若手キャリア官僚は今こんなことを考えています

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国会答弁の作り方2 〜論理的思考と反射神経の二重奏〜

まずはじめに謝っておきます。今回も長いです笑

 

前回の記事はこちら

kasumigasekipeople.hatenablog.com

 

---(前回)国会答弁の作り方1---

 

---今回--- 

6. ひたすら書く(大至急)

「国会答弁の作り方」なんてタイトルですから、おそらくこの記事にたどり着いた方の多くはどうやって書いているのかについての記事だと思っておられたのではないでしょうか。ようやくそこまでたどり着きました笑 が、もうちょい語りたいことはあるのですよ。。。

 

6-1. 割り振り完了してから書き始めるのでは遅すぎる

 

 前回の記事の終わりで

 割り振りが完了したのでいよいよ答弁作成開始だ

 というニュアンスの書き方をしたのですが、実は例外もあります。

 

 稀にワリモメ(覚えてますか? 割り振り揉めのことです)が長期化することがあるのですが、それを終わるのを待っていたのではいよいよ間に合わなくなります。

 なので、ワリモメをしつつも、自分の担当に決まった時のことを考えて作成作業は進めておくわけです。

 なお、電話口でワリモメる人(国会業務担当者)と、実際に手を動かして答弁を書く人(政策担当者)とは異なることが多いです。

 ですから、ワリモメながら書くというのは部署全体を指した言葉で、よりリアルな情景描写としては、

 

 ワリモメ担当者

 「一応全力で戦いますけど、ちょっとうちに落ちちゃうかもしれませんねぇ」

 書く人

  「まーこの感じの質問ならしゃーないですかねー。書くだけ書いときます」

 

 みたいな会話がなされるわけです。

 ただ、政策の中身については書く人の方が圧倒的に詳しいわけですから、その人がワリモメに出撃することもあります。その辺はもう臨機応変です。

 

 さてさて、ここで、ワリモメる人と答弁を書く人が登場しましたが、

 是非この記事で皆様に一つ知っておいていただきたいのは、答弁作成のサブとロジの話です。

 サブ:サブスタンス。中身のこと。

 ロジロジスティクスその他いろんな手続きのこと。

 詳しく知りたい方はこちらをどうぞ 

kasumigasekipeople.hatenablog.com

 

 ここでは

 サブ:答弁の中身を考える

 ロジ:答弁作成作業を期限内に完成させるためのありとあらゆる作業

 ということになります。

 

 森友の議論を聞いていても、基本的に「サブ」面しか注目されないように思えるのですが(それは実務をやったことない人からしたら当たり前なんですが)、実際100問を超える質問がくると、「ロジ」面もかなりしんどくなってきます。

 どの答弁は既に作成が完了していて、どの答弁はまだ課長が頭を悩ませていて、どれは他省庁と調整中で、どれは官邸に送らないといけなくて、あれ、官邸からNGが出たからまた担当部署に修正させないと。。。あーやっとレクの連絡きたわ。。。

 これらをちゃんと管理して適切な部署・人に指示を出しつつ、全てを適切に進めないと、翌日の国会の議論が破綻します。

 

 この記事では淡々と一つの時系列で説明していますが、

 答弁レクは質問者の人数分の回数が実施され、

 一人の質問者の質疑には複数の質問が含まれるわけですから、

 全ての質問に対してそれぞれワリモメから作成完了までの流れがあるわけです。

 100問あるなら100問すべてについてこのブログで書いていることをやります。

 

 どれだけわかりやすく伝えられているか自信がありませんが、この全体管理は割とヤバイです。なお、これらを差配する官房総務課の国会担当ラインは、世間で言うところの「キャリア」の職員ではなくて、その道が長いベテランの職員の方も多いと思います。

 あの人たちは、本当にすげーです。キャリアなんて大したことしてませんよ。あの人たちがいなくなったら国会の論戦はぐっちゃぐちゃになると思います。

 

 

 森友の件、官僚OBの方で「あのような状況ではミスも起きてしまうだろう」というような見解を述べられている方がいらっしゃるのは、こういうロジ面を知っておられるからだと思います。

