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49-28 第1回開発会議
二堂場内の小会議室で、『エルメ川用小型船』の第1回開発会議が始まった。
「まず、エルメ川の対象となる流域だが、カイナ村から上流域、で考えています」
マルシアが説明をしている。これは主に仁と『乖離』のティベリオに対してのプレゼンテーションのようなものである。
「用途は『魔石砂』や川魚の運搬と移動ですね」
魔石砂は魔導コンロ向けのエネルギー源で、カイナ村の特産品であり、同時にエリック商会の専売品でもある。
しかし、村付近のものは取り尽くしたため、採取場所が少しずつ上流へと遡っているのだ。
その際、これまでの採取場所から4キロほど上流に、川幅も広く、大量の魔石砂が採れるという格好の採取場所が見つかったのである。
だが距離があって運搬が大変なので、船がほしい、というわけなのだ。
因みに、途中にゴルジュ(喉の意。川幅が狭く、両岸が切り立った岸壁になった地形)があって、道が大きく迂回しているいるため、徒歩で通うのはなかなかきついのである。
「そして、流れがなかなか速いのが問題です」
魔石砂は川底の砂に混じっているので、背が立たないような深い場所は採取対象にならないのである。
あくまでも『村の女性が』『農業の合間に』『副業として』行うという前提だからだ。
例えば、仁が魔石砂採取用のゴーレムを作れば今の場所でもまだまだ採れるが、それは村の女性たちの仕事を奪うことになる上、資源を根こそぎにしてしまう虞もある。
だから仁はこれに関しては基本ノータッチで、村の自主性に任せているのだ。
同じ理由で、上流にある魔石砂の鉱床を目指すこともしていない。
「対象流域の川幅は、狭い場所で約5メートル。そこから船の最大幅は2メートル以下にしたいと考えます」
ここでティベリオから、なぜその数値が出てくるか、という質問が出た。
「それに答えるのは非常に難しいですね……。造船工として、また操船者としての経験から、というしかありません」
「こういう安全基準のようなものは、多分に経験則で決められるんだ」
仁も補足した。こうした基準は、その時々で多少の変動があるもので、事故がなければ甘く、事故が起きれば厳しくなる。
「川の深さは、小型の船なら十分すぎるほどですが、魔石砂の積み降ろし時、港も桟橋も期待できないので船底は平らかそれに近い形状としたいと思います」
一応は砂か砂利であること、と付け加える。さすがに岩場に乗り上げるような使い方はさせたくないようだ。
「川の流れについてですが、一番激しい場所で秒速1メートル弱。ゆえに船の最大速度はその2倍くらいを考えたいですね」
これも経験則である。
「一番欲しいのは方向安定性です。今日、筏で試してみたのですが、何カ所か、川の屈曲部などに渦が発生していて、筏が振り回されます。小型船も同様と思われます。……以上です」
今日1日で、かなりの情報を集めていたのはさすがマルシアと言う他はない。
「ありがとう。よくわかった。さすがだよ、マルシア」
仁も賞賛した。
この、実践的にデータを集めることは、仁にはできないやり方だ。
仁なら、『岩などものともしない船体』を作り、『急流の10倍以上の速度を出せるパワー』を与えた船を造るであろうから。
(いつの間にか忘れかけていたことを、思い出させてくれたな)
そういう意味でもマルシアに感謝したい仁であった。
* * *
開発会議が終わったのは午後6時、『夕刻の鐘』が鳴るのとほぼ同時であった。
「この鐘はいいね、ジン。朝と正午、夕方に鳴るんだって?」
マルシアは『正午の鐘』と『夕刻の鐘』を聞いたのだという。
「ああ、そうなんだ。4月いっぱいは午後5時鳴るんだけどな」
日の長い晩春からは午後6時にしている、と仁は説明した。同時に、『朝の鐘』も冬時間は午前7時に、夏時間は午前6時に鳴らす、とも。
「うちの氏族領でもやってみようかしらね」
シオンまでがそんなことを言っていた。
そして夕食である。
マルシアとロドリゴを歓迎するため、2人の好きな魚料理が中心だ。
「川魚の塩焼きも美味しいなあ」
「この蒲焼きのタレ、何とも言えないいい味ですよ」
オマソウ(ヤマメに似た魚)の塩焼きと渓流ウナギの蒲焼きである。
渓流ウナギはカイナ村から見てエルメ川のやや下流域(それでも川全体から見たら中流域)に棲む、ウナギによく似た魚で、海に下ることはなくずっと川に棲む。なので渓流ウナギ、と仁が名付けた。
「夜行性だし、そのまま焼いても美味くないので漁の対象じゃなかったんだよ」
だが、蒲焼きを知っている仁から見たらごちそうだったのである。
「白いご飯に合うわよね」
シオンは蒲焼きとご飯の組み合わせがいたくお気に入りなようだ。
「……!」
そして『乖離』のティベリオは、はじめて味わう食材に、声もなくただ夢中で食べ続けていた。
* * *
「……で、船の基本は……」
夕食後、ティベリオのたっての頼みで、船についての基本講座が開かれた。講師はロドリゴ。
「ええと、ジン殿から聞いた用語で『アルキメデスの原理』というもので船は浮くわけでして……」
ティベリオは真面目に聞いている。
「船底の形状は平底、丸底、V底などがあり……」
仁も横で聞いているが、ロドリゴの説明は体系立っていてかなりわかりやすいと思っていた。
「……と、まあ、こんなところにしよう」
もう夜なので、1時間弱で切り上げる。
「ありがとうございました」
「いや、熱心な技術者は大歓迎だよ」
ロドリゴとしても、このティベリオには好感を持っているようだ。
その後、ロドリゴとティベリオは二堂城のラウンジで世間話をしながらワインを酌み交わしていたようだが、さすがに仁は付き合いきれず、エルザと双子の待つ寝室へ戻ったのであった。
* * *
「……頭が痛い」
「……がんがんする……」
「飲み過ぎだよ、父さん」
翌朝、二日酔いに苦しむロドリゴとティベリオ。
「どのくらい飲んだの?」
「……5本くらい」
「飲み過ぎだよ!」
そこに仁一家がやって来た。
「ああ、やっぱり。昨夜、ワインを随分飲んでいたと言うから。……『解毒』『治せ』」
青い顔をした2人へ、エルザが治癒魔法を掛けると、たちまち2人はさっぱりした顔になった。
「エルザ、ありがとう」
2人に代わってマルシアが礼を言った。
「ロドリゴさんは、『仲間の腕輪』の解毒機能を使えば、よかったのに」
とエルザが言うと、それを聞いたロドリゴははっとした顔をした。
「おお、それがありました……」
先ほどまで頭痛が酷く、思いつけなかったらしい。
というわけで、仁たちは連れだって二堂城の食堂へ向かった。
今朝の献立は朝がゆ、トポポ(ジャガイモ)とマルネギ(タマネギ)の味噌汁、梅干し、お新香、甘い玉子焼き、そしてほうじ茶。
どちらかというと酒を飲んだ翌日向けの献立となっていた。
「……ああ、胃にしみます」
二日酔いは治ったものの、弱った胃におかゆの優しさがしみたようだ。
「父さん、しっかりしておくれよ」
しみじみと言うマルシアであった。
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