Tuesday, April 3, 2018

「Fact Check 福島」の差別扇動

シノドス国際社会動向研究所が運営する「Fact Check 福島」というサイトの記事がひどいということで、3月28日のNO HATE TVで詳報しましたが、喋った内容を文にまとめておきます。

NO HATE TV 第36回「福島差別」言説の欺瞞 - シノドス国際社会動向研究所による差別扇動

「Fact Check 福島」を運営する一般社団法人シノドス国際社会動向研究所は、ニュースサイト「シノドス」(http://synodos.jp) を運営する株式会社シノドスとは別だが、この社団法人の代表理事芹沢一也は、株式会社の代表取締役と兼任である。ほかに、理事として橋本務(北海道大学教授)、吉田徹(北海道大学教授)、高史明(東京大学特任講師)、富永京子(立命館大学准教授)、荻上チキ(シノドス編集長)、角間惇一郎(GrowAsPeople代表理事)がいる。このうち荻上チキは、2018年3月31日付で、理事および「シノドス」編集長を辞任している。

代表理事の芹沢一也によれば、「福島をめぐるデマを根絶し、デマにもとづく差別をなくしたい」という思いから「STOP福島関連デマ・差別」というプロジェクトを立ち上げ、そのプロジェクトのもとで始まったのが、この「Fact Check 福島」だということである。 プロジェクト立ち上げ資金は、CAMPFIREで540万円を集め、その後もCAMPFIRE で継続的なパトロンを募っている。 実際にサイトを動かしているのは上記理事たちではなく、芹沢、開沼博(立命館大学衣笠総合研究機構准教授)、服部美咲(フリーライター)、林智裕(フリーライター)といった人々である。

今回問題となったのは、3月16日に掲載された「ドイツ二都市で開催された講演会で福島に関するデマを拡散」という記事だ。これは2015年3月にのりこえねっと共同代表・辛淑玉がドイツのデュッセルドルフで行った講演を「ファクト・チェック」し、その結果この講演を「これはデマを広めて人々を扇動しようとする活動家たちに、海外の人々が利用されてしまった事例」と結論づけた。「デマを広めて人々を扇動しようとする活動家」とは、辛淑玉を指す。なお、この記事がアップされたのは、BPOが辛淑玉への人権侵害を認めTOKYO MXに勧告を出した8日後、また辛淑玉がジャーナリストの石井孝明を名誉毀損で提訴したことが報じられた当日であった。

この記事の問題点は2つある。

(1) 科学論争を福島差別に直結させることで、被災者・当事者の口を塞ぐ(2011年以来ずっと行われてきたもの)
(2) 辛淑玉を選択的に取り上げることによって、差別扇動を自説流布の推進力にしようとした。

とくに (2) については、「Fact Check 福島」のライター林智裕や、大阪大学教授の菊池誠によって、ツイッター上であからさまな差別扇動が行われた。

菊池は「辛淑玉氏がドイツで福島差別に繋がる放射能デマスピーチをしたというのは非常に重要な話で、要するに氏は本質的に『反差別』なんかじゃないわけよ。真剣に反差別を考えているのなら、そんなスピーチは絶対にしない」「氏を支持するかどうか、真剣に考えたほうがいい」「のりこえねっとは結局は差別主義者の集まり」と言い放ち、林智裕は「一番深刻なのは『反差別』を名乗る人たちが積極的に福島差別を広げ、その暴力から護ってくれるもおはほとんどなかったこと。報道も、政治も、ほとんど護ってくれなかった。社民党や共産党、自由党などの一部政治家や政党は、むしろ一緒になって被災地を殴ってきた」「辛淑玉氏はドイツまで行って福島差別を広げ」等と言いたい放題である。

講演内容に対するファクト・チェックがいつのまにか講演者が「福島差別を広げ」たことになっているが、たとえば福島や放射能に関する記述に科学的な間違いや事実の誤認があったとして、それはどこまで言ってもファクトの問題でしかなく、それを差別に直結させる論理がまるごと欠落している。唯一の根拠は、彼らが「福島差別に繋がる」と信じていること以外にない。科学的に正確であるかどうかと、それが差別であるかどうかは全く別の問題なのだが、彼らにとってそれは不可分一体のものである。しかし論理としては提示できないので「差別に繋がる」という曖昧な言葉でごまかしているのだ。

たしかに、被曝を理由にことさらに福島の物産や人を忌避するような風潮は「差別に繋がる」と言ってもよい。それは過去の感染症差別(癩病患者など)や、公害問題(水俣病患者など)、あるいは放射能でいえば原爆被爆者差別などと地続きのものである。あるいは、首都圏の電力をまかなうために、危険な原発を首都圏から遠く離れた過疎地に建設するのは、立地地域に対する差別であり、あらたな植民地主義であるといった指摘も、ずっと前からなされてはいる。

しかし彼らが言っているのはそのどれとも違うのである。

彼らは、放射能汚染に対する漠然とした不安の表明や、被曝のリスクについて論じることそのものを「差別に繋がる」といい、それらを口にした者を「差別者」認定するのだ。そしてそれが「反差別運動」の担い手であれば「反差別を名乗っているにもかかわらず」と、まるで大きな矛盾をついたかのようにいい、話者の信頼性を貶めようとするのである。しかし普通に考えてみれば、仮に福島に関する情報で間違ったことを発信していたとして(それが彼らの認識において差別的なものであったとして)、民族差別運動における辛淑玉の発言の信頼性を論じることなどできない。それは論理的に成立しないし、ましてそれをよくわからない「本質」論で語ることなどできないはずだ。

