狩人に助けられたツルが人間に化けて女房となり、自らの毛で布を織るが、姿を見られて飛び去る-。誰もが知る昔話「鶴の恩返し」には「謎解き型」と呼ばれる続きがあった。ツルが残した手がかりをもとに、狩人はツルと再会するのだ。その舞台と想定されるのが、兵庫県市川町の鶴居地区だ。地元住民が文献を探り、ツルの飛び立った先が、鶴居の皿池である可能性が高いことを確認した。同地区では、知られざる外伝とも言える物語にちなんだ町おこしの機運が高まっている。
調べたのは「鶴居地域活性化協議会」会長の岡本和久さん(79)。岡本さんによると、鶴の恩返しは異類婚姻譚(結婚相手の正体が動物などと分かり、破局する話)「鶴女房」として全国各地に110話伝わるという。大半は、ツルが飛び去ることで完結する「標準・離別型」だ。
だが、1割強のストーリーでは、飛び去った後に水を張った皿に針を入れたものを残す=絵【1】。ここから、謎解きが始まり、姫路・書写山の座頭が「針は播磨、水と皿は皿池を指す」と言い当て=絵【2】、狩人は皿池でツルと再会を果たす=絵【3】。
播磨地域に皿池は複数あるが、日本昔話事典(1977年、弘文堂)には「市川町鶴居と、竜野市大住寺に現存する」と記される。岡本さんは鶴居説の根拠として、鶴居の皿池の所在地に注目した。
鶴女房の「謎解き型」は、書写山円教寺(天台宗)を拠点とした、盲目の琵琶法師の集団が語ったと伝わる。天台宗の巡礼道は、鶴居の皿池のそばを通るのだ。岡本さんの問い合わせに、同寺は「正確な記録はないが、琵琶法師は確かにいた」と答えた。
鶴居という地名も、3本足の鶴が降り立ったという伝説が由来といい、岡本さんはツルにまつわる伝説の里としてPRにまい進する。大住寺(たつの市)説も否定できないが、「そこは先手必勝」と顧みない。3月には、旧JA支店を改修してオープンした「鶴居地域活性化センター」の一画に、和紙10枚に描き分けた謎解き型鶴女房の物語を飾った。
今後は、地元の子どもたちが出演するDVDの作成や、鶴女房の物語が残る地域同士で交流を図る「全国サミット」の構想も温める。岡本さんは「有名な物語の、マイナーな部分だけに、反響があるかも。観光資源がいまひとつの市川になんとか光を」と願う。(井上太郎)
 
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
           
          