米国のトランプ大統領は29日「韓米自由貿易協定(FTA)の署名は北朝鮮との交渉が妥結した後に先送りすることもできる」とした上で、その理由として「これが非常に強力なカードだからだ」と述べた。普通の韓国人はこの言葉の意味をすぐには理解できなかった。韓米同盟の歴史においてこれまで聞いたことのないほどあからさまな警告であり、しかも北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と北核交渉、そして韓米FTAは一見関係がないように感じられたからだ。
しかしこの言葉の意味をよくよく考えると、そこには非常に深刻な内容が含まれていた。金正恩氏が韓国からの特使団を通じて表明した非核化の約束について、北朝鮮がこれを明確な態度で示さない場合、韓米間で暫定合意したFTA改正もなかったこととし、その後の交渉では韓国に対して一層不利な条件を突きつけるという意味だった。金正恩氏の言葉に対する責任を北朝鮮だけでなく、なぜ韓国も負わねばならないか考えると、この問題の根がさらに深いこともわかる。
現在、北朝鮮の核問題をめぐっては韓国、米国、北朝鮮、中国の間で熾烈な駆け引きが続いている。金正恩氏のねらいも最近やっと明らかになってきた。25年にわたり核開発を続けるため北朝鮮が駆使してきた「段階的措置」を金正恩氏が再び持ち出してきたのだ。最小限の期間内に北核廃棄の完了を望むトランプ大統領の構想とは完全に食い違うものだ。ところが韓国大統領府は金正恩氏の主張を後押しする動きをあからさまに示しはじめた。韓国大統領府のある関係者は30日「核を一気に廃棄し、その補償を行うリビア方式を北朝鮮に適用するのは難しい」と述べたのだが、この発言で米国は韓国を一気に疑いの目で見始めたのだ。このリビア方式はホワイトハウスのボルトン国家安全保障補佐官が北核問題の解決策として主張し、韓国大統領府もこれまで「ゴルディアスの結び目を一気に断ち切るもの」という言葉を使い同調してきた。ところが金正恩氏が中国で習近平・国家主席と会談した際、非核化について「段階的、同時的措置」という言葉を口にすると、韓国も突然その方向に向かい始めたのだ。