王国戦士長アインズ様   作:さわ

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御前試合最終日1

リ・エスティーゼ王国で10年に1度行われる王国最強の戦士を決める武闘大会。

最終日に残った4人で行われる準決勝、決勝の3試合にはリ・エスティーゼ王国の王も見に来る御前試合で有り、我こそは最強と謳う戦士たちが王都リ・エスティーゼに集結していた。

 

優勝者には王国最強の称号と多額の金銭が与えられ、そして試合を見た王族、貴族に召し抱えられるチャンスも有る事からリ・エスティーゼ王国内の王族、貴族は自身の兵が王国最強の兵で有る事をアピールする為。または優秀な兵をスカウトする為。リ・エスティーゼ王国外の来賓は義理の為。敵情視察の為。強者引き抜きの為。平民は剣1本で成り上がる為。王国内外から様々な人が集まって来た。

 

リ・エスティーゼ王国内外の王族、貴族が集まる最終日。例年で有れば強者の試合を見て盛り上がり騒がしいはずの会場がキィンッと金属どうしがぶつかり合う音以外は何も聞こえず、異様な静けさを持ち…皆一様に試合会場を見つめていた。

 

御前試合最終日。第1試合。試合会場に立つのは2人の男。

 

1人は青っぽい髪色に整えていない短髪。軽鎧すら着けておらず、体つきはほっそりとしているが痩せているのではない。肉食獣を思わせる鋼鉄の如く引き締まった肉体を持ち、御前試合歴代でも1・2を争うで有ろう強者の風格を持ちリ・エスティーゼ王国では珍しい南方の国で使われていると聞く刀を持つ男。

「ブレイン・アングラウス」

 

もう1人は漆黒の髪と瞳を持ち、2㍍を超える体躯。漆黒…いや夜色と表現するべきで有ろう素材すら見当もつかない…おそらく魔化されたロングコートでその身を纏い、その背には成人男性3人がかりでも持てないだろうと思われるグレード・ソードを背負い、左手には背に有る物と同じグレード・ソード…漆黒の刀身には奇っ怪な文字?おそらくドワーフが使うといわれるルーン文字か?を細い木の枝を持つかの如く軽やかに持つ、しかし…纏う気配は希薄で有り御前試合の会場の中心に居ながら意識しなければ見落としかねない全てが歪な男。

「アインズ・ウール・ゴウン」

 

第1試合が開始してから5分強の時間が経過したが試合は攻守が固定され一方的に行われている………

 

攻めるは「ブレイン・アングラウス」

初撃の鞘に収めた状態からの神速の一刀やその後に繰り出された一振りにしか見えない4連撃。目にも留まらぬ怒濤の攻撃を繰り返し続けているが………その表情は追い詰められ、まるで迷子の幼子を思わせる悲壮感すら漂わせている。

 

守るは「アインズ・ウール・ゴウン」

左手に持つグレードソードを気怠げに肩に乗せながらブレイン・アングラウスが繰り出す神速の斬撃を右手の小指に着けたファランジリングだけで全て弾き返している。その表情は飽きてきたのか欠伸をしながら会場の王族、貴族を見渡している。強さを見せつけるでもなくまるで暇潰しの材料を探しているかの様だ。既に相対するブレイン・アングラウスを見る必要すらないのだろう。

 

「…で?武技はいつ使ってくれるのかね?」

 

ずっと防御に徹していた…いや、目の前に飛ぶ羽虫を払っていた様にしか見えないアインズ・ウール・ゴウンは欠伸をした事によりうっすらと涙が浮かぶ瞳をブレイン・アングラウスへと移し、幼子の癇癪に付き合った父親のごとき諦念を持ち低い声でそう語りかけた。

 

「武技を使っていないか………そうか…そう見えたかよ…」

 

掠れる声でそう呟くブレイン・アングラウスは目の前に立つアインズ・ウール・ゴウンを絶望に濡れた瞳で見上げ、崩れ落ちる様にその場に膝をついた。

 

「ん?既に武技を使っていたのか?すまないな…気が付かなくて。私の計れる強さの物差しは1㍍単位。1㍉と3㍉の違いはよくわからんのだよ。良ければもう一度見せてはくれないかね?」

 

ブレイン・アングラウスの前に立つアインズ・ウール・ゴウンは本当にすまなさそうに見える態度で無防備に頭を下げた。

膝をついてるとはいえ刀を手にした試合相手に一切の警戒をしていない態度だがそれを油断や慢心だと思う者は会場に1人としていない。

事実としてブレイン・アングラウスが何をしようがアインズ・ウール・ゴウンには一切の危害を加える事は出来ないと皆が…そして一番ブレイン・アングラウス自身が理解しているからだ。

 

「俺は馬鹿だ……頼む…殺してくれ…………」

 

ブレイン・アングラウスはこぼれ落ちる涙を拭う事もせず、遂には刀を地面に落とし両手を地に着け…只々泣き続けた。

 

「…………………そっ…そこまでっ!勝負有り!」

審判の声が静かな会場に響き渡る。御前試合最終日。第1試合は一刀も振るう事無くアインズ・ウール・ゴウンの勝利で終わった。

一刀も振るう事無く勝負がつくなど前代未聞の出来事で有るが、会場の誰もが審判の決定に異論を述べない。

それも当然の事で有ろう。この会場の…いや、全世界の人間種の中に同じ事が出来る存在が何処にいると言うのだ。

 

「…死にたいのか?なら…………ん?試合終了か。そうか…残念だな…」

 

そうぼそりと呟きアインズ・ウール・ゴウンは只々泣き続けるブレイン・アングラウスの元に近づき耳元で何か…1言2言囁き試合会場から去って行った。

ブレイン・アングラウスは泣き続けながらも何かを囁かれてからは顔を上げアインズ・ウール・ゴウンの去り行く背をじっと見つめていた。

 

試合が終わってからも会場には拍手も歓声も無く静寂だけがそこにはあった。

 

 

 

 

 

☆ブレイン・アングラウス

 

ブレインは自身が剣の天才で有る事を自覚しそれを疑わず生きてきた。

幼い頃に剣を持った時から村の大人相手であっても負けは無くたまに村に立ち寄る冒険者が相手でもかすり傷一つ負わずに勝利を得てきた。

村にたまに現れる野犬やゴブリン相手にも手こずった事は無く狭い村での生活では自身の才能は活かせないと思い剣一振りを持ち村を飛び出した。

村を出てからもブレインの常勝の道は続いた。

カッツェ平野の異形種や竜王国のビーストマンが相手でも常勝は変わらず戦場であってもかすり傷以上は受けないという天才ぶりを周りに見せつけた。

 

しかし…そんな彼の人生に突如転機が訪れた。

リ・エスティーゼ王国内の貴族同士の小競り合いに傭兵として雇われたブレインは信じられない自体に直面した。

 

敗北……………

 

剣を持って以来…いや生まれて初めての敗北である。

彼を破った男の名はガゼフ・ストロノーフ。無敗の傭兵としてブレインと双璧を連ねると言われていた男である。

戦場で相対した2人はお互いに「死」を覚悟した。

結果としてはガゼフ・ストロノーフの武技四光連斬によりブレインの剣は砕け自身も重症を負い命を落とすかと思われたがガゼフ・ストロノーフは止めを刺さずその場を去った。

自身と互角にやりあえる戦士をここで殺すのは惜しいと思ったのか只哀れんだだけなのかはガゼフ・ストロノーフにしかわからないがブレインは命を失う事はなかった。

同国内の小競り合いが長く続く訳も無く王の仲裁により戦争自体も両者の戦い後程なくして終わった。

 

貴族同士のつまらない小競り合いが終わり体の傷が癒えたブレインであったが「敗北」の2文字が自身の培ってきた全てを破壊し、己は井の中の蛙でしかなかったのだと打ちのめされ1ヶ月以上もの間只々自らの世界に籠った。

だがブレインは常人で有れば自ら命を絶つ程の絶望感に苛まれながらもそれを踏み砕いて立ち上がる。

ブレインは生まれて初めて力を求めた。

 

武術を求め体を鍛える。

魔法を求め知識を高める。

マジックアイテムを求め更なる力を得る。

天才が秀才の努力をする。

 

敗北がブレインを1つ上の存在へと持ち上げた。

求める物はただ1つ

かつての敗北を勝利で塗り替える事。

 

新な武器である刀を手にし、数多の実戦の中で己を磨き続けガゼフ・ストロノーフ以上の力を得たと確信したブレインの耳に一つの噂が聞こえてきた。

 

「ガゼフ・ストロノーフが御前試合に出場する為王都リ・エスティーゼに向かった」と

 

やはり自分は剣の神に愛されている。普段は神を信じないブレインだが王国中いや近隣諸国全てが注目する最高の舞台で宿敵ガゼフ・ストロノーフを倒せるチャンスが巡ってきた事を柄にもなく神に感謝した。

ブレインも急ぎ王都リ・エスティーゼに向かい御前試合に出場し予選、本選共に危なげ無く勝ち進み、残るは最終日準決勝とガゼフ・ストロノーフと当たる決勝のみとなった。

 

(今日ガゼフ・ストロノーフに勝ち、俺が最強である事を証明してみせる!)

 

自分の名前が呼ばれ準決勝の会場に向かうブレインはガゼフ・ストロノーフと戦う前のウォーミングアップのつもりで会場へと足を進める。

ウォーミングアップのつもりであってもブレインに一切の油断はない。

相手は準決勝に進むまで自分と同じく全て1撃で勝ち進んで来た男。

名前は確か…アインズ・ウール・ゴウンだったか…。

ガゼフ・ストロノーフの試合しか見ていない為どのような戦い方をするかはわからないが雑魚ではないだろう。

名前からしておそらくはスレイン法国の出身か?

 

(対戦相手に恵まれただけか…それともガゼフ並みの強さを持っているのか…強ければ良いんだがな)

 

ブレインは不敵に笑う。

 

ベルトポーチから複数のポーションを取り出し呷る。筋肉が肥大し俊敏性が上昇する。マジックアイテムのネックレスと指輪を起動させる。目が魔法的に保護され防御力が上昇する。刀にオイルを垂らし一時的な魔化を施す。

一度敗北を知ったブレインに一切の油断はない。後で使って置けば良かったと後悔してもしょうがないのだ。

必勝の体制が整い不敵な笑みから獰猛な笑みに変わったブレインは試合会場の中央アインズ・ウール・ゴウンの前へと立った。

ブレインは目の前に立つ男アインズ・ウール・ゴウンを観察し僅かに眉をひそめる。

強者の気配がまるで無くまるで其処らの一般人の様にすら見える。

だが、身に付けている武具は一流の…いや、それ以上の物だろう。

 

(日常的に気配を殺す様な事を生業にしているのか…いや認識阻害系の魔法…もしくはマジックアイテムの類いだな…厄介な相手だ。)

 

ブレインはアインズ・ウール・ゴウンに対する警戒を数段引き上げる。

純粋な戦士では無いこの手のタイプは勝つ為に手段を選ばないだろう。

ブレインは過去にやり合った冒険者との幾多の戦いを頭に浮かべる。

奴等は目潰し、毒、暗器、罠、幻覚、勝つ為なら何だってやってくる。

だがブレインはそれが卑怯な事だとは思わない。

自分だって必要と有らば何だってやるだろう。

現に自分もポーションやマジックアイテムでの強化をしている。

刀以外の武器を使わないのは戦士としての誇りなんてつまらない理由では無くそんな搦め手を使わなくとも刀一振りで勝てる絶対の自信が有るからだ。

ブレインが警戒心を上げ更なる観察を続けていた所アインズ・ウール・ゴウンが突然話かけて来た。

 

「え~と…何て言ったかな?君。少し聞きたい事が有るんだか良いかね?」

 

ブレインはこれから戦う相手の名前も覚えていないアインズ・ウール・ゴウンに一瞬怒りを覚えたが直ぐに相手の狙いに気付き冷静さを取り戻す。

勝つ為なら手段を選ばないとは戦いの最中だけの話ではない。

戦う前に話かけ自分を苛つかせ冷静さを奪う戦略だろう。

 

「俺はブレイン・アングラウスだ。かまわないぞ。そっちは何て名前だったか?」

 

アインズ・ウール・ゴウンに舌戦の搦め手等通用しないだろうがちょっとした意趣返しを込めそう答える。

 

「ブレイン・アングラウス君かすまないな。私はアインズ・ウール・ゴウンだ。それで質問なのだが、アングラウス君は武技は使えるのかね?」

 

(武技も使えない奴が御前試合最終日まで残る訳も無いだろうが!いや、質問自体が冷静さを奪う戦略って事か。無駄な事を…)

 

「はっ!お前ごときに使うわけ無いだろうが。お前が武技を使わなきゃ勝てない程の強者なら見れるだろうよ。それで…何時までお喋りを続けさせる気だ?審判。もう始めて良いんだろ?」

 

話を切り上げたブレインは息を細く長く吐きながら腰を落とし鞘に入った刀に手を添える。

抜刀の構えだ。

ブレインがガゼフ・ストロノーフに敗れ極限の努力の末編み出したオリジナル武技領域と神閃この2つの武技を併用した不可避かつ必殺の一撃。

 

秘剣「虎落笛」

 

武技を使わない何てもちろん嘘だ。そんなに見たいのなら初っぱなから見せてやろう。見えたらの話だがな…

 

「ほぅ…居合いか…懐かしいな。審判。開始の合図を頼む。」

 

「あっ…はい。両者!王の御前で有る。悔い無き様全力で戦え!始め!」

 

審判の合図があったがブレインはピクリとも動かず抜刀の構えのままだ。虎落笛は領域内に相手が入ってから発動する技で有るから当たり前だともいえるがアインズ・ウール・ゴウンが居合いを知っていた事に僅かな動揺を覚えた事も無関係では無い。

 

(なるほど…黒い髪に黒い目。刀と居合いは南方の武器と武術だ。知っていても不思議じゃ無い。だが…俺の虎落笛は知っていたからってどうにかなる技じゃ無いがな。)

 

ブレインは僅かな動揺を一瞬の思考で抑えた。

自身のこれまでの努力と力に対する絶対的な自信があっての行為で有ろう。

 

「そろそろ準備は出来たかね?」

 

まるでブレインの動揺が治まるのを待っていたかの様にアインズ・ウール・ゴウンは問い掛ける。

ブレインは無言を貫く。

虎落笛を使えば一瞬で勝負はつくのだ。

よく回る頭と口だが首を落とせば二度と回る事も無い。

 

(一瞬で屠る!)

 

「返事が無いのは肯定と取る…何てのは陳腐な言葉だと思うが…まぁ良い。では、行くとしよう」

 

アインズ・ウール・ゴウンはゆっくりと左手でグレード・ソード抜き散歩をするかの如く無防備な足取りでブレインに近付く。

ブレインは無表情で嘲る。

アインズ・ウール・ゴウンは自身が断頭台の階段を歩いている事を理解すらしていないのだろう。

 

後……3歩……2歩……

 

……1歩……

 

(…その首、貰ったっ)

 

ブレインは貯めていた全ての力を吐き出す様に鞘から刀を抜………………………っ!

 

(馬鹿なっ!)

 

心で悪態を付いても結果は変わらない。

ブレインは領域による特殊な知覚能力により全てを知覚し理解していた…してしまった。

ブレインがいくら力を込めても鞘から刀が抜けない…当然で有る。

刀の柄頭をアインズ・ウール・ゴウンが足で蹴り込んでいる為だ。

 

(南方の出身で居合いを知ってるって事を甘く見すぎていたかっ!こんな破り方があった何て!)

 

頭では理解出来る…だが…未だに信じられない!

ブレインの神閃は1度放たれたら知覚不能なまでの速度を誇り領域は抜刀術の間合い半径3㍍内全てを把握する(つーか、これが限界)

つまりアインズ・ウール・ゴウンは領域のエリアを看破し領域内に入った瞬間ブレインの抜刀を上回る速度で蹴りを放ち神閃を初動で潰したのだ。

それはアインズ・ウール・ゴウンがブレインより技術、身体能力、知識全てにおいて上回る事を意味する。

ブレインは追撃を恐れ後ろに退こうとした所アインズ・ウール・ゴウンが追撃もせず後ろに大きく跳んだ。

それはアインズ・ウール・ゴウンが元いた位置。

おそらくは1㍉の狂いもないだろう。

 

「これで合格かな?それで…武技は使ってくれるのかね?」

 

圧倒的上からの見下したセリフにブレインの脳裏は焼け付く様な熱さを持つ。

何処まで自分を馬鹿にすれば気がすむのだ!と

しかし自分を仕留める最大のチャンスを捨て強者の驕りを見せるアインズ・ウール・ゴウンに対しブレインの冷静な部分が焦りと動揺を押し殺し高速で思考する。

 

(どうする?どうすれば良い?虎落笛は駄目だ。さっきと同じ結果になる。いや…奴は強者の驕り故に俺が再度虎落笛を出したら前回同様完璧に破り俺の心を折りに来る。ならば虎落笛を捨て技にアレで仕留める!)

