まず、フェルナンド・デ・ノローニャ諸島の海流は本土に向かっているため、本土を出たグッピーは海流に逆らって泳がなければならない。また、グッピーは卵ではなく子どもを産むため、移動中に出産しても、子どもがフェルナンド・デ・ノローニャ諸島に流れ着いたり、鳥に運ばれたりする可能性は低い。(参考記事:「温暖化で魚が小型化している、最新研究、反論も」)
ナショナル ジオグラフィックの支援を受けて研究を行っている生態学者のデイビッド・レズニック氏は第三者の立場で、「グッピーは塩水にかなり強いですが、それにしても300キロはあまりにも長距離です」と述べている。レズニック氏はカリブ海の南部でグッピーを見たことがあるが、300キロ以上泳いだと思われる例はほかに知らないという。ただし、雨期の洪水によってグッピーが流され、数キロ下流の海にたどり着くことはあるとレズニック氏は言い添えている。
蚊を退治するために持ち込まれた?
自然の法則では説明できないと考えたバーベル・フィルホ氏は、歴史文献に答えを求めることにした。
第二次世界大戦中、フェルナンド・デ・ノローニャ諸島には米軍基地があった。バーベル・フィルホ氏は米軍の報告書を調べ、蚊対策のためにグッピーを送ってほしいという記述を2つ見つけた。(参考記事:「蚊は叩こうとした人を覚えて避ける、はじめて判明」)
「グッピーはナタールから持ち込まれた可能性が高いと思いました」とバーベル・フィルホ氏は言う。
米ミシガン大学の進化生物学者アンドレア・トマス氏は今回の研究には参加していないが、「歴史文献が示唆している通り、第二次大戦中に持ち込まれたのだとしたら、さらに調査し、裏づけを取らなければなりません」と指摘する。「とはいえ、私も論文と同じ意見で、人間によって持ち込まれた可能性が高いと考えています」
レズニック氏によれば、グッピーは蚊の発生を抑制する手段として、80カ国以上に持ち込まれているという。蚊の幼虫を食べてくれるという理由で、しばしば貯水池に放たれ、水族館で利用されることもある。
「ただし、蚊の抑制にどれくらい役立つかはわかりません」。レズニック氏も自身の研究室でグッピーを飼っているが、いまだに蚊を見かけるそうだ。(参考記事:「【動画】なぜ逃げられる? 蚊が飛ぶ瞬間の謎を解明」)
バーベル・フィルホ氏は今後もグッピーの研究を続ける予定だ。試料を増やし、遺伝情報の解析を進め、どのように海を渡ったかという謎のさらなる手がかりを見つけたいと考えている。