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エピローグ ~地球編~
昨日は余裕を持って23時59分20秒くらいに予約投稿したら
0時に反映されてなくて焦ったので早めの予約(ドヤァ!
「――って!!」
ガツン、という音がして、頭から火花が散った。
同時に、口から「飴玉」がこぼれだしてカツンカツン、と畳の上を転がる。
……畳?
「真希は!?」
懐かしいイグサの匂いを感じながら俺が顔を上げると、
「うー。頭うったぁ」
隣から、聞きなれた従妹の声がする。
……と、いうことは。
「も、もどった! そーま! ここ、そーまの部屋だよ!!」
どうやら俺たちは無事、二人そろって元の世界に帰ってきたようだった。
「本当に、戻ってこれたんだな……」
遠くで電車が走る音や、近所の人たちの話し声。
自転車のベルの音に、冷蔵庫のうなるようなモーター音。
向こうの世界に行くまではほとんど気付きもしなかったそんな音たちが、今はなぜか鮮明に、そして鮮烈に耳に飛び込んでくる。
とはいえ、感慨にふけってばかりもいられない。
まずは自分の状態を確認しなくては。
――とりあえず、第一関門は突破、でいいよな。
俺が想像していた中で最悪なのは、デスフラッシュを見た俺たちが、元の世界に戻る代わりに死んでしまうことだった。
人生からログアウト、なんて洒落にもならない。
次に俺が危険視していたのは、記憶を失って元の世界に戻ること。
脳も身体の一部なのだから、日本にログアウトする際に身体が全部元に戻るとすると、そういうことが起きる可能性がないとは言えなかった。
ただ、俺は五体満足で、向こうの世界での記憶も保持したままここにいる。
とりあえず、最悪の事態は回避出来たと言えるだろう。
あとは向こうの世界のものをどれだけこっちに引き継いでいるか、ということだが……。
まずは、服装。
俺と真希の服は、向こうでつけていた装備とは似ても似つかない現代的なもの。
というか、ぶっちゃけ向こうの世界に行く直前に着ていた服、そのままだった。
だが、ここまでは想定通り。
最初に向こうに行った時も、普通の服がゲームの初期装備に変わったのだから、これはむしろ当然のこと。
問題なのは、ここからだ。
俺は深呼吸をすると、手を前に突き出して、叫んだ。
「ライト!」
同時に頭の中でも光の初級魔法をオーダーしたが、何も起こらない。
「やっぱり、魔法は無理か」
魔法さえ使えれば簡単に向こうの世界と行き来出来るはずだが、そう都合のいい展開にはならないらしい。
まあ、猫耳猫の魔法の設定を考えても無難なところだろう。
このくらいで気落ちしてもいられない。
あとは……。
「そーまそーま! それよりこれ! これ試さなきゃ!」
そう言って、真希がちょっと恥ずかしそうに口の中から出したのは、直前に俺が口に放り込んだ「飴玉」。
ちなみに言うと、俺が持ち込んだ方も転移時のショックで口から飛び出したが、ちゃんと畳の上に残っている。
真希が突き出したこの「飴玉」の正体は、今までに訪れたセーブポイントに移動するアイテム『転移石』だ。
装備やアイテムは、普通にしていれば元の世界に持ち込めないだろう、というのは予想していた。
だが、口の中に入れておけばもしかして、という運任せの思いつきだったのだが、まさかうまくいくとは。
俺は感慨深くそんなことを思うが、暴走列車の真希はそんな俺の心情を斟酌したりはしない。
「じゃ、早速使ってみるね」
「え? いや、ちょ、ちょっと待っ!」
風情も余韻も何もなく、気負った様子もなく真希は無造作に転移石を掲げ、
「行くよー! いざ、ラムリックへ!!」
そして……。
「――ダメ、みたいだね」
残念ながら、この世界では転移石は使えないという事実を証明したのだった。
「え、ええと……」
転移石を持ちながら、戸惑ったように口ごもる真希に、なぜか言葉をかけられない。
肺に重しを置かれたように、胸が苦しくなる。
俺の様子を見た真希が、泣きそうな表情を浮かべた。
「ご、ごめんね。わたしが勝手に、試したりした、から。がっかりした、よね?」
「……大丈夫だよ。いつかは試さなきゃいけないものだし、俺は気落ちなんてしてないから」
そうだ。
元々、そう都合よくうまくいくなんて思ってなかった。
転移石は魔法と同じ。
設定的に魔力のある場所でしか使えないアイテムだし、それが日本で使えるかもしれないなんて、本気で信じてはいなかった。
だから、大丈夫。
大丈夫だ。
「そう? ほんとに?」
当たり前だろ、と返したかったが、なぜかその言葉は喉に引っかかって声にならなかった。
それを見た真希は、必死にも見える態度で、ポン、と自分の胸を叩いた。
「わ、わたしも、落ち着いたらうちの倉庫を見てくるから! ほら、短冊とかピコピコハンマーとかあったとこ! あそこなら、まだ何かあるかもしれないし……」
「ああ。そう、だな。頼むよ」
そう答える声には、どれだけの力が込められていただろう。
そのまま、俺の心を弱気が支配しようとした瞬間、
「――っ!?」
――不意に、リンゴと指切りをした小指が、じん、と疼いた。
「そーま?」
「……そうだ、よな」
心配そうな顔をする真希とは裏腹に、俺は自分の顔に笑みが浮かんでいくのが分かる。
遠く離れてしまった仲間に、また励まされたような気がした。
「よし!」
もう、俺の心に迷いはなかった。
ぐっと拳を握りしめて、宣言する。
