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ウサギのダンジョン 3
さて、トコイの兄貴を落とすことができた。
このまま帝都の有力Bランク冒険者であるトコイを味方につけることができれば、このダンジョンはほぼ安泰だろう。
ミーシャめ、本当にいい奴をこの依頼に誘導してくれたぜ。
「しかし、本当に良い毛並みだ。獣臭いニオイもないし……貴族の飼うペットみたいだな」
と、ウサギの背から尻にかけてを撫でつつ、トコイが感心したように言う。
「そうですね、普通のウサギならもっと油っぽかったり臭かったりするものですが」
「ああ、これはまるで……そう、誰かが手入れしているようだ」
勘が良すぎるな……さすがBランク冒険者。
気付かれたなら仕方ない。ここは事情を話すとしよう。当然こちらで用意していた事情だけどな。
俺は、トコイに耳打ちをするように話しかける。
「……実は、このダンジョンは発見者――つまりそこのイチゴさんが前から何度も入って、ウサギたちを洗ったりブラシをかけたりしてるんですよ」
「……ほう?」
「ウサギ獣人だからでしょう、ウサギとは通じるものがあるようで」
「獣人は近しい動物と心を通わせられることがある、って聞いたことはあったが……なるほど、イチゴはそれなんだな」
トコイの言葉に、俺は頷く。
「そうか。それでここの部屋に入った時あんなに不自然だったんだな」
「でしょうね。実際、ここで何度もキャンプしてるみたいですよ」
「……何が目的なんだ?」
「ここのウサギたちが狩られないようにしたいって言ってましたね。……トコイさん、どう見ます?」
「ふーむ……」
トコイは、ウサギたちにまみれているイチゴを俯瞰するように見る。
観察眼、察しの良さ。Bランクにふさわしいそれを相手に、もしやこちらの企みがバレたりしないか、と、こっそり冷や汗をかく俺。
……そして、トコイは一回頷いた。
「その言葉、嘘はなさそうだ。イチゴは心からウサギたちを慈しんでいる……気持ちは良く分かる。とても良く分かる。こいつらを保護するのであれば、俺も協力しよう」
あ、うん。察しの良さとウサギに魅了されてるのは別か。今も膝の上のウサギを撫でつつだもんな。
「しかし、ケーコはいつの間にイチゴからその話を聞いたんだ?」
「トコイさんより先に会いましたから。それに、女性同士ですから話しやすかったんでしょう。……あと、トコイさんみたいな男の人がウサギを可愛がってくれるか不安だったんじゃないですか?」
「……………………そうだな」
イチゴに怯えられていたのを思い出したのだろう。トコイは苦い顔をして頷いた。
「まぁ、まず考えられる問題としては……ここを公開した時、必ず無法者がウサギを狩っていくだろうということだ」
トコイがそう言うと、膝の上に乗っていたウサギがびくっと立ち上がった。
「おっと……すまない、殺気が漏れて驚かせてしまったようだ」
「ウサギは臆病って言いますけど、そういうの分かるんですね」
「ああ、小動物は特に殺気に敏感だな。ネズミなどは死の気配を感じ取り沈没する船からは脱出するというし」
再びの膝の上でしゃがむウサギを「こいつはずいぶん図太いな……」と撫でるトコイ。
ちなみにダンジョン的には別に狩ってくなら狩ってくで何の問題もない。
なぜなら、この白ウサギたちはあくまでミカンたちが操作しているただのスポーンモンスターだからだ。
多少洗ったりブラッシングしたりして身綺麗にしてはいるが、所詮は1匹5DP相当のただの白ウサギである。中の人……中のウサギが無事ならいくらでも替えの効く存在だ。
スポーンで出ているので狩られても無料で、いくらでも、何匹だって補充が可能なのだ。
故に、仲良くしてくれる冒険者がいるのであれば、多少は狩られても問題ない。
一応、狩ったらフロアを埋め尽くしている任意発動の落とし穴にボッシュートだ。
ウサギを仕留めた瞬間に落とし穴発動で、その先は冷水を張った地底湖に繋がっている。
……まぁ水だし、落ちても助かるかもね。でも陸地と出口作ってないから死ぬまで立ち泳ぎ頑張って。
空が飛べるなら助かるかもだけど、そんなことができるヤツはウサギ狩りなんて来ないだろ。
「帝都の冒険者であれば、俺が一言言っておけば狩るような奴はほぼいないだろう……だが、何人かこういう可愛いものに目が無い有力冒険者に心当たりもあってな。他にも帝都の外の冒険者が狼藉を働くとかも考えられるし……」
「……なるほど」
……そうか。ウサギの可愛さに落ちた冒険者がウサギをお持ち帰りする可能性もあったな。それだと実力者がウサギを攫うこともあり得るか。
外に連れ出そうとしたときにはイヤイヤと抵抗したあと、階段上がってすぐのところでボッシュート、それに失敗した場合は操縦切って死ぬまで死んだふりを続けるようにしよう。ウサギ可愛さで誘拐したらこれはトラウマになる。
どうせこのウサギはタダみたいなもんだし、ミカンたちが操らない場合は単純な命令しか聞けないからな。……ダンジョン領域の外に出たスポーンモンスターはすぐ死ぬようだし。
うん、これについては後でミカンに伝えておくとして。
「おーいイチゴ。ちょっとこっち来て」
「は、はい、なんですかケーコさん?」
「ゴメン、トコイさんにイチゴがここで何回もキャンプしてるの言っちゃった」
「えっ! あ、え、と……い、言わないでって、言ったの、に……」
挙動不審におろおろするイチゴ。演技だけど、半分くらいは演技じゃないなコレ。いきなり話を振ったから戸惑ってる感じ。
そんなイチゴにトコイが質問する。
「イチゴ。ここでキャンプするにあたって何か問題はあったか?」
「ふえ! あ、いえ、な、ないです。ここ、夜はちゃんと暗くなるし、安全な水場もありますし……寝袋がなくてもウサギさんたちが一緒に寝てくれれば暖かいですし」
「! ほう、至れり尽くせりだな」
ウサギの添い寝と聞いて思わず立ち上がりそうな勢いのトコイの兄貴。膝の上にウサギがいたから立てなかったようだけど。
「それでは、今日はここをキャンプ地としよう。とりあえずは奥も調べるとして……まずは当初の予定通り1泊だな。念のため、場合によっては2泊すると予定を伝えてある」
うん、これは2泊するな。間違いない。
ちなみに奥の探索は――まぁ、ダミーコアのあるコア部屋含めても小部屋が数個くらいしかないし、その小部屋も今は何もないからあっさり終わった。
(急いで書いたので、後で色々直すかも)
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