。こういった不必要なまでの潔癖さとか、視野の狭さとか、まさに思春期ならではのもので、実によく描けている。
 また、興味深いのが一連の行為の動機についての語りである。これ、視聴者の視点からすると、まずは報瀬への嫉妬であることは明白である。大好きなキマリを報瀬に取られるようで嫌だった、これが出発点のはずだ。しかし、めぐっちゃんがこれにいっさい触れないのが面白い。自分でわかっていないはずはないから、あえて言っていないのだ。たぶん、この動機を持ちだすことがいくぶんか弁解や責任転嫁になってしまう、と考えていて、それすら自分に許していないのだろう。つまり、めぐっちゃんは、これを言ってしまったら、キマリに「あなたをないがしろにして、結果的に傷つけてしまっていた、ごめんなさい」と謝らせてしまうことになる、と考えており、彼女の潔癖さはそんなことにはもはや耐えられないのである。

STAGE10「パーシャル友情」

 節目節目でキマリに抱きしめてもらって新しい段階に行く白石結月。このキマリのハグであるが、STAGE05で見せた妹にたいするハグが由来だろうか。つまり、姉としてのハグ。他の二人とは異なり、キマリは結月をどこか妹として可愛がっていて、それが独特の関係性を生んでいるように思う。
 さて、キマリの涙の意味を白石結月にたいして報瀬と三宅日向が説明するくだりであるが、彼女らの説明がどこか的を外しているのが面白い。STAGE03でもSTAGE10でも、キマリは結月が友情から疎外されていることに敏感に反応している。STAGE03では、友人をずっと持てなかったことに反応しており、STAGE10では、友人をすでに持っていながらそれに気づけないことに反応しているわけだ。ところが、この点に報瀬も日向もピンと来ていない。報瀬と日向は友人なしでやれるし、実際やってきたタイプであり、それゆえに、めぐっちゃんなしにはいられなかったキマリの思考回路をいまいち理解できていないようだ。すでに親友である三人のあいだでこれ、というのがいい。友情とは異なる人間どうしが紡ぐものなのだから、完璧な共感など不可能であるし、そもそもそんなものは不要である、ということなのだ。

STAGE11 「ドラム缶でぶっ飛ばせ!」

 日向は実に聡明で優しい子である。
 聡明であるがゆえに、陸上部三人娘がどうして自分にああいった行為をしたのか、日向はわかってしまう。そして、人間とは弱いものであり、三人娘のような状況に置かれたのなら、たいていはそうしてしまうこともわかってしまう。彼女たちもまた傷つき後悔していること、自分に会って謝罪したいと思っていることもわかってしまう。そして、優しいがゆえに、謝罪されたら日向は彼女たちをきっと許してしまう。日向は自分でもそのことをよく理解している。
 しかし、その一方で、当然のことながら日向は彼女たちを許したくないとも思っている。そして、優しい日向は、彼女たちを許したくない自分にたいして嫌悪感を抱いてさらに傷ついてしまう。自分のことを、ちっちゃいなあ、と感じて自虐してしまうのだ。日向はこの点にいまだ折り合いをつけることができていない。
 この日向を報瀬が救うわけだが、このときの報瀬のある意味で自己中心的な踏みこみがいい。ずっと日向はこの問題については立ちいらないでほしい、一緒にいてくれるだけで十分だ、と意志表示をしている。しかし、最後の最後で、「ちっちゃいなあ私も」という日向の自虐の言葉を聞いて、報瀬はその要求にいっさい配慮するのを止める。それゆえ、この怒りは日向の気もちの代弁ではない。日向のために怒ってあげているのではない。日向が傷ついていることがそのまま報瀬にとって許しがたいことであって、だから報瀬は怒っているのだ。あの怒りはどこまで行っても報瀬個人の怒りなのだ。だからこそ、日向は救われる。日向のことについて日向本人以上に怒ってしまう友人の存在によって、日向は救われるのである。

STAGE12「宇宙よりも遠い場所」

 旅の終着点で物語もまた終わる。こんなものを見せられてしまうともうなにも言えない。

STAGE13「きっとまた旅に出る」

 長らくの呪縛が解けて、報瀬の雰囲気が見違えるほどに柔らかくなる、その描写が上手い。髪を切った報瀬の可愛いらしいことといったら。そして、ちょっとだけ大人になって南極を去っていく四人を見送る民間南極観測隊の面々の目線と、ああ、これが最終回だな、終わってしまうんだな、という視聴者の目線が重なる構造がまたなんとも心憎い。最後の最後で小淵沢家の仏壇もまたSTAGE05と比べてなんだか成長してしまっていたが、これくらいはまあ愛嬌のうちであろう。