 

ブレインは対ガゼフ・ストロノーフを想定し様々な訓練を行って来た。

領域と神閃を会得し虎落笛を生み出してからもガゼフ・ストロノーフならそれすら破りかねないと更なる訓練を行い前回自分を破った技四光連斬をもパクっ………会得する事に成功した。

ブレインは鞘に入った刀に手をやりまた抜刀の構えを取る。

強者の驕りを突き領域外からの虎落笛を捨て技に四光連斬にてアインズ・ウール・ゴウンを絶つ!

 

「そろそろ準備は出来たかね?」

 

アインズ・ウール・ゴウンは先ほどと同じ位置から先ほどと同じ台詞を吐く。

ブレインもまた先ほどと同じ様に無言を貫く。

 

「では、行くとしよう」

 

アインズ・ウール・ゴウンはまたもや無防備な歩みでブレインに近付く。

アインズ・ウール・ゴウンが近付く事に僅かな恐怖を感じてしまった己の心を叱咤する。

ほんの少しで有っても躊躇いを持ったまま勝てる様な甘い相手ではない。

 

後……3歩……2歩……

 

(今だっ!)

 

ブレインは領域の間合い外から虎落笛を放つ。

力を込めず速度だけを重視し次撃四光連斬に繋げる為の牽制の1撃だが切っ先はアインズ・ウール・ゴウンに僅かに届きうる。

この距離ならば抜刀の初動を押さえる事は不可能!

神閃が発動さえすればアインズ・ウール・ゴウンと云えど知覚する事は出来ないだろう。

いや…アインズ・ウール・ゴウンならば知覚出来ずとも刀の間合いを見切り避ける事も考えられる。

だが、それでも良い。

体勢が崩れ一瞬の隙さえ出来れば四光連斬が発動出来る。

 

(そうすれば俺の勝ちだっ!)

 

ブレインの刀は何の感触も無いまま振り切られた。

ブレインが予想したどうりアインズ・ウール・ゴウンは上体を反らし切っ先を避けている。

アインズ・ウール・ゴウンは前に歩みを進めていた中、突如上体を反らした為、僅かに重心が後方に傾いている。

 

(計画道りっ)

 

刀を振り切った状態のブレインと重心が後方に傾いたアインズ・ウール・ゴウン。

一見すればブレインの方が不利な状態だが、次撃を見越し力を抜いた状態で振り切ったブレインと予測しない間合いからの攻撃に上体を反らされたアインズ・ウール・ゴウンでは立て直しに刹那の差が発生する。

その刹那の時間こそブレインが欲した僅かな隙四光連斬を放ちアインズ・ウール・ゴウンを屠る最大の好機。

 

(行けるっ!殺ったっ!)

 

放たれた四光連斬は刹那の隙を突かれたアインズ・ウール・ゴウンに向かって致命の威力を持ち……………

 

………キィンッと高い音が鳴り…ブレインの手から刀が弾き飛ばされた…

 

何が起こったのかまるで理解出来ない。

今、領域で知覚している事は右手の小指を立て腕を上げているアインズ・ウール・ゴウンと上から落ちて来て地面に刺さった刀の存在だ。

 

あり得ない…しかし…それしか考えられない…

 

ブレインの手から刀が弾き飛ばされたのはアインズ・ウール・ゴウンが右手小指に着けたファランジリングで四光連斬を弾き、その衝撃に耐えきれなかった為だ。

しかし…ブレインが四光連斬を放った時アインズ・ウール・ゴウンの体全てが領域内にあった。

つまりアインズ・ウール・ゴウンはブレインの領域内でブレインに知覚出来ない速度で右手を振るい四光連斬を弾き飛ばしたという事だ。

 

「拾って、どうぞ」

 

もう飽きたと言わんばかりの態度でアインズ・ウール・ゴウンは何処か気怠げにそう呟くと後方に跳び元いた位置に戻る。

ブレインは荒い息で呼吸を繰り返す。

冷たい汗が全身から吹き出て、吐き気に襲われ視界がぐらぐらと揺れる。

 

「そろそろ準備は出来たかね?」

 

三度目の台詞にブレインは圧倒的な絶望を感じた。

アインズ・ウール・ゴウンの台詞にブレインはまたもや沈黙で返したが先2回の沈黙とは意味が違う。

次は「では、行くとしよう」と声がかかるのだろう…聞きたく無いっ!今すぐに逃げ出したいっ!

ブレインは地面に刺さったままの刀に手をかけてはいるが戦闘準備を始める為では無く震える膝が地面に着かぬ様支えにしている状態だ。

観察の為では無く恐怖故アインズ・ウール・ゴウンから目を離せないブレインに僅かなため息と共にアインズ・ウール・ゴウンは語りかける。

 

「ふぅ…もうわかっただろう。武技も使わず勝てる相手ではない事は。しばらく私は此処から動かない。攻撃もしないし好きに打たせてやるから……遠慮せずに頼むぞ」

 

ブレインは天才だった…だが努力する天才ガゼフ・ストロノーフに敗北した。

その敗北でブレインは努力を知り自身を1つ上の存在へと昇華させた。

だがブレインの才能も努力も目の前の男…いや、化け物の小指1本分の価値も無かったのだ。

ブレインの思考が焼き切れ目の前が真っ赤に染まる。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

地面に刺さった刀を抜き怒号と共にアインズ・ウール・ゴウンに切り掛かる。

思考は焼き切れても何万回と刀を振り続け体に染み付いた技術はブレインを裏切らない。

最高のタイミングでの必殺の一撃!…だが予想どうり「キィンッ」と硬質な音と共に無造作に振るわれた遊戯以下の動作でアインズ・ウール・ゴウンの小指に弾かれる。

アインズ・ウール・ゴウンは宣言どうり攻撃する意思が無いのかグレード・ソードを左肩に乗せ、ブレインを視界に入れる事も無く観客席を見渡しながら欠伸をしている。

それでもだっ!

それでもブレインの攻撃は弾かれ続ける。

 

右手の小指1本で…

 

ブレインは悲鳴を上げながらありとあらゆる角度からありとあらゆる場所へと攻撃を放つが全て小指1本で弾かれる。

まるで刀が意思を持ちファランジリングへと誘い込まれているかの様に。

ブレインの攻撃を防ぎ…いや目の前の羽虫を払う程度の作業を続けているアインズ・ウール・ゴウンはブレインに視線を戻し諦念を感じさせる表情で語りかける。

 

「…で?武技はいつ使ってくれるのかね?」

 

その台詞に刀を振るう手が止まる。

今この瞬間ブレインは完全に理解した。

本物の絶対強者!才能が有っても、努力しても足元にも届かない領域の存在!

しかも、そんな物語にしか出てこない筈の馬鹿げた存在が強さに胡座をかく事も驕る事も無く弱者から武技を学び取ろうとしている。

 

「武技を使っていないか………そうか…そう見えたかよ…」

 

勝てる訳が無い。

ブレインがしていた努力は絶対強者のアインズ・ウール・ゴウンからすれば何もしていなかったのと同じなのだから。

心が折れたのを自覚する…全身から力が抜け……崩れ落ちる様にその場に膝を付く………

 

「ん?既に武技を使っていたのか?すまないな…気が付かなくて。私の計れる強さの物差しは1㍍単位。1㍉と3㍉の違いはよくわからんのだよ。良ければもう一度見せてはくれないかね?」

 

アインズ・ウール・ゴウンは本当にすまなさそうに見える態度で無防備に頭を下げた。

アインズ・ウール・ゴウンは本当にブレインが持つ武技が知りたいだけなのだろう…それが更にブレインの折れた心を粉々にする。

 

「俺は馬鹿だ……頼む…殺してくれ…………」

 

知りたく無かった…才能なんていらない…努力なんてするんじゃ無かった…ストロノーフに敗れた時死ぬべきだった…いや、そもそも剣を持つべきじゃ無かったんだ…俺程度の男は小さな村で何も知らずにただ毎日を懸命に生きて死ぬべきだった…

ブレインはこぼれ落ちる涙を拭う事もせず刀を地面に落とし両手を地に着け…只々泣き続けた。

 

「…………………そっ…そこまでっ!勝負有り!」

 

審判の試合終了の声が聞こえた。

せめて…アインズ・ウール・ゴウンに殺されたいと願ったがそれすら叶わない。

こんな絶望を抱えながらこれから先、生き続けられる程自分は強くない。

その辺のスラムの片隅で自ら命を断とう…

ただ…その前にガゼフ・ストロノーフの顔が一目見たい…何故かそう思った。

 

「…死にたいのか?なら…………ん?試合終了か。そうか…残念だな…」

 

アインズ・ウール・ゴウンがぼそりと呟きブレインの方へと近付いて来る。

ゆっくりと膝を付きブレインの耳元に顔を近付けブレインにしか聞こえない程小さな声で囁いた。

 

「(私の役にたつのならそれに見合う報酬をくれてやろう。働き次第では苦痛無き死でも人間を超える力でも永遠の命でもな。この後私の控室迄来い)」

 

囁かれた言葉が頭の中で反響する。

意味が理解出来、バッと頭を上げるがアインズ・ウール・ゴウンは既に立ち去り小さくなっていく背中しか見えない。

 

(悪魔は人間の魂を対価にどんな願いでも叶えると聞いた事がある…アインズ・ウール・ゴウンの正体は悪魔かっ!)

 

普通の人間ならあれ程の力を持つ悪魔が人間の中に溶け込んでいる事に恐怖を覚えただろうがブレインは心底ほっとした。

あれ程の絶対強者が自分と同じ人間で有ってたまるかっ!との気持ちからだ。

 

(もう捨てるつもりの命だ。悪魔の取引に乗って死ぬのも悪く無い。)

 

ブレインは知りたく無かった絶対強者の存在を知ってしまい今なお絶望の中にいるが、今自分がいる所が底でこれ以上は落ちないとある種開き直りを持ってアインズ・ウール・ゴウンの控室に歩を進めた。

 

 

 

 

 

☆ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス

 

リ・エスティーゼ王国王の席から程近い来賓室でバハルス帝国皇帝ジルクニフと帝国四騎士、主席秘書官、主席宮廷魔法使い、近衛隊長の8人が食い入る様に最終日第1試合を見ていた。

審判が手を上げその後東側に大きく手を振り下ろしている。

此処からでは声は聞こえないが試合終了を宣言したのだろう。

試合が終了しアインズ・ウール・ゴウンが会場から立ち去ったと同時に帝国四騎士、雷光「バジウッド・ペシュメル」がふぅ~と大げさため息をついた。

他の6人も大げさなため息は無いものの知らずに力が入っていた体を弛緩させている。

自分だって部下の前でなければ大きなため息をつきソファーで横になりたい気分だ。

 

「それで、どう見えた?」

 

ジルクニフは漠然とした問い掛けを7人に向かって放つ。

アインズ・ウール・ゴウンが強い事は試合を見れば子供でもわかる事だが、その強さがこれからの帝国にどの様に影響するのか?今秋から仕掛ける予定である王国の力を削ぐ為の戦争に支障は無いのか?アインズ・ウール・ゴウンに対し帝国はどの様な態度に出るべきか?様々な意味合いを込めた問い掛けだ。

ジルクニフは優れた皇帝で有る自負を持つが戦いについては素人だ。

だが、それで良い。

出来ない事は優れた部下に任せれば良いのだから。

 

「あーと、陛下先ずはアングラウスの方からで良いですか?」

 

バジウッドの言葉にジルクニフは僅かに眉を潜める。

しかしバジウッドが問い掛けの意味も理解出来ない様な男では無いと直ぐに思い直し軽く手を上げて質問を促す。

 

「じゃあアングラウスの方ですが…四騎士と互角の力を持ってますね。負けはしないでしょうが、勝つのは難しいです。」

 

ジルクニフはバジウッドの言葉に驚愕したが平静を装う。

バジウッドと互角の力を持つブレイン・アングラウスを子供扱いするアインズ・ウール・ゴウンは一体どれ程の強者なのか。

態度に出さなかった自分を褒めてやりたいくらいだ。

バジウッドが先ずはブレイン・アングラウスの方と言った理由も理解した。

自分を物差しにする為だったのかと感心する。

 

「アングラウスでバジウッドと互角ならゴウンは見当がつけられんな」

 

アインズ・ウール・ゴウンは終始ブレイン・アングラウスを子供扱いで強さの底を見せていない。

四騎士全員なら抑えられるか?いや…甘い予想は立てるべきじゃ無い。ならば………

思考の海に漂おうとしていた所バジウッドから否定の声がかかる。

 

「いえ。陛下違います。俺と互角じゃ無く四騎士全員でやり合って互角ですね」

 

「はぁっ!なんだ!それは!間違いないのか?」

 

バジウッドの言葉にジルクニフは驚愕を隠せず大きな声で聞き返す。

見立てが間違っているのだろう。との期待を込めバジウッドと同じ四騎士で有る重爆「レイナース・ロックブルズ」に視線を送り確認を取る。

レイナースはジルクニフの視線を受け首を横に振りながらバジウッドの言葉を肯定する。

 

「間違いありませんわ。陛下。私は4・6で四騎士不利だと見ましたわ。ゴウンの方は…強いのは間違いないのでしょうが……強くない様に見え…わからないとしか答えられませんわ。」

 

レイナースに甘い見立ては存在し無い。

いざとなれば自分を優先すると広言しその契約で四騎士にスカウトしたのだ。

勝てないと判断したら逃げる、見立てが甘くて死にましたなんて間抜けは絶対にやる女ではないとジルクニフはある種の信頼を持っている。

 

「アングラウスの強さについてはわかった。だがアングラウスを子供扱いするゴウンの強さがわからないのは何故だ?」

 

ジルクニフの問い掛けに直ぐに反応したのは主席宮廷魔法使い「フールーダ・パラダイン」だ。

 

「ふむ。陛下。おそらくは認識阻害系の魔法。いや、マジックアイテムの可能性が高いですな。どの装備がマジックアイテムか、どれ程のマジックアイテムかは気配が朧気でわかりませんが、南方から流れてくるマジックアイテムには強力で特殊な効果の物も数多く有ります。そもそも南方には古代栄華を究めたと言われる魔法都市が有ったとされ500年前に八よ…………」

 

「まてまてっ!爺の魔法談義は帝国に帰ってからゆっくりと聞かせて貰う。それよりもだ!今はゴウンについての話を進めよう。マジックアイテムの線が濃厚か…武闘大会で強さを誇示するでも無くマジックアイテムを使って迄隠す理由はなんだ?」

 

ジルクニフはフールーダの言葉を切り話題をアインズ・ウール・ゴウンに戻す。

爺にも困ったものだ…魔法使いとしては人類最高峰の力を持つ帝国の切り札なのだが魔法の事になると饒舌になり時間を忘れる。

 

「ゴホンッ…失礼しました。陛下。理由まではわかりませぬな。」

 

フールーダは魔法以外の事に興味が薄く魔法の噛まない話題では途端に寡黙になる。

フールーダが口を閉じるのを待っていたかの様に主席秘書官の「ロウネ・ヴァミリネン」がジルクニフの問いに答える。

 

「本気で強さを隠したいなら武闘大会に出場しなければ良いのです。なのに出場した理由は何なのでしょう?金?地位?名誉?強い者と戦いたいから?それらは強さを隠す理由にはなりません。むしろ誇示すべきです。そもそも戦いを見た者はゴウンが強い事は嫌でもわかります。つまり強さ自体は隠していない。マジックアイテムを使用しているのは戦う上で気配を薄くする事にメリットが有るからかもしくは隠したいのは強さ以外の何かなのかと推測されます。」

 

ロウネの推測に激風「ニンブル・アーク・デイル・アノック」が補足を入れる。

 

「戦う上で気配を薄くする事は集団戦や暗殺なら多大な影響が有るでしょうが今回の様な1対1の戦いにおいて意識すれば分かる程度の認識阻害など意味がありません。今回の戦いでもアングラウスは一度もゴウンを見失っていませんし我々も見失っていません。対戦相手を意識しない何て事はあり得ないのですから当然です。ならば強さ以外の何かを隠したい線が濃厚なのでは?」

 

その時ジルクニフに電流走るっ!

 

「なるほど。そういう事か。ゴウンは力だけじゃ無く頭も切れる様だな。」

 

おそらく自分がこの会場の誰よりも早くアインズ・ウール・ゴウンの狙いに気が付いただろう。

準決勝以外は全て1撃終わらせたのに準決勝だけは時間をかけ相手を嬲り見ている者を不快にさせる様な行為をした事もこれで理解出来た。

だが時間が立てば他の者も狙いに気が付く…この僅かなアドバンテージを生かしアインズ・ウール・ゴウンに対する対応を決め動かなければならない。

 

「ロウネ!ゴウンを帝国に引き抜く。金、地位、名誉、女、マジックアイテム。どの餌なら満足するかはわからんがどんな要望が来ても直ぐに出せる様に対応しておけ。交渉には俺が直接出る。」

 

ジルクニフの突然の決定に皆一様に驚く。

確かにあれ程の強者で有れば自国の戦力として喉から手が出る程欲しいだろう。

だがアインズ・ウール・ゴウンの狙いがわからない状態では勧誘する行為自体が逆手になりかねない。

ならば議論を重ね、狙いを看破してから対応を決めるべきではないか?

