ブロックチェーンはメディアも変える?Gunosyが考えるブロックチェーンの未来

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ブロックチェーンが変えるのは決済業界だけではない。もしかすると、それはメディアも変えるかもしれない。ニュースアプリを運営するGunosyがみつめるブロックチェーンの未来とは。CTOの松本氏にお話を聞いた。

目次

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松本 勇気 氏

株式会社Gunosy 新規事業開発室 執行役員CTO 東京大学工学部在学中から複数のスタートアップを立ち上げ、2013 年より Gunosy に参画。クライアントからインフラまで幅広い領域の開発を担う。現在は CTO として新規事業開発を担当。直近ではブロックチェーンなどの新技術領域調査も担当。

Gunosyのブロックチェーン推進者

ーブロックチェーンとの関わりを教えてください

Gunosyとしては、「今後、ブロックチェーンに関わっていく」という意思で2017年にR&Dチームを立ち上げました。そこでマイニングと非中央集権的なアプリケーションを調査しています。

また、日本国内でブロックチェーンエンジニアがもっと増えればと考え、会社関係なくコミュニティ活動をしており、例えばblockchain.tokyoというイベントを開催しています。

他にもブロックチェーンでDAppsを作ったりしています。

ーブロックチェーンに注目し始めたタイミングはありますか

元々数年前から軽い興味程度はあったのですが、昨年の夏頃、サトシ・ナカモトの論文をちゃんと読んだタイミングがありました。その時、「あれ?なんでこんな面白い仕組みに俺は今まで触ってなかったんだろう」とブロックチェーンの可能性に気づき、本格的に取り組みはじめ、いまに至ります。

ー「面白いな」と思われた点はどういう所にありましたか

1つは、非中央集権的にハッシュをつなげてブロックチェーンを作ることにより、計算量的に改ざんされにくいデータベースを作ったという点です。もう1つは、そこにインセンティブ設計を組み合わせて、裏切る人間がいても成り立つというプロトコルを作り上げた点。この2つが物凄く面白いと思っています。

ブロックチェーンは世界を変えるか

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ーブロックチェーンによって世界は変わるのでしょうか

今の生活が一変するといったことではなく、一部の領域が変わっていく世界を考えています。

ーどの領域から変化が起こりそうでしょうか

いまブロックチェーンが主に使われている「決済」の領域で考えると、「仮想通貨が主軸通貨になる」という世界にはならないかもしれないと思っています。ビットコインのような仮想通貨は、「第三の通貨」といった位置づけになる可能性があるのではないかと。例えば国によっては自国紙幣だけではなく、世界の基軸通貨であるドルの方が流通していたりします。その上に「自国通貨ではないが、使える通貨」としてビットコインが使われるというものです

なぜ仮想通貨が主な通貨にならないかといえば、決済のシステムは中央集権的なシステムでも十分快適に作ることができるからです。例えばWeChat PayやLine Pay、あるいはメルカリさんもこれからそのような取り組みをされるのかもしれませんが、このような決済手段は、いざというときには運営主体が中央集権の役割としてリスクを取るといった機能もあり、使いやすさには配慮されています。こう考えると、決済においては「必ずしも非中央集権的でなければならない」というものではありません。

ただし、ブロックチェーンが持つ「インセンティブ設計」の機能を活用すると、他の業界でも新しい世界感を作れるのではないかと思っています。

インセンティブ設計で、裏切ることに対するコストを高くすることができます。裏切るコストとは、ビットコインでいえば二重支払いのような不正なトランザクションを発行することです。そうすると、マイナーとして生成した不正なブロックは誰にも承認されず、その収益機会を逃してしまうということになります。また、嘘のデータを生み出すには、全体のノードの過半数を超える計算量を得る必要があります。

※ノード
ここでは、トランザクションが正しいかどうかマイニングにより検証する端末のこと

このように、インセンティブ設計によって「嘘をつくことのコストを上げる」という仕組みを作ることができます。それを例としてメディアに当てはめると、フェイクニュース(嘘のニュース)に対してトラストレスに対応できる仕組みを作れるのではないかと考えています。