 

 

 いやぁ、なかなか「書く」部分の説明が始められませんねぇ笑

 でもそれぐらい、本当に複雑なプロセスなのです。

 

 ちなみにですが、こういうノウハウは有形無形いろいろな形で役所に蓄積されているわけですから、省庁を解体して再編したりすると、このノウハウは一度全部吹っ飛びますので、再構築する必要があります。これはかなりの人的時間的コストがかかります。ミスも多発するでしょう。まぁそれは役所に限らずあらゆる組織に言えることだと思います。

 

6-2. 想定問答を使いこなす

 ようやく書いていくわけですが、

 何も0から頭を悩ませて書いていくわけではありません。そんなことをやっていたのでは、前日に通告を受けて翌日朝から始まる委員会の答弁にとても間に合わせることはできません。

 予算や法律など、およそ国会でご議論いただく議案については、国会に提出する前に、「このようなことが聞かれるだろうから、その時はこう答えよう」というものをまとめた「想定問答集」を作っています。

 何も思いつきで予算や法案を提出するわけではありません。

 その前に、審議会での有識者の議論や、業界からの要望規制改革要望国民からの陳情、そしてもちろん国民の代表である議員との意見交換など、実に様々な要素を踏まえた上で、時には何年も重ねた議論をベースにして、予算や法律などは国会に提出されるわけです。

 ですから、何が論点化していて、それについてはこの意見とこの意見があって、それぞれの根拠は何で、、、といった情報はすでに大量に蓄積されています。

 その論点をベースにして、こう聞かれた時はどう答えるか、をあらかじめ用意しておきます。これは別に役所特有のことではなくて、株主総会社長会見に向けて経営企画部がやっているような作業と同じだと思います。

 

 それに、国会対応のためにわざわざこの想定問答を作る、というのとはちょっと違う気がしています。もうちょっと実質的な意味のあるものです。

 例えば、特定の領域に何らかの打撃がある政策があったとします。これに対して、「別の政策で手当をしなければならないのではないか」という発想になるのは当たり前のことですよね。なので、政策立案過程において、パッケージとして、「デメリットを補うような政策」も作っていきます。政策は全体で見なければいけませんからね。

 この政策立案過程そのものがもはや「想定問答作成」に近い、というのが何となくおわかりいただけますでしょうか。ですから、これまでに積み重ねてきた議論を、形式的に、想定問答という形に落とし込む作業と考えていただくと良いと思います。ただの原稿ではないのです。

6-3. ひたすら書く

 というわけで、多くの質問については既に想定問答があるわけですから、それらを組み合わせて作っていきます。

 「この質問は、想定問答の28番と79番を組み合わせれば答えられるねー」

 みたいなノリです。

 で、質問は何十問も、時には100問を突破してくるわけですから、もはや反射神経の世界です。既に想定問答は頭に入ってますから、これはこう、これはこうと、使える想定問答を瞬時に特定し、張り合わせたりしていきます。

 張り合わせて日本語を整えるぐらいなら、入ってきてすぐの新人でもできますから、回っていない時は彼らも動員します。

 「これとこれをうまいことくっつけてまともな日本語にして、とりあえず一回見せて」みたいな感じです。

 

 もう一つ材料として使えるのが「既に国会で発言している答弁」です。

 

 ちょっと、最近ニュースを賑わせている論点に近づいてしまった気がしますので笑、ここは丁寧にいきたいのですが、

 

 Aという質問に対して、既にBと答えていた場合、

 Aという質問がまた来た時に、何の理由もなく次はB'と答えるとおかしいわけです。

 法案の内容や政府の方針が変わっていないにも関わらず、

 同じ質問に対して違う答え方をすると、何か方針が変わったのか?といういらぬ誤解を招き、議論に混乱が生まれます。

 ですから、過去と同じ質問が来て、その時から議案の内容やスタンスが変わっていない場合は、その時に行った答弁を元にして答弁を作成します。

 これは、「一度喋ったことは正しいということにする」わけではないことはご理解いただけますでしょうか。結構大事なのですが。

 間違ったことを喋ったのであればそれは当然次の機会に修正する必要がありますが、特に間違ってもなく、またスタンスも変わっていないのであれば、答弁を変える必要がありません。なので、答弁を使い回すのです。