皆が思考の渦に囚われている中ロウネがジルクニフの思考に追い付き返事をする。

 

「わかりました。陛下。しかし直ぐに出せる様にとなると帝城の宝物殿や陛下の私財まで使う事になりますが宜しいですか?地位、名誉は四騎士の上、新に筆頭騎士の役職を作るのは如何でしょう?女は婚姻により縛る事も考えますと少し時間を頂けると。後、陛下自ら交渉にとの事ですが、武闘大会が終わる迄は来賓は選手に会えないとの決まりが有ります。陛下が直接勧誘するとなると武闘大会終了後、王の祝辞が有り、その後の晩餐会でとなります。それでは後手に回る可能性が高いです。今からでも使いを出し当たりをつけておくべきです。」

 

「役職はそれで構わん。だが土地を与え貴族にする事も視野に入れろ。そうすれば貴族共が自分の娘を勝手にあてがいに来る。宝物殿及び俺の私財も使う許可を出す。会えない決まりが有るとの事だがどうせ今秋には戦争を始めるんだ。王国と揉めても構わん。無理矢理にでも俺が直接行くべきだろう。」

 

「了解しました。その様に動きます。しかしゴウンが何等かの思惑を持ち王国側に付く事も考えられます。その場合、ゴウンを離反させるまで戦争は無期限の延期をせざる逐えないでしょう。ならば王国と揉めるのは得策では無い。先ずは使いを出すのが妥当かと。」

 

ジルクニフとロウネは1秒でも惜しいと言わんばかりの態度で周りを置いてきぼりにしたまま話を進めている。

2人を除き目を白黒させている中バジウッドがジルクニフに対し質問を投げ掛ける。

 

「まっ…待って下さい。陛下。陛下はゴウンの狙いがわかったって事ですか?」

 

ジルクニフは急ぎすぎていた事に気付き軽くため息を吐き、ソファーに深く座り直し果実水を1口飲む。

確かに時間は惜しいが自国内で情報共有が出来ていない状態で動いて連携が取れずに失敗何て事態は笑えない。

自分の決定ならば部下達は正しく動いてくれるだろうが理由も説明しておくべきだろう。

 

「前提条件が間違っている。ゴウンは力を隠していない。最初から力を誇示していたんだ。見ている者を脅すと同時に自分を高く売る為にな。」

 

そう語るとジルクニフは周りを見渡す…皆一様に理解の色は浮かんでいない。

ジルクニフは自分の頭を整理する為にも見落としが無いか確認する為にも最初から話すべきだろうと判断し話を続ける。

 

「今回ゴウンが意味の無い認識阻害をしていた理由は「こうやって殺す事も容易ですよ」と実演していただけだ。あれ程の力の差が有れば一撃で終わらせる事も出来ただろうが、時間をかけアングラウスを嬲ったのは自分の能力を見せる為と残酷な事でも平気で出来るとのアピールだろう。レイ!ゴウンが帝国に付いた場合と王国に付いた場合、戦果はどうなる?常に認識阻害をしている前提でだ!」

 

バハルス帝国第8軍の将軍位に付き今回はジルクニフの近衛隊長に選ばれたレイ将軍がジルクニフの問いに答える。

 

「はい。陛下。先ずはゴウン殿が帝国に付いた場合ですが、1人遊軍としての運用が適当かと。あれ程の力を持つゴウン殿が突如として王国軍の中枢で猛威を奮い、少しでも意識を反らすと認識出来なくなる。そしてまた別の場所で猛威を奮う……ゴウン殿1人で莫大な戦果が期待出来ます。暗殺も併用するならば王、貴族、指揮官に多大な被害を与え、当初の計画では10年かけ王国の力を削ぎ落とす予定でしたが初戦でエ・ランテルを獲る事も可能かと思われます。」

 

レイ将軍の言葉に皆がジルクニフの考えを理解し目を見開く。

いくらかかってもアインズ・ウール・ゴウンを手に入れるべきだとのジルクニフの判断は正しい…その投資は直ぐにでも回収出来るだろう。

しかしジルクニフだけはレイ将軍の言葉に僅かに眉をひそめている。

 

(ゴウン「殿」か……レイめ!)

 

レイ将軍は元々自分や帝国に対する忠誠を持っていない。

力を信仰し帝国の力にすり寄っているだけだ。

アインズ・ウール・ゴウンの様な絶対強者の存在を知ったレイ将軍は帝国を裏切りアインズ・ウール・ゴウンに忠誠を誓うだろう。

 

(まぁ…それならそれで使い道も有るがな…)

 

ジルクニフは僅かな嘲笑を浮かべレイ将軍に手を振り話の続きを促す。

 

「そして、王国側にゴウン殿が付いた場合ですが…先程話した内容が帝国軍にそのまま振りかかります。王国に負ける事は無くとも無視出来ない程莫大な被害が出る事になるでしょう。そして…勝ったとしてもゴウン殿が地下に潜り帝国内で行動を起こせば発見、討伐は不可能だと考えるべきでしょう。帝国が傾く事も視野に入れる事態となりかねません。」

 

「レイ将軍」の話が終わりアインズ・ウール・ゴウンの扱いが国家存続にも繋がる最重要案件で有るとの共通認識となり皆の目が今まで以上に真剣になる。

 

「これで皆もわかっただろう?ゴウンの狙いが。ゴウンはこの試合で自身の有用性と危険性を周辺国家に示した。これを受け帝国は一丸となりゴウンを手に入れる為に動け!最悪でも友好関係は築かねばならん。ロウネ!先の進言を受ける。使いの者を出せ!どの国よりも早く交渉を行い、最高値を付け帝国がゴウンを高く評価している事を示せ!」

 

「わかりました。陛下。早速王国内に潜ませている草にゴウンとの交渉を指示します。彼らから帝国との繋がりはけして漏れません。ご安心を。」

 

ロウネが動き出す前にレイ将軍から声がかかる。

 

「お待ち下さい。陛下。ゴウン殿程の人物に対し帝国が交渉に寄越したのが地位の低い者ではゴウン殿を軽く見ているのと同義ではありませんか?陛下が行くのは問題が大きくなりすぎる為ヴァミリネン殿同様反対ですが、ここは多少の危険を冒してでも、ある程度地位の有る者が行くべきです。将軍職の私ならばゴウン殿を軽く見ている事にはならないかと。」

 

「ふむ。確かにレイ将軍の言う事も一理有りますな。しかし、レイ将軍は言ってしまえばこの8人の中では一番低い地位故に、侮られたと思われかねません。適任では無いでしょうな。陛下。交渉には私が行きましょう。魔法以外でもたまには帝国の役に立たんといけませんしな。」

 

「パラダイン様が動かれるのは帝国が動く事と同義だと王国に取られかねませんわ。私で有れば地位も問題無く王国の抗議も「男女の事」と突っぱねる事が出来ます。交渉には私が行きますわ。」

 

三者三様に自分が行くと主張し始めた3人にジルクニフは頭を抱えたくなる。

行きたい理由は違っても三者共帝国への忠誠は低く自分の利益を優先する事を躊躇わない者達だ。

ジルクニフは少し悩む素振りを見せた後レイナースに命令を下す。

 

「レイナース。ゴウンとの交渉はお前に任せる。ロウネに条件を聞いた後直ぐに行動に移れ。」

 

「わかりましたわ。陛下。では、ヴァミリネン殿。彼方で打ち合わせを行いましょう。」

 

レイナースとロウネは打ち合わせを始める為来賓室横の別室に移動していく。

扉が閉まり2人の姿が見えなくなってからバジウッドがジルクニフに問い掛けた。

 

「良いんですかい?陛下。レイナースは交渉事に向いていませんが?」

 

バジウッドはレイナースの目的を暈しながらそう問い掛ける。

それくらいジルクニフも当然理解している。

レイナースは自身の呪いを解く為の方法を南方出身であろうアインズ・ウール・ゴウンから手に入らないか?そこにしか興味が無い。

交渉の成否も帝国の命運も究極的にはどうでも良いと考える女だ。

 

「構わんよ。ゴウンが強く頭も切れる事はわかったが、あの試合だけでは性格までは今一見えん。呪いを受けた可哀想な女にどう対応するのかで少しは見えるだろう。」

 

上手く行くに越したことは無いが今回は帝国の意思さえ伝えられたらそれで良い。

そういう意味では交渉役は誰でも良くレイナースに恩を売る事に使えたのだから一石二鳥と言えるだろう。

本交渉は晩餐会後に自分が行えば良いのだから。

それまでに少しでも情報を手に入れる必要が有る。

 

「さて、敵情視察のつもりで来たが思わぬ拾い物が有ったな。全く鮮血帝と言う奴も頭が悪い。ゆっくりと改革をすれば楽が出来るものを」

 

ジルクニフは空気を入れ替える様におどけて見せる。

周りの空気が弛緩し皆緊張を解す。

 

(さて、法国や王国はどう出るかな?)

 

ジルクニフは不敵な笑みを浮かべながら深くソファーに座り直し目を閉じた。

 

 

 

 

 

☆ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ

 

(かっ…格好いい///)

 

アインズ・ウール・ゴウンとブレイン・アングラウスの試合を見ながらラキュースは頬を赤く染める。

今、ラキュースはリ・エスティーゼ王国の貴族達が集まる観客席の1つでガガーランを除く蒼の薔薇のメンバーと共に武闘大会を観戦している。

本来で有れば平民である蒼の薔薇のメンバーは最終日の観戦は出来ないがラキュースの護衛という名目で入る事が出来ていた。

観戦の目的は最終日に残った4人の内の1人がガガーランであり、その勇姿を見る為だ。

最終日第1試合の選手が入場してきた時、ラキュースの鼓動が大きく高鳴った。

其処にはただ…闇が存在した。

頭の先から爪先まで…いや、瞳や髪ですら全てが漆黒であり、手ですら漆黒の手袋を纏っている。その上から魔剣キリネイラムと同じ色である夜色のロングコートを羽織り2対のグレード・ソードも漆黒だ。

漆黒でない場所は唯一見える肌である顔と右手小指に着けている鈍色のファランジリングだけだ。

 

(彼は既に闇に飲まれてしまったのね…///)

 

いや彼の目は恐ろしく冷たく鋭いが理性の色が見える…それにあれ程の強さだ!闇に飲まれたのではなく逆に闇を飲み込んだのか!

しかし…それはどれ程の苦痛を伴うのか…そうかっ!彼は自分を殺せる存在を探し世界を巡り武闘大会に出場したのかもしれない。

あっ!今目が合った!絶対私の事見たよね!

 

(闇と闇は惹かれ合う運命なのよ…///)

 

私が彼の闇に気が付いた様に彼もまた私の中の闇に気が付いただろう。

そう…彼は今…自分を闇と共に殺せる…いや、殺してくれる存在に…私に気が付いてしまった!

 

(出逢ってはいけない2人が出逢ってしまった…運命の悪戯か…神の気紛れか…現実は常に残酷ね…///」

 

「鬼ボスの言うとおり。確かに残酷。あれはただ嬲ってるだけ。」

 

ティアの突然の言葉にびっくりする。

えっ?声に出てた?何時から?何処まで聞かれてたの?ヤバい…恥ずかしい!

ラキュースが悶絶している中、ティアとティナの会話が続く。

 

「違う。おそらくあれは躾の一環。最初に徹底して心を折り二度と逆らわない様にする為。」

 

「ならゴウンはアングラウスを手下にする気?」

 

「多分そう。それにゴウンは多分此方側の人間。気配もそれっぽいし。あっ…試合終わった。」

 

「残酷ね」しか聞かれてなかったのだろう。

助かった…何食わぬ顔で会話に加わろうとした所イビルアイの白けた様な雰囲気が目に入り気になって声をかけてみる。

 

「どうしたの?イビルアイ。何か気になる事でもあった?」

 

ラキュースの問いにイビルアイはふぅ~とため息を付き質問で返す。

 

「お前らはゴウンの戦いを見てどう思った?いや、どう見えた?」

 

えっ?………あっ!………言えない!彼が入場して来てから彼ばかりを見て戦い自体は頭に残ってないなんて!

ラキュースが言い澱んでいるとティナとティアが先に答える。

 

「戦士としては言う迄も無く強い。けど戦士の戦い方じゃない。気配も私達側の人間っぽいし。」

 

「それに、目的の為に手段を選ばないタイプに見えた。強さは薔薇全員と互角かそれ以上。1対1なら勝てない。ガガーラン逝った。」

 

「私なら彼に勝てるわっ!…………あっ!いや、そうじゃなくて…どう見えたかだったわね。そうね……装備が凄かったわね。」

 

危ない…最近油断が過ぎるのかつい…思いが口に出てしまう…気を付けないと。

とりあえず無難な事を言ってお茶を濁す。

私達の答えを聞きイビルアイが感心した様にラキュースを褒める。

 

「流石だな。ラキュースは気が付いたか。だがティアとティナはそれだと斥候としては失格だ!いや、斥候だから気が付かないのだろう。もっと知識を高めるんだな。」

 

イビルアイの言葉に2人は眉をしかめるが答えを待っているのか言い返さない。

ぶっちゃけ私は何で褒められたの?適当に答えただけなのに。

とりあえず答えを私も知りたいからイビルアイを見て頷き話を促す。

 

「私の見立てではゴウンの強さはアングラウスと同格。いや、僅かにアングラウスの方が強いか?圧倒していた様に見えたのはマジックアイテムの効果であってゴウンの強さでは無い。種さえ解けたらただのペテン師だよ。」

 

「マジックアイテム?認識阻害の事?なら対面したら意味が無い。それにあれは技術によるもの。イジャニーヤなら技術かマジックアイテムかは見ればわかる。」

 

「それにマジックアイテムで身体強化をしていても圧倒していた事は事実。ゴウンが強く無い事にはならない。それにマジックアイテムでの強化は誰でもやってる事。ルール上も問題ない。」

 

2人の意見にラキュースも納得する。

自分だって強力な武具やマジックアイテムによる強化をしている。

マジックアイテムを使いこなすのもまた強さだ。

ティナ!ティア!頑張ってイビルアイに質問して!

イビルアイは駄目な生徒に教える教師の様な態度で話を続ける。

 

「圧倒していたね…圧倒していた様に「見えた」だけだろ?残酷に嬲っていた様に「見えた」のも結果見ている者の目にそう写っただけだ。上手いペテンだよ。」

 

焦らす様な態度のイビルアイに2人は不快感を隠す事無く「さっさと答えを言えっ!」と言わんばかりに話かける。

 

「……そういうのいいから……早くしてくれませんか?」

 

「年寄りはこれだから………」

 

イビルアイは大きく息を吸い2人に怒鳴ろうとしていたが深くため息をし話の続きをする。

 

「ふぅ~。本来なら自分で気付くべき事なのだが……答え合わせと行こうか。ゴウンが使っていたマジックアイテムは2つ。いや、対で使用する物だから1つと言うべきか?ゴウンは強化されたマグネタイザーを使用しアングラウスの攻撃を引き寄せていた。」

 

「マグネタイザー?聞いた事無い。kwsk」

 

「?……何だそれは?……まぁ良い。マグネタイザーの効果は磁気化。鉄等を引き寄せる効果しか持たない生活魔法だ。本来は鉱山等でしか使われないマイナーな魔法だが、対で使う事によりお互いを強く引き付けたり、逆に強く反発したりする効果が有る。」

 

「ふむ…大体読めた。続けて。どうぞ。」

 

「ゴウンは初手で靴裏に仕込んだマジックアイテムでアングラウスの剣を磁気化した。アングラウスの剣に蹴りを入れた時だな。その後はアングラウスが攻撃モーションに入ると同時に右手小指に着けた対のマジックアイテムを発動する。そうすればマグネタイザーが発動しアングラウスの攻撃は指輪に引き寄せられる。つまりは引き寄せられる様に攻撃を捌いていた訳では無く実際に引き寄せていた訳だ。」

 

「毘沙門剣と毘沙門粉。」

 

「何だ?それは?」

 

「るろけ………イジャニーヤの秘宝。効果は秘密。」

 

「お前らの話はよくわからん。それよりラキュース。どうする?」

 

流石はイビルアイね。斥候の2人にも解らなかった事を簡単に見抜くなんて。

えっ?なに?突然どうする?って聞かれても何をどうするの?私が聞きたいわよ!

とりあえずイビルアイに丸投げしとこう。

 

「わかってるんでしょ?イビルアイ。」

 

「そうだな。奴にも余計な事をするなと言われそうだし止めておこう。それにフェルアイアンなら引き寄せられても右手ごと叩き潰すだろう。言う必要も無いか。」

 

フェルアイアン?あっ!ガガーランに伝えるかって事だったんだ。

まぁイビルアイも大丈夫って言ってるし大丈夫かな?