※トラストレス
信頼のおける第三者や仲介者を必要としない状態

ーGunosyさんと事業親和性が非常に高いですね

おっしゃるとおりです。いま、我々はマシーンラーニングの文脈で、フェイクニュースをどう判定するかという研究をしています。

ただ、別のアプローチもあるのではないかと考えています。前述の通り、インセンティブ設計で、第三者がニュースに対する真偽のバリデーションを行うようにして、嘘のニュースを発行した場合の罰則を設ければ、自動的に正しいニュースだけが流通する非中央集権的な仕組みが作れるのではないかと思っています。

※バリデーション
そのやりとりが正しいかどうかを検証すること

これができれば、メディアのあり方を変えるかもしれないと考えています。

ーバリデーターが真偽を判断する時に使うデータが正しいかどうかをどう判断しますか

一人、ないしは複数のバリデーターの意思によって真偽の判断が決まるといったようなことは考えていません。

例えばそのブロックチェーンによる真偽チェックの結果は1つのデータソースにすぎないのであり、他の方法でも真偽をチェックして、その結果を組み合わせて、最終的に真偽を判断するという方法もあります。

例えばそのニュースの真偽を主張しているバリデーターの過去の行動の分析や評価範囲についてグラフ分析等を行うことで、また、その記事と発言者の利害や知識量などの関係をチェックして、「この人はこのニュースソースに対して悪意を持っている可能性があるクラスタだから評価の重みを下げる」といったルールベースや機械学習的アプローチをすることができます。こういった判定には、ブロックチェーンよりも、マシーンラーニングのアプローチの方が適していると思います。このようにしてブロックチェーンとマシンラーニングの組み合わせといった複数の手段で真偽を判断する仕組みも考えられます。

この場合、ブロックチェーンを使った真偽の結果は、いわば、「一つのタグ」のようなもので、それらを組み合わせどう解釈するかまた別のエンジンが必要になってくると思いますが。

ーそのような仕組みを作られた場合、Gunosyさんとして、それをオープン化されるのでしょうか

オープン化すべきものと考えています。

ブロックチェーンは、ユニークな構造を持っています。「アーキテクチャや管理は分散されているが、参照するのは全員同じデータ」というものです。それは、データに対して誰もがステークホルダーじゃないとも言えるし、全員がステークホルダーとも言えるものです。

この「アーキテクチャと管理は分散、データソースは単一」という観点で考えてみるとわかりやすいかもしれません。仕組みをオープン化することでデータは貯まります。ただし、全ての仕組みがオープンというわけではなく、そのデータを評価するアーキテクチャは個々の事業者が取り組むという世界観です。

そのような世界では、「自分はもっといいフェイクニュースの判定装置が作れる」と思った研究者やリサーチャーが、オープンになっているデータを使うことでより良いロジックを開発し、反映することができるようになります。

私はデータを囲い込むべきではないと考えており「フェイクニュースはGunosyさんじゃないと判定できません」というのは私たちの考えではありません。それはGunosyという一事業者に依存する中央集権的なものではないかという思いもありますし、1社がデータを独占するのはあまり望ましい未来ではないのかもしれません。

私たちは、メディアとして、ニュースの重みを機械に判定させるというやり方をこれまでやってきていました。「人ではなく機械が、より最適なコンテンツを届ける」という試みで、今でもオープンなデータを組み合わせた事業となっています。これはこれからも変わらないと思っており、その延長で考えるなら囲い込みじゃなくてオープンにするべきなのかなとも思っています。

判定エンジンという所で「データはオープンだけど、判定エンジンのところで、我々は強みを持っていますよ」という形で事業を作るということもあるでしょうし、そこの競争があることでより精度の高いものが出ると思っています。

