夫婦共働きが当たり前となり、「職住近接」を望む家庭が増えたこともあり、都心の住宅価格は上昇あるいは高止まりを続けている。しかし、すべての人が都心に吸い寄せられているわけではない。不動産関係者によると、従来はベッドタウンの中核と見られていた街が、「副都心」のような形で発展するケースも出てきているという。その代表例と言われる、町田市を訪ねた。(写真・的野弘路)
「最近は『西の渋谷』とか、多少おちょくりも込めて『多摩の渋谷』なんて言われますがね、さすがにピンと来ませんわ。渋谷はやっぱり渋谷ですから」
開口一番そう話してくれたのは、JR横浜線・小田急線の町田駅から徒歩5分ほどにある「仲見世商店街」で豆腐店を営む女性。この商店会の会長も務める。戦後の木造マーケットに端を発し、いまも創業65年以上の老舗がいくつも店を構えている。
「いろいろテレビなんかでも紹介してくれたおかげでしょうね。この古い商店街も最近はお客さんが増えるいっぽうで、市の通行量調査でも、週末は6,000人ほどになるそうで。最近もここに店を出したいって若い人たちが本当に多いこと」
取材中も客足が絶えず、近所の飲食店はどこもちょっとした行列ができている。目移りしながら商店街を奥へ進んで行くと、いかにも老舗といった食料品店が。冷凍モノの魚介類を並べている店員さんに話を聞いてみた。
「ウチも60年ほどになります。最近は本当にお客さんが増えました。でも、地元の常連客は何も増えてません、それなら顔を見ればわかりますから。やっぱり観光なんでしょうかね、遠くからわざわざやって来る人が多い気がします」
町田駅周辺は実際、驚くほど人が多い。が、「驚くほど」と感じるのは、そこに住んでいる人間ではないからなのだろう。
駅ビルには小田急百貨店、ルミネが入り、それを取りまくようにマルイ、東急ツインズ、109、モディといった渋谷にもある大型専門店やファッションビルが林立する。少なくとも、買い物客が集まる条件は十分揃っている。
だからと言って、「西の渋谷」はいくら何でも誇張しすぎでは……と苦笑する声も聞こえてきそうだが、そんなことはない。
東京都「商業統計調査報告」(2014年)によれば、渋谷公園通商店街(渋谷駅北側の西武やモディ、パルコなどのあるエリア)の年間商品販売額は約1,850億円。それに対し、町田駅北口の繁華街「原町田」エリアは、約1450億円。なかなかいい勝負なのだ。
そして今日、人が集まる街の例に漏れず、町田の中心部にもタワーマンションが建ち始めている。
仲見世商店街から徒歩数分の位置に「東急ドエル サウスフロントタワー町田ウイング」(30階建、1999年築)。人工知能を活用した価格推定サービス『家いくら?』を使って確認してみると、29階4LDK(94.02m2)が5,039万円。築20年近いためか、前年比-8%の下落となっている。
すぐ隣りの敷地では、「シティテラス町田ステーションコート」(19階建、2019年10月竣工予定)が建設中だ。今年5月に販売開始のため、価格相場はまだ出ていない。その向かい、ダイエー町田店の上には「アトラスタワー町田」(22階建、2016年築)。新築発売時は完売した物件だが、『家いくら?』による推定価格は最上階の4LDK(88.67m2)で7,372万円。前年比4%の値上がりだ。
ただ、町田の街なかに人が多く感じるのは、タワマンが増えたからでは必ずしもない。
タワマンが集中する原町田エリアの人口は、2007年の13,623人から18年の14,257人へと634人増えた。しかし、同時期に駅至近の団地「森野」エリアが652人、同じく駅に近い「中町」エリアも637人増加していることを考えると、人口増は駅周辺のエリアに共通した現象で、新たに集合住宅が建ったことが理由とは言えない。