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番外666 未知への対策は
訪問してきたベシュメルクの面々と共に、まずは造船所へ向かう。
台座に仕込んだシリウス号の幻影を発生させる装置はそのまま使えるので、幻影の内側に実体となるハリボテを配置しておく、という寸法だ。実際に質量を持った物体がある、というだけで違和感がなくなるからな。とりあえず外から見てボロが出なければいい。
「その為の資材も用意されていますので資材をゴーレムに変えてシリウス号に積み込んでしまう……という体で、幻影内部から作業してハリボテを作ってしまおうという風に考えています」
「では、私達は見学に来た、という事で」
移動しながら馬車の中で説明をすると、ガブリエラは心得ているというようににっこりと笑った。うむ。
ベシュメルクの面々も心得ているといった様子なので、造船所に到着してから早速作業に移る。資材をゴーレムに変えて行列を作り、シリウス号の幻影の内部へ移動させ、そこから再構成してハリボテを形成するという流れだ。
幻影の内側に沿って見た目だけ合わせた殻を作ればいいので簡単なものである。集めたゴーレムを四方に分散させ、バロールと協力して全方位で一気に再構成。念のために構造強化をしておき、後でシリウス号を戻した時に解体しやすいよう、メダルゴーレムを各所に埋め込めば――完成である。
「お待たせしました」
「流石に……境界公の構築は迅速ですな」
ハリボテの甲板から顔を出してそう言うと、マルブランシュ侯爵が苦笑する。馬車の屋根にとまったロジャーがうんうんと頷いたりしているが。
「今回は形を作るだけでしたから。寄り道に付き合わせてしまって申し訳ありません」
「いや、良い物を見せて頂きました」
そう言ってクェンティンが目を細める。さてさて。ではアルバート達と合流し、フォレスタニア城へ向かうとしよう。
ベシュメルクと工房の面々を連れてフォレスタニア城へ。魔界探索に加わる面々がいるのでオズグリーヴを紹介したり、各種装備品を確認したり……魔界に到着してからの流れを改めて確認しておこうというわけだ。
フォレスタニア城のサロンにて、アルケニーのクレアがカートに乗せて運んできてくれたお茶とアイスを頂きながら話し合いだ。
「まずは同行者の話、だったかしら」
と、エイヴリルが静かに言う。
「そうだね。そこから話をしていこう」
魔界には知的な種族、友好的な種族もいる、ということでエイヴリルも同行を申し出てくれている。交渉役が必要になるだろうという判断からだ。
相手の感情を色として見る事ができるエイヴリルの能力は、初対面の相手がこちらをどう思っているかが分かる。遭遇や交渉事といった状況において非常に強力なのは間違いない。
魔界の種族は友好的かどうかの知識も足りないので、エイヴリルがいてくれるなら判断に迷って後手に回る、ということもなくなる。
「エイヴリルお姉ちゃんの安全は私達に任せて……!」
「うんっ。頑張る……!」
と、カルセドネとシトリアも気炎を上げていたりするが。二人の同行に関してはこちらとしては色々迷うところではあるのだが、当人達は新しいベシュメルクやみんなの力になりたいと強く希望している。
ディアドーラの事もあって、出会った時は俺達やスティーヴンとも戦ったから、そこで思うところもあるのかと思い、気にしなくていいと伝えてみたが、どちらかというと自分達に自意識を持たせてくれた人達の為に何かをしたい、という事らしい。ならば、エイヴリルの護衛ならどうか、という事で話が纏まった。
魔界探索中はガブリエラがヴェルドガル王国に滞在する事になる。色々な状況を想定するなら魔界の門の外と内、両方に扉を開ける役が必要だからだ。
浮遊要塞区画に立ち入れるように、迷宮管理者であるティエーラに許可をとり、後詰めの面々を登録しておけばガブリエラ達も安全に魔界の扉が設置されている場所まで移動できる。