 

 それから、気にされる方もいらっしゃるかと思いますので念のため申し添えますが、これはあくまで答弁作成技術の話ですので、例の総理発言への忖度とはまったく別の議論です。そちらの方は、私には絶対にわからない話です。

 早いとこ全貌が明らかになるといいですよね。みんなスッキリしませんもんね。

 

 さて、既にある想定問答が使いまわせそうであればそれをうまく使えば答弁が作れるのですが、たまーに、新規モノというか、前もって準備していなかったようなことが聞かれます。

 これは、議案の欠点を指摘することで政策を改良するような良い質問である時もあれば、それ聞いて何か国がよくなるんだろうかという重箱の隅をつつくような質問の時もあります。いろいろです。

 この新規モノについては、頑張って考えるしかありません。反射神経ではなく論理的思考で頑張って考えます。新規モノは結構しびれますが、力量が試されるところでもあるのでやりがいはあります。

 

 加えて、数字を教えてくれ、という質問があります。

 これはもう力技でデータを収集するしかありません。持っているデータならいいのですが、無いものだとかなり辛かったりします。

 知りませんと言いたいところなのですが、「業界を所管する大臣や所管省庁ともあろう者がこんなデータも知らないのですか!」てなっちゃって、そこのやり取りだけがニュースになったりしますんで、頑張って調べます。批判されるのなんて別に構わんのですけど(慣れてますから)、そのせいで大事な法案が通らなかったりするのは本末転倒なので、頑張るのです。

 ただ、わからない時は、素直に、承知しておりませんと言うしかありません。そのうち日が昇ってきてしまいますから。

 

 なお、これは余談なのですが、近頃、国会答弁作成作業にAIを使おうなんていう話があります。ここまで読んでいただいた方には、AIが作れそうな答弁と、そうではない答弁があることがおわかりいただけるかと思います。

 既存のモノを組み合わせて作るタイプの答弁であれば多分できると思います。

 数字読み上げ系なんて、ほんと簡単にできると思います。

 そもそも国会作業って「行政」の本業と言えるのか結構きわどいところがある気がするので、導入できる技術があれば、コンピューターに原稿を書かせるなんて国会軽視だとか縄文時代みたいなこと言ってないでガンガン導入すればいいと思います。なんせ税金節約できますから。(そして是非とも国会にタブレットの導入を早く。。。)

 

6-4. 書く時の注意点

○ ちゃんと答える

 当たり前の話なんですが、想定の切り張りとか、色々な修正を加えていくうちにいつのまにか、答えてるんだか答えてないんだかよくわからない代物が出来上がったりします。

 質問に答えるのは当たり前のことです。

 質問に答えていないような答弁を準備してしまうと、現場で

 「それは答えになっていないじゃないか!」

 ということになって、紛糾します。

 ちゃんと答える、当たり前ですが最も大事です。

 ちなみに、国会中継を見ていると「通告を受けておりませんので」「したじゃないか!」というやり取りを見かけることも多いと思いますが、あれの原因は、答弁の作り方が甘い時もありますが、多くは、問取りレクでのコミュニケーション不足です。

 「言った言わない」の世界になるのでもはや原因はわからないんですけどね。文章で通告されていればハッキリするんですけど。

 なお、「質問は事前に通告しなければならない」なんていう法律はどこにもありません。あくまで慣習です。ですから「通告を受けておりませんので」というのは理由になってるようでなってないんですね。ただ、わからんことはわからん、ということです。

 実際、質問が全て1ラリーで終わるわけではないですし、答弁がわかりづらければ質問者はさらに突っ込んで質問します。もはや答弁書の範囲外ですね。ですから、「想定問答を官僚が書いている」→「国会論戦は官僚の筋書き通りに進められている」→「官僚が全てを操っている」という陰謀論的連想ゲームが起こりやすいのですが、あれは正しくありません答弁書はあくまで参考資料であって、国会の論戦は結構緊張感あります。自分が書いた答弁のせいで論戦が紛糾したらそりゃもう冷や汗もんです。

