贈与税が0円となる暦年贈与の活用術
「ご両親やご家族から現金を贈与してもらった場合、いくらまでなら税金がかからないのだろうか?」
「贈与をうけても税金がかからない上限枠のようなものがある」と耳にしたことはないでしょうか。
ご家族等から贈与をしてもらって、贈与税を払わないで堂々とお金をもらうことができるならば、その方法を使わない手はないですよね。
例えば、同じ1,000万円の現金を贈与してもらうにも、方法によって税金の額が変わってきます。
条件がいろいろとありますので、詳しくは1章以降をご確認ください。
図1:1000万円の贈与があった場合の贈与税の有無のイメージ ※詳細条件は1章以降を確認
図1のように税金がかからない贈与の考え方を「暦年贈与(れきねんぞうよ)」といいます。
正しくは、原則として「一人が一年間に110万円を超えるお金をもらう」と税金がかかります。
「贈与なんてお金持ちがすることだから関係ないな・・・」と思われているかもしれませんがそんなことはありません。結婚資金、教育資金、家を買う時の資金など、人生の中でいろいろと贈与を受けるケースもあります。他にも節税となる特例はありますが、暦年贈与を活用して年間110万円超にならない範囲でいかにうまく節税するかもポイントです。
・贈与税の特例はこちら(当サイト内)→贈与税はいくらから?贈与税0円で贈与する考え方と特例【保存版】
・夫婦間の贈与はこちら(当サイト内)→夫婦間で贈与税を発生させない4つのポイントと聞きたい10の事例
また、この暦年贈与を応用すると相続税の生前対策となります。
「相続なんて随分先のこと」と思いがちですが、随分前から対策をしないと節税ができないことから、この機会に一緒に考えておくことをオススメします。
・生前贈与に関しては(当サイト内) → 早めが肝心!生前贈与を活用した相続税の6つの節税対策
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1.110万円まで贈与税がかからない”暦年贈与”
一人が1年間(1月1日から12月31日までの1年間)にもらう財産が110万円までであれば非課税です。このように”1年間で110万円までが非課税”と決まっているため、この範囲内であれば、毎年贈与をしても税金は一切かからないということになります。また暦年贈与は範囲内であれば、贈与税の申告も必要ありません。
図2:暦年贈与のイメージ
「お父さまの財産を贈与して減らしていくこと」は、悪いイメージにも取られがちですが「ご家族の将来と税金」を考えるととても大切なことです。
将来的にお子さんの住宅資金等を援助するつもりがあれば、早めに対策をすることで非課税となる可能性が広がります。
またお父さまが亡くなるまで財産の保有を続けることで、せっかくの財産が税金として納税することになるケースも多くあります。
計画的な贈与はとても大切なことです。
また、110万円までの評価額であれば、贈与するものは、現金でなくても構いません。
図3:暦年贈与できるもの
2.暦年贈与を活用すべき3つのメリット
暦年贈与には、大きく3つのメリットがあります。
1つめは「税金がかからず贈与でき、申告も不要なこと」、2つ目は「年月をかけてご両親の財産をお子さんに移していけること(相続対策)」、3つめは「お金をもらったけれど所得税・住民税等の対象にならないこと」です。
図4:暦年贈与の3つのメリット
3.暦年贈与を利用する際に注意すべき5のこと
暦年贈与は手軽で効果も高く利用したいものではありますが、注意しなければならないのが、そのやり方を間違えてしまうと、せっかくの贈与が無駄になってしまうということです。後に大きな税金が課税されることがないよう、正しい知識で、確実な対策をとることが大切です。
3-1.110万円のボーダーラインは「贈与を受ける人」
暦年贈与でよくある勘違いとしては、110万円以内であれば何人からでも「もらえる」という考え方です。110万円は”もらう人側”の限度額です。仮に111万円もらった場合には、贈与税がかかりますので注意が必要です。逆に、あげる人は、何人にいくらあげても自分が税金を払うことはありません。
図5:暦年贈与の110万円の枠の考え方のイメージ
3-2.口座は贈与を受けた人が管理(こっそり贈与はダメ)
贈与を考える際に大切なポイントの一つに「贈与した認識はお互いにあるか」があります。つまり、お互いの同意の上に今回の贈与が成り立っていることが大切となります。ご両親がやってしまいがちなこととして、知らないうちにお子さん名義の通帳を勝手に作って、お金を定期的に振り込んでいることです。これではお子さんの立場からしたら、贈与されている認識がありません。この場合、いざ相続という時に「名義預金」と疑われ、贈与されたものだと主張しても認めてもらえず相続財産として相続税の対象となります。
