東京の待機児童、ゼロにならない5つのワケ

新年度が始まり、全国の保育所で入園シーズンを迎えた。日本経済新聞が東京23区と全国の政令指定都市を対象に4月入所の倍率(1次申し込み分)を調べたところ、平均1.1倍、特に東京23区では1.27倍に上った。政府が2001年から目標に掲げている待機児童「ゼロ」は今年も達成は難しい。ゼロはなぜ遠いのか。

東京では定員を増やしても待機児童ゼロは遠い

(出所)東京都

ゼロにならない理由 1

募集増と申込増が
追いかけっこ

受け皿を広げると転入が増えることも

(出所)港区、中央区、品川区。申込者は1次募集分

注目したのは未就学児(0-5歳)の増加数(2016年度)がトップ3の港、中央、品川の湾岸3区。この3区は、3年間で合計約4000人分の定員を拡大、募集人数も約1800人分増やしたが、まだ保育需要に追いついていない。待機児童数が減ると、「自分も子どもを預けて働きたい」と思う親が増えて潜在需要を掘り起こしたり、近隣からの転入が増えたりして、翌年の申し込みがさらに増えることもある。

ゼロにならない理由 2

「年齢」と「場所」の
ミスマッチ

足りない1歳児枠、余る5歳児枠

(出所)品川区

(注)18年4月入所の1次募集分

空きはあるのに待機児童が発生

(出所)港区

(注)17年4月現在

待機児童が思うように減らない背景には、「年齢」と「場所」のミスマッチも大きい。新設保育所では、4歳児や5歳児を募集しても申込者は少ない。開設後しばらくは定員割れすることが多く、年齢ごとの募集枠と申込者数のミスマッチが起きている。保育需要の高い地域は、駅から近かったり、人気の住宅地だったりすることが多く、保育所をつくる用地がみつけにくいという場所のミスマッチもある。

ゼロにならない理由 3

少子化でも都心は
未就学児が増

未就学児は5年間で2ケタの伸び

(出所)東京都

少子化に歯止めがかからない全国とは対照的に、湾岸3区では未就学児が大幅に増えている。1人の女性が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)でも23区中トップは港区で1.45。2位は中央区(1.44)となった(16年)。急激な人口増に悩む中央区は1990年代の都心空洞化で始めた住宅を増やす政策を約20年ぶりに転換、今夏にもマンションなどの住宅建設に対する容積率の緩和制度を廃止する方針を決めた。3区と同じ湾岸エリアに位置する江東区も保育所不足などに備え、マンション内でファミリー向けの住戸を約8割に抑えるよう義務付ける条例を10月にも施行する予定だ。

ゼロにならない理由 4

共働き世帯の
保育需要が急上昇

保育所を利用する児童割合が増えている

(出所)東京都

(注)保育サービス(認可保育所、認証保育所など)を利用する児童が就学前人口に占める割合

出産後も働き続ける人が増え、保育所の利用割合が急増している。都心部では、保育所を希望しても入れないことが多いため、保育需要はさらに高くなる。実際、中央区では、1-2歳児の保育需要が52.3%に上ると独自に試算している(17年度)。また、全国でも傾向は同様だ。厚生労働省によると、全国の保育所利用割合は12年4月に34.2%だったのが、17年4月に42.4%まで上昇した。

ゼロにならない理由 5

足りない保育士、
奪い合い続く

保育士の有効求人倍率、東京は6倍超

(出所)厚生労働省

(注)有効求人倍率はいずれも原数値

待機児童を減らすには、受け皿を増やすのが近道だ。だが、保育士や用地の不足が足かせとなっている。東京での保育士の有効求人倍率は全国の約2倍。18年1月、ハローワーク品川(品川区、港区)では42.39倍、同飯田橋(千代田区、中央区など)では70.80倍となった。両ハローワークには本社・本部を置く企業などが多く、有効求人倍率が特に高く出る傾向がある。保育所の用地不足も深刻で、都心への人口回帰や地価の高騰などにより、東京でまとまった用地を見つけることが年々難しくなっている。

取材・制作
山内菜穂子、天野由輝子、久能弘嗣

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