つまり、菊池や林の言っていることは、彼らがもっとも嫌うであろう「感情論」にすぎないのである。

この「反差別を名乗るなら」とか「本当に差別をなくしたいなら」といった枕詞は、ネット右翼や自称保守、あるいは冷笑的などっちもどっち論者がまともな批判ではなくいちゃもんをつけてくるときの常套句で、反差別運動を少しでもやったことがある人なら、この言葉が冒頭についているだけで次に続く言葉に耳を傾ける価値があるかないか、経験上わかってしまう類のクリシェだ。彼らはそれを臆面もなくドヤ顔で披露する。「反差別なのに差別をしている」と指摘することが、反差別運動に対する最も大きな打撃になると未だに信じているのだ(実際には、それはもっともありふれた、かつ中身のないテンプレ攻撃でしかない)。


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では彼らの言う「差別」とはいったいどんなものを指すのかというと、たとえば「Fact Check 福島」には「脱原発デモでヘイトスピーチ」という記事があり、そこで「被災地の子供の葬列デモ」「原発ガッカリ音頭」の2つを取り上げている。しかし記事を読めば明らかなように、ここで言う「ヘイトスピーチ」は、一般的に差別問題で語られるヘイトスピーチの概念とはおよそかけ離れたものである。ひるがえってこれが何に似ているかといえば、沖縄の基地反対運動を批判する人たち(おもに保守・右翼等)が、「基地反対は米軍へのヘイトだ」と言うときの「ヘイト」の用法に近いものだ。実際、菊池誠は2016年のヘイトスピーチ解消法成立の直前、「米軍へのヤンキー・ゴー・ホームはヘイトスピーチになるのではないか」と盛んに言って、解消法に反対していたこともあった。

また、林智裕はツイッターで、こんなことを書いていたこともあった。

著名な政治家が、震災から七年目に平気でこうした誤解と差別を助長させる発言をする訳ですけど、本当にどうやればこういうヘイトスピーチを止められるんでしょうね。https://twitter.com/NonbeeKumasan/status/972967746878128128

我々の感覚からすれば、また和田政宗や杉田水脈が変なことでも言ったのではないか?と思うだろう。ところが、このツイートが言う「ヘイトスピーチ」とは、なんとこれなのである。

ひとことで言えば、これは典型的で陳腐な左翼憎悪にすぎない。菊池誠はつい昨日も生活保護引き下げが可決したことを野党のせいにして失笑を買っていたが、引き下げを多数で可決した与党には一切文句は言わず野党の瑕疵(実際にはない)をあげつらうのは、原発産業や原発を推進してきた政府や権力には一切文句を言わず、それに異を唱える勢力が「福島差別」(実際にはない)をして福島の人々を貶めていることにしてしまう構図にそっくりである。

菊池誠にしろ林智裕にしろ開沼博にしろ、原発問題に関する言説はすべてこの倒錯した認識にもとづいている。だから少しでも福島に都合が悪い(と彼らが勝手にみなすもの)をすべて「福島差別」に直結させて、「差別だ」という指摘によって批判を無効化しようとする。これは差別やヘイトスピーチの概念の悪用にすぎない。

「福島に都合が悪い(と彼らが勝手にみなすもの)」としたのは、実際にはこのことによって口を塞がれるのは福島の原発事故被災当事者も多く含まれているからである。彼らの言によれば、放射能の危険を訴えたり、それを理由に原発に反対する福島の人々もまたすべて「差別者」ということになってしまう。まるで原発とそれにまつわるトラブルには、何かと文句を言う反原発派と羊のようにおとなしい一般人しか関わっていないかのようである。電力会社や政府の行為や責任が、彼らの話題に上ることはない。

この稚拙で奇妙な「差別」「ヘイト」概念は、要するにアイデンティティ・ポリティクスのみに依拠した差別論の一種であろう。だから彼らは勝手に福島の人々を代弁してしまうのだが、それは「当事者の声」ですらない以上、そのアイデンティティは完全に架空のものでしかない。だから実際には、福島の多くの人々が日常的に抱える不安や科学・医学への不信、政府や電力会社への不満を抑圧する力として機能する。

彼らはおそらくこれを良かれと思ってやっているのだろうが、おせっかいにしかなっていないのではないかと思う。そしてせっせと福島に対するせっかいを焼く目的で、民族差別やヘイトスピーチの被害当事者に向けて「本質的に反差別じゃない」などと言ってしまったのは、その欺瞞性をこれ以上なく浮き彫りにしたと言うことができるのではないか。というより、このもっとも手垢のついた「反差別のくせに」という話法を用いて「支持」するかしないかを迫るというのは、目立つマイノリティに対する差別や攻撃の扇動であろう。

「反差別なのに○○」と言う物言いを好む彼らは、自分たちもまた「福島差別」に反対する「反差別」であることを忘れている。しかもその「福島差別」は彼らの独自定義によるものでしかないのだから、どこまで行っても自家撞着を繰り返すしかないのである。

なお、論理の筋道上「たとえ辛淑玉の講演内容が科学的に間違いであっても」という仮定の上で話を進めてきたが、実際には彼らの「ファクト・チェック」はお粗末極まりないもので、辛淑玉のドイツでの講演内容には現場での言い間違いレベルものを覗いてほとんど間違いと言えるほどのものはないことが明らかになった。まして「活動家」が扇動する「デマ」と言えるものは皆無である。次のエントリーではその詳細を記すことにする。


Notes

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