もらう人(贈与を受けた人)の口座を開設して暦年贈与を行う場合は次の3つに注意しましょう。
(1)口座の存在を贈与を受けた人にきちんと伝えておく
(2)口座開設時の登録印は、贈与を受けた人が普段使用している印鑑にする
(3)普段から、贈与を受けた人が自由に引き出せるよう、通帳、及び印鑑の管理をしてもらう
図6:名義預金とならないためのイメージ
3-3.計画的な贈与を繰り返さない
毎年、同じ時期(例えば誕生日)に同じ金額を贈与していると、あらかじめ贈与する金額が決まっていて、まとまったお金を贈与する予定だった。とみなされます。
毎年、同じ日付で同じ金額を同じ人に贈与し続けることを連年贈与といいますが、もしこのような贈与をする場合には贈与契約を取り交わし、証拠として銀行送金で贈与するという方法で行いましょう。
3-4.相続発生3年以内の贈与には相続税がかかる
毎年110万円以内でコツコツと贈与をおこなう中で、贈与する方が亡くなると相続開始前3年以内におこなった分の贈与は相続税の課税対象として持ち戻されてしまいます。よって、暦年贈与は1日でも早く元気な時期からコツコツと贈与をしておくことが大切です。
図7:亡くなる3年前以内の暦年贈与が相続税の対象になるイメージ
3-5.小さなお子さんには、贈与契約書で証拠を残そう
贈与はあげる人ともらう人の「契約」ですが、特に相手が小さなお子さんの場合はもらう側の意識が薄いこともあります。贈与の基本は、あげる側ともらう側の両方の合意があることですので、堅苦しくて面倒だなと思っても、贈与の実態を明確にした「贈与契約書」を毎年交わして証拠を残しておくと最善です。
図8:贈与契約書の例
4.暦年贈与をより正しく運用するための2つのポイント
すでにご説明したとおり暦年贈与は手軽で申告等も不要な一方で、注意点をしっかり押さえておかないと無効になってしまうことがあります。より確実に暦年贈与を実施するための2つのポイントをご紹介します。
4-1. 贈与は送金で証拠を残す
3-5でご説明した贈与契約書も、後に贈与の事実を証明するものですが、お金の受け渡しも、銀行の送金手続きを利用することをお勧め致します。贈与の日付、金額、誰から誰への送金なのか、金融機関の記録に残すことは重要な証拠となります
図9:送金の証拠は残した方が良い
4-2. 110万円以上の金額を贈与し、贈与税の申告をする
冒頭の例のように100万円を10年間、合計1,000万円を非課税で贈与したとします。その場合、はじめから1,000万円を一括贈与するつもりだったのでは、と思われるケースがあります。そうならないためにも、毎年の贈与額を110万円以上にして、少しの贈与税でも良いので支払っておくと贈与の実績を作ることができます。また、贈与税はもらった側が申告をするものですので、贈与税の申告書にはあげた人の印鑑ではなく、もらった人が自分の印鑑を押しましょう。間違える方が多いため注意しましょう。
5.暦年贈与を応用した「相続対策」検討する3つのメリット
暦年贈与は毎年コツコツと非課税でご両親等から財産をお子さん等に移していくことができますが、これは相続税の対策としても応用ができるため、ぜひ相続も意識した生前の贈与ができるとより良いものになります。相続が発生した後に相続税がかかると分かっても、その時点では劇的に税金を減らすような秘策はなかなか見つかりません。平成27年から相続税の基礎控除額が60%減額し、相続税を支払う対象者も2倍になったことからも、相続対策=節税についても検討しましょう。
5-1.生前に財産を減らし、将来の相続対策ができる
暦年贈与は、贈与税がかからない範囲で上手に財産を引き継ぎ、お父さまの財産を徐々に減少させていくことができるもっとも手軽な相続対策といえます。
具体的な相続対策を考えてみた場合
<お父さまの現在の財産>
土地付き一戸建て 3,000万円の価値
預金 2,000万円
<家族>
お父さま・ご自身(長男)、長女
お母さまは既に他界されている
<その他>
ご自身(長男)、長女は結婚して自宅購入済み
この場合には、相続税の基礎控除額(相続税がかからない金額)は4,200万円となります。よって、お父さまの財産は5,000万円ですので、財産額が800万円上回り相続税の対象となります。
基礎控除を超えた場合には節税の特例が使えないか確認するのですが、今回の場合、土地付き一戸建てであるお父さまのご自宅に関しては、ご自身と長女が共に結婚して、すでに持ち家を所有されているため、土地の評価額を下げる特例(小規模宅地等の特例)の適用対象外となります。よって、基礎控除額を超えてしまった800万円に対しては相続税がかかることになります。
