新聞各紙によると、安倍晋三総理の意向を受けて、テレビやラジオの番組作りに政治的な公平を義務づけた「放送法4条」の撤廃などを含む、放送制度の抜本的な見直しの検討が政府部内で進んでいる。
その狙いについて、安倍総理は2月の国会答弁で「ネットテレビは、視聴者の目線に立てば、地上波とまったく変わらない。電波を有効活用するため、放送事業の大胆な見直しが必要だ」と発言。マスメディアの伝送路としての放送の希少性が薄れる一方で、経済的価値が高まっていることを理由に挙げた。
総理はさらに「ネットというのはまさに自由な世界でありますから、その自由な世界に規制を持ち込むという考え方は私にはまったくない」と述べ、放送局の規定を緩和してインターネットのそれに揃える考えを示唆したうえで、「規制改革推進会議および総務省において速やかに検討を進め、今年の夏までに結論を出す」とやる気を見せていた。
これに対し、新聞やテレビは一斉に猛反発。「番組の劣化と信頼失墜を招く」(3月25日付読売新聞社説)、「番組の質の低下の恐れ 慎重な議論必要」(29日付毎日新聞)、「不偏不党が損なわれる」(30日付信毎web)と批判の声をあげている。政府が見直しを急ぐ背景には、執拗にモリカケ問題を扱う民放を牽制する意図が伺えるという報道もある。
筆者は、経営の安定の観点から見て放送局の姿勢にも問題があり、いずれ見直しが必要になるのではないかと考えている。ただ、いまはその時ではない。
というのは、SNS大手・米フェイスブックの当初の対応からも明らかなように、インターネットの世界で氾濫するフェイクニュース対策を講じないまま、大手のインターネット企業が放送局を呑み込みやすくなる方向の制度見直しをすると、テレビやラジオでもフェイクニュースが氾濫する時代を招きかねないからだ。
もともと、安倍政権がテレビに強い不信感を抱いているのは明らかだ。
たとえば、安倍総理が2014年11月、TBS『NEWS23』に出演し、アベノミクスに懐疑的な回答が続く街頭インタビューの映像が流れたあと、「(TBSが、放送する)意見を意図的に選んでいる」と不満を露わにしたのはよく知られた事実だ。
また、2016年2月には、当時の高市早苗総務大臣が、政治的公平の遵守などを怠って放送法4条に違反した場合、総務大臣の権限で停波を命じることができるという趣旨の発言。それまでの放送法に関する政府見解を変えるだけでなく、憲法21条が保障する「言論の自由」まで侵しかねないと批判されたこともあった。
安倍政権はこれまで、「政治的公平性原則の遵守」を盾に、放送局のけん制を試みてきた。ところが今回、放送局を対象にした規制の存在が、インタ-ネット企業による放送局の買収を困難にしている点に着目し、放送とインターネットの垣根をなくすことで、インターネット企業の参入を容易にするという発想に転換した。
そのことは、冒頭でも紹介したように、安倍総理自身が国会で「ネットテレビは、視聴者の目線に立てば、地上波とまったく変わらない」と述べていることからも伺える。
こうしたことから、安倍政権はテレビ局をけん制するだけでなく、共和党べったりの米テレビ局「FOXニュース」の自民党版を作る野望を持ち始めたのではないかと見る向きも少なくない。