非中央集権と中央集権が組み合わさった世界

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ー非中央集権の仕組みは、どのように社会に影響を与えるでしょうか

中央集権の最たるものの一つは国ではないでしょうか。

それに対して、非中央集権は、国ではない新しい存在、言い換えれば、国の補集合のようなものだと考えています。

世の中に国に所属出来ない人や国を信用できない人たちはたくさんいて、その人たちにとっては、その人たちが使える社会保障の仕組みとしての非中央集権があるかもしれません。

そういう意味で、非中央集権は、今の世界をすべて変えるものではなく、グラデーションのようなものになっているのではないかと考えています。一部はそういう世界になって、でも中央集権も残り続けてる世界ですね。

エンジニアの理想的には全部システムで定義されて動くのが理想ですが、そういっても「結構自分たちが書くものバグがたくさん出るじゃん」と思っています(笑)。そう考えるとすべててが非中央集権で定義できる世界はまだまだ遠いでしょう。

また、中央集権の魅力もあります。例えばC2Cのマーケットを今すぐにブロックチェーンで作ろうっていったときに、メルカリさんには勝てないと思っています。それはメルカリさんが不正に対して中央集権的にそこをフォローする仕組みがあり、そのような提供価値は非中央集権では、すぐには作れないと思っています。これからだんだんと新しい仕組みが出てくるかもしれませんが、いきなり中央集権が、非中央集権に置き換わるなんてことはないと思っています。

実は世の中にある、中央集権がとっている「マージン」というのは、意外と合理的な値付けになっているのではないかと思っています。資本主義では競争にさらされるので、不合理なマージンをとっていると競合に負けちゃいますから。

また、今後は中央集権と非中央集権が組み合わさった形の事業やサービスが生まれてくるかもしれません。

また、今やブラウザは各事業者がそれぞれ作る世界ではなく、「ブラウザは1個ないしは少数でその上に皆がサービスを作る」という世界です。ブロックチェーンの世界も、共通の強力なゲートウェイができて、その上にエコシステムが繁栄していくかもしれません。

ーそのときの主要なプレーヤーは既存の事業者でしょうか。それとも、今はまだ見ぬプレーヤーでしょうか

さきほどのオープンなプロトコルを開発する試みは会社ではできないと思っています。先程のフェイクニュースみたいな取り組みをオープンにしていくとなった場合、Gunosyとしてもコミットはしますが、全体を形作るのは会社ではない新しい組織形態なのかもしれません。会社が無くなるっていう意味ではなく、新しいものが登場する可能性があると考えています。大きなプラットフォームに乗っている各サービスは様々な会社が作るかもしれないですけれども、大きなプラットフォーム自体は現在言うところの法人主体ではないかもしれません。

オープンなプロトコルを作ることでリワードがある世界は今までになく、「そのような世界が来たら面白い」と漠然と考えています。

オープンソースではリワードがないのですが、それでも、皆、プロトコルの開発に向けて、色んな競争をしています。例えばHTTPの次、HTTP2を作る際にも、多数のプレイヤーが、「こんな風なドラフトを出していく」と競争して、その結果、よりよい物ができ上がってるといういうことがありました。今回はそれに加えて、トークン経済という新たなリワードが付く事で色々な領域で統一的なプロトコルが生まれて行くのではないかと考えています。

「C2Cマーケットのプロトコルはコレで行く」「いや俺はもっとこっちの方が良いと思う」と、ユーザーがどんどんそれに対して参加し、利用することが投票になり、よりプロトコルとして強いものが残っていく。もしくはファン、そこにアソシエーションのようなものができ上がって、「この方針で行こう」という風に決まっていくかもしれません。

様々な業界ではじまる非中央集権化の試み

ー非中央集権化の動きで注目しているものはありますか

少し異なるかもしれませんが、証券の分野で新しい試みが始まっています。例えば 、22Xファンドというベンチャーキャピタルが、トークンを通じてスタートアップへの出資ができる仕組みを整えています。そして、出資から得られた収益をトークンホルダーに配布するという仕組みです。The DAOとも文脈的には近いですね。