 

「その前にストロノーフに勝てるかが問題。」

 

「そうね。傭兵の中ではアングラウスを破り最強と言われている人物だったわよね。」

 

ガガーランの応援に来たんだから気持ちを切り替えてちゃんと応援しなきゃ。

でもアインズ・ウール・ゴウンとは一度話をしてみたいな。

あの漆黒の装備も興味深いし、話が合いそうな気がする…………………適齢期もそろそろ過ぎるし………ヴァージン・スノーはいつ脱げるんだろ?

はぁ………………

 

 

 

 

 

☆クレマンティーヌ

 

バハルス帝国の来賓室からリ・エスティーゼ王国王の貴賓室を挟んで反対側の来賓室にスレイン法国から来た4人が試合を観戦していた。

スレイン法国は宗教国家で有り、本来で有れば娯楽を重視した催し等は他国の王からの招待でも出席はしないのだがリ・エスティーゼ王国で開催される10年に1度の武闘大会はスレイン法国も協賛しており必ず観戦に訪れる。

スレイン法国が何故武闘大会を協賛?と周辺国家及び協賛を受けている王国ですら首を傾げているがスレイン法国には大きなメリットが有る。

人類の守り手であるスレイン法国は常に強者の存在を欲しており、周辺国家に草を忍ばせ情報収集は行っているが完璧に網羅する事は不可能で有る事を理解している。

その為、強者が自ら集まる武闘大会はスレイン法国にとって非常に都合の良い機会で有り、王国建国当初にスレイン法国がリ・エスティーゼ王国に働きかけ開催させたという過去が有る。

 

試合を見るクレマンティーヌは僅かな驚きと大きな不快感を持ち舌打ちをする。

僅かな驚きは強者として名前を聞いていたブレイン・アングラウスの予想以上の強さだ。

スティレットを用い最短を駆けての速攻を得意とする自分では待ちに入ったブレイン・アングラウスに後の先を取られるだろう。

それでも自分の方が強いだろうが。

大きな不快感はアインズ・ウール・ゴウンの戦い方を見て、その本質に気が付いた為だ。

剣の持ち方…初撃の蹴り…間合いの取り方…全てが近接戦闘職のそれではない。

少しは齧っている様に見えるが素人に毛が生えた程度だ。

知識は有るのに技術が無い。

あれは身体能力に頼りきっただけの戦い方。

そんな巫山戯た存在に自分が強いと認めたブレイン・アングラウスが一方的にヤられているのがクレマンティーヌには我慢ならない。

そう…聖域を守るあのクソッタレを思い出す。

自分が兄を殺す為に研いた技術も力も嘲笑って踏みつけたあの女を………

 

「落ち着け。クレマンティーヌ。殺気が洩れているぞ。」

 

「ニグン・グリッド・ルーイン」の声にクレマンティーヌは戯けた調子で答える。

 

「ごっめ~ん。ニグンちゃん。怖がらせちゃったかな?」

 

「囀ずるな。クインティアの片割れがっ!」

 

「あ~っ!殺すぞっ!ニグン・グリッド・ルーイン。陽光聖典隊長ごときがこの人外――英雄の領域に足を踏み込んだクレマンティーヌ様に勝てるつもりでいるのかよっ!」

 

「よせ。2人共。戯れはそこまでにしろ。それよりもゴウンの強さはどう見えた?占星千里。」

 

土の神官長「レイモン・ザーク・ローランサン」が一触即発の2人を止め占星千里に話かける。

 

「わからない。全然強さを感じなかった。難度0にしか見えない。」

 

「弱い訳が無い。それは一体いかなるわけだ?」

 

「幻覚や幻術。何らかの方法で強さを隠している。実は強くない。」

 

占星千里は指折り可能性を羅列していく。

 

「幻術や幻術は打ち合っている以上あり得ないだろう。この会場の全ての人間にかける事も不可能だ。強さを隠すマジックアイテムや技術なら占星千里が見抜けるだろう。強くない可能性は無い。」

 

「神々の至宝や神々の技術なら私にも見破る事は出来ないし、会場中に幻術や幻術をかける事も可能かもしれない。」

 

占星千里の言葉に3人は弾かれた様に反応する。

神々の至宝や神々の技術が使われている可能性が高く、あれだけの強さを持つという事はアインズ・ウール・ゴウンは「かの存在」で有る可能性が高いという事だ。

 

「神の降臨もしくは神人か…」

 

レイモンの言葉に占星千里は否定とも肯定とも取れない返答をする。

 

「あくまで可能性が高いというだけで、私が知らない高位の認識阻害かもしれないし、神々の至宝を手に入れただけの強者かもしれない。」

 

「どちらにせよ法国に引き込む為に動きましょう。強者の存在は人類の存続に必要不可欠です。それにもしも神ならば麻薬の蔓延る薄汚い王国には過ぎた存在です。」

 

ニグンは今すぐにでも動くべきだと主張するが、それをレイモンが押し止める。

 

「よせ!もし本当にかの存在で有るならば善なる存在か悪しき存在かを見極めてから動かねばならん。500年前の悪夢はけして繰り返してはならないのだ。それを判断する為にも暫くは監視を付けるだけに留め状況を見るべきだろう。」

 

「……わかりました。直ぐに風花に連絡を付けます。」

 

納得はしていない態度では有るがニグンは命令に従い部屋から出ていく。

話に加わっていないクレマンティーヌは試合が終わり会場から出ていくアインズ・ウール・ゴウンの背中をじっと見つめていた……

 

「……じゃあ…試合も終わったみたいだし、私もそろそろお仕事に行って来ますね~」

 

クレマンティーヌはそう言いニグンに続き部屋を出ていく。

今回クレマンティーヌが護衛の名目でリ・エスティーゼ王国に入ったのは別に観察眼を期待された訳でも本当に護衛をする為でもない。

スレイン法国に麻薬を持ち込んだゴミを始末する為だ。

そんな自分が、優勝の決まりきったムカつく試合をこれ以上見る必要も無いだろう。

 

(アインズ・ウール・ゴウンか……ムカつくなぁ~…必ず殺してやる…)

 

あのクソッタレ女を思い出させる「アインズ・ウール・ゴウン」だがあの程度ならまだやりようは有る。

クレマンティーヌは何時か自分の前で朽ち果てるアインズ・ウール・ゴウンを想像し少し気分を戻し王国の裏路地に消えて行った。

 

 

 

 

 

☆モモンガ

 

DMMO-RPG「YGGDRASIL」

最高の自由度と無限の楽しみを追求できるゲームとして日本国内でDMMO-RPGといえばYGGDRASILと言われるまでの人気が有ったが…………その12年の歴史も今日終わろうとしていた。

 

21:00

 

モモンガはギルド・アインズ・ウール・ゴウンの第10階層、玉座の間の最奥に有る玉座に深く腰掛けながら悶絶していた。

 

(うわ~恥ずかしい///何やってんだよ俺///)

 

悶絶するモモンガの横にはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがふわふわと浮かんでおり、モモンガの目の前にはコンソールが有る。

半透明のコンソールから透けて見える場所…玉座から2段下の階段に微笑みを浮かべながら立っているのは守護者統括のアルベドだ。

モモンガはアルベドの設定の一部を「モモンガを愛している。」に変更した為悶絶していたのだ。

最終日のギルドだがナザリック地下大墳墓内にはモモンガ以外にプレイヤーは存在しない。

それも当然だろう…ギルド・アインズ・ウール・ゴウンは41人中自分以外の40人が既に引退してアカウントも削除している。

モモンガはメールで「せっかくの最終日ですし集まりませんか?」とギルメンに送ろうと思ったが結局送る事も無かったのだから誰も来ないのは当然だろう。

アカウントを消した状態からだと、インストールとチュートリアルだけで2時間以上かかってしまう。

引退したゲームのフレからそんなメールが届いても迷惑なだけだろう。

ただ1人残されたモモンガだがギルメンに裏切られたとの気持ちはない。

自分はYGGDRASILに依存していたが皆リアルが有り日々の生活が有る…飽きたゲームを辞めるのは当たり前の事だ。

それにモモンガは「YGGDRASILに」依存していたので有ってギルメンに依存していた訳ではない…引退したらしたで仕方ない位の気持ちしか持っていない。

 

(最終日だし記念に魔王っぽいスクショ動画でも録るか?)

 

そう思い立ちモモンガはコンソールに「全NPC」「集合」「玉座」と操作する。

 

(こんなにいたのっ!ヤバい…入りきるかな?まぁ良いや。何か魔王の集会っぽいし)

 

モモンガの目の前…玉座の間は瞬く間に様々な種族のNPCで埋め尽くされていく。

様々な種族で混沌としているが不思議な統一感が有り正に魔王の軍勢といった感じにモモンガは高揚感を覚える。

 

(魔王の演説か……どんな台詞が良いかな?考えとけば良かったよ……流れで適当に行くかっ!その前にスクショONっと)

 

モモンガはナザリック地下大墳墓の全NPCの前で演説を始める。

 

「ナザリック地下大墳墓を守護する者達よ…今まで私によく仕えてくれた。お前達の献身が有ったからこそナザリックは不落を誇り今日この時を迎えた。」

 

「40人の友は既にこの世に無く…残された私がすべき事はこの世界…YGGDRASILを我が友の墓標とし滅ぼし、捧げる事である!」

 

「だがっ!YGGDRASILが滅ぼうともアインズ・ウール・ゴウンは不滅で有るっ!」

 

「私に仕える全僕に厳命する!アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説とせよっ!」

 

「海に…空に…地上に…知性有るありとあらゆる生物にアインズ・ウール・ゴウンの名を知らしめよっ!」

 

「私は暫くこの地を離れる事にする…だがっ!必ず再びナザリック地下大墳墓の玉座に戻って来るだろう。」

 

「私が再びこの地に戻りし時までナザリック地下大墳墓を守護し私に相応しい玉座を持ち私を出迎えよっ!」

 

「アルベドよ。ナザリックの全権を一時的にお前に預ける。これを受け取れ。」

 

モモンガはコンソールを操作しアルベドに予備に持っていたリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを全て渡す。

 

「では、これからも忠義に励め!」

 

(何かノリで言ったから支離滅裂っぽいけど、決まったでしょ!スクショOFFっと。後で見直そう。あっ!スタッフ持って来ちゃった。まぁ良いや。インフィニティ・ハヴァザックに入れとこう。)

 

22:00

 

モモンガは転移でナザリック地下大墳墓の外に出て残り時間をどう過ごすか考える。

 

(街に行けば最終日だしどっかで祭りがやってるかな?人化してから行ってみるか。)

 

モモンガはインフィニティ・ハヴァザックから人化の指輪を取り出し通常BOXに移す。

その瞬間モモンガの体はオーバーロードの骨の体から人間の姿になる。

人化の指輪は装備品扱いでは無く所持していたら発動するアイテムの為、指につける必要は無いのだがモモンガは右手小指の第1第2関節の間に人化の指輪をつける。

「本来は異形種ですよ」とアピールをする為、外につける必要は無くとも見える場所に人化の指輪をつけるのは暗黙のルールだ。

モモンガの様な重課金者は全ての指に既に指輪を着けている為、変な指輪のつけ方になってしまう。

 

人化の指輪は異形種でスタートしたら最初から持っているアイテムである。

ゲームのスタート地点は街なのだが異形種は街に入れないとの縛りが有りその矛盾を解消する為に運営が行ったのは、最初の街は異形種OKとはせず人化の指輪の配布だった。

効果は人化、不壊、不盗、不棄で有り、要は異形種が街に入る為に必要だけど再発行しないので盗めない。壊れない。捨てれない。仕様になってますよという事だ。

人化の効果は人間種になる事だけで有り、異形種LVは全てランダムに様々な職業LVへと振り分けられる。

その際勿論異形種のスキル、特殊能力は使えなくなる。

そんな異形種が街に入る為だけの役に立たない指輪だが一部の層には非常に人気が有る。

人気の1つ目の理由はアバターを2つ持てる事だ。

これは例え話を出すなら…いい歳して変身ヒーローに憧れる人や流石にピンクの肉棒はやり過ぎたか?という人や魔王といえば第2形態がないと!という人が人間種アバターに課金し外装を拘り使用している。

ちなみにモモンガは少なく無い課金を人間種アバターにしており、人間種時に使用する専用装備も用意している。

何故か魔王っぽい。

2つ目の人気の理由はランダムに振り分けられる職業LVだ。

人化の指輪を使用すると異形種LVが職業LVに完全ランダムに振り分けられるのだが、この完全ランダムが一部の層に注目された。

下位職は勿論だが上位職、隠し職までもが選ばれる事が有り、人化の指輪でリセマラする事により見つかった職業も少なく無い。

まぁ…選ばれても低LVなので実践使用には耐えられず見つける事だけが目的なのだが。

モモンガはコンソールを見ながら人化の指輪を出し入れしリセマラをしている。

ただ街に入るだけなのでリセマラの必要は無いのだが既にこの作業は癖の様なものだ。

それにモモンガ特製の人間形態魔王様装備は双剣なので二刀流系は最低1LVは欲しい。

 

(がっ…駄目……駄目……惜しいっ!……駄目……駄目……んーこれかな?)

 

上位職二刀忍LV2が引き当たりリセマラを終了する…残りのLV38は支援職が多いが時間も無いし妥協する。

リセマラが終わり、モモンガはコンソールから装備一式を変更する。

(うんっ!やっぱり軍服は格好いいよな!)

 

………モモンガの服装は……双剣の黒パンドラ………といえば良いのだろうか?まぁ…服装何て本人が良ければそれで良いのだろう。

人化も終わり装備も変更したモモンガはフライを使い近くの街を目指す。

 

23:00

 

街に着きモモンガが見たものは混沌だった。

至るところで魔法や花火が舞い散り…金貨の雨が降り…貴重なアイテムがゴミの様に落ちていた。

リスキルを繰り返したり、LVdownスキルや魔法で自ら消滅する者達も大勢いる。

流石にこのノリには付いていけないと街を出ようとした所、裏路地に有る1件の店の存在を思いだし足を向ける。

最終日だが開いてるだろうか?諦め半分で向かってみたが「開店中」の看板がかかっておりホッとする。

 

「こんばんは。マスターやってますか?」

 

「いらっしゃい。モモさん。いつもの席空いてるよ。」

 

「最終日なのにやってるんですね。」

 

「最終日だからやってるのさ。」

 

短い会話…いつもの空気にモモンガはつい笑いを溢す。

彼…マスターはゲーム内でバーを経営し酒を出し…客の話を聞くという変わったゲームの楽しみ方をしている。

モモンガも廃れ行くYGGDRASILの愚痴をマスターに聞いて貰った事が有り、それ以来の付き合いだ。

LVも低く装備も大した物は着けていない事からおそらくINしている時間の大半はバーにいるのだろう。

どんな人物か詮索する気は無い。

マスターもそんな事はしないだろう。

モモンガが考えに耽っていると目の前のカウンターに茶色い液体が入ったグラスが置かれた。

 

「今日は狩りに行かないんだろ?ここは酒屋だ。たまには飲めよ」

 

「味も匂いも有りませんがね…」

 

「酒を飲む行為自体に意味が有るのさ」

 

マスターの話は難しくてよくわからないが最終日ぐらいは良いだろうと酒を煽る。

 

「これって毒ですか?一口で酩酊のバッドステータスになったんですが?」

 

「キュアポイズン使えるだろ?気にすんな。」

 

マスターはニヤリと笑い2杯目を出す。

 

(まぁ……こんな最後も悪くないか………)

 

最終日残り1時間はゆっくりとした時間の中過ぎて行った。

 

23:55

 

ゆっくりとした雰囲気でも時間の流れは変わらない。

お互いに少ない会話を楽しんでいた2人は外が静かになった事に気付き時計を確認する。

自爆祭りはもう終わったのだろう。

 

「後…5分ですね。今までありがとうございました。」

 

「気にするな。こっちも楽しんでた。モモさんはやり残した事は無いのか?」

 

マスターの問いにモモンガは少し考えてから答える。

 

「少し…街を歩いて来ようと思います。最後ですし。」

 

「そうだな…じゃあ…俺は落ちるよ。また何処かで…」

 

「はい。また何処かで…」

 

23:58

 

バーから出たモモンガは景色を楽しみながら街を歩く。

酩酊のバッドステータスのせいでカーソルどうりに動かないが、それもまた新鮮で楽しい。

祭りが終わり閑散とした街を見ながら物思いに耽る。

 

(……楽しかったんだ……本当に……楽しかったんだ…)

 

23:59:57…58…59…

 

00:00:00

 

サーバーダウンが起こる筈だが突如モモンガは体を焼く様な熱と吐き気と目眩に襲われた。

 

(一体なんだよっ!何が起こったんだっ!)

 

モモンガは震える手でコンソールを操作しようとするがコンソールが開かない…本来なら出ている筈のシステム一覧も出てこない。

シャウト、GMコール、システム強制終了入力。

どれも使えない。

 

(ウイルスかっ?ヤバい…何とかしてログアウトしないと!)

