田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
佐川宣寿(のぶひさ)前国税庁長官への証人喚問が行われた後の世論調査が徐々に判明している。安倍晋三内閣の支持率をみると、共同通信では支持が42・4%(3・7ポイント増)、不支持は47・5%(0・7ポイント減)だった。また読売新聞では同じく支持率は42%(6ポイント減)、不支持は50%(8ポイント増%)である。
共同は支持率が増加しているものの、読売は大幅に減少した。また2社の調査ともに不支持率が支持率をかなり上回っている。他のマスコミ各社の世論調査も順次明らかになってくるが、私見ではかなり厳しい数字が出てもおかしくはないと思っている。
今の世論調査に大きな影響を及ぼしているのは、テレビや新聞などの旧来型のメディアだろう。一方、ネットで内閣支持率調査が行われると圧倒的に支持が不支持を上回るが、いわゆる「ネット世論」はかなり限定されたものと捉(とら)えた方がいいかもしれない。ただ「世論」で正しい政策評価や、また事実の解明が判断されるとは必ずしも言えないのは当然のことである。
世論調査が「真実」を表すものではないことは、常識的には自明なのだが、一部の識者の中には「私は世論を信じます」という人もいるようだ。だが、本当にそれでいいのだろうか。
マスコミでは、景気の実感についてもしばしばアンケートを採っている。1年前と比べて現在の暮らし向きは良くなったのかどうかなどを聴くものだ。マスコミの調査では景気の実感を抱いていない人が圧倒多数のようである。
例えば、朝日新聞が昨年11月に景気の実感を聞いたところ、「変化がない」など8割以上の人は、景気が良くなっている実感がなかった。では、この世論調査を信じて、現在の経済状況や経済政策を判断していいのだろうか。
答えはノーだろう。調査の「実感」について、日本銀行の原田泰政策委員が面白い解説をしている。内閣府の世論調査を分析してみると、10%以上の経済成長率を成し遂げていた高度成長期を除いて、ほとんどの人は景気が良くなった実感を抱いていないのである。1年前に比べて、景気がよくなったと感じる割合は5%程度で安定している。それは、バブル期でも、バブル崩壊後の長期停滞期でも、今日でも変わらない。
この数字は先のマスコミの調査とも符合する。そこで、原田氏は1年前から景気が「向上している」から「低下している」を引いた指標を作り直した。それでみると安倍政権がバブル崩壊以降、最も良好な数字になっていることが分かると指摘している。
筆者もある講演会で、会場の人に景気実感を聞いたら、1年で給料が倍ぐらいにならないと実感できない、との回答を得た。そんなことは現実的ではないだろう。日本の雇用制度がそれなりに機能するのは、年収が3~4%程度ベースアップすることによってである(参照:田中秀臣『日本型サラリーマンは復活する』NHK出版)。