現在の株を通じた出資のアクセシビリティは、まだまだ課題があると感じます。例えば、契約書も必要ですし、口座を開くのも大変ですし、そもそも普通のケースであれば上場している企業にしか出資できない。さらに、国をまたぐとさらに大変です。このような課題のある分野では、このようなブロックチェーンやトークンの仕組みが活きることもあるでしょう。

これらに対して今後、適切な規制も入ってくるとは思いますが、グローバルで様々な人が等しくトークンにアクセスできるというプロトコルは変わらないでしょう。これが何か新しい仕組みなんじゃないかと注意深く見ているところです。

以前AnyPayさんが、Drivezy(ドライブジー)というインドのカーシェアリングのICOを支援されました。その、Drivezyの仕組みがユニークです。支援者はトークンを通じてお金を支払います。彼らはそのお金を車に替えます。その車から得られた運用益を、トークンホルダーに返してくれる仕組みです。

ここまでグローバルでマイクロな投資も可能な仕組みは今までほとんどなかったことです。MetaMask(メタマスク)を通じて、このICOアドレスに対してお金を送るという1アクションでそれが実現できてしまう。これはすごいことです。

※MetaMaskとは
イーサリアム用のウォレット。Chromeのプラグインで利用できるため、簡単に仮想通貨の送金が可能

投資の分野1つとっても、これからカンブリア爆発みたいに色々な仕組みが生まれ、国のお墨付きを与えられ、新しい世界ができてくるのだと思います。

ー今の話では、インドの車を使う権利をトークンを通じて買っているとも言えるかと思います。そうすると、所有という概念も変わるでしょうか

変わると思いますね。

所有権は、イーサリアム上で例えばERC721トークンみたいな意味合いに変わってくる可能性もあります。

※ERC721とは
イーサリアムの規格の1つ。帰属先を規定できるため、「誰のものか」といった要素を持つことができる。猫を集めるゲームCryptoKitties(クリプトキティーズ)でもこれが使われている。

個別性のあるトークン、つまり、1個1個のトークンにIDがあるような設計が意味するものは、所有権の移動の表現に適しています。

たとえば、C2Cマーケットでは「物の所有権を移す」という行為があり、不動産サービスでは「家の所有権を移す」といった所有権の移転があり、対象によって移転のプロトコルは多少異なっています。

しかし、今後、「このプロトコルでよいよね」というC2Cのマーケットで使われる共通のプロトコルがうまれるかもしれません。それをオープンにして、色んなサービスがそれを使うことで、共通のデータベースに大量のデータが溜めることができます。

さきほどのニュースの真偽性の話と同じですね。

そのデータを使って、そこからユーザ体験を提供する部分は個々の事業者が行うといったこともありえます。例えば、新しく民泊のサービスを作りたい人はすでに「民泊で貸せる部屋の情報」をオープンなデータベースから取得し、自分のサービスのデータとして使うことができるようになります。そして、そのデータを使ったサービス提供の部分で独自の価値を提供することができます。みな同じデータを使うが、ユーザビリティやリコメンデーション、値付けなどで差異がでて、そのように競う時代がもしかしたら来るかもしれません。

Plasmaやサイドチェーンが生み出すプロトコル化の世界

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ーそのような世界を作るために、求められることはなんでしょうか

「オープンなデータを共有するプロトコル」というものに、Plasmaやサイドチェーンのような仕組みが加われば、そこには新しい可能性があると思っています。

※サイドチェーン
メインとなるチェーンがあり、そことトランザクションやトークンの互換性をもたせたチェーン。メインチェーンを補完する機能を持つことなどがある。例えばBitcoinにEthereum同等のスマートコントラクト機能を付与するRSKのような仕組みがある