 

「次の人。名前はなんだい?」

 

突如聞こえた声にモモンガは驚愕する。

顔を上げると目の前には1人の男がおり椅子に座り机の上の何かに書き込みをしている。

 

「…ぁの……GMコールがぁ……」

 

モモンガは最悪の体調の中何とか声を出す。

吐き気を催したが何とか耐える…口の中に酸っぱい味が広がる。

 

「ん?何だよ?登録はしないのか?酒臭いな…酔っぱらいか?」

 

(酒臭い……酔っぱらい……酩酊のバッドステータスか?なら……(サイレントマジック・キュアポイズン))

 

無詠唱の解毒魔法を使ったとたんに最悪の体調が嘘の様に回復する。

 

(魔法は使える?いや、今どうやって魔法を使った?魔法が使えるって事はまだYGGDRASIL内にいるのか?)

 

「それで、名前は?冷やかしならさっさと退いてくれ!」

 

「あっ…私はアインズ・ウール・ゴウンのモモ……」

 

「はい。アインズ・ウール・ゴウンね。予選3番会場だ。この木札を持って会場に行ってくれ。」

 

「あの、聞きたい事が………」

 

「3番会場ならあっちの赤い建物だ。それ以外は向こうで聞いてくれ!後ろを捌かなきゃならないんだ!」

 

体調が回復したモモンガが後ろを見ると様々な装備を着けた戦士風の人間が並んでいた。

 

(予選会場?…戦士風の人達?…近接戦闘職限定の大会か?……けど…装備はショボそうだし強そうに見えない…わからない事だらけだ。)

 

モモンガは今目立った動きをするのは不味いと判断し、言われたとうり木札を持って赤い建物に行く事にした。

途中、口の中の気持ち悪さに耐え兼ねアイテムボックスからピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーターを取り出し口をすすぐ。

何気無く行った行為だがアイテムボックスとYGGDRASILのアイテムが使えた事に驚愕し同時に安心する。

予選3番会場に到着したモモンガは受付に木札を渡すと質問をする暇も無く直ぐに試合を組まれてしまう。

結局何もわからないままのモモンガの前に一人の男が剣を構えている状態だ。

 

(装備は大したこと無いし弱そうだが、ここがどんな世界かわからない。油断大敵だ。1撃当たると即死するスキルや武器が無いとは言えない。いざとなれば指輪を外して超位魔法を撃ち込んでグレーター・テレポーテーションで逃げるか。結局ここはYGGDRASILなのか?いや、嗅覚は有るし味も感じる事からYGGDRASILの可能性は低い。なら…何だ?まだ情報が足りない。)

 

モモンガは目の前の男に警戒しながらも高速で思考を回転させている、そんな中審判から開始の合図が発せられる。

モモンガは意識を集中する…どんな攻撃が来るのか?どんなスキルを使うのか?一挙一動を見逃さず観察しなければならない。

だが…目の前の男は開始の合図が有ったにも関わらず動こうとしない……いや、僅かに動いている。

対戦相手は動画をスローで見ているかの様なゆっくりした動きで少しずつだが確かに動いていた。

 

(もう始まってるんだよな…攻撃するか?…いや…相手の攻撃を一度見るべきか?……………遅い…1発だけ攻撃してみるか?…軽くやって直ぐに引けば危険は少ない)

 

モモンガは覚悟を決め対戦相手の顔めがけ軽く触れる程度に拳を出す。

 

(えっ!)

 

モモンガの拳が当たった瞬間相手の体がクルンッと1回転した……まるで至近距離からデカイ石を高速でぶち当てられた様な衝撃で……

キラキラと光を反射しながら白い物が落ちて来る。

それは対戦相手の前歯だった。

衝撃で全て折れたのだろう。

 

(えぇ~マジか?見た目どうりの弱さなのか?こっちはLV100だけど人化のせいで滅茶苦茶なビルドだし魔法を使わなかったらせいぜいLV60程度の強さしか無いのに…)

 

会場が静まり返る。

予選第3会場はモモンガ以外の全ての者が棄権しモモンガの本選出場が決定した。

 

予選が終わり本選は明日からだとの事なので、モモンガは情報収集の為街を彷徨き人の話に耳を傾ける。

どうやらこの街は王都リ・エスティーゼという名前でリ・エスティーゼ王国の首都であるらしい。

そこで10年に1度行われる武闘大会に自分は出場している様だ。

YGGDRASILでは聞いた事が無い地名とイベントにモモンガはここがYGGDRASILでは無いと確信する。

では、ここは何なのか?五感もリアルと同じ様に感じるしゲームでは再現不可能な程街には人が溢れ様々な会話をしている。

まさか…別世界?何だそれは?意味がわからない。

思考が煮詰まってきたモモンガは不意になったお腹の音で思考を中断させた。

 

(お腹が空いたな。どっかにチューブか栄養剤の店は無いのかな?あの屋台は何だろう………肉っ!噂には聞いた事が有るけど肉を串に刺して焼いているセレブの食べ物!食べたいっ!って!YGGDRASIL金貨は使えないんじゃ!食事や宿はどうする?ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーターは使えたからリング・オブ・サステナンスを装備すれば大丈夫か。ん?…………………気のせいかな?…………いや、つけられてる。)

 

モモンガは二刀忍のパッシブスキルにより尾行者に気付き警戒心を最大まで引き上げる。

二刀忍のパッシブスキルは低位の認識阻害効果を常に発しているが意識すればわかる程度なので尾行者は確実に此方を意識し自分をつけている。

 

(何が目的なのか?武闘大会で目立ったから?……撒くか?いや…捕まえて話を聞くべきか?)

 

モモンガが尾行者に対する対応を決めかねてると尾行者が声をかけてきた。

 

「突然失礼します。南方の名の有る剣士様だと拝見しました。良ければ少しお時間を頂けないでしょうか?」

 

声を掛けてきた男は裕福な商人の佇まいでにこやかな笑みを浮かべ腰が低い。

詐欺師の可能性も有るがモモンガは少しでも情報が欲しい為、男と会話をする事にする。

 

「貴方は?」

 

「これは失礼しました。私の名はバルド・ロフーレと申します。主にエ・ランテルを中心に商いをしている者です。以後よろしくお願いします。」

 

「私はモ………アインズ・ウール・ゴウンです。それでどの様なご用件でしょうか?」

 

モモンガは武闘大会で登録されたアインズ・ウール・ゴウンの名で自己紹介をする。

目の前の男…バルド・ロフーレはアインズ・ウール・ゴウンの名を聞いても反応しない。

YGGDRASILでは悪名轟く名だがこの世界で知っている人は今の所いない様だ。

 

「はい。要件ですが南方では価値有るマジックアイテムが多く出土していると聞きます。ゴウン様程の剣士様で有れば何か所持しているかもしれないと思い声を掛けた次第です。使用されていないマジックアイテムが有れば是非お売り頂きたいと。」

 

話が上手すぎる…金に困っていたらマジックアイテムを買いたい商人が現れるなんて。

そう思ったモモンガだがつけられていた事を思いだし自身の考えを否定する。

端から見たら目的も無く買い物もせず街をただ彷徨き肉の屋台をじっと見つめる南方から来たっぽい自分はどんな風に見えただろう…考えるのは止めよう。

 

「有るには有りますが簡単に売れる物でも無くてね。」

 

モモンガはこの世界の商人にYGGDRASILのアイテムを見せ、どの様な反応をするかを確認する為にバルド・ロフーレの話に乗る事にする…決して目先の金を手に入れて肉が食べたいからでは無い。

 

(とりあえずゴミアイテムでも見せてみるか。ゴブリン将軍の角笛なら腐る程有るし、使われても被害を受けないからこれで良いや。)

 

モモンガはバルド・ロフーレにゴブリン将軍の角笛を手渡す。

 

「お預かりします。失礼ですが鑑定しても良いでしょうか?」

 

「もちろんですよ。お気の済むまでどうぞ。」

 

「ありがとうございます。では失礼して…アプレーザル・マジックアイテム………」

 

(YGGDRASILの魔法か…ますます意味がわからない世界だ。)

 

鑑定魔法を使用したバルド・ロフーレは目を見開き血走らせ、ガタガタと小刻みに震え始めた。

 

「こっ…こっ……このアイテムの由来等を知っていたら是非!是非!教えて頂けませんかっ!」

 

余りの迫力にモモンガは思わず素になって正直に答えてしまう。

 

「ヒッ……あの…500円ガチャの外れアイテムで………いや?ドロップアイテムだったかな?」

 

「500年…覇者…外れ…伝説は本当だったのですね…」

 

「えっ?」

 

「聞いた事が有ります。500年前八欲王は世界をほぼ手中に収める事に成功したが、仲間同士での争いが起き、最後の1人になるまで争ったと。そして最後に残った覇者がこの大陸の南の外れに財宝を別けて隠したと…この角笛はその財宝の1つなのですね!」

 

「あっ…はぃ……もう、それで良いです……」

 

「簡単には売れないとの事ですが、これ程のマジックアイテムで有れば当然でしょう。ですが!是非!是非!私にお売り頂けないでしょうか?いや、この様な道の端で話す事では有りませんね。今日の宿は御決めになられましたか?よろしければ私共に紹介させて頂けませんか?王都最高級の宿を押さえて参ります。もちろんお代は私がお支払しますので軽い気持ちで受けて頂けないでしょうか?商談は宿で食事でもしながらゆっくりと行いたいですし。」

 

「おっ…おぅ…せやね」

 

「ありがとうございます。では直ぐに馬車の準備をいたします。」

 

モモンガはバルド・ロフーレの弾丸トークの勢いに押されただ相づちを打つ事しか出来なかった。

 

(アーティファクトが伝説の財宝の1つに誤解される程?強さだけじゃ無くマジックアイテムの質も悪いのか?それに…八欲王か…強者もいるかもしれないって事だな。やはり警戒はとけない。まぁ…けど、宿と食事は何とかなったな)

 

モモンガとバルド・ロフーレは馬車に乗り込み宿へと向かう。

その途中もバルド・ロフーレは他のアイテムへの探りを入れて来ているがモモンガは努めて流す。

宿屋に着いたモモンガは1階の酒場兼食堂で話すのかと思ったがバルド・ロフーレが店員らしき人に耳打ちすると2階の部屋へと案内された。

店員に耳打ち1つで部屋を用意させた事を見てもこの宿はバルド・ロフーレの常宿なのかもしれない。

相手のホームで個室での商談…罠か?………いや、有利な状況で商談したいのは当たり前の事だ……そういえば此処で食事もする事になるんだよな。

種族耐性が無い今、一応の警戒は必要だな。

モモンガはバルド・ロフーレの目が逸れた時を見計らい毒無効効果を持つネクタイピンをアイテムボックスから取り出し装備を交換する。

毒無効を着ける代わりに魅了無効を外したが今必要なのは毒の方だと割り切る。

暫く雑談をしていたら、部屋がノックされ食事が運ばれて来た。

バルド・ロフーレは食事を食べながらにこやかに話し掛けて来ているがモモンガはそれどころでは無い。

 

(うっまっ!何だよ?これ!肉も野菜も魚も全部本物なのか?いや、本物食べた事無いからわからないけど多分本物だよな!魚がシャッキリポンと舌の上で踊ってる!)

 

モモンガの食べっぷりを見てバルド・ロフーレは会話を止め自身もゆっくりと食事をしている。

やがてモモンガの至福の時間も終わり商談を始める為か部屋の空気が僅かに緊張を帯びる。

 

「さて、食事も済んだ事ですしそろそろ商談と行きましょう。これ程の品です。駆け引きは無しで率直に聞かせて頂きます。ズバリ!お幾らならお譲り頂けるのでしょうか?」

 

バルド・ロフーレの言葉にモモンガは戸惑うがリアルで営業マンをしていた時の経験を生かし表に出す事はしない。

だが…モモンガはまだこの世界の金銭も物価も知らずお金の単位すら知らない。

街を彷徨いた時に銅貨や銀貨でのやり取りは見ているがわからない事が多すぎる。

 

(素直に聞くか?いや、商談は舐められたら足元を見られる。知識が無いのはやっぱり痛いな。思わせ振りに相手に丸投げるか…)

 

モモンガは覚悟を決めバルド・ロフーレの問いに答える。

 

「ロフーレ殿。私は価値有る物はその価値がわかる者が持つべきだと考えております。此方のアイテムはロフーレ殿にお譲りしましょう。どれ程の価値を付けるかはロフーレ殿にお任せします。今後のロフーレ殿とのお付き合いの指針にもなりますしね?」

 

モモンガは明確な金額を提示せず「まだまだアイテム有るよ!これからも卸して欲しかったら高く買ってね!」と遠回しに伝える。

それを受けバルド・ロフーレは目を瞑り低く唸り考え込む。

 

(上から行き過ぎたかな?魔王ロールは止めとけば良かったよ……)

 

モモンガが静かな間に不安になっているとバルド・ロフーレはカッと目を見開き覚悟を決めた男の顔で金額を提示する。

 

「金貨2000………いえ、2500枚でどうかお譲りください!よろしくお願いします!」

 

気合いの入った提示だがモモンガにはそれが高いのか安いのかが判断出来ない。

バルド・ロフーレは覚悟を決めた様だしそこそこの金額なのだろうと判断しモモンガはゴミアイテムを売る事にする。

 

「流石はロフーレ殿。確かな目をお持ちだ。今後共よろしくお願いします。」

 

バルド・ロフーレは商談が上手く行った安心感からか全身を脱力した様にソファーに深く腰掛ける。

それを見たモモンガはまだ客の前なのに油断しているバルド・ロフーレに微笑ましさを感じた。

 

「今後共よろしくお願いします」その言葉にバルド・ロフーレは安堵する。金貨2500枚は商人の中ではリ・エスティーゼ王国で1・2を争う資産家のバルド・ロフーレにとっても少なくない金額だが彼アインズ・ウール・ゴウンに認められ、これからも繋がりが持てた事を考えれば安い投資だろう。

彼との繋がりが切れる事はこれからの金貨数万枚…いや、数十万枚を捨てる行為だと一代で商会を立ち上げたバルド・ロフーレの勘が警鐘を鳴らしていた。

そんなアインズ・ウール・ゴウンとの取引が上手く行った、認められたバルド・ロフーレは一世一代の取引が終わった後の様な安心感から油断を見せてしまったがそれも仕方がない事だろう。

 

「では、私は直ぐに金貨を持って参ります。此方の部屋は私の名義で長期に取っているのでゴウン様の王国での用事が済むまで御好きな様にお使い下さい。」

 

「ありがとうございます。ロフーレ殿。私は武闘大会に参加しているので武闘大会が終わる迄は御好意に甘えたいと思います。」

 

バルド・ロフーレが部屋から出ていく。

モモンガは暫くの宿と取り敢えずの金を得た事に安堵しため息をつきベッドに身を投げ出し考察を始める。

 

(暫くは何とかなりそうで良かった…けど…この世界の事はまだわからない事だらけだ。アイテムや魔法はYGGDRASILと効果も変わらないみたいだし使えるみたいだから何とかなりそうだけど…人化の指輪を外すとどうなるんだろ?多分オーバーロードに戻るんだろうな。この世界の異形種の扱いは?街は人間種しかいなかったし…それに…)

 

モモンガは魅了無効のネクタイピンを取り出し毒無効のネクタイピンを装備したまま付けられるか確認する。

ネクタイピン自体は付ける事は可能だが魅了耐性は発生しない。

先程ネクタイピンを交換した時には魅了耐性を失い毒耐性を得た感覚が有ったのだが同時に付けた今回は毒耐性を失う事無く魅了耐性は付かなかった。

YGGDRASILでも付ける事自体は可能だったが効果が出るのは先に装備していた方だけだ。

次にモモンガはアイテムボックスに手を入れ部下に信頼される上司のコツの本と強欲と無欲を取り出す。

モモンガは課金によりアッシュールバニパルと宝物殿を自身のアイテムボックスと繋げている。

取り出したアイテムをアイテムボックスにしまいながらモモンガは考察を続ける。

 

(装備枠はYGGDRASILのルールが生きているのか…課金のルールも大丈夫みたいだ。けど…ナザリックから取り寄せたって事はゲームの世界から持ってきたって事か?それともナザリックもこの世界に有るのか?)

 

考えれば考える程にわからない事が増えていく。

モモンガが考えに煮詰まりベッドでゴロゴロしてると大量の金貨を部下に持たせたバルド・ロフーレが部屋を訪れ何度も何度もお礼を言って来た。

モモンガはバルド・ロフーレから金貨を受け取り、また部屋に1人になったとたんベッドに横になり煮詰まった熱を逃がす様に大きく息を吐き目を瞑る。

 

コンコンコン

 

モモンガはノックの音で目を覚ます。

目を瞑るだけのつもりが少し寝ていたのだろう。

目を開けると周りが暗くなっている。

二刀忍のパッシブスキルにダークヴィジョンが有るので何も困らないが客が来たみたいなのでコンティニュアル・ライトを唱える。

ここにモモンガがいるのを知っているのはバルド・ロフーレしかいないのでおそらく関係者だろう。

「誰だ?」

 

モモンガは扉越しに声を掛ける。

 

「ロフーレ商会。商会長からゴウン様のお世話を任せられたツアレと申します。」

 

扉越しに聞こえて来たのは若い女の声だ。

バルド・ロフーレは不慣れな王国でモモンガが困っていると考え、親切心と恩を売る為に人を寄越してくれたのだろう。

正直ありがたい。

 

「鍵を開けるから少し待て。」

 

モモンガは鍵を開け扉を開いた瞬間固まる。

メイドだ……二度見してもメイドだ……いや、首にゴツい首輪をしている。

例えるなら……そう…夜のメイドだっ!昔黒スライムがおすすめって言ってたゲームで見た事ある!

