仏ルノーと日産自動車の関係がぎくしゃくし始めた。ルノーの筆頭株主である仏政府が同社の経営陣に日産との経営一体化を進めるよう圧力を強めているためだ。経営の独立性にこだわる日産では両社の会長を兼務するカルロス・ゴーン氏が仏政府寄りに傾き始めたことに警戒感が広がる。
関係者によると仏政府は両社の経営統合を狙い、金融機関などと様々な構想の検討に入ったとされる。6月中旬に開催予定のルノー株主総会を前に海外メディアで「統合新会社設立を検討」といった報道が相次ぐのは仏政府が仕掛けた情報戦の一環とみられている。
これまでにいくつものスキームが報じられ、統合新会社をつくり上場させる案があるほか両社合併も取り沙汰された。現在も両社の統括会社があるオランダに統合後の本社を置く案もある。仏政府が持つルノー株15%の大半を日産が買い取るとの報道もあった。
日産は相乗効果の見込める提携強化は前向きに検討する構え。だが日産の独立性が失われる合併や経営統合については「とても受け入れられない」(日産幹部)と不快感をあらわにする。
仏政府は自国産業の育成に向け、かねて日産を影響下に置きたい姿勢を示してきた。2014年4月に株式を2年以上持つ株主に2倍の議決権を与えるフロランジュ法を制定しルノーを通じた経営干渉の構えを見せた。マクロン仏大統領も経済産業デジタル相だった15年に仏政府が影響力を持つ形での経営統合を求めた。
15年12月には仏政府が日産の経営に関与しないことで合意。その際「日産の経営判断に不当な干渉を受けた場合、ルノーへの出資を引き上げる権利を持つ」と確認している。仮に日産がルノー株を25%以上まで買い増せば日本の会社法によりルノーが持つ日産株の議決権が消滅する。日産も反撃する手立てはある。
昨年までのゴーン氏は経営介入をけん制し自ら防波堤となってきた。しかし今は立ち位置が異なる。17年4月に日産で社長兼最高経営責任者(CEO)を西川広人氏に譲り、利益を代弁する立場ではなくなった。
仏政府は今回のルノーの株主総会で経営陣の若返りを求めていたとされ一時はゴーン氏のCEO退任観測も浮上した。続投への条件もいくつも課したもよう。株主総会でゴーン氏がどんな言及の仕方をするのかは現段階で見えていない。
ゴーン氏は今年1月の仏下院での公聴会で「現在の体制は統合強化のためにやむを得ず選択している」と仏政府に同調するような発言をした。3月には仏政府の要請に応じて両社の機能統合の対象を生産や新規事業に広げている。日産社内ではゴーン氏の「変心」を疑う声も広がっている。
自動車の基幹技術を持つ日産がルノーに取り込まれるようなら日本政府も懸念を示す可能性がある。ゴーン氏はかつて抜本的な資本関係の見直しには日仏両政府の了承が必要と言った。仏政府の介入で日産との関係がこじれれば政府間のきしみにも発展しかねない。(白石武志、パリ=白石透冴)