集団レイプ被害にあった15歳少女が、風俗嬢、看護師に…和田秀樹氏が実話もとに映画化
性暴力の被害にあった女性は、その後の人生をどう歩んでいったのか。精神科医、教育評論家など多方面で活躍する和田秀樹さんは、ある女性の実話をもとにした映画『私は絶対許さない』の監督として、精神科医ならではの視点で、被害者の苦しみに正面から迫る。和田さんに話を聞いた。(ライター・高橋ユキ)
●「性被害者の世界がリアルに書かれている」
精神科医として、教育評論家として、和田氏を知らない人はいないだろう。なぜ映画監督に? と思うかもしれないが、実は、本作で4作目だ。
「性暴力被害を題材にした多くの小説や映像が、被害者のその後に迫れていないと感じており、いつか被害者を描いた作品の監督をしたいと考えていました」
そんな時、知り合いの編集者から解説を依頼され、映画の原作『私は絶対許さない 15歳で集団レイプされた少女が風俗嬢になり、さらに看護師になった理由』(ブックマン社)に出会った。15歳で性暴力被害にあった雪村葉子さんが自らの半生を綴った作品だ。
「性暴力被害者の世界がリアルに書かれていることに驚きました。たとえば、葉子はレイプを受けた家に行き、その加害者の養父に援助交際を求められて応じるんですが、この突飛に見える行動も性暴力被害者には珍しくありません」と、和田氏は話す。
●「性暴力被害は、時間の連続性を断ち切る」
映画の主人公・葉子(成人・平塚千瑛、学生時代・西川可奈子)は、東北の田舎町に住む中学3年生。ある日、雪深い無人駅の前で母の迎えの車を待っていた時、見知らぬ男たちに車で拉致され、集団で強姦された。
翌朝、自宅に戻っても、葉子を気遣うものは1人もいない。それどころか、遅くなったのに連絡しなかったと家族に責められ、暴力を振るわれる。
その後、加害者の養父(隆大介)から援助交際を持ちかけられ、それに応じてしまった。肉体関係と引き換えに得た金を貯め、東京に出た葉子は、夜の街を渡り歩き、結婚、そして看護師の道へーー。
1人の女性の壮絶な人生だが、和田さんは精神科医として、雪村さんのような性被害によるトラウマに苦しむ女性患者たちに接してきたという。1991年から3年間、当時、トラウマの研究が盛んに行われていたアメリカに留学。この時、性的虐待や性暴力の犠牲者にあらわれる様々なトラウマに触れた。
「性暴力被害は、時間の連続性を断ち切り、その人の人生を変えてしまうことがあります。被害にあった患者さんの話を聞くと、被害にあう前と後の時間は、違うものになってしまう。性被害にあった後、男性に近づけなくなったり、逆に性的に奔放になってしまったりする人もいる。それだけ性暴力は、人間を変えてしまうのです」
●自分の生きている世界の傍観者のように
撮影方法も印象に残る。たとえば、性暴力にさらされる葉子を、もう一人の葉子が見ているシーンだ。この撮影方法は「観る人がなるべく葉子と体験をシンクロさせることができるように被害者目線で撮った」という狙いがある。
「性被害などのトラウマによる症状に『離人』があるんです。自分が、自分の生きている世界の傍観者のようになる症状なんです。葉子の傍らで、もう1人の葉子が見る。これは離人の人がみる視線そのものです。ぜひ、大きなスクリーンで観ていただきたいです」
映画は、4月7日から東京・テアトル新宿(レイトショー)にて公開予定だ。
【取材協力】
和田秀樹さん:大阪府出身。精神科医のほか、受験アドバイザー、教育評論家、臨床心理士、小説家として多方面で活躍している。
【映画情報】
【プロフィール】
高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(霞っ子クラブ著/新潮社)、「暴走老人 犯罪劇場」(高橋ユキ/洋泉社)など。好きな食べ物は氷。
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