 

「あの…ゴウン様?」

 

「あっ…うん…中に入って。」

 

動揺から立ち直っていないままモモンガはツアレを部屋の中に入れる。

 

「では、改めまして自己紹介を。ロフーレ商会。商会長からゴウン様のお世話を任せられた奴隷のツアレと申します。よろしくお願いします。商会長からは気に入ったのならそのまま貰って欲しい。と伝えてくれと言われています。」

 

動揺しているモモンガに更なる衝撃が襲い掛かる…

 

(奴隷?メイド服着てたらメイドじゃないの?もしかしてメイド服が好きそうに見えたの?馬鹿鳥じゃ有るまいしそんな風には見えないはず……いや、嫌いじゃないけどさ…つーか貰って欲しいって何さ?もしかして結婚?いや、物扱いなのか?人権とか無い感じなのか?待て!落ち着け俺!先ずはスパイとかを疑うべきだろ!奴隷メイドスパイか……何処に需要が有るんだよっ!属性盛りすぎだろっ!違うっ!落ち着け!先ずは1つずつ情報を聞くべきだ。奴隷制度とか法律なんて知らないぞ。)

 

「ふむ…ツアレか。ロフーレ殿から聞いているだろうが一応名乗るとしよう。私はアインズ・ウール・ゴウンだ。それで早速だが聞きたい事がある。私の国には奴隷制度が無くてな、どういうものかまるで知らんのだよ。お前の知ってる事を全て話せ。自分が不利になる事でも隠さずにな。」

 

「はい。ゴウン様。王国で奴隷とは………………」

 

ツアレから話を聞いたが王国内で奴隷とは最下層の地位で有り人権が無く物として扱われている。

一応、意図した殺人は罪となるが今まで裁かれた人はいない形だけの法律だ。

奴隷になる理由は借金。犯罪。貴族の裁量と様々だがツアレは貴族に突然奴隷に落とされ慰みものにされ飽きて売られた。

買ったのがバルド・ロフーレで有り、買われて直ぐに奴隷商で説明を受けここに来たと語った。

奴隷は魔法的に縛られている訳では無く、外から見える場所に所有者のわかる首輪や刺青で奴隷だとわかる様にするのが決まりだ。

女の場合は転売する事を考え刺青では無く首輪が多いらしい。

逃げる事も可能だが他者の奴隷を雇った者は犯罪者となる為逃げてもマトモな仕事は出来ず首輪も専用の鍵以外では取る事が出来ない為奴隷の方がマシだという。

つまりは……奴隷の所有者になったからといって奴隷が裏切らない、秘密を喋らないとは限らない訳か……。

ならツアレから情報を聞く場合所有者になり殺す事が一番安全という事だな。

 

……………待て!俺は今何を考えた?殺す?こんな簡単に人を殺すと考える性格だったか?周りに強者がいないからといって気が大きくなってないか?違う!人の命を軽く思ってる?性格が変わった……いや、人間に同族意識が無い?……いや、今は考えても仕方ない。

自分以外のサンプルがいない状態だと比較も出来ない。

今はツアレをどうするかだ。

所有するかどうかは武闘大会が終わる3日後迄に決めれば良い。

これまでの考察からこの世界は99%の確率で現実で有り異世界だ。

後1%…ゲームでは無いとの確証が欲しい。

ツアレを使うか?これは必要な事なんだ。

これだけは確認しなければならない……ッ!

そう…自然にっ!……自然に聞けばっ!

 

「……ツアレよ」

 

「はい。ゴウン様。」

 

「…むっ……胸を触っても良いか?」

 

「………構わにゃ……ないな?」

 

全っ然っ無理でした~っ!

 

「はい。どうぞゴウン様。お好きになさって下さい。」

 

ムニュ…モニュ…フニュ…ポニュ…

 

(状況を整理しよう……………無理です…刺激が強いです……まぁ……異世界決定って事で!)

 

「すっ…すまなかったな。ツアレよ。もう良いぞ。」

 

「では…ゴウン様。御奉仕を始めさせて頂いても良いでしょうか?」

 

「あっ…いえ…そういうのはもっとお互いをよく知ってからで……ジャナクテ…私はお前の「仮」の主人だ。お前は余計な事はせず身の回りの世話だけしていれば良い。働きが良ければ身請けも考えよう。では、私は風呂に入ってから寝る。お前も明日に備え早く寝るんだな。」

 

そう言ってモモンガは備え付けの風呂に移動する。

ツアレは部屋の隣に有る使用人用の控え室に入り睡眠を取る。

風呂からカタカタと小刻みな振動が有った後やけにすっきりとしたモモンガが風呂から上がって来た。

風呂に入ったんだからすっきりするのは当たり前です。お風呂ですからすっきりするんです。

 

(ふぅ…宇宙の果てには何が有るんだろう……寝るか。)

 

 

 

武闘大会本選1日目、2日目の計8試合もモモンガは全て1撃で終わらせ、それ以外の時間を様々な実験と情報収集に費やした。

魔法。アイテム。スキル。召喚。の実験。

この世界の生物。地理。勢力図。アイテム。固有能力。貨幣価値。書物。の情報。

YGGDRASILのアイテム。スキル。魔法。は全て問題無く使用出来る。

貨幣も金貨2500枚は思ってたより大きな価値で有った為、とりあえずの生活は大丈夫だろう。

正確な戸籍は無いが身分証を持たない者は怪しまれる…職に就くか冒険者にでもなるべきだろうか?

現地の生物はLVが低いのか…弱い者ばかりで何体かモンスターも倒してみたが経験値も微弱過ぎるのか得た感覚がわからない。

竜王の国やプレイヤーらしき存在もいる様だから強者もいるだろうが、単体ならまず問題ないだろう。

だが、情報収集を行い警戒すべき情報を幾つか入手する事が出来た。

武技、タレントの存在で有る。

武技はスキルの様なもので有るらしいが自分にも覚える事が出来るだろうか?

モモンガはLV100のカンスト勢で有りYGGDRASILのルールが適応されるならこれ以上強くなれない。

なら…現地の武技を覚える事によりさらに強くなれないか?

タレントに関しては訳がわからない。

ウィッシュ・アポン・ア・スターなら奪えるか?だがLVdownは経験値が入手出来るか不明の段階では使えない。

ならシューティングスターを使うか?………流石に勿体無い。

 

武闘大会も今日が最終日だ。

今までは武技の存在を知らなかった為意識していなかったが人間の中では強者で有ろう最終日に残る者なら武技を使用出来る可能性が高い。

今日は1撃で終わらせずしっかりと観察を行おう。

会場に着いたモモンガは思考を中断する。

呼び出しがかかり会場中央に立つモモンガの前に1人の男が獰猛な笑みを浮かべながら歩いて来た。

既に武闘大会に強者がいない事を把握しているモモンガからすれば子猫がシャーシャー言っているのと変わらないが一応の警戒は必要だ。

目の前の男の腰…刀を見ながらモモンガは弛んでいた気持ちを引き締める。

侍はYGGDRASIL内の上位職の1つで有り、かなり戦い辛いスキルを持っている。

クリティカル率が非常に高く侍の攻撃を喰らえば即死する事が多い。

その上、武具破壊スキルを多数持つので受けにまわるのも悪手になりかねない。

だが、遠距離攻撃手段が無く防御力はザルだ。

モモンガはちらりと自らの右手を見る。

YGGDRASILのルールが生きているなら人化の指輪の不壊の能力も生きているだろう。

最悪壊されてオーバーロードの姿になっても超位魔法を0タイムブッパし転移すれば問題ない。

モモンガは目の前の男に武技が使えるか一言、二言話かけ、審判に開始を促した。

モモンガは相手を倒してしまわない様攻撃せずに力を見せたが、目の前の男は武技を使う様子をみせない。

人化の指輪で受けにまわったが指輪は壊れる事無く攻撃を受け止めている。

武具破壊スキルを使っていないか使っていても不壊の設定が生きているのか。

モモンガは目の前の男が自分を決して傷付ける事が出来る存在では無いと確信し、完全に受けにまわり相手に武技を使う様促す。

しかし…相手は一向に武技を使う様子をみせない。

 

(武技が使えないのか?これ以上の観察は無駄か?確認を取ってから終わらせるか。観客席から感じるチクチクした感覚も不快だし。それに…ツアレさんが隣の部屋にいるのが気になってあんまり寝れないから眠いんだよな…)

 

因みに二刀忍のパッシブスキルにはターゲティングを受けるとシステム一覧に警告が表示されるスキルがある。

この世界ではシステム一覧が出ないのでチクチクした感覚として感じるのだろう。

バルド・ロフーレの尾行に気が付いたのもこのスキルで有る。

 

モモンガは観客席から感じる不快感から、周りを見渡しながら欠伸をする。

もう終わらせたいと考え、目の前の男に武技が使えないか確認した所、既に使っていた様だ。

もう1度使ってくれないかとお願いした所、突然殺してくれとか言い出した………意味がわかりません!

 

(けど…これはチャンスなんじゃないかな?武技が使えて死にたい人間がいる。情報を抜き取ってから殺しても良いし、現地の人間を使った実験に使っても良い…)

 

「…………………そっ…そこまでっ!勝負有り!」

 

試合終了の宣言がかかりモモンガは目の前の男に近づき耳元で囁く。

 

「(私の役にたつのならそれに見合う報酬をくれてやろう。働き次第では苦痛無き死でも人間を超える力でも永遠の命でもな。この後私の控室迄来い)」

 

(来るかな?来なくてもデメリットは無いし構わないけど…来たらラッキー程度の気持ちで待つか。)

 

モモンガが控え室に戻り暫くすると遠慮がちなノックの音が聞こえて来た。

 

「誰だ?」

 

「ブレイン…ブレイン・アングラウスです…」

 

一瞬誰だっけ?と思ったが先程の対戦相手と同じ声だったので中に入る様声をかける。

 

「開いているから入れ。入ったら鍵を閉めろ。」

 

怯えているかの様に見えるブレインは遠慮がちに扉を開け部屋に入る。

部屋に入ってからは身の置き場が無いのか目線を下に固定したまま直立不動の体勢だ。

モモンガは何から聞くべきか迷い考えていると沈黙に耐えきれなくなったブレインが声をかけて来た。

 

「ぁの……俺…ぃゃ…私で役に立つ事が有るなら何でも言って下さい。」

 

「ふむ……なら先ずは武技の事を………………」

 

モモンガはブレインから武技について知っている事全てを聞き出す。

武技は戦士職が使う魔法の様なものだが魔力を消費している訳では無いらしい。

武技を多用すると体力の消耗が激しいとの事からHPを消費して発動されるスキルだと考えるべきか?

いや…集中力か?

人から教わる事も出来るしオリジナルを作る事も出来るか……

教われるならこの男から学んでみるか?だが、長く生かしておくとこの男から情報が洩れる可能性が高い。

先ずはこの男の意思を確認して死にたいならもう殺すか………

人間を超える力や永遠の命が欲しいって言われたら種族変更アイテムが現地人に使えるかの実験を行えるし。

 

「ふむ……聞きたい事は粗方聞けた。お前は私の役にたったのだからそれに見合う報酬をやろう。何が良い?身の丈に合わん報酬ならやれんが言うだけなら只だぞ?」

 

「その前に一つ聞きたい事がある……あります。」

 

「何だ?言ってみろ。答える事が報酬等とセコい真似はせんから安心しろ。」

 

「あなたは…その…人間なのですか?」

 

「………何故そう思った?」

 

「俺は才能が有ると思ってた…今まで1人にしか負けた事がなかった……負けてからも血を吐くような努力を重ね人間の中では最強に近い剣士になった自負があった……けど…それはあんたの小指程度の力だった。そんな男が人間で有るわけ無いっ!有って欲しく無いっ!」

 

(不味いな…プレイヤーだと思われない様、行動してきたつもりだったがあの程度の力で強すぎた訳か。いや、どちらにせよ武闘大会で優勝する程度には力を見せるつもりだったし今考えても仕方ない。それより、質問にはどう答える?どうせ処分か実験に使う男だ。必死で可哀想だし暈しながらも真面目に答えるか?)

 

「お前の質問に答えてやろう。私は昔、人間(リアルで)だった。だが強さを求め人間を辞め(キャラ選択を異形種)様々な戦い(レベリング)に身を投じ、知識を高め(wiki、攻略サイト)全てを強さに捧げて(課金)来た!才能?努力?笑わせるな!お前ごとき(無課金)が語って良い台詞では無いわ!(時間と金をいくら使ったと思ってんだっ!)いや……すまない。昔を思い出してな……それで?報酬は決まったか?」

 

モモンガの話を聞き終わったブレインは全てを諦めた様な顔で呟く様に願いを語った。

 

「全部…この絶望も空虚感も全てを忘れたい。こんなのは嫌だ!こんな気持ちを持ったまま生きられない!忘れる事が出来ないならもう死にたい……殺して下さい…」

 

「なるほどな…記憶を消すくらい造作も無い事だ。では始めよう。」

 

モモンガはこの世界で使用した事が無い魔法の実験が出来る事に密かに喜びブレインにコントロール・アムネジアを使用する。

だが、ほんの数秒の記憶を消しただけで魔力がごっそり減る感覚に魔法を中断した。

 

(スッゴい魔力消費量だな。人化したままの適当ビルドじゃ魔力が足りないかも?指輪を外すか?どうせ記憶を消すし大丈夫だろ?)

 

モモンガが指輪を外しオーバーロードの姿に戻った瞬間モモンガの体から漆黒のオーラが吹き出てき部屋中を充たす。いや、部屋の外にも少し漏れている。

モモンガは慌てて絶望のオーラⅤを止めブレインを確認したが既に事切れてた。

 

(えっ!なに?……あっ…絶望のオーラⅤだ………パッシブスキルってつい切り忘れちゃうよね~……死にたいって言ってたし結果オーライじゃないかな~……って流石にそれは無いわ~……蘇生する?死にたいって言ってる奴を?意味無いよね?アンデッドの媒介にしてあの男の記憶が残ってたら本人にどうするか聞くか。)

 

モモンガは転生アイテムの実験を行う為アイテムボックスからカインアベルの血魂を取り出しブレインに使用する。

YGGDRASILでもかなり貴重なアイテムだが実験はけちってはいけない……お詫びの気持ちからでは決して無い………

ブレインに吸い込まれる様にカインアベルの血魂は消えたがブレインは目を開かない。

 

(条件は何だっけ?……血だっ!血をかけなきゃ……でも俺は骨だぞ?人化して手でも切るか。いや、血なら確か有ったはず!)

 

モモンガはアイテムボックスから竜の血を取り出しブレインにかける。

YGGDRASILでもかなり貴重なアイテムだが実験はけちってはいけない……そう…けちってはいけないのだ…本当にすみません。

 

大量の竜の血はブレインに全て吸収されたがそれでも目を開かない。

 

(後は何だっけ?………シャルティアの時はどうしたっけ?……!アンデッドの魂を入れなきゃ!アンデッド創造で行けるか?)

 

モモンガはスキル上位アンデッド創造をブレインに使う。

モモンガでも1日4回しか使えない貴重なスキルだが……以下略

 

モモンガがスキルを使うとブレインはゆっくりと目を開いた。

自分が何処にいるのかわからないのか瞬きを繰り返しながら周りを見渡している。

そしてモモンガを見た瞬間バッと飛び起き臣下の礼を取る。

 

「起きたか?気分はどうだ?」

 

「はい。アインズ・ウール・ゴウン様。無様を見せ申し訳ありません。気分は最高です。」

 

「長いからアインズで構わん。それで何処まで覚えている?最後の記憶は何だ?」

 

「はい。アインズ様が指輪を外され真の姿を見せて下さった所迄は覚えています。」

 

(つまりは全部覚えてるって事じゃん!スキルで創造したからか、何か繋がりみたいなのを感じるから裏切る事は無いだろうけど…騙した感半端無いな)

 

「あ~うん…そうか…ほら?あれだ……絶望と空虚感を忘れたいって事だったし……アンデッドになれば……ほら?大丈夫かな~なんて……なんか………そんな感じで?」

 

「ありがとうございます。アインズ様!この体になってからアインズ様への忠誠心で心が満たされ絶望も空虚感も皆無です!」

 

「あっ…そう?良かったね。……ジャナクテ…うむ、忠義に励めよ。」

 

(取り敢えず何とかなったかな?けど…見た目がちょっと変わっちゃってるな…肌が白っぽいし所々鱗みたいなのが有るし…鱗は竜の血のせいか?目も真っ赤で牙も有るな。課金アイテムで何とかなるかな?)