「大丈夫! 簡単に、あきらめたりはしない。俺はみんなと、約束したからな!」
「そう、だよね! うん、そーまならそーいうと思ってた!」
半分空元気でそう言うと、真希もようやくほっとしたように笑う。
だが、真希の言葉はそれで終わりではなかった。
「……でも。もしも、もしもだよ。それでも向こうの世界に行く方法が見つからなかったら、どうする?」
「そう、だな。その時は……」
ちょっとだけ考えて、自分の中にもうその答えが収まっていることに気付いて、少し驚く。
「……ゲームを作る仕事でも、やってみようかな」
「ゲーム、づくり?」
きょとんとする真希に、俺は笑いながら告げる。
「まだ、思い付きだけどな。でも、俺がゲーム会社に入って、それで、どうにかして、自分でゲームの企画とか、出来るような立場になったら……」
想像、する。
今はまだ荒唐無稽な思い付きだけど、でも、もしかしたら……。
「猫耳猫の続きを、あいつらの冒険を自分の手で作ることも、出来るんじゃないか、ってさ」
そんな、照れながら口にしたその言葉に、真希は、
「……そっか」
と、少しだけ嬉しそうに、けれど少しだけ寂しそうに笑って、
「じゃあ、わたしは……」
――その時、部屋にビビビビビ、という異質な音が響いた。
「あっ!! わすれてた!」
何かと思ったら、真希が部屋の隅に飛んでいく。
見ると、俺の部屋の充電器に真希が勝手にケータイを差し込んでいたらしい。
今の音はそのメッセージ通知機能か何かだったようだ。
というか電気は生きてたんだな。
あ、料金引き落としにしてたしな。
って、そういうことではなく……。
「お、お前は、他人の家で勝手に……」
俺は説教をしようとするが、真希は「ぎゃー! すごいメールたまってる!」とかなんとか騒ぎ始めて全く聞いていない。
何ともマイペースな奴である。
「はぁ。お前はあいかわらずだなぁ」
異世界に行くなんてとんでも体験をしたのに、真希は変わらない。
まあそれは俺も同じかもしれないけど、なんて自嘲気味に思った時だった。
「――でも、ソーマは、さ。ずいぶんと、変わった、よね」
いつのまにかメールチェックを中断していた真希が、びっくりするほど近くにいた。
「そう、か?」
訊き返すと真希は俺を上目づかいに見ながら、こくりとうなずいた。
その姿になぜか動揺した俺は、微妙に視線を逸らしながら、極力何でもないように言う。
「で、でもまあ、あれだけの経験をしたからな。少しくらいは、変わってなくちゃおかしいか」
「う、うん。でも、内面、だけじゃなくってね。その、いまのソーマは、なんていうか、見る人が見たら放っておかないんじゃないかなっていうか、ええと……」
そこまで言った真希は、もうこれ以上は自分の口からは言えない、とばかりにぶんぶんと首を振ると、俺にびしっと指を突きつけた。
「と、とにかく! あとで鏡でも見ておくこと!!」
「お、おう?」
「れ、連絡たくさん来てたし、わたしはもう行くから! そーまもとにかくその……強く生きてね!」
何が気に障ったのか。
真希は慌ただしく玄関まで走ると、最後に「またね!」と言い残して外に出ていってしまった。
「ほんと、忙しない奴だなぁ」
言いながら、自分のほおをなでてみる。
「……自分じゃ、何も変わってないと思うんだけどなぁ」
もしかして、向こうの世界でレベルを上げた影響でも出ているのだろうか。
俺は半信半疑ながら、洗面所に向かって鏡に向き合う。
「ん、んー?」
ひどく不細工ではないが、特に整っているとは言えない顔立ちに、若干眠たげな眼。
無造作でぼっさぼさの髪に、それをかきわけるように顔を出した耳。
にいーと唇を釣り上げてみても、そこには大した愛嬌も感じられない。
「いつも通り、だよなぁ?」
今朝も昨日の朝も、それよりも前の朝にも鏡の前で見た、普段通りの見慣れた男の顔が、そこにあるだけだ。
強いて変わった点を探すとすれば、向こうでの激闘の経験のせいか、最近少しだけ目力が強くなった……かもしれないことくらいだろうか。
「真希の考えすぎ、だよな」
あいつが訳の分からないことを言うのはいつものことだ。
いちいち振り回されるのも馬鹿らしい。
「そうだ。こんなことをしてる場合じゃない。俺は必ず向こうの世界に戻るって、約束したんだから」
みんなは、別れの瞬間にだって、最後まで全員が笑顔で見送ってくれた。
その気持ちを裏切る訳にはいかない。
転移石が駄目だったのは残念だが、それでやれることがなくなった訳じゃない。
たとえ何年、何十年がかかったとしても、絶対にもう一度、向こうの世界に、みんなのいる場所に、辿り着いてみせる!
そう決意を新たにし、立ち去ろうとした時、ふと、鏡に映った自分の顔が目に入った。
その顔は、なぜだか少しだけ、いつもの自分より大人びているようにも見えた。
「なんて、な。さ、まずは……」
俺は雑念を振り切るように首を振ると、いつものように髪からぴょこんと飛び出した猫の耳をかきながら、自室に戻ったのだった。
非実在青少年ソーマ!
次回はついに最終回
明日更新予定です
が、ここで皆様に重要な宣伝があります!
きたる4月5日に書籍版猫耳猫の最終九巻が発売されます
つまり……
どうにかして早売りをゲット出来れば、一足早く最終回が読める
可能性はゼロではない……ということ!
みんな、今すぐ書店へ急げ!(急がなくていいです)
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