 

 本当は、こういう背景事情は後回しにしようと思ったのですが、関係があったので少しだけ書きました。(あー、また長くなっていく。。。)

 

○ 安請け合いをしない

 「こういうことをしたほうがいいんじゃないのか」という系の質問に対してやってしまいがちなのですが、適当に場を収めるために「その通りですんで、それもやりますね」などと適当なことを安請け合いで言ってしまうわけにはいきません。

 政府の施策には少なからずみなさんの税金がかかるわけですから、それもやりましょうあれもやりましょうなんてことをやっていたのでは、いくら税金かき集めても足らないわけです

 この結果「前向きに検討」とかいうお決まりフレーズが出てくるんですね。

 これは多分、みなさんあまり良いイメージを持たれていないと思います。

 いかにもお役所の言葉って感じがするじゃないですか笑

 

 でも、これだけは頭の片隅に置いておいて頂きたいのですが、

 政府とか政治家が「やります!」というのは

 「(みなさんの税金使って)やります!」

 ということなんです。俺のポケットマネーでやります!なんてことではないのです。

 なので、歯切れが悪いと思われることを重々承知で、あのような答弁を準備しています。本当に必要なのかをちゃんと検討していきたいです、というのは、結構本心だったりします。

 もちろん、本当は必要なのに面倒だから「前向きに検討します」と言ってお茶を濁すなんてことはあってはならないというのは、言うまでもありません。

 

 他にも注意点は山ほどあるのですが、これ以上やるともはや職員向けの研修みたいになっていきますので笑、これぐらいにしておきます。

 むしろ喋りすぎてるかしら

 

6-5. 他省庁との調整

 省内で答弁作成作業が完了すれば話は早いのですが、複数の省庁に議論がまたがっていると、話は途端にややこしくなります。

 A省が答弁の大筋を書いて、B省はデータの提出だけ協力する、ぐらいであれば単純作業なので話は早いのですが、

 A省とB省で調整中の案件があったりすると、この答弁作成作業は非常に厄介なことになります。

 課長補佐レベルでは折り合ったものの、双方が課長に上げたところ「こんなもんダメに決まってんだろ」みたいなことになって、またやり直し、とか。色々あるわけです。

 じゃあ課長が最初から折衝すればいいじゃんと思われるかもしれませんが、課長は何十問も確認しなきゃいけなかったりしますのでですね汗

 

 もう一つ重要な点として、予算が関係する質問の場合は財務省主計局と協議する必要があります。

 

 議員「こういう施策も必要だと思うがいかがか」

 大臣「議員御指摘のとおりですので、実施したいと思います」

 議員「実施しますとのお答えを頂きました」

 

 なんてやり取りが、予算の裏付けもないまま行われてしまうとあとあと困るわけです。先ほどご紹介した話です。ですから、予算が絡む場合は主計局とも相談します。

 

 

 我々も慣れてますので、電話先の相手省庁の担当者にも色々な事情があって簡単には折れることができないのはよくわかっています。

 なのでお互い「いやー上司がうんって言ってくれなくてさー」とか言いながら、お互いが飲めるような落とし所を探っていきます。

 キツイんですが、謎な連帯感が生まれて楽しい時もあります。あまりに調整が長引くとそんな悠長なことも言ってられないんですが。

 

 

 そんな感じで、夜が更けていきます。

 

 

 残念ですが、答弁作成作業はもう少しかかります。

 まだ上司とか官邸の了解をもらえてませんので。

 

 次回、本シリーズ、感動の最終回です(の、つもりです)。

 

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<おことわり>

 このブログは私が所属する組織の見解を示すものではなく、あくまで個人の見解に基づくものであります。

 また正確性を一義的な目的とはしていないため、事実であるかどうかの裏づけを得ていない情報に基づく発信や不確かな内容の発信が含まれる可能性があります。

(参考:総務省 『国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たって』 H25.6.28)

http://www.soumu.go.jp/main_content/000235662.pdf