 

モモンガはファンデーション(課金)とカラーコンタクト(課金)で肌と目の色を元の色に変える。

アバターの外装変更の為の課金アイテムだが自身のアバターを弄った時に余分に買っといて良かった。

牙は…折るか?いや、折ってもまた生えてくるし、口を大きく開けないとわからないから注意するだけで良いか。

 

(疲れた……人化してご飯でも食べに行こう。ブレ…リン?ジン?はどうしよう……ついてきても邪魔だな。)

 

モモンガは人化の指輪でリセマラしながらブレインに話しかける。

 

「あーブレ…イン?私は食事に行って来る。部屋の前で警備をしておけ。」

 

「わかりました。アインズ様。直ぐに警備に移ります。」

 

ブレインはモモンガが部屋から出るより早く扉を開け立番に向かった………と思ったら直ぐに帰って来た。

 

「アインズ様。御報告したい事が有るのですが、宜しいでしょうか?」

 

「慣れないなら敬語はいらんし回りくどい言い方もしなくて良い。用件を言え。」

 

「はい。部屋の前に女の死体が有ったのですがどうしましょうか?」

 

「………は?………………あっ!」

 

(絶望のオーラⅤじゃん!ヤバい…通りすがりの人を巻き添えにしたのか?)

 

「あれだっ!直ぐに部屋に入れろっ!誰にも見られるなよ!絶対だぞっ!絶対だからなっ!その後は立番をしておけ!誰も入れるなよ!」

 

モモンガはパニックになるかと思ったがスーと精神が安定して行くのがわかる。

何だ?精神が沈静化した?オーバーロードのパッシブスキルか。

ブレインが女の死体を脇に抱え部屋に戻って来る。

死体は美しい金髪に何処かの紋章が入った鎧を着込み顔の右半分がこの世界特有の病気か膿が溜まりブクブクに膨らんでいる。

 

(死体をどっかに捨てるか?いや、部屋の前で倒れている所を見られてたら俺が疑われる。蘇生実験もしたかったし蘇生するか。つーか、もう呑気にリセマラしてる場合じゃない!人化してから蘇生しないと。)

 

モモンガは人化してアイテムボックスからワンド・オブ・リザレクションを取り出し死体に使用する。

 

ワンド・オブ・リザレクションはペナルティ無しの蘇生なのでLVdown等も無いし通路で倒れてたから部屋に運び介抱していたで誤魔化せるだろう。

あっ…顔の膨らみが治った…バッドステータスが死ぬ事でキャンセルされたのか……一回死んだのがバレるんじゃ………どうしよう……

 

モモンガが言い訳を考えるより早く目の前の女は目を覚ました。

転生や復活後は皆こんな感じなのか、目の前の女はゆっくりと目を開き、自分が何処にいるのかわからないのか瞬きを繰り返しながら周りを見渡している。

そしてモモンガと両目が合いビクッと跳ねた後、豊かな金髪で顔の右側を隠そうと………………

 

「えっ?」

 

目の前の女は突如動きを止め、恐る恐る自身の顔の右側を手で触る。

膿が吹き出ていた顔の膨らみは消え、手には絹の様な感覚の美しい肌が有るとわかるだろう。

目の前の女は自身の道具袋をひっくり返しその中から手鏡を取り出し自身の顔を確認している。

 

「~っっっっっっっ!!」

 

顔を確認した女は絹を裂いた様な声を上げ涙を流しながらただ…鏡を見ている。

 

そんな女をモモンガは何も言わず気が済む迄泣けば良いとの態度でじっと見ていた。

 

(………どうすんのこれ?…喜んでるの?…悲しんでるの?…つーかなんか弱くなってない?いや、クラスチェンジした?……あっ!カースドナイトのクラス取ってたんじゃ!ヤバい…どうする?呪うか?いや、喜んでる可能性も0じゃない!取り敢えず泣き止まないと話しも出来ないし…けど…泣いてる女に声かけるとかハードルが高すぎる!)

 

モモンガは適当にリセマラした時のクラス構成に有った賢者のパッシブスキルで女の大体のLVとクラスを看破していたが本人はそれ所ではない。

 

泣き疲れたのか…気がすんだのか…まだぐずってはいるが女は顔を上げモモンガに問いかけて来た。

 

「これは……貴方…様が?」

 

「あ~うん。アレだ!君が~…ほらっ?通路でね……倒れていた感じで……それを私が見つけて…………こう……ちょこっとね?」

 

支離滅裂であるが女は何か納得したのだろう。

突然臣下の礼を取り、抜剣し持ち手を此方に向けながら宣言した。

 

「私。レイナース・ロックブルズはアインズ・ウール・ゴウン様に永遠の忠誠を誓います!」

 

「……………………はぁ?…えっ!何で?……流れが読めない!取り敢えず説明して!」

 

「えっ?…はい。私は昔、モンスターとの戦いで呪いを………………」

 

話しを聞いた所彼女はバハルス帝国で四騎士という役職に就く結構偉いさんらしい。

雇用形態は「呪いが解ける迄」というバクっとした形態で有り呪いが解けた今、何時辞めても良いと語った。

解呪を行った俺に感謝し自分の全てをかけ恩を返したいとの思いから忠誠を誓うと宣言したのだという。

ぶっちゃけ…国のトップの側近を引き抜くとか後が怖くてやりたくないし彼女の生活をこれから面倒みる自信も無い。

何より…呪いを解いたのはただの偶然なのだから彼女の気持ちは重いし気まずい……

ここはサクッと断るべきだな!

 

「レイナース・ロックブルズよ。お前の忠誠嬉しく思う。だが、お前はバハルス帝国で地位も名誉も有る皇帝の側近だ。そのお前が私に忠誠を誓っていると周りに知られるのは不味かろう。お前の感謝の気持ちと忠誠は受け取るからこれからもバハルス帝国皇帝の側でしっかりと仕事をするが良い。」

 

モモンガは遠回りに「気持ちは受け取るから元の職場で頑張ってね」と伝えるとレイナースはモモンガの言葉を咀嚼する様な間の後頷きモモンガに話しかける。

 

「…なるほど。そういう事ですか。わかりました!主上の仰せのままに。」

 

主上?…まぁ…納得はしてくれたのだろう。

一度殺した事もバレて無いみたいだし後は何事もなく帰って貰えば大丈夫だろう。

 

「主上。御伝えしたい儀がございます。発言をお許し願えないでしょうか?」

 

「あっ…そういう固いのは良いから、普段どうりに頼む。お前はバハルス帝国の四騎士なのだぞ?」

 

「すみません。では、皇帝が愚かにも主上を引き抜こうと愚策しております。如何なさいますか?命じて頂ければ直ぐにでも首を取って参りますが。」

 

「やめてっ!…いや…うむ、そこまでする必要は無い。適当に断っておいてくれ。」

 

「わかりました。では、私は皇帝の側で主上の「御命令」どうり「仕事」をして参ります。何か有りましたら直ぐにでもお呼び下さい。」

 

そう言ってレイナースは一礼し部屋を出ていった。

取り敢えず危機は脱したし今度こそご飯を食べに行こう。

 

(疲れた……もう帰りたいけどまだ1試合有るんだよな…ツアレさんをどうするかも今日中に決めなきゃならないし…ブレインはどうしよう?考えが纏まらないや……試合が終わってから考えよう。)

 

モモンガはリセマラする事もせず問題を全て後回しにして食事に向かった………

 

 

 

 

 

☆シャルティア・ブラッドフォールン

 

シャルティアはモモンガ様の演説の余韻に耽り、じっとその場で臣下の礼を取っていたが不意に僕のエルダーリッチから届いたメッセージに立ち上がり守護者統括であり、一時的にナザリックの全権を持つアルベドに大声で緊急事態を報告する。

 

「アルベド!墳墓地表部に急激な環境変化が発生した!ナザリックが攻撃をザ・クリエイションを受けた可能性がある!」

 

いつもの郭言葉も使わずアルベドに報告し自身は直ぐに第1階層に戻るべく玉座の間を駆ける。

本来で有れば玉座の間を駆けるなど死を以てしても許されない大罪であるがモモンガ様が再び玉座に君臨されるまでナザリックの守護を命じられたのだ。

自身の罪はモモンガ様が戻られた時に罰して頂こう。

 

「皆!待ちなさい!」

 

アルベドの言葉にシャルティアは殺気を込め振り返る…待てだと?モモンガ様の御命令以上に優先すべき事が有ると?

しかし…アルベドに一時的にでもナザリックの全権を渡されたのはモモンガ様だ…ならアルベドの命は聞かなければならない。

 

「シャルティア。コキュートス。アウラ。マーレは直ぐにリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用し地表部に転移しなさい。その後アウラ以外の3人はナザリック外周で警戒体制に入りなさい。アウラは自身の僕を使いリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを私の元まで戻してから周辺10㎞を索敵。敵を発見したら3人に情報を伝え直ぐにナザリックに帰還。必ず情報を持ち帰りなさい。デミウルゴスはナザリックの警戒レベルを最大まで引き上げナザリックの防衛を行いなさい。防衛に必要な事で有れば私の指示無くナザリックの全てを使う事を許可します。命令は以上!各員直ぐに行動に移せ!」

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを守護者に?至高の御方しか所持が許されない至宝を?一瞬そう考えたがアルベドも自分と同じ気持ちで大罪を犯す決断をしたのだろう。

シャルティアはアルベドからリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを受け取ったアウラと共に4人でナザリック地表部に転移する。

ナザリック外周で見たものは見渡す限りの草原だった。

グレンデラ沼地の面影は何処にも無く、そよ風が吹き燦々と射す陽射しはのどかな風景としか表現出来ないほどだ。

何かがおかしい…ザ・クリエイションでは此処までの事は不可能だ。

まるでナザリックが別の場所に転移してしまったかの様な変化ではないか?

そんな魔法は聞いた事が無い!そんな事は不可能だ!いや…聞いた事がある……不可能を可能にし世界の理すらねじ曲げるアイテムの存在を。

 

「まさか……ワールドアイテム?」

 

だが、ナザリックはワールドアイテムの加護を受け、他のワールドアイテムの影響を受けないとモモンガ様が仰っていたのを聞いた事がある……なら…何が…………

 

「周辺10㎞敵影無し。そこの森に低位のモンスターは少しいるけどナザリックの脅威にはならないよ。私はアルベドに報告に行くけど何か伝える事はある?」

 

アウラは訳のわからない状況ながらも直ぐ様ナザリックに敵が来る事は無いと判断したのか何時もの調子を取り戻しシャルティアに問い掛ける。

 

「いくら考えても訳がわかりんせんね。アルベドにはナザリックが転移した可能性有り。と報告お願いしんす。」

 

「転移ね…シャルティアもマーレと同じ考えなんだ。了解。じゃあ行って来るね。」

 

アウラは走ってナザリックの中に入って行く。

周辺10㎞はアウラの僕が索敵を終了し警戒に当たっているので大丈夫だろうが指示が有るまでは警戒体制を解かない。

暫くしたらアルベドから警戒任務の解除と第6階層にあるコロッセウムに来る様にとメッセージが入った。

ナザリック内に向かっているとコキュートスとマーレも中に戻ろうと歩いて来ている。

守護者全員を警戒から外す?完全に危険は無いと判断した?それとも知らない内に危険は排除された?

 

「おや?2人もアルベドからメッセージが有ったでありんすか?」

 

「アア。第6階層マデ集マル様ニ指示ヲ受ケタ。」

 

「ぼっ…僕も同じ指示がありました。」

 

守護者を全員集めているの?何か指示をする為?今の状況を説明する為?

 

「私にも同じ指示が有ったでありんす。守護者が集まる状況なんて何が有ったんでありんしょうかね?まぁ全権を持つアルベドの指示でありんすからさっさといきんしょう。」

 

そう言ってシャルティアは北西の方をじっと見つめる。

そこにはモモンガ様の気配が確かに感じられる。

自分達守護者は…いや、ナザリックの者全ては至高の御方の気配を感じる事が出来る。

その気配を感じる時だけ安心出来る。

那由多の距離が有ろうと変わらずに感じ取れる。

 

(今の私達はモモンガ様に仕える資格が有る僕なのでしょうか?)

 

シャルティアは一礼し目を切るとナザリック内に入って行った。

 

「おや?私達が最後でありんすか?」

 

第6階層コロッセウムに到着したシャルティアはそう言いながら周りを見渡す。

既に守護者全員が集まっ………1人見ない顔がいる? ナザリックの気配を持つ者だ…今回の集合と関係有るのだろうか?

 

「全員集まった様なので今ナザリックが置かれている状況とこれからの方針について説明します。」

 

気になる事はあるがアルベドが説明を始める様だし今回の集合に関係有るならアルベドが紹介するだろう。

 

「先ずはナザリックが置かれている状況だけど、ナザリックは未知の世界に転移したと見て間違いないわ。そしてこの転移は他者からの攻撃では無くモモンガ様の御慈悲によるものよ。」

 

アルベドの言葉にシャルティアの顔が大きく歪む。

この転移がモモンガ様の御慈悲によって行われた事で有るとの言葉が事実なら自分はモモンガ様の御慈悲を攻撃だと推測し報告した事になる。

 

「どういう事でありんすか?モモンガ様がナザリックを離れている今どうやって判断したんでありんすか?」

 

シャルティアはアルベドに対し質問する…いや、質問では無く自分のした事を認めたく無い気持ちから出た言葉かもしれない。

アルベドはそんなシャルティアに気が付いたのかシャルティアを庇う様な言葉を口にする。

 

「シャルティアの行為は間違っていないわ。今回の判断ミスはモモンガ様の演説を聞きながら直ぐにその真意に気付く事が出来なかった私のミスよ。」

 

「それを言うなら私にも責任が有ります。ナザリック一の知将として創られているのに今頃になって気付く有り様ですからね…」

 

「いっ…今は誰の責任とか言ってる場合じゃないと思います。それにモモンガ様は凄すぎますから2人が駄目な訳じゃないと思います。」

 

「…そうね。ありがとうマーレ。説明を続けるわ。モモンガ様は40人の至高の御方が御隠れになりその墓標としYGGDRASILを滅ぼすと仰られていたわ。なら、YGGDRASILにあるナザリックも共に滅ぼす事になるわよね。でもその後ナザリックに再び戻って来ると仰られた。矛盾してる様に聞こえるけど、至高の御方で有るモモンガ様の言葉は絶対。そこには一切の矛盾は存在しないわ。そう…モモンガ様は滅び行く我々を憐れに思いナザリックを未知の世界に転移させたのでしょう。そして我々に新な役目を授けて下さったわ。」

 

アルベドはそこまでを一息で話すとモモンガ様の御慈悲に感動したのか胸の前で両手を組みモモンガ様に祈りを捧げる様に目を瞑り続きを話し始める。

 

「そう…我々にモモンガ様の城をナザリック地下大墳墓を維持、管理、運営する大役を授けて下さったの!モモンガ様が再び玉座に座られるその時まで!我々ごときモモンガ様から見れば塵芥に過ぎない存在を必要として下さったのよ!なんという御慈悲!アルベドはこの身が灰となり朽ち果ててもモモンガ様の…………………!!!!」

 

「あ~アルベドは少し疲れている様だからここからは私が説明するよ。この転移がモモンガ様の御慈悲によるものだと皆理解出来たね?だが、モモンガ様の真意はそれだけでは無い。モモンガ様はこう仰られていた。私に相応しい玉座を持ち私を出迎えよ。とね。モモンガ様に相応しい玉座とは一体どの様な玉座だろうか?それは言うまでも無く、世界の頂点に君臨し全ての生物が平伏す玉座だ。つまりは……おや?アルベド戻って来たかね?」

 

「ええ。デミウルゴス。ごめんなさいね。つまりは……モモンガ様の真意はモモンガ様にこの世界をお渡しする事!この世界の頂点に君臨する玉座を持ちモモンガ様をお待ちする事こそ我々に命じられた絶対命令!その玉座を用意出来た時こそモモンガ様が再びナザリックに御帰還下さる時だと知れっ!」

 

「さて、アルベド。モモンガ様に世界を捧げる使命を頂いた事はもちろん大事な事だが、もう1つの使命。ナザリックの維持、管理、運営について詳しく説明しても良いかい?そろそろ彼も皆に紹介したいしね。」

 

「そうね。後はお願いするわ。デミウルゴス。私はモモンガ様の護衛を選抜した後、姉さんとモモンガ様の身の回りを盗さ………見守る為のシステムを作ってくるわ。」

 

「…程々にね…では皆も気になっているだろうから彼を紹介しよう。パンドラズ・アクター。此方に来てくれたまえ。……彼はパンドラズ・アクター。宝物殿の領域守護者で、ナザリックの財政面の責任者を任されている。」

 

カツンッ!カツンッ!カツンッ!カツンッ!