※Plasma
Ethereumで考えられているサイドチェーン相当の仕組みで、イーサリアムのスケーラビリティの問題を解決する手段の一つと言われている

Plasmaチェーンがメインチェーンと連携していて、そのPlasmaチェーンのトランザクションでユーザーが支払う手数料はPoSの報酬として、そのチェーンのトークンを持つバリデータの人たちに支払われます。

ーそのサイドチェーンの役割としては、主にスケーラビリティの観点でしょうか

今、Plasmaやサイドチェーンはスケーラビリティの観点で研究をされることも多いと思いますが、サイドチェーンの価値は、スケーラビリティだけではないと捉えています。

まず、メインチェーンに連携された何かしらのPlasmaチェーン、ないしはサイドチェーンとその上に実装された誰でも使えるプロトコルがあるとします。そのプロトコルを使って事業をしたい人が自分でもサイドチェーンのノードを作る、ないしはいずれかのノードに接続し事業を始め、またプロトコルを洗練させたい開発者はそのチェーンのトークンを保有しつつ開発します

Plasmaやサイドチェーンの仕組みにおいては、メインチェーン上の通貨やトークンとサイドチェーン上のトークンで、その交換比率は常に一定とされ、相互運用性をもっています。

先程のプロトコルの利用で発生する1つ1つの細かいトランザクションはメインチェーンに記録されるのではなく、サイドチェーンで処理されます。それらによって支払われるトランザクション手数料はサイドチェーンのバリデータに払われます。サイドチェーンの利用者が増えれば、手数料が増えるのでバリデータやそのサイドチェーンやPlasmaチェーンのトークンを持つ開発者は、サイドチェーンのプロトコルをより良いものにしようとします。

ーこのような試みはすでに起きてきているのでしょうか

このメインチェーンとサイドチェーンの話は、すでに起こっているところもあります。OmiseGOさんの取り組みなどは近いですね。決済領域の次の世界を睨んでいる取り組みです。

このようなメインチェーンとサイドチェーンの取り組みは、他の領域でも起こってくることなのかもしれません。例えば、C2Cマーケットやカーシェアや、所有権が絡むすべてが面白そうです。

今後、ブロックチェーンは私たちの生活にどう入り込んでくるのか

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ー今後のブロックチェーンの普及に対して課題はどのようなものだと思われますか

ブロックチェーンを普及させると考えた時に、足元のユーザビリティが低すぎるなと思っています。自分の田舎のおばあちゃんに「秘密鍵」って言っても分からないでしょう。

ですから、足元を疎かにしちゃいけないなと思っており、そのユーザビリティをどうやって解決していくか考えていく必要があります。たとえば、鍵で考えたとしても、「生体情報から秘密鍵を生成する仕組み」や「複数人管理で使いやすくする」といったもの、「信頼できる中央集権が関与する仕組み」など色々あると思いますが、より使いやすいブロックチェーンのアドレス管理の仕組みを作らないと、どんな仕組みを作っても、利用者がついてこなくてユーザー数的にスケールせずに終わると思います。

また、まずスケーリングをしなければならないという観点で、Plasmaの仕組みやShardingは注視しています。

※Sharding
検証作業を並列に行い効率化すること

ースケーリングの課題はいつか解決するものでしょうか

スケーリングは、さきほどのPlasmaやShardingのような解決策の提案もあり、いつか解決される問題だとは思っています。ただし、セキュリティ的なトレードオフも出てくるので、どういうバランスで向き合うかというのは、設計の妙になりますね。ただ私もエンジニアなので、テクノロジーを信じていて、いつか解決されると思っています。

ーブロックチェーンの普及は、他のテクノロジー領域にも影響を与えるものでしょうか

デジタルアセットの所有権は、ブロックチェーンと相性が良いので、VRとは親和性が良いでしょう。すでに、ディセントラランドというブロックチェーンと連携した仮想空間ができていますが、そのようなVR上の土地をブロックチェーンに登録しながら売るという事業も生まれるかもしれませんね。