小規模宅地等の特例はこちら⇒【実家の相続】節税の要「小規模宅地等の特例」が4月から厳格化
図10:相続税が課税されるイメージ
相続税の計算方法はこちら(当サイト内)→相続税の税率は?相続税の税率の決め方と簡単な計算方法
特に何の対策もせずに相続することになってしまうと、上の例では80万円の相続税がかかります。
加えて、相続税の対象となる場合には、相続税の申告と納税を決められた期限内(相続発生日の翌日から10カ月以内)におこないます。その場合に、相続税の申告書は税理士に依頼するケースが多く、税金以外の出費も必要となります。
※平成27年度の相続税申告に税理士が関与した割合:89.8%
※平成27年度の国税庁実績評価書より
そこで、暦年贈与を活用して、ご自身と長女の二人に相続の前倒しで財産を渡しておく対策をとることが有効となってきます。対策のポイントは、税金がかからないようにコツコツとおこなうことがとても重要なためお父さまがお元気なうちに始めるという決断がカギとなります。
今回のケースであれば、現金800万円分を贈与できていれば相続税は0円で済んだことになります。
図11:地道な暦年贈与のイメージ
5-2.世代を飛ばした財産分与ができる
暦年贈与を使って贈与できる相手は、お子様に限定されるのではなく、お孫様でも第三者でも受けとることが可能です。相続と違い、贈与は受け取る順番が決まっているわけではないので、財産分与を自由に、世代を飛ばして行うことができるのです。
暦年贈与をする相手が増えれば、その分、1年で減少させることができる財産額が多くなりますので、短い期間で対策ができます。
図12:世代を飛ばした暦年贈与
5-3.相続争いを未然に防ぐために役立つ
暦年贈与はお父さまが生前の元気なうちに相手を決めて贈与をするものになります。つまり、お父さまの意思で、あげたい人にあげたい金額を自由に渡すことができる点が大切です。
将来、お父さまが亡くなられたあとに、相続について家族が揉めたとしても、お父さまにはどうすることもできません。だからこそ、生前にお父さまの意思で財産の分割をしておく、または遺言に残しておくことなどが必要になります。
6.相続対策として暦年贈与と比較される「相続時精算課税制度」
ご両親がご健在のうちに財産を2,500万円まで非課税で贈与を受けることができる制度です。ただし、贈与を受けた際には2,500万円まで贈与税がかからないのですが、相続の際には相続財産として贈与した財産を計算します。その際に、相続税の申告や納税が必要な財産額であれば、相続税の申告・納税をおこなう制度です。
相続時精算課税の制度自体のメリット・デメリットは次の記事を確認ください。
一度選択すると撤回できないなど、デメリットも十分に確認が必要です。
相続時精算課税についてはこちら(当サイト内)→相続時精算課税制度とは?メリット・デメリットと利用手順を知ろう
暦年贈与と比較した場合には、次の2つに該当する場合には相続時精算課税を使うことをオススメします。
ポイント①:110万円以上の財産を1年で渡すメリットがある場合
暦年贈与の110万円の枠を気にせず、今年は200万円の現金、来年は1,500万円の不動産など、自由に贈与をすることができます。特に家賃収入のあるアパートなど収益財産を早期にご自身が贈与を受けると、その後の収益はご自身が受け取ることができます。
ポイント②:将来値上がりする財産を早めに
将来、値上がりする可能性のある財産(土地、株など)を早期に贈与しておくと、相続時に財産の価値を考える際に贈与した時点の価値で計算されるため、節税の対策になる場合があります。逆に価値が下がるリスクもありますが、上場前の株式を贈与してその後上場した場合にも安い株価で判断されます。
7.おわりに
誰もが家族にお金を贈与する(援助も含む)場合、税金とは無縁でいたいものです。
また、相続で財産を受け継ぐ際にも、税金を支払いたくないものです。
贈与も相続も法律で定められた特例を利用していけば、ある程度は税金の支払いを逃れることができます。しかし、特例はいろいろなケースに応じて選択して利用するものになります。
万能な特例があるわけではありませんので、特に相続税の節税対策は相続税の申告件数が多い税理士が在籍する事務所へ相談することがオススメです。
今回取り上げた暦年贈与は、制度の範囲内であれば特に申告の必要もなくコツコツ地道に贈与をして、効果を得られるものです。しかし、いくつか注意点があったことも思いだしてください。
長年に渡って対策をしていきますが、申告が無いが故に正しいかどうか不安になる面もあります。
あとから税務署に指摘をされないためにも、正しい知識をもってすすめていきましょう。