現代につながる日本のカルチャーが勃興した1980年代。想像以上に多くのアニメが世に送り出されていたのは、ご存じだろうか。
OVA(オリジナルビデオアニメ)と呼ばれる、セルとレンタルのみで発表される作品群がそれだ。ちなみに、一時はOVAとOAV(オリジナルアニメビデオ)という呼称が混在。アニメ雑誌ごとに表記が違ったりして「どちらが、正しい」なんてネタの記事もあったが、いつの間にかOVAに統一された。
しかし、山のように生み出されたOVAは、今では観賞できる機会も少ない。そんな名作から迷作までがあふれるOVAをさまざまな角度から捉えたのが、出版ワークスから発売中の『オリジナルビデオアニメ(OVA)80’S: テープがヘッドに絡む前に』だ。
これは、歴史の片隅で忘れ去られようとしているOVA作品の数々を、おそらくは初めて網羅し、一作ごとに解説した画期的な書籍である。
この本の意義や、OVA作品群の価値は、どこにあるのだろうか。
「こうした本に掲載することによって、こんなによい作品が、観賞することができないという問題を提起したいと思ったんです」
そんな熱い言葉を述べるのは、執筆者の一人である東北芸術工科大学基盤教育センター教授の吉田正高氏である。
この本、既に読んだ人は気づいているだろうが多くの作品を網羅しているものの、ジャケ写などの写真資料は少ない。
「すでに権利者が不明になっている作品も多いのです。今回も当初は、掲載を考えたのですが権利者が不明のために載せにくくて……」
それを補完すべく、吉田氏は自身のTwitterで多くの作品のジャケ写を公開し、自らまとめている。
80年代オリジナルビデオアニメ(OVA)の旅 ~『ダロス』から『のりピーちゃん』まで~
https://togetter.com/li/1202416
ここのジャケ写でもわかるように、今となってはいったいどういう会社だったのかもわからない発行元も多い。つまり、それまでアニメとは無縁だった会社が製作に乗り出したのが、OVAが隆盛した理由の一つだ。
「80年代半ばに、家庭用ビデオデッキの普及に伴って、レンタル店が急増しました。それと共に、レンタルするコンテンツも必要になりました。それが、隆盛の大きな理由なんです」
ある意味では、粗製濫造。でも、その中にはいまだに、当時、OVAを見ていた人が語り継ぐ作品もある。すなわち、決して駄作ばかりではないのだ。
「その時代のメルクマールになる作品は、今でも取り上げられることがあります。けれども『なんとなく面白かった作品』は忘れられてしまいがちです。でも、そうした中には、今見直すと面白いものが多いんですよ」
上記のまとめでも写真で紹介されているが、吉田氏はレンタル落ちの中古などを必死に買い集め、誰も覚えていないような作品までも丁寧に観賞している。そんな人が「面白いものが多い」というのだから、説得力があるのは間違いない。
もともとは、歴史学を学び、コンテンツ文化史学会も立ち上げた吉田氏の口からは、こんな言葉も。
「時代がたってから評価される作品というのは、多いんです。最近は、こうしたOVAの上映会を開催する話も出ていますが、この本によって、作品の評価が上がるのではないかとも期待しています」
そんな吉田氏の興味はOVAだけにとどまらない。今後は、アダルトジャンルのアニメや、Vシネ以前のオリジナル実写作品などにも研究の対象を広げようとしている。
単なるサブカル的な珍品発掘や批評とは違う歴史的背景を伴ったオリジナルビデオの本格的な研究が、これからは進んでいくのだろうか。
(文=昼間たかし)
この取材の直後、吉田氏は急逝されました。ご冥福をお祈りいたします。