 

大げさな足音を響かせながら1人のドッペルゲンガーが歩いて来る。

その所作、佇まい全てが他者に見られる事を意識しているのか大げさだが様になっている。

アクターか…そう…舞台役者を見ているかの様だ。

 

「ん~初めまして守護者のに皆様っ!只今デミウルゴス殿からご紹介に与りましたパンドラズ・アクターと申しますっ!以後っ!宜しく……お願いします……」バッ

 

ウザイ…ひたすらウザイ……最後のポーズは何だ?

「では、自己紹介も済んだ事だしパンドラズ・アクターからナザリックの維持、管理、運営にかかる費用と現在の状況を説明して貰おう。」

 

「デミウルゴス。本当に大丈夫なんでありんすか?」

 

「あぁ。言い忘れていたね。パンドラズ・アクターは私やアルベドと同等の知能を持ち、そして……ナザリックで唯一モモンガ様の御手により創られた僕だ。」

 

また失態だ……此方の世界に来てから失言続きだ。

モモンガ様の御手により創られた僕に対し「大丈夫か?」などと………

 

「ん~ではっ!説明を始めさせて頂きますっ!先ずはナザリックの平均維持コストですが………………」

 

パンドラズ・アクターが流した事によりシャルティアの失言は無かった事になり説明が続けられる。

ナザリックの現在の環境を維持する事や罠を発動する為にはユグドラシル金貨が必要で有るらしい。

他にも僕の召喚。復活の触媒。スクロールへの書き込み。ダグザの大釜で食料を生み出す等、様々な事にユグドラシル金貨は使われユグドラシル金貨を安定的に得る事は最重要課題で有ると説明された。

次に問題となるのが消耗品の補充だ。

スクロールやポーション瓶。食人種の為の人間等ユグドラシル金貨では得る事が出来ない物は外部から調達する必要が有るとの事だ。

今のナザリックの総資産では一切の襲撃が無かったと仮定してもたったの5千年しか持たないという。

 

「つまりはぁ!消耗品とユグドラシル金貨の安定取得はナザリック維持に絶対に必要で有りぃ大至急対応しなければならない事態なのですっ!」キランッ!

 

しかし…ウザイな………

 

「ありがとう。パンドラズ・アクター。対応については私から説明しよう。先ずユグドラシル金貨の取得方法だが……………………」

 

ユグドラシル金貨はエクスチェンジ・ボックス内に様々な物を入れる事により得る事が出来るらしい。

様々な物と言ってもナザリック内の物を入れていたら意味が無い。

それだと飢えを満たす為に自分の体を食べる様なものだ。

消耗品の取得方法はデミウルゴスの頭脳をもってしてもまだわからないのだという。

つまりは大至急、外の調査を行い物資を得る必要が有るという訳か……

 

「……と言う訳で周辺の調査。ナザリックの隠蔽。ナザリックの防衛。を皆にお願いしたいと思う。調査はアウラにお願いしよう。僕を使い周辺100㎞の地形と生態系を調査してくれ。知的生命体を発見した場合はまだ接触せず私に報告を。隠蔽はマーレに行って貰おう。ナザリック周辺を木で覆い森とし、近くの森と繋げてしまおう。その後、ナザリック周辺の森は「パーフェクト・イリュージョン」の効果を持つアイテムで迷いの森とし、侵入者がナザリックに近付いても容易に発見出来ない様にしてくれ。防衛はコキュートスとシャルティアにお願いするよ。コキュートスは地表部と迷いの森に自身の僕を配置。ナザリックに近づく全ての生物を始末してくれ。自身は地表部に待機。僕が殺られた場合には私に報告後指示を仰いでくれ。シャルティアはナザリック内部の防衛を。第1から第3階層で待機し、ナザリックに侵入した愚か者を始末して欲しい。命令は以上だ。何か質問は有るかい?」

 

少し慎重が過ぎないか?シャルティアはデミウルゴスの話を聞き疑問を浮かべる。

自分で有れば単身で周辺の地形を確認しながら索敵も行いナザリックに近付く敵を排除出来る。

その際、街や国を発見したら襲撃し物資を奪えば良い。

ナザリックの隠蔽にも反対だ。

何故栄えあるナザリックがこそこそ隠れなくてはならない?

ナザリックは世界の頂点に君臨する組織だ。

確かに今はこの世界に来たばかりで君臨してるとは言い難いが直にそうなる。

ならば堂々とこの場に鎮座するべきだろう。

それにデミウルゴスの案のままだと自分はナザリックでお留守番をし、他の守護者が働く事になる。

ナザリックの防衛は最も大切な仕事だとは分かるが自分の所に敵が来る場合アウラ、マーレ、コキュートスを抜けないといけない。

それはほぼ不可能だろう。

シャルティアはデミウルゴスの命令に質問を返す。

 

「ずいぶんとノンビリしていんすね。モモンガ様に一刻も早く世界を献上する為には私が出れば最も早いんでなくて?」

 

「シャルティアの意見は尤もだ。だがこの世界にどれ程の強者がいるかわからない状態では強行策は取れない。我々守護者は確かに強い…そうあれと創り出されたのだから当然だ。だが無敵では無い…シャルティアも覚えているだろう?あのナザリック史に残る大戦を。あの時の愚か者達がこの世界にいないとも限らないのだから。」

 

「………わかりんした。命令に従いんす。」

 

自分は何時もこうだ…少し考えれば分かる事が思いつかない。

考えが足りなくて空回る…デミウルゴスやアルベドの様に創られていないのは理解しているが……この調子ではモモンガ様が戻られた時失望されかねない。

 

「では、皆行動を開始してくれ。私はアルベドとパンドラズ・アクターの3人で情報の精査とこれからの計画につき話したい事が有るので失礼するよ。何か有れば直ぐメッセージで連絡を。」

 

皆、デミウルゴスの号令を受けそれぞれの仕事に移る。

私は自身の階層で待機…つまりはお留守番だ……ナザリックが攻め込まれる事を願うのはいけない事だが自分の役目は敵がいなければ何もしていないのと変わり無い。

いや、自分がナザリックの防衛を行っているからこそ皆が外で動けるのだ!自分の仕事は非常に重要で大切なものだ………けど……

シャルティアは自身の階層を巡回しながら思考の渦に囚われる。

そんなシャルティアに1人の部下が声をかけて来た。

 

「おや?これはシャルティア様。我輩の領域の近くでお会いするのは珍しいですな。ですが丁度良かったですぞ。許可を頂きたい事が有りシャルティア様の所に行こうと思っていた所でしたので。」

 

…………恐怖公だっ!シャルティアの部下の1人で有り、第2階層に有るブラック・カプセルの領域守護者なのだがぶっちゃけ苦手だ。

 

「…きょっ……恐怖公。どうしたでありんすか?最大警戒レベルは解除されんしたが未だ予断許さぬ状況。防衛に関する事ならデミウルゴスに許可を貰いんした方が良いと思いんすよ?」

 

自分の判断は間違っていない筈だ!防衛責任者はデミウルゴスなのだからデミウルゴスが許可を出すのが一番正しい筈!苦手だから押し付ける訳では無い!断じて無い!

 

「いえ。防衛に直接関係する事では無く我輩の眷属に関する事ですな。最大警戒レベル発動時は我輩の眷属でブラック・カプセルを満たす事になっておるのですが、解除されてからも眷属の送還が出来なくなっている様なのです。ですので、我輩の領域外に眷属を出しても良いか許可を頂きたいのですぞ。」

 

「いゃぁーーーーーーーーー駄目に決まってるだろっ!外っ!外に放しなさいっ!ナザリックの外よっ!恐怖公なら眷属が外にいても管理は出来るでしょ?」

 

「ほう。ナザリック外ですか?了解しました。その様に致しますぞ。」

 

助かった…自分の領域が恐怖公の眷属だらけになるなんて悪夢以外の何物でも無い。

 

「(シャルティア。今ナザリックから大量の僕が出て行ったのだが何か知らないかね?此方には情報が来ていないのだが)」

 

デミウルゴスからのメッセージだ。

不味い……確かに今の状況ではデミウルゴスに許可を取ってから行うべきだった。

 

「(あ~デミウルゴス?これは~その~私が許可しんした事でありんすよ。え~と…恐怖公の眷属を外に出しただけでありんすから………っ…防衛に直接関係する事じゃ無いんすし私の裁量で動きんしたが………)」

 

「(…恐怖公の眷属を……なるほどね。素晴らしい策だよシャルティア!では恐怖公を私の所迄派遣してくれ。暫くは恐怖公を借り受ける事になるが構わないね?)」

 

「(……??えっ?えぇ…かまいんせんよ。恐怖公は今目の前にいんすから私から伝えんすよ。)」

 

「(ありがとう。シャルティア。これで調査時間の大幅短縮が見込める。周辺の監視も容易になるだろう。では引き続き防衛任務をお願いするよ。)」

 

「(了解しんした。)」

 

よくわからないが恐怖公をデミウルゴスの所に派遣し引き続き階層の巡回に入る。

結局、自分は勿論、各階層守護者も敵に出会う事無く周辺の調査とナザリックの隠蔽は3日かけ無事に終わった…………。

 

調査が終わりこれからの方針が決まったと全守護者がコロッセウムに集められ説明が始まった。

因みに方針を決める会議に自分やアウラ、マーレ、コキュートスは呼ばれていない……全権を一時的に持つアルベドが中心となり決めたのだろうが至高の御方がナザリック内にいない今、決めるのは全権を一時的に持つアルベドの仕事だが守護者全員に意見ぐらいは聞くべきでは?と少し不満に思う。

先ずはデミウルゴスから調査の結果が説明された。

 

現在、ナザリックはリ・エスティーゼ王国の南東バハルス帝国とスレイン法国の国境近くに位置しリ・エスティーゼ王国とバハルス帝国が所有権を主張しながらも手を付けれないトブの大森林の最南が正確な位置だという。

近隣には人間種の国家が多く有るが離れた場所には竜が評議員を勤める亜人中心の国やビーストマンの国が有るらしく人間種だけの世界ではないらしい。

近隣諸国や地域に強者の存在は少ないが確認出来、近い場所ではトブの大森林にLV80前後のトレントが1体。スレイン法国にLV100前後が2人。アーグランド評議国にLV100~80が5体。発見され現在は監視しているという。

モモンガ様のいらっしゃる場所はリ・エスティーゼ王国の首都、王都リ・エスティーゼで有り、人化して人間の中にいるらしい。

モモンガ様が何故人間の街に人化して?と疑問は有るがモモンガ様のお考えは私にはわからない。

我々の敬愛する主のお考えはデミウルゴスやアルベドでも後になってやっと気付く事が出来るレベルなのだから。

因みに護衛にはエイトエッジ・アサシンとシャドウ・デーモンが就いている。

護衛の人選に不安は有るが肉眼では恐怖公の眷属がナザリックからはニグレドが見守り何か有れば直ぐに守護者を送り込めるシステムとなっている。

しかし…流石はデミウルゴスというほかない。

この短い時間で周辺諸国を丸裸にしてしまっている。

 

「……と言う訳だ。今回はシャルティアの協力のお陰で調査と監視が非常にスムーズに行った。シャルティアにはすまないが恐怖公は私の直属とさせて貰うよ。それでは次は今後の方針についてアルベドから話して貰おう。」

 

「?………えっ?………えぇ。かまいんせん。」

 

「ではここからは私が説明します。先にデミウルゴスが話した様に現在モモンガ様はアインズ・ウール・ゴウンと名を変え首都リ・エスティーゼで人化して武闘大会に参加されているわ。其処で我々はモモンガ様の御計画に沿う形で世界征服を行います。しかしその為にはナザリックを全面に出す訳には行かないわ。先ずは準備として……………………」

 

世界征服の準備として

マーレはトブの大森林を制圧し支配下に治める任務を貰っていた。

支配下に治めた後にトブの大森林内に偽ナザリックを作りマーレは管理せず僕に管理させよと命令を受けていた。

そこそこ強いトレントは暫く放置し頃合いを見て他国にぶつけるという。

 

コキュートスはアゼルリシア山脈に向かいドワーフの国以外を制圧し支配下に治める。

支配下に置いた現地勢力を使いドワーフの国を攻める任務に就く。

ドワーフの国とは争いながらも滅ぼしてはいけないという難しい任務だ。

真っ先に鉱山を押さえエクスチェンジ・ボックスでユグドラシル金貨を得る大切な任務となる。

 

アウラは竜王国の先に有るビーストマンの国を制圧し支配下に治める任務だ。

この任務もコキュートスの任務と同じく現地勢力だけを使い竜王国に攻めながらも滅ぼしてはいけないらしい。

 

デミウルゴスはアベリオン丘陵を制圧。支配下に治める任務だ。

消耗品の調達も兼任しスクロール、人間、ポーション瓶を安定的に得る研究を行うという。

周辺諸国を攻める時はデミウルゴスが全面に立ち魔王として指揮する事も命令を受けている。

 

「………それで最後はシャルティアだけど…ナザリックの防衛をお願いするわ。基本はナザリック内に待機して外敵に備えて。それとモモンガ様に危機が有った場合はシャルティアと私が出てモモンガ様の盾となります。言う迄も無く最も大切な任務よ。私はナザリックの運営を行いながらモモンガ様に危機が無いかを見守ります。私の補佐兼情報統括としてパンドラズ・アクターを置いているから情報は私かパンドラズ・アクターにお願いね。命令は以上よ。何か質問は有るかしら?」

 

ま た お 留 守 番 かっ!!!!!

 

「アルベドぉぉぉぉぉぉ!納得いくかっ!何で私ばっかり!」

 

「シャルティア。落ち着いて。貴女以外誰に頼めば良いの?」

 

シャルティアはアルベドに対し怒号を吐くがアルベドは真面目な顔でシャルティアを真っ直ぐ見つめそう語る。

勢いを殺された形になったシャルティアはそのままアルベドの話を聞く。

 

「強者が複数攻めて来た場合、守護者の多数が外に出ている状況ではナザリックの防衛に不安が残るわ。けど貴女がいれば皆も安心して任務に専念出来るでしょう。それに守護者の中でゲートを使えるのは貴女しかいないわ。モモンガ様が危機に陥る状況になるのなら敵が強い事は間違いない。守護者序列1位でゲートが使える貴女とナザリック最硬の私がモモンガ様を御守りしなければならない。その任務に不満が有るの?」

 

「ぐぐぐぐぐぐ………無いでありんす。あっ!りっ!んっ!すっ!」

 

「じゃあ私からも質問~。何か作戦がまどろっこしいよね?モモンガ様の御計画に沿うって言ってたけどさ、さっさと制圧してモモンガ様に献上した方が早いんじゃない?」

 

「アウラ。モモンガ様が玉座の間で仰られていた事を思い出して。モモンガ様は「アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説にせよ」と仰られていたわ。そして今モモンガ様はアインズ・ウール・ゴウンと名を変え人間の国で武闘大会に参加していらっしゃる。因みに武闘大会の優勝者は王国の王族に仕える事が慣例らしいわよ。つまり、モモンガ様は人間の国の中枢に入られる事になるでしょうね。その後、モモンガ様は国を滅ぼす力を持つトレントを倒し、ドワーフの国を救い、竜王国を救い、魔王を倒される。そしてモモンガ様いえ、アインズ・ウール・ゴウンは英雄となられその後も様々な困難を打ち倒され遂には伝説となるわ。その為に我々はモモンガ様が倒す敵を用意し、モモンガ様が救う弱者を用意する必要が有ります。」

 

「でもさ~、モモンガ様が人間に仕える必要なんて無いんじゃないの?モモンガ様のお考えだから深い意味が有るんだろうけどさ?」

 

「そうね。けど、おそらくは国を作るより乗っ取る方が良いとのお考えでしょう。それと……遊んでいらっしゃるのだと思うわ。シバリプレイ?だったかしら?モモンガ様は結果より過程を楽しむ事を優先される事も有りますから。」

 

「なるほどね~。了解。」

 

「もう質問は無いかしら?なら……各員行動を開始しなさい!」

 

アルベドの話が終わり皆自身の仕事に移る。

私もナザリックの自分の階層に足を運ぶ。

アルベドの話は正しいが私の仕事が無いのは納得したけど納得出来ない。

 

 

 

いや、待て!モモンガ様を見守るって私でも良いよね?よね?

 

 

「アルベドぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

ナザリックには暫く2人の女が争う声が響き渡っていた……………………。




訂正。
ゴブリン将軍の角笛が500円ガチャの課金アイテム→アーティファクト。
名無しマークIIsecond様ご指摘ありがとうございます。

全財産→少なくない金額。
ドラゴミレスク様ご指摘ありがとうございます。

そうゆう。どうゆう。→そういう。どういう。
ventaqua11様ご指摘ありがとうございます。

「」の削除。フルネームの減少。
テンペスタ様ご指摘ありがとうございます。

かまいんす→かまいんせん
焼肉パーティ様ご指摘ありがとうございます。






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