因みに……ガブリエラが魔界の扉を開ける場合、必然的に巫女の身辺を護衛する厚い戦力が必要になる。その点で言うとスティーヴンやレドリック、イーリスは普段からガブリエラの護衛をしているので、役回りとしては適任だ。護衛もその対象も、お互いの動きを分かっているというのは結構重要なのだ。
一方でエイヴリル本人も直接戦闘は不得手だから護衛も必要だ。カルセドネとシトリアがその役回りになるのは、二人が精神感応で連係をするのでエイヴリルとの相性がかなり良いというのもある。
「二人とも護衛としての仕事だから無理はしない事」
「うんっ」
俺の言葉に二人は声と動作を揃えて頷く。まあ……エイヴリルは前に出なくても能力が使えるという事もあって、護衛とは言っても比較的安全な役回りではあるが。
と、オズグリーヴがサロンに姿を見せた。オズグリーヴも魔界に同行するので、レドゲニオス達に不在の間の話をしていたらしい。
「おお、これはお待たせしてしまったでしょうか。オズグリーヴと申す者です」
オズグリーヴが一礼する。パルテニアラとは既に面識があり、魔界探索に加わるという事でお互いの素性、事情についても話を通してある。
ベシュメルクの面々はテスディロス達とも面識があるからか、オズグリーヴに対する反応も冷静で、クェンティン達も丁寧に自己紹介していた。
人が揃って同行者をお互い確認したところで、アルバートが各種魔道具をテーブルの上に並べていく。
「これは――片割れを持っているとシリウス号側で相手の居場所が分かる、というものだね。魔界における専用の通信機でもある」
アルバートが貝殻の付いた通信機を手に取ると、居並ぶ面々が真剣な表情になった。ガブリエラ達――外で待機する面々も、もしかすると使う場面が回ってくるという事も有り得るからな。
扉が閉まっているとこちらとあちらで連絡が遮断されてしまうからこそ、短い期限で区切って一旦魔界から戻ってきて、向こうの状況を報告する、という手筈になっているのだ。
期限までに戻って来なかった場合は、ガブリエラが門を開いて俺達の伝言を確認するという事になる。魔界側の門の近くに、伝言役となる改造ハイダーを残しておき、内蔵している通信機に定時連絡を入れるといった方法で俺達の足跡を明らかにしておくわけだ。
「通信機も門が閉じた場合、こっちと魔界の間では使えなくなる可能性が高いからね。シリウス号に根幹の機能を果たす魔道具を改めて積み込んでいたりするんだ」
「だから、魔界では専用の通信機を使うという事になるわね。門の側に残していく伝言役も、基本的には専用の通信機からのものになるわ」
俺の言葉をローズマリーが補足する。
「もしルーンガルド側で急を要する出来事が起きた際は、門を開いて伝言役に連絡をお願いすれば良い、というわけですね」
ガブリエラが口元に手をやって思案しながら言う。
「そうね。その場合は魔界探索を切り上げて即戻るという事も視野に入ってくるわ」
クラウディアが目を閉じて頷いた。
それと――改造ハイダーを拠点に残す理由はもう一つ。魔界の扉の位置はパルテニアラが分かるが、別の方式で現在地を知る方法を確保しておいた方が良い。
拠点の位置にいる改造ハイダーの座標も把握できるようにしておけば、そこを基点にマップを作ったり行動半径を広げたりと、探索の足掛かりになる、というわけだ。
「いやはや。詳しく聞けば細かな事まで考えられていて、何とも心強い事であるな」
パルテニアラがにっこりとした笑みを浮かべる。
そんな調子で用意した魔道具各種をあれこれと説明する。魔界の変容対策を組み込んだ魔道具も、後詰めの面々にとって重要になる品物だな。
それが終われば俺達が向こうに到着してからの流れの説明だ。これについては魔界の門を設置している地下施設を再現した模型を用意していたりする。しっかり情報共有して、みんなで連係して事に当たりたいものだ。
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