たとえ、VR空間の土地でも、人が価値を感じればそれはちゃんとその価値がつき、価格が付きます。

ちなみに、最終的には50年などの先になるかもしれませんが、人間が最終的に行き着く先は、MMORPGみたいなゲームの世界なのかなと時々考えています。というのも、人間の働く領域っていうのは機械的に置き換えられていき「働く必要が無い」という世界も来るかもしれません。

もしくは働くけど余暇が増えていくかもしれない。そこで求められるのは人間の自己実現をサポートするもので、その1つとしてMMORPGのようなゲームの世界観は非常に可能性があります。

実際にそこで自分の家を作ったり、モンスターを狩ったり、自分なりのアイテムを作ったりというときに、デジタルデータの所有権をブロックチェーンはサポートできるようになるでしょう。そういう意味では、デジタルの中にアイデンティティを作ることができるというのが、ブロックチェーンの技術の1つの意味なのかもしれないですね。

ー「働かなくて良くなる」というのは生産性が上がるという意味ですか

生産性があがるという意味もありますし、必要な費用が下がるということもあるかと思います。後者を実現する方法の1つはシェアリングでしょう。例えばある人が車を探している時に、「車を買う」という方法だけが解決策とは限りません。人はなぜ車を買うかというと移動したいからです。そうすると「車のような移動方法を生み出す」ということも解決方法になります。

そして、それを実現するのがシェアリングだと思います。

世の中の車の活用を最適化すると、必要な車の台数はかなり減ると聞いたことがあります。例えば、使っていない時間の車をシェアするということもあるでしょうし、相乗りを活用することもできます。あいのりも、ルート設計はAIを使って「同じ目的にいく3人を最適な順番でピックアップして自動運転する」といったことができます。そうすると必要な車は減っていくでしょう。こうして、必要な費用はどんどん下げられていきます。

もちろん生産性もマシーンラーニングであがっていくでしょう。

この両面で、今よりも少ないお金で今よりも裕福な生活ができる世界、かつ時間もかからないみたいなのが来るかもしれないと思っています。

ーブロックチェーンにおける「データがずっと残る」ということの問題はどう思われますか

ブロックチェーンが普及すると、システム上に二度と消せない物が残っていくのは事実ですね。

例えば、人を中傷したという信用的にマイナスになる記録が常に残り続ける可能性があります。これに対してどう向き合っていくかっていうのは難しいですね。人は忘れられるけど機械は忘れられないので。

そうすると信用度のある人しかアクセス出来ない領域とそうじゃない人の領域みたいな格差が生まれてくるかもしれません。デジタルスラムのようなものができる恐れだってありますね。そのような問題にどう対応していくのかというのが、30年後に私たちが戦っている未来なのかもしれないですね。

ー日本はブロックチェーンに対してどう向き合うべきでしょうか

インターネットには国境がありませんが、ブロックチェーンはそれ以上に国境がない世界です。そこで、戦えるエンジニアをまず増やす必要があります。そのためにまずはデベロッパーコミュニティをどうやって増やしていくかっていうことに関して、色々な会社やコミュニティと協力しながらやっていった方がよいでしょう。

日本は、開発力で言うと、本当に開発者が少ない印象があります。イベントで「実際にSolidityで何か書いたことがある人」を聞いても、非常に少ない状況です。

※Solidity(ソリディティ)
スマートコントラクト記述言語

かたや世界中で見ると、千件以上のDAppsが登録されています。ICOも世界中でどんどん行われています。ただ、日本では、数えるくらいしかありません。そういう点では遅れているのかなと思っています。投資額だけは日本はとても高いと思うのですが…。

兎にも角にもまだ技術が追いついてない、ユーザーエクスペリエンスも追いついてない世界です。日本の皆さんブロックチェーンを開発していきましょう!

Write:原田和英(Mercari, Inc.)
Edit:原田和英(Mercari, Inc.)
Photo:熊田勇真